艦これ ~Bullet Of Fleet~   作:クロス・アラベル

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それでh(略)



第4話《記憶》

突然だが、月駆星奈は、海岸で只今絶賛釣り中である。

釣糸を垂らせば物の10以内には魚が食いつく。前回、魚を釣って朝ごはんにようと一時間半程かけて釣ったが、今回は当たりだったようだ。

 

「……あ、来た。」

 

自作した釣り竿を引き、釣り上げる。

 

「……これ、マアジ…だね」

 

釣れたのは星奈が前に釣ったマアジだった。

 

「口から針を抜いて、と……」

 

釣り上げたマアジの口から針を抜き、餌をつけて投げる。その時、後ろから足音が聞こえる。

 

『……何をしているんだい、人間』

 

「…見てわかる通り、釣り…だけど」

 

落ち着いた声。後ろを振り向くと白銀の瞳を鋭くし、同じ色の長い髪なびかせた響が立っていた。

 

「……こんなとこで、釣りって……釣れるとは思えないけど」

 

「……予想に反して絶好調だよ。生憎、ね」

 

「……ふふふ」

 

それを聞いて少し笑う響。笑う響を見たのは星奈自身、初めてだった。

 

「隣、いいかい?」

 

「いいよけど……どうしたの?今日は珍しく友好的だね」

 

「…別に友好的なんかじゃないよ」

 

「……まあ、そういうことにしておこう」

 

「……納得出来ないな……まあいいや」

 

隣に腰掛ける響は何か、悩んでいるようだった。

 

「……星奈、少し聞いてくれるかい?」

 

「…いいよ、なんでも言って。」

 

初めて響が自身の事を名前で呼んだ事に、少し肩透かしを食らった星奈は大人しく聞く事にした。

 

「……艦娘にはね、二つの記憶と魂があるんだ。一つは艦娘になった現在の物、もう一つは____軍艦であった頃の物」

 

その言葉を聞いて、息を呑んだ。やはり、この世界でも第二次世界大戦は起こったのだ。そして、その頃の記憶を持っているのならば___

 

「時々、その頃のことを思い出して怖くなるんだ。仲間が沈んでいくところを…あの、最期の瞬間を……」

 

「……君は確か、轟沈していなかった筈……生き残った…の?」

 

「……ああ、死に損なったよ。私もあの時沈むべきだったんだ。姉さんや雷、電もいない世界なんか、生きてる意味なんて無かったのに…」

 

響の悲しい過去への吐露を聞き、何か共感するものがあった。いや、響に起こったことと星奈の過去は同じだったと言っていい。

 

「……その気持ちは分かるよ」

 

「…そういう言葉は簡単にいうことじゃない。気をつけた方がいいよ」

 

そんな言葉に響は怒りを込めた言葉を投げかけた。

 

「……軽く聞こえてたなら、ごめん。ただ…君が僕に似てるような気がして」

 

「……?」

 

星奈は長話になるだろう辛い記憶を話すために釣り竿を上げて、一旦片付けた。

 

「……分かるって言ったのは、僕の過去と同じだったから…だよ。僕も友達を目の前で失ったんだ」

 

「____ 」

 

驚きで言葉が出ない響。

 

「………あれから三年経ったけど、それでも忘れられない……いや、忘れちゃいけないんだ。」

 

「……まさか、深海棲艦に…」

 

「……違うよ。同じ、人間に殺されたんだ。殺人を快楽としている人たちに」

 

「…人間同士でも殺し合うのかい………⁉︎」

 

「……普通ならしないよ。僕だって、僕の仲間や知り合いだって、そんなことしない。止めようとすらしたさ……けど、僕らは運が悪かったのかもしれない。あの時、僕が……街を出ていなければ、みんなが探しに来ることもなかった。あれは、僕のせいなんだ」

 

「……その、仲間の最期の遺言(言葉)は…」

 

「……『生きろ』って」

 

「…っ!」

 

「自分が死んじゃうのに、僕のことを見て…すぐにそう言ったんだよっ……」

 

星奈はその時のことを思い出したのか、体育座りして俯いた。その体は震えている。

 

「…それで、その後、激情に駆られてその殺人鬼達を斬り刻んで、殺したんだ」

 

「……」

 

「……我に返ってみれば、そこに殺人鬼は一人しかいなかった。黒いポンチョを着て、片手には……中華包丁みたいな形の大きな小刀(ナイフ)を持っていたんだ。その男は僕を見て、『楽しみが一つ増えた』って言って、何処かに消えて行ったんだ」

 

「……君は、その後、どうしたんだい?」

 

「……半年くらい、宿屋から出られなかったんだ。でも、ようやく半年で踏ん切りがついた。前に進もうってね。みんなが見てるなら、多分何してるんだって起こる筈だから」

 

「……君は、強いね。私は……戦うとき、後ろに姉さんや電達がいる時、恐ろしくなってしまうんだ…………また、失うんじゃないかって……」

 

「……強くなんかないよ。それに、君はまだチャンスがあるんだ」

 

「……?」

 

「……一度沈んでしまったけど、みんなこうして生きてるんだよ?なら、今度こそ、守ってあげなきゃ」

 

「…っ!!」

 

星奈になかった……いや、出来なかったこと。それはもう一度守ること。死んでしまった命はもう甦ることは決してない。もう一度のチャンスは訪れる、なんてことはない。だが、響達は再びこうして会うことが出来た。ならばすべき事は一つだ。

 

「…落ち込んだり、怖がったりする暇なんか無いよ?でも、そうやって感じることが多々あると思う。その時は、僕が支えるさ」

 

「本当に……?」

 

「うん。支えるし、君が危ない時は助ける。そして、君が戦えなくなったら、僕が戦うさ。一緒に戦いもしよう。僕が自分を失ってしまった時、助けてくれた人がいたんだ。だから、今度は、僕が君を……ううん、君達を助けたい。図々しいかも知れないけど、ね」

 

響は信じられなかった。それでも、星奈の言葉は彼女の胸の奥に届いた。

 

「……ありがとう、人間。でも、あまり、期待しないでおくよ」

 

「……酷いなぁ」

 

二人は海岸で笑いあった。響は彼が全てを変えてしまうこと、そして、共に戦う時が刻一刻と迫っている事など、露にも知らない。

 




次回《青空にかかる暗雲》

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