全部、お兄ちゃんのものですっ!   作:雨宮照

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二人の計画が動き出しました!

 

そろそろ、七時半になろうとしています。

お兄ちゃんが、学校に行く時間です。

さっきまでまだパジャマ姿のままだったお兄ちゃんが、高校の制服に着替えて階段を降りてきました。

……えへへ。

パジャマ姿のお兄ちゃんもかっこいいですけど、制服姿のお兄ちゃんは家では見られない凛々しさがあって、もう、大好きです。

「じゃあ、行ってくるな」

お兄ちゃんがカバンを持って、玄関で靴を履きます。

「ま、待ってください……っ!」

私は、少し焦ってお兄ちゃんを呼び止めます。

「私も、行きます! 少し学校に用があって、早く行く必要があるんです。途中まで一緒に行きませんか……?」

本当は、用なんてありません。

でも、週に二回だけ曜日を変えて、お兄ちゃんにくっついて私は登校します。

今日は、今週二回目のお兄ちゃんとの登校です。実は、朝からずっとこのことを考えて、心を弾ませていました!

お兄ちゃんと、少しだけの、デートです。

 

家を出ると、お兄ちゃんは、いつもより神妙な面持ちになりました。

どうしたんでしょう。

今日、学校で何か嫌なことでもあるんでしょうか?

それとも、私と昼の間いっしょにいられないのがさみしいとか!

きっと、そうです!

私も、いつもお兄ちゃんと会えない昼の時間はすごく持て余します!

お兄ちゃんのことを考えるほど、お兄ちゃんといられないことが残念になって、不安になって……。

ああ、お兄ちゃん。

なんでわたし達は兄妹に生まれてきてしまったのでしょう。

結婚とかそういったことは、愛が強ければどうにでもなります!

でも……これだけは、どうにもなりません。

年齢の差です。

たった一年だけ生まれたのが遅かっただけで、なんでこうも地獄のような日々を過ごさなければならないのですか!

いくら従順に「待て」をこなせども、ご褒美なんて本当に貰えるかもわからないじゃないですか!

……と、私が脳内で妹属性の不利について世に訴えかけていると、神妙な面持ちのままでお兄ちゃんが口火を切りました。

「……京香。一つ、話があるんだけどさ」

「な、なんでしょうか……?」

ま、まさか!

ま、ままままさか、お兄ちゃんは私に、こ、ここ、告白を……⁉︎

ま、待ってくださいっ!

心の準備が全然できていません‼︎

「お前は、俺のこと、どう思ってる?」

きたぁーーーーーーー!

きました!きました!

これはもう、私に告白をしたいから、私の気持ちを聞いておきたいと、そういうことですねっ!

人生十四年間、ほんとうに、長かったです!

ついに、報われます!

「私は、お兄ちゃんのことが……ふぁぁ……大好きです!」

言ってしまいましたぁぁあぁぁあぁぁあ!

ついに、ついにっ!

お兄ちゃん、ほら、早く、お兄ちゃんの番ですよ!

私がこんなに顔を真っ赤にして言っているんですから、お兄ちゃんも言ってください!

むしろ、先に私に言わせたんですから、私のお願いを聞いてもらいましょうか!

……京香ちゃんって、呼んでください。

ずっと、夢でした。

物心ついたときから、私の呼び名は、京香。

でも、付き合ったら、ちゃん付けしたり、してくれますよね?

ふぁぁ……幸せです……。

……しかし、私の歓喜は無駄なものであったらしく、お兄ちゃんはずっと神妙な面持ちのまま黙っています。

しかし、その沈黙はすぐに崩れることとなります。

「……俺はこういうこと言うの苦手なんだけど……」

私は、嬉しさを爆発させそうになり、一生懸命、自分から出るお兄ちゃん大好きオーラを収めようとします。

そして、お兄ちゃんが、ついに言いました。

「今日の夜から、ちょっと距離を置かないか?」

やりましたぁぁぁ…………あ?

「…………えっ?」

ど、どういうこと……ですか?

なんで……どうして⁉︎

「理由は、最近の京香のことだ」

「え、私……ですか?」

なにかやらかしてしまったんでしょうか⁉︎

謝りますから! なんでもしますから!

許してください……っ。

私は、きっと涙目になっていることでしょう。

心の中が、急激に曇っていくのがわかります。

「最近、京香は俺にべったりくっついてくるだろ?」

……ええええええええ。

嫌だったんですか! ってか、気づいてたんですか!

「それって、普通の兄妹じゃ、なかなかないことだろ?」

そうです!

なかなかない、私達だけの、特別な関係ですが何か!

「だから、このままだと、京香にとってよくないと思ってさ」

距離を置くほうがよくないに決まってるじゃないですかぁぁぁぁ!

なにを考えてるんですか、このお兄ちゃんは!

「京香は、どう思う?」

そんなの、私に聞かないでくださいっ!

もう、ほんとに……悲しいです。

……泣きそうです。

(……死にたいです)

お兄ちゃんに嫌われる世界なんて、生きている価値はありません。

でも、私が素直にいま距離を置きたくないって言っても、お兄ちゃんはきっと距離を置くことを選択するでしょう。

だったら、私に考えがあります。

「私は、これからお兄ちゃんと、他人のふりをします。今から、私たちは仲良くないので、話しかけないでください……っ!」

私は、震える声を絞って言い放ちます。

まさか賛同を得られるとは思っていなかったのか、お兄ちゃんは驚いています。

今回私が狙った効果は、「カリギュラ効果」です。

カリギュラ効果とは、禁止されるほどやってみたくなるという人間の心理現象のことです。

これで、玉手箱を開けるなと言われても開けてしまった浦島太郎のように、お兄ちゃんは私に話しかけ、私を意識してくれるに違いありません!

それがどれだけかかるかはわかりませんが、これからのラブラブな兄妹生活、いいえ、夫婦生活のためなら、我慢します!

「……わかった。お前が同意するなら、その方向で行こう……行ってらっしゃい」

話している間に、私の中学校とお兄ちゃんの高校の方向にわかれる道に辿り着いてしまいました。

……距離を置く前、最後に見たお兄ちゃんの手を振る素敵な顔は、恋人からもらったとびきり苦いチョコレートを食べているかのような、本心を隠した、初めて見せる笑顔でした。

 

 

続く。

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