艦これ ~Bullet Of Fleet~ 作:クロス・アラベル
突然だが、月駆星奈は、海岸で只今絶賛釣り中である。
釣糸を垂らせば物の10以内には魚が食いつく。前回、魚を釣って朝ごはんにようと一時間半程かけて釣ったが、今回は当たりだったようだ。
「……あ、来た。」
自作した釣り竿を引き、釣り上げる。
「……これ、マアジ…だね」
釣れたのは星奈が前に釣ったマアジだった。
「口から針を抜いて、と……」
釣り上げたマアジの口から針を抜き、餌をつけて投げる。その時、後ろから足音が聞こえる。
『……何をしているんだい、人間』
「…見てわかる通り、釣り…だけど」
落ち着いた声。後ろを振り向くと白銀の瞳を鋭くし、同じ色の長い髪なびかせた響が立っていた。
「……こんなとこで、釣りって……釣れるとは思えないけど」
「……予想に反して絶好調だよ。生憎、ね」
「……ふふふ」
それを聞いて少し笑う響。笑う響を見たのは星奈自身、初めてだった。
「隣、いいかい?」
「いいよけど……どうしたの?今日は珍しく友好的だね」
「…別に友好的なんかじゃないよ」
「……まあ、そういうことにしておこう」
「……納得出来ないな……まあいいや」
隣に腰掛ける響は何か、悩んでいるようだった。
「……星奈、少し聞いてくれるかい?」
「…いいよ、なんでも言って。」
初めて響が自身の事を名前で呼んだ事に、少し肩透かしを食らった星奈は大人しく聞く事にした。
「……艦娘にはね、二つの記憶と魂があるんだ。一つは艦娘になった現在の物、もう一つは____軍艦であった頃の物」
その言葉を聞いて、息を呑んだ。やはり、この世界でも第二次世界大戦は起こったのだ。そして、その頃の記憶を持っているのならば___
「時々、その頃のことを思い出して怖くなるんだ。仲間が沈んでいくところを…あの、最期の瞬間を……」
「……君は確か、轟沈していなかった筈……生き残った…の?」
「……ああ、死に損なったよ。私もあの時沈むべきだったんだ。姉さんや雷、電もいない世界なんか、生きてる意味なんて無かったのに…」
響の悲しい過去への吐露を聞き、何か共感するものがあった。いや、響に起こったことと星奈の過去は同じだったと言っていい。
「……その気持ちは分かるよ」
「…そういう言葉は簡単にいうことじゃない。気をつけた方がいいよ」
そんな言葉に響は怒りを込めた言葉を投げかけた。
「……軽く聞こえてたなら、ごめん。ただ…君が僕に似てるような気がして」
「……?」
星奈は長話になるだろう辛い記憶を話すために釣り竿を上げて、一旦片付けた。
「……分かるって言ったのは、僕の過去と同じだったから…だよ。僕も友達を目の前で失ったんだ」
「____ 」
驚きで言葉が出ない響。
「………あれから三年経ったけど、それでも忘れられない……いや、忘れちゃいけないんだ。」
「……まさか、深海棲艦に…」
「……違うよ。同じ、人間に殺されたんだ。殺人を快楽としている人たちに」
「…人間同士でも殺し合うのかい………⁉︎」
「……普通ならしないよ。僕だって、僕の仲間や知り合いだって、そんなことしない。止めようとすらしたさ……けど、僕らは運が悪かったのかもしれない。あの時、僕が……街を出ていなければ、みんなが探しに来ることもなかった。あれは、僕のせいなんだ」
「……その、仲間の最期の
「……『生きろ』って」
「…っ!」
「自分が死んじゃうのに、僕のことを見て…すぐにそう言ったんだよっ……」
星奈はその時のことを思い出したのか、体育座りして俯いた。その体は震えている。
「…それで、その後、激情に駆られてその殺人鬼達を斬り刻んで、殺したんだ」
「……」
「……我に返ってみれば、そこに殺人鬼は一人しかいなかった。黒いポンチョを着て、片手には……中華包丁みたいな形の大きな
「……君は、その後、どうしたんだい?」
「……半年くらい、宿屋から出られなかったんだ。でも、ようやく半年で踏ん切りがついた。前に進もうってね。みんなが見てるなら、多分何してるんだって起こる筈だから」
「……君は、強いね。私は……戦うとき、後ろに姉さんや電達がいる時、恐ろしくなってしまうんだ…………また、失うんじゃないかって……」
「……強くなんかないよ。それに、君はまだチャンスがあるんだ」
「……?」
「……一度沈んでしまったけど、みんなこうして生きてるんだよ?なら、今度こそ、守ってあげなきゃ」
「…っ!!」
星奈になかった……いや、出来なかったこと。それはもう一度守ること。死んでしまった命はもう甦ることは決してない。もう一度のチャンスは訪れる、なんてことはない。だが、響達は再びこうして会うことが出来た。ならばすべき事は一つだ。
「…落ち込んだり、怖がったりする暇なんか無いよ?でも、そうやって感じることが多々あると思う。その時は、僕が支えるさ」
「本当に……?」
「うん。支えるし、君が危ない時は助ける。そして、君が戦えなくなったら、僕が戦うさ。一緒に戦いもしよう。僕が自分を失ってしまった時、助けてくれた人がいたんだ。だから、今度は、僕が君を……ううん、君達を助けたい。図々しいかも知れないけど、ね」
響は信じられなかった。それでも、星奈の言葉は彼女の胸の奥に届いた。
「……ありがとう、人間。でも、あまり、期待しないでおくよ」
「……酷いなぁ」
二人は海岸で笑いあった。響は彼が全てを変えてしまうこと、そして、共に戦う時が刻一刻と迫っている事など、露にも知らない。
次回《青空にかかる暗雲》