壊し屋 俊秀   作:遼明

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第9話 力の片鱗

「原子振動だけでなく、引力まで使わせられるとは思わなかったよ!!」

(何だよ、原子振動って……動けないのは引力のせいだと!? ふざけるな)

 

 俊秀はその場から離れられない為、わけのわからない攻撃を一方的に受けきるしかなかった。でも攻撃の対処方法を知っている。そんな気がするのだ。思い出せそうで思い出せない。戦いの最中なのにどうしても頭に引っかかっていた。

 気付けば紫苑はエア・ブーストを使い、一気に俊秀に近付いて来た。俊秀はここが最後のチャンスと感じ、俊秀は鉄パイプを紫苑を紫苑に向けて振り下ろし一撃必殺を狙うが、紫苑は身体を宙に浮かせながら回し蹴りを鉄パイプを持っている俊秀の左手首に入れた。蹴りをもらった左手首から骨が折れるような音が俊秀の耳に届いた。

 だが不思議と痛みはなかった。それどころか頭の中に稲妻が走った。突然、思い出させる記憶。忘れていた前世、現世の記憶の一部。俊秀は思い出される記憶の内容があまりにも衝撃的過ぎて今戦闘中と言う事を忘れてしまう。

 紫苑は左手首に触れている足を基点に回転してエア・ブーストにあった圧縮された空気を全て使い俊秀に拳を叩き込む。だが俊秀は無意識で、反射的に受け流していた、完璧なタイミングで。まるで紫苑に殴られたように倉庫まで飛ばされたのだった。

 

 

 

 

 

 第9話 力の片鱗

 

 

 

 異常なまでに静まる倉庫一帯。紫苑は満身創痍の人間が闘争心を失うどころか、さっきよりも明らかに上がっている事に驚きが隠せなかった。呼吸をするたび、一筋の汗が流れていく。闘争心が恐ろしいまでのプレッシャーに変わり、離れていてもわかるほどの闘気、少し気を緩ませれば、こちらの方が戦意を狩られそうになる。本当に同じ人間なのかと疑いたくなるほど、場の空気を俊秀によって完全に変えられていた。

 

「君は怪物なのか? あれだけの攻撃を受けて……このプレッシャー」

「お前等は、なんでこんなもん作る?」

「突然何を――――ッ!?」

 

 俊秀が歩くため1歩踏み出した瞬間、紫苑の背筋がぞっとした。離れているのに嫌な予感がした。本能がコイツと戦っては駄目だと警告する。

 紫苑はゆっくりと近付いて来る俊秀に恐怖覚えるが無理やり押さえつけ同じ雰囲気で俊秀の問いに答える。

 

「フフ!! 商品化に決まっているだろう!!」

「商品化だと……!?」

 

 俊秀の頭には、オフィス街が一瞬で消滅した日の事を思い出した。突然の爆発により失われた命、瓦礫の中で助けを呼ぶもの、そして化け物との戦闘で跡形もなく消え去った。

 そんな物を売り飛ばす為に作るだと……。俊秀は怒りが込み上げてきていた。

 

「そう、一般人でも簡単に魔導師を超える事が出来るモノだ。これが出回れば管理世界、いや管理外世界の軍や組織が標準装備にする筈だ」

「……お前等はふざけているのか?」

「? 何がだい?」

「人を殺す為の兵器を作って商品化する? ふざけるな!! そんなもん作るせいでこれから先、未来で何万人、何億人が死ぬ可能性があるんだぞ!!」

「そんなの……僕には関係ない。昔、大人に言われたよ。人が死ぬなんて、早いか遅いかだけだろ? 運命に見放された人の生涯が短いだけだってね」

「……その考えは間違っている。確かに運命ってのに逆らえず、死んでいく人もいると思う。けどな、兵器はその運命なんて関係なく、人を無差別に殺すんだ!! わかるか? お前が作ってんのはそんなもんだ!!」

「知っているさ、でもこれを作らなければ僕達は生きていけない。だから、これからも作り続ける。君が何て言おうとね……」

「言っても無駄か……なら俺は――――」

 

 俊秀は考えている思いを伝える為すぅーと息を吸い呼吸を整える、自然と右手で持っている鉄パイプを強く握っていた。

 今回の戦い、俊秀は勝ち負け関係なくジュエルシードと捕らえられたアルフを無事回収できればいいと考えていた。

 だが今は違う、目の前にいる少女、紫苑とその妹である紫蘭。一人の人間として、まだ未来ある彼女達を人殺しの道具を作らせるために人生を送るなんて、これ以上させるわけにはいかなかった。

 

 この勝負は絶対に負けられない。

 

 俊秀の決意は言葉となって口から出る。

 

「お前を止める為に、まずはそのスーツきっちりと壊させてもらう!!」

「満身創痍の人間が出来るならやってみなよ!!」

「勿論だ。男の意地見せてやるよ」

 

 俊秀はそう言ってから走り出した。右手の鉄パイプは俊秀の心の如く、電気を帯び火花を散らしていた。紫苑は使い切ったブーストのチャージをするため、動かずに大量の空気を取り込んでいた。

 俊秀は動かない紫苑を見て、チャージの間、先ほどの原子振動使う気だと読むがそのまま突っ込んでいく。

 

「岩井君、原子振動を忘れたのかい? 射程範囲に入った」

「忘れるわけないだろ!!」

 

 紫苑が左手を前に出すよりも先に紫苑の目の前に鉄パイプを叩きつけた。鉄パイプ独特の金属音が倉庫一帯に響き渡る。紫苑は原子振動を発動するが俊秀の身には何も起こらなかった。

 

「!? 無効化された!?」

「もらった!!」

 

 俊秀は投げた鉄パイプを回収し、反応が遅れた紫苑に振り上げた。反応が遅れた紫苑はガードする事が出来ず左腕を鉄パイプによって強打する。俊秀はそのまま跳び膝蹴りを紫苑の胸部に当て、軽く吹っ飛ばした。

 

「よし、まずは一撃だ」

「げほっげほっ……原子振動をどうやって無効化にしたんだ」

 

 紫苑はゆっくりと立ち上がり、今最も疑問になっている事を俊秀に聞いた。

 テキストを使い『原子振動』を兵器として発明した時間は1ヶ月必要だったが、不可視の攻撃としてまず見切られることはないだろうと思っていた。しかし、30分も満たない時間でいともたやすく、無効化にされてしまった。発明品には絶対的自信があった紫苑は破壊ではなく、無効化されたことに大きなショックを受けた。

 俊秀は紫苑の質問に笑いながら答える。

 

「その攻撃、超音波使ってるだろ? 出される前に鉄パイプの音で妨害した」

「ありえない、そんなんじゃ僕の作った原子振動は無効化に出来ないはずだ」

「これは俺の推測だが、原子振動って事は原子の持っている周波数に合わせて超音波を放っているはずだ。つまりその攻撃を使う為には1回、1回対象を観測してから攻撃が出来る。違うか?」

「その通りだ。でも観測は一瞬にして終わる、時間はかからない」

「だろうな。タイムロスがあれば、接近戦の兵器として成り立たない。でも放つ前に対象の周波数が変わったら、どうなるだろうな」

「勿論、自動的に対応…………成程、システムの穴を狙われたわけか」

 

 俊秀のやった事は簡単に説明すると、紫苑の原子振動は一瞬にして原子の周波数を観測し、同じ周波数の超音波を撃ち出す事で、原子を破壊させるものだった。そこで俊秀は、紫苑に原子振動を撃たれる前に鉄パイプを投げ、音の波を紫苑の前に発生させる。それにより俊秀の原子の周波数を強引的に狂わせたのだ。突然変わった周波数に対応するため、再観測して撃たれた原子振動は俊秀が持つ周波数と全く違うものとなり、ただの超音波として体を通過したのだった。

 

「管理外世界に周波数を変える生物がいたから、それに対応させる為に搭載させたシステムだったんだけど、あだになるとは思わなかったね。でもいいのかい、そんな事言ったら二度目は通用しないよ」

「……お前は気付いてないようだから言うが、そのスーツまともに動くのか?」

「このスーツは魔導師が砲撃魔法を殺傷攻撃で放っても正常に動く事は実験済みだ。鉄パイプでもらった一撃ならともかく打撃で破壊できるような、やわなもの作ってないよ。それにしてもよくシステムの事を把握できたね」

「息吹を感じた。それだけだ」

「息吹? わけがわからないね。君は!!」

 

 紫苑はチャ-ジし終えたエア・ブーストで瞬間加速し、俊秀のと距離を詰めた。俊秀は構えもせず、ただ立ち尽くし、紫苑の動きを観察しているようだった。紫苑は俊秀が何か狙っている事はわかったが動きを止めるわけにはいかず、そのまま打撃を撃つが当たる寸前に俊秀は右に避け、そのまま紫苑の視界から消えた。

 

「!? ……消え――」

 

 紫苑は俊秀の動きを追うためにその方向へ向こうとするが、それよりも早く鉄パイプが振り下ろされていた。とっさに右手で受け止めるが、電気を帯びていた鉄パイプの防ぐ方法ではなかった。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 鉄パイプに触れた事で高圧電流がスーツに流れ、紫苑の体に強烈なダメージを与える。俊秀は動きを止めることなく、右の蹴りを紫苑の胴に思いっきり叩き込む。

 

「あまり僕をなめないで欲しいなぁ!!」

「っ!?」

 

 蹴飛ばした反動で離れていく俊秀の右足を紫苑は左手で掴み引き寄せ、右のエア・ハンマーを俊秀の左頬に叩き込むが、頬に当たる前に左手で紫苑のエア・ハンマーは受け止められた。俊秀は右手に持っていた鉄パイプを手放し、流れるように紫苑の上腕部を自分の両脚で挟んで固定した。

 

「腕一本、いただくぞ」

「!? ぐぅ!!」

 

 俊秀の腕挫ぎ十字固めはがっちりと極まり、紫苑の右手は悲鳴を上げる。いくらスーツで身体能力が上がっていても、固め技が完全に極まってしまえば逃げる事は不可能に近い。俊秀は紫苑の右腕を完全に潰すためにどんどん締め上げる。

 

「くぅぅぅ……ブーストッ!!」

「チッ!!」

 

 紫苑は腕挫ぎ十字固から逃げるためにスーツに残されたブーストを全て開放させた。俊秀の掴んでいた右手にかなりの圧力がかかり、右手を離してしまった。腕挫ぎ十字固から逃げた紫苑はそのまま後ろに下がって、俊秀との距離を開けた。

 

「……君は化け物か? なぜ折ったはずの左手が動くんだ!! あの時の蹴りは間違いなく手応えはあったはずだ。それにさっきよりも反応速度と身体能力の上昇、さらにエア・ハンマーを素手で受け止めて、無傷――何をしたら、そんなことができるんだ!?」

「そんなの、修練に修練を重ね初めてできる人間の境地に決まっているだろ?」

(…………僕は眠れる獅子を目覚めさせてしまったようだね。これじゃあ、まるで――――)

 

 紫苑はスーツのダメージチェックをしながら俊秀に気づかれないようじりじりと引き下がる。スーツにより底上げされた身体能力についていくだけでなく、反応速度を上回り、右腕をやられた。このままではスーツの破壊、いや肉体の破壊もされかねない。これ以上、彼のと戦闘を避けるために逃げ道を探そうとするが、紫蘭から念話が入った。

 

(姉さん、まだ終わらないの?)

(紫蘭、いいタイミングに連絡してくれた。岩井君は予想以上に危険人物だ。救援を頼みたい)

(え? 姉さんが救援? 嘘を言ったら……)

(嘘じゃない。状況的にもかなり不利でね、転移魔法も発動する暇をくれそうにないよ)

(わかった。すぐに行くからそれまで耐えてね)

 

 紫蘭からの念話が切れ、紫苑は左腕だけを上げて構える。俊秀は腕挫ぎ十字固とした時に手放した鉄パイプを回収してこちらに構えていた。

 

「岩井君、これ以上体に傷を増やすわけにはいかいんだ。引いてくれないかい?」

「そうだな……兵器を作らないと約束できるなら、呑んでもいいが」

「それは無理なお願いだねっ!!」

 

 紫苑は左手を前に突き出し原子振動を使おうとするが、それよりも俊秀の動きが速かった。俊秀は鉄パイプをさっきよりも電気を纏わせて、辺りにある鉄くずを集め弾丸を作り鉄パイプで紫苑を狙って打っていた。俊秀が繰り出す予想外の攻撃が紫蘭の腹に食い込み、血を吐かせる。スーツは金属片によりアーマーは破壊され、そのままスーツを引き裂いた。それにより紫苑の肌があらわになり、金属片により引き裂かれた部分から血がすぅーと流れ出た。

 

「電気磁石を利用した遠距離攻撃……そんなこともできるのか」

「さてと、もう1人近くにいるな。どりゃ!!」

「!?」

 

 俊秀は、急に紫苑に背を向けて電気を帯びた鉄パイプを先にある倉庫に向けて放り投げた。投げられた鉄パイプは地面に突き刺さり、溜まっていた電流を放出するように大きな雷となり、天に伸びた。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「え? 紫蘭!?」

 

 そこには見えないはずの紫蘭がいたのだ。雷は収まり、鉄パイプの近くには白いスーツが黒くボロボロになり倒れている紫蘭がいた。

 

「白師が搭載している光学迷彩。レーダー、探査魔法に引っかからず、目でも見えない完全ステルス……それを完全に見切った。信じられない――一体何をした」

「何もしてない。ただ息吹を感じただけだ」

(また、息吹!? 息吹は何の事何だ!!)

「さて、そろそろお縄についてもら――――」

「申し訳ありませんが、それはあきらめてもらいます」

「!?」

 

 俊秀が紫苑に向き直った瞬間、目の前に初老の男性が現れた。初老の男性は現れると同時に俊秀に拘束魔法を使ったようで、全く身動きが取れなくなった。

 

「拘束……魔法新手か!!」

「岩井様、今の実力で魔力の持たぬあなたには解除できません」

「お前は何者だ」

「私は八雲紫苑様、紫蘭様の執事をやらせて頂いている。松下と申します。では失礼します」

 

 松下と名乗った初老の男性は綺麗な礼をしてから、紫苑のもとにスタスタと歩いていった。

 

「おお松下君、助かったよ」

「紫苑様、大丈夫ですか」

「まぁ、右腕以外は問題ないかな」

「そうですかでは、さっさとここから去りましょう」

「松下君、ちょっと待てくれないかい。僕は彼に言いたい事がある」

 

 松下は紫苑の指示に従い、さっさと紫苑の後ろに下がった。その時に転移魔法を使ったのか、紫蘭が松下の背中で背負われていた。そんなことは気にせず、紫苑は俊秀の前まで行って口を開いた。

 

「岩井君、今回の勝負はとりあえず引き分けとしよう!! 獣娘とジュエルシードは僕達にとっては不必要なものだし、ここにおいて帰るよ」

「ちょっと待て、逃げるつもりなのか!!」

「違うよ。松下君が帰りたいと言っているからね。しょうがないだろう? だが必ずこの決着はつける!!」

「くそっ、はずれねぇ!! 逃げんなぁ!!」

「ふふふ、次会う時が楽しみだよ。……それと僕たちの身体を傷つけた責任は必ず取ってもらうからね。松下、転移を頼む」

「はい、それでは――」

 

 転移魔法を使った松下は霞の様に消えた。それと同時に俊秀の拘束魔法は解け自由になった俊秀は再び紫苑と松下がいた場所を見ると、そこには2個のジュエルシードと縄で縛られたアルフとボロボロになったフェイトがいた。

 俊秀はフェイトの怪我の様子を見る為にすぐさま駆け寄った。バリアジャケットはボロボロになり、火傷があちこちにある。それよりも気になったのは、あちこちにある治りかけの怪我だった。明らかに戦闘でついた傷でない。まるで、拷問に耐えてきたようなかなり酷い傷だった。そこから傷口が開き、血が流れ出ている。

 

「不味い、以外に出血量が多い……早く手術しないと」

 

 すぐに病院に連れて行かないといけないと思った俊秀は、次に隣にいるアルフを見る。アルフもフェイトと同じようにぐったりしており、かなり危険な状態だとわかる。とりあえず俊秀は2個のジュエルシードをポケットに突っ込んでからアルフを縛っている縄を外し、その縄を使ってアルフを背負い落ちないようにした。フェイトはお姫様抱っこをするように持って病院に行こうとするが、俊秀の頭に問題が浮かぶ。

 

(異世界から来たのに戸籍あるのか……一番の問題は戸籍持ってないアルフを病院に連れて行くって、下手すりゃモルモットにされる可能性があるよな)

 

 そう、戸籍だ。フェイトは中国で生まれた黒孩子(ヘイハイズ)と言って大金を支払えばいい。しかし、アルフは犬耳がある。尻尾がある。そんな人間がいて、さらに戸籍を持っていないならモルモットにされるのではないか。俊秀は不安になってくる。

 

(……蟲じいしか頼れる人いないじゃん)

 

 俊秀は急いで『蟲じい』の住む家を目指して、走り始めたのだった。




 オリキャラ紹介

 八雲紫苑 (やくも しおん)

 敵として始めて名乗りを上げた。紫蘭とは双子で姉である。魔力は持ってるが、モニタリングには不必要だった為、戦闘では使用してなかった。レアスキル持ちで魔力量はSだったりする。ちなみに魔力変換資質も持っているらしい。



 八雲紫蘭 (やくも しらん)

 紫苑とは双子で妹に当たる。彼女も天才ではあるが、いつも紫苑には1歩及ばない。あとは紫苑と以下同文。


 松下

 紫苑と紫蘭の専属執事である。レアスキル『瞬間転移』の持ち主、これの力により俊秀の目の前に突然現れた。魔力総量はCと一般的だが、彼の使う拘束魔法だけ(・・)はSSランクに匹敵する。




 次回もよろしくお願いします。

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