全部、お兄ちゃんのものですっ!   作:雨宮照

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初めての、お友達です!

放課後を、迎えました。

別に私が迎えに来たわけではないのですが、勝手に放課後がやって来ました。

……どうしましょう。

昼休みに私を誘いに来た女生徒、秋川茜さんは、授業中にもこちらをチラチラと見てきました。

私が秋川さんの方を向くと、視線を逸らすくせに……。

なんともめんどくさい人です。

本来ならこんな約束はすっぽかしてしまいたいのですが、それは私のポリシーに反します。

自分を誘ってくれた人間を無下にするほど、私は落ちぶれてはいません。

 

支度を終えた秋川さんが、こちらに近づいてきました。

こちらに到着するまでの間だけでも、何人もの生徒に、放課後のお誘いを受けているようです。

それでも彼女はその全てを断り、こちらに近づいてきました。

「……待たせたわね、さっさと行くわよ」

(待たせたのはそっちなのに、さっさと行くわよとはどういうことなのでしょう……)

私は彼女の感覚を、疑問に思います。

それとともに、私にはもうひとつ疑問が。

「行くって、どこにですか……?」

今、人生最大の疑問です。

今日初めて話した相手に、半ば強引にどこかに連れていかれようとしているのです。

気にならないわけがありません。

今巷では、女子学生たちが働くいかがわしいお店もあるようですし、そういうところに連れていかれてしまったら……。

考えただけで恐ろしいです。

他人、恐ろしやです。

そんな心配をしていると、秋川さんが口を開きます。

「どこに行くってあんた、決まってるじゃないの。女子中学生が放課後に行く場所といえば……?」

秋川さんが問います。

私は、少し頭を回転させた結果、出た結論を口にします。

「……いかがわしいお店?」

「なんでよ!?」

秋川さんが全力でツッコミを入れました。

「女子中学生の溜まり場って言ったら、ドーナツ屋に決まってるじゃない! ドーナツ屋でジュースとドーナツ片手に、私の話をどっぷり聞いてもらうわよ!」

……うわぁ。嫌だ。

っていうか、ジュースとドーナツをどうやって片手で持つんですか。

置けばいいじゃないですか。

最近のドーナツ屋さんには、テーブルや椅子が置いてないのでしょうか?

「わかったら、さっさと行くわよ!」

……誰もわかったとは言っていないのに、秋川さんは私の手を引いてドーナツ屋に行きます。

ドーナツ屋かぁ、お兄ちゃんに見られたら、どうしましょう。

ドーナツ屋に友達といるところなんて見られたら、私はお兄ちゃんがいなくてもやっていけると、勘違いされてしまうかも知れません。

……そうしたら、本当にずっと今まで通りの仲良しには戻れないかもしれなくて……。

困りました、泣きそうです。

そんな私の心情なんか知るはずもなく、秋川さんは、どんどんと私の手を引いたまま、学校をあとにするのでした。

 

 

ドーナツ屋さんにつくと、私たちは隅のほうの席に座り、ドーナツの乗ったテーブルを挟んで向かい合いました。

「有栖川さん、聞いて驚きなさいよ……」

秋川さんが、真剣な表情で語り始めます。

「私、実は……」

実は……?

「オタクなのよ!」

「……そうですか」

「軽いわね!?」

だって、実際興味がありませんから。

それに、お昼の会話だけで、そんなことは察しています。

「……むぅ、で、有栖川さんはどうなの?」

「え? 私ですか?」

私はキョトンとして答えます。

「有栖川さんも、オタクなんでしょ!」

秋川さんは、同志を見つけたとばかりに、目をキラキラさせてこちらに顔を近づけてきました。

……近い近い。

この人のパーソナルスペースはどうかしちゃってるんですか。

「……私はオタクじゃありませんけど」

私は、正直に答えます。

しかし、彼女は食い下がりません。

「隠さなくていいのよ! 私たち、同じ穴のムジナじゃない!」

いいえ、違う穴のムジナです。

というか、同じ穴のムジナとか言ったら、私が悪いことをしているみたいじゃないですか。

やめてください。

「どんな作品が好きなの? 私はね、日常系のライトノベルを溺愛しているわ!」

頬を紅潮させて、秋川さんが語ります。

「ライトノベルの主人公の男の子って、大体の場合ヒロインのツッコミ役に回るじゃない?」

……まぁ、そういう場合は多いですね。

「その、ツッコミを受けた女の子たちの気持ちって、考えたことある!?」

……いや、ないですよ。

この人は、何が言いたいのでしょう。

「話の中で、テンポよくツッコミを受けたり、話を受け流されるヒロインたち……。弄られて、すごく気持ちよさそうよね!」

「ドMじゃないですか!」

私は、次の瞬間、盛大にツッコミを入れていました。

「まったく……同じジャンルを読んでいても、楽しみ方は人それぞれなんですね……」

私は、聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう呟いたのですが、秋川さんには聞こえていたみたいです。

「それって、あんたも、日常系のライトノベルを読むってこと?」

別に隠すことでもないので、正直に答えます。

「そうですが」

極力素っ気ない感じを保ち、私は言ったつもりなのですが、秋川さんはさらに興奮します。

「……今日は、熱く語って帰るわよ!」

……えぇ。

 

 

数時間後。

秋川さんが、席を立ち、私の分のプレートまで片付けます。

「今日は、本当に楽しかったわ。今まで、ライトノベルについて語り合える女子なんて、いなかったから……」

秋川さんは、この数時間、ライトノベルについて延々と語り続けました。

最初は正直、ライトノベルといっても妹モノしか読まない私には理解できない話ばかりなのだろうと思っていたのですが、秋川さんは私の好みを聞き出し、私の好きな妹モノの作品について、色々と話してくれました。

……実は、自分が読んでいたものについて人と話し合うのは、これが初めてだったりします。

「あ、あの……」

私は、秋川さんに向き直って、いいます。

「今日は……楽しかったです。誘ってくれて、ありがとうございました……」

初めて仲良く出来た、女子生徒。

たった一日、趣味の話をしただけなのに、私は、彼女のことが少し好きになってしまいました。

私のお礼を聞いた彼女は、微笑んで返します。

「なによ、かしこまって。別にいいのよ、友達なんだから。また、一緒に話しましょう?」

……本当に、人生とは、わからないものです。

お兄ちゃんが100パーセントを占めていた私のお花畑に、ほんの、少しだけ。

少しだけ、ほかの人の花が芽を出したような気がしました。

 

続く。

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