私とお兄ちゃんが、晴れて恋人同士になってから一夜が明け。
私はといえば、昨夜は目が冴えて眠れず、布団の中で一晩中悶々としていました。
布団を全身で抱きしめて、顔を埋めて、左右に。ゆらゆら。
「ふぁぁ……お兄ちゃんと、まさか恋人同士になれるなんて……夢みたいです!」
……はっ、まさか、夢じゃないですよね!?
私は、確認のためにそのまま、ベッドからくるくるとまわって落っこちます。
「いたっ」
……普通に痛かったです。
安心しました。
四時なのでまだ早いですが、私は起きてキッチンに向かいます。
……今日はお兄ちゃんが合宿に行く日です。
私が、妹の愛妻弁当。もとい愛妹弁当をつくって持たせてあげるのです!
……でも、今日からの合宿には、お兄ちゃんの学校の女の子たちが参加します。
絶対に、お兄ちゃんを渡すわけにはいきません!
……私は張り切って、お弁当のハンバーグのひき肉をぺちぺちとするのでした。
しばらくすると、眠たそうな目を擦りながら、お兄ちゃんが起きてきました。
お兄ちゃんはとっても眠たそうで、片目しか開いていません。
本当に眠いときって、目を開けるのもつらいですよね?
(あっ、お兄ちゃんが私に気づきました)
目が合うと、お兄ちゃんは私の方へやってきて、後ろから抱きしめ、頭をナデナデしてくれました!
……ふにゃぁ。
こんなにも幸せなことって、あるんでしょうか!
こうやってナデナデしてくれるなら、お兄ちゃんの犬にだって猫にだってなってみせます!
いいえ、なってみせますにゃ!
ひとしきりナデナデしたあとお兄ちゃんが、落とし文句のように口にします。
「…………京香、いとうつくしゅうていたり」
ずきゅぅぅっんっ!
いと、うつくしゅうていたり。
いと、うつくしゅうていたり!
私は、何度もその言葉を心の中で呟きます。
そのとき、私の何かが決壊するのを感じると同時に、一瞬鼻のあたりがヒヤッとしたのを感じました。
……興奮のあまり、私は鼻血を出してしまっていました。
お出かけ前、ちょっと早めの朝食をいっしょにとることにした私たちは、リビングのテーブルを挟んで向かい合い、私が作った朝食を食べています。
今日のメニューは、白米とお味噌汁、魚とヨーグルトという、旅館の朝食みたいな並びになっています。
お兄ちゃんが、魚を食べ終わって一息つくと、いいました。
「京香。今日を含めて三日間行ってくるけど、どこに行ってもずっと京香のこと、大好きだからな」
あからさまに尻すぼみになっていく声。
……緊張しているのでしょう。
とてもかわいいです。
どうしましょう、私のお兄ちゃんがこんなに可愛いです。
かわいいと思いながらも、鼻血が出ないように、私は感情を必死に抑えます。
そして、妹のつとめとしていいます。
「昨夜はあまり眠れなかったようですけど、大丈夫ですか?」
……体調管理は、妹の大事な役目なのです!
すると、お兄ちゃんはいいました。
「……気づいてたかぁ。実は……京香のこと考えたら、眠れなくなっちゃって……」
な、なんと!
なななななんと!
お兄ちゃんが、私みたいなことを言ってます!
兄妹だから、同じようなことを感じるのでしょうか。
いいえ、お兄ちゃんと私が好き合っているからこんなことを思うんです!
「…………お兄ちゃん」
「ん?」
「…………大好きです」
なぜか、今言っておかなければ行けない気がして。
今、繋ぎとめておかなければけないような気がして。
私は、お兄ちゃんに、精いっぱいの笑顔で大好きを伝えました。
朝食後、お兄ちゃんは私の愛妹弁当を持って玄関に立ちます。
「…………連絡、してくださいね?」
私は、懇願するようにお兄ちゃんにいいます。
するとお兄ちゃんは、私を胸に抱き寄せると、頭をナデナデしながらいいました。
「…………当たり前だろ。俺も、京香のこと大好きなんだから」
ここで、私は本日二回目の鼻血を出すことになるのですが、抱き寄せられていたのでお兄ちゃんの服に思い切りかかってしまい、迷惑をかけてしまうのでした。
…………迷惑と、鼻血をかけられた当のお兄ちゃんはといえば。
京香はほんとにかわいいなぁ、なんていいながら、にこにこしていました。
「三日目は、何時ごろ帰ってこられるんですか?」
私は、お兄ちゃんの帰りが遅くても我慢できるように、聞いておきます。
お兄ちゃんが、答えます。
「夕方に終わるみたいだから、夜の早いうちには帰ってこられるんじゃないかな」
……夜ですか。夜まで我慢できる自信はあまりありませんが……。
「帰ってきたら、腕によりをかけた夕食を振る舞いますね!」
お兄ちゃんに関することをやっていれば、時間はいくら会っても足りません!
「ありがとう。楽しみにしてるな」
言って、お兄ちゃんがナデナデしてくれます。
これはもう、三ツ星並の料理を今から研究するしかないようですね!
…………私は、最終日までの不安と、最終日の夕食の風景を、頭の中に描きます。
(私、お兄ちゃんがいない間も、頑張りますっ!)
そして、出発するお兄ちゃんの笑顔を記憶に焼きつけて、お兄ちゃんがいない三日間を乗り切ると、心に決めるのでした。
続く。