午前八時。
私は、教室の隅にある自分の席について、始業まで読書をして過ごします。
私が読むのは、主にライトノベルです。
ライトノベルの、妹モノのラブコメを、ただひたすら読み漁ります。
今読んでいる物語の中では、私のように素直になれないブラコンの妹が、お兄ちゃんに素っ気ない態度を取ってしまい、お兄ちゃんを困らせています。
(私も、さっきはとても酷いことをしてしまいました……)
お兄ちゃんが言い出したこととはいえ、私の望みで、絶交をしてしまいました。
(ああっ、もう! 考えると頭がおかしくなってきそうです!)
私は、ポニーテールが崩れないように、頭を掻きむしります。
……もし、これでずっとお兄ちゃんと話せないなんてことになったら……?
考えるだけで、身の毛もよだちます。
私はなんて恐ろしいことを考えているのでしょうか。
……いつもは楽しい読書の時間も、お兄ちゃんとの一件を思い出すと、素直に楽しめない私なのでした。
しばらくすると、教室にはクラスメイトの姿がだんだんと増えてきました。
教室に来た生徒たちは、カバンを置くとすぐに友達のもとへ行き、輪を作ります。
三年生にもなると、みんな特定の友だちとずっといるようになるようです。
でも、私のもとへは、誰も近寄ってきません。
……最高の、空間です。
そのまま始業を迎え、お昼まで四時間。
誰にも声をかけられないまま、半日が過ぎていきました。
しかし、迎えたお昼休み。
いつものように中庭のベンチで一人お弁当を食べていた私は、声をかけられました。
クラスのキラキラした女の子で、みんなをまとめあげるリーダーのような女の子。
えぇと……名前はなんて言いましたっけ。
……私はお兄ちゃんのこと以外は基本どうでもいいので、忘れてしまいました。
でも、私に何の用でしょう?
……はっ、まさか!
これは、リーダー格の女子による、いじめの始まりでは!?
これから私は、きっとクラスで色々ないじめを受けるんです!
バケツで水をかけられたり、服を脱がされたり、トイレの水を飲まされたり……無視されたり。
……最後のは、ただありがたいだけでした。
ついに、私にも女子の陰湿ないじめの対象になるときが来ましたか……!
……と、いうことは、私はどんどんと浮かない表情になっていくわけで。
そうしたらお兄ちゃんは私のことを気にかけてくれるわけで!
お兄ちゃんは私のことを心配しながらも絶交中で声をかけられなくて!
結局絶交なんてやめて、私はお兄ちゃんと幸せのゴールインを……っ!
「……何ニヤニヤしてるのよ」
……はっ。
知らないうちに、妄想の世界へフライハイしていました。
……でも、未来のビジョンが完全に見えました。
私はここでいじめられて、お兄ちゃんと結婚します!
たくさんのご祝儀、ありがとうございます!!
またもや私が妄想の世界に旅立とうとしていると、目の前の女生徒が話し始めました。
「……あんた、朝のホームルームが始まる前、本読んでたじゃない?」
「……へっ? はい……」
あっ、そういう方面から来ましたか!
ラノベを読んでいたことが周りにバレて、オタクだなんだっていじめられるやつですね!
中学生の定番じゃないですか!
私はだんだんとウキウキしてきます。
目の前の女生徒は、続けました。
「……ラノベ、好きなの?」
「……え?」
「……ライトノベル、好きなのかって聞いてるのよ!」
女生徒が、顔を真っ赤にしてまくし立てます。
「……まぁ、好きですけど」
私は答えました。すると、
「ほんとにっ! あなたもなのね!」
目をキラキラさせて、こちらに一歩詰め寄ります。
……あなたもってことは、彼女もライトノベルを……?
意外です。
こういったキラキラした類の人は、カラオケに行って、おしゃれなアパレルショップで買い物をして、湘南で逆ナンパに興じるのかと思ってました。
私はてっきり、こういう人たちには毛嫌いされている種類の人間なのかと……。
「……有栖川さん。今日の放課後、一緒に遊びに行きましょう!」
「へっ……?」
この人と、遊びに……?
嫌な予感しかしません。
私はカラオケに行っても、歌なんてお兄ちゃんが聴くようなアニメの曲しか歌えませんし、服はお兄ちゃんの好みがあれば買いますが、あまり興味はありません。
それに、逆ナンパなんてもっての外です!
なんでお兄ちゃん以外の男性にすり寄っていかなければいけないのですかっ!
私が脳内で抵抗をあらわにしていることなど、目の前の女生徒にはわかるはずもなく。
「じゃ、放課後教室に残っててね!」
なんて言って彼女は去っていきました。
(なんなんですか……)
私は、女生徒の後ろ姿を見送りながら、思います。
……意外と、付き合ってみると人のイメージって違うものなんだなぁって。
続く。