壊し屋 俊秀   作:遼明

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第10話 裏世界の医者

 住宅街の外れにある一軒家に住む男がいた。年齢的には壮年だが、見た目は完全に老けきって老人にしか見えない。そのため、老人とよく間違えられた。最初の頃は気にしていたが、優先座席を譲ってもらったり、様々な人にやさしく接してもらったり、悪い事だけではなかったので今では気にしていない。

 そんな男が住む家に現在チャイムを連続でプッシュッされたいた。今の時間は深夜の0時、本来ならこんな時間に家を訪ねるなんて失礼な事だ。チャイムの音で起こされた男はゆっくりと体を起こし、愚痴をこぼした。

 

「……たく何だよ。こんな時間に誰が――――これはモールス信号!!」

 

 連続で鳴らされていたチャイムは冷静に聞いてみると規則的にならされており、男は冷静に聞き始めた。モールス信号を1分ほど聞いて、解読した男はかかっていた布団を投げ捨てると同時に素早く立ち上がり、着の身着のままで玄関から飛び出た。男は勢いに任せ高く跳び、玄関前にある門を軽々と越えていく。そして、空中を1回2回と回転して3メートル先で見事に着地した。

 

「急患か!? 何処にいる!!」

「蟲じい!! いつも思うけど跳びすぎだ!!」

 

 男は後ろから声が聞こえたので振り向くと少年がおり、その手で抱かれている血まみれの少女も目に入った。

 

「む!? 俊秀!! その子が急患か!! これは酷い怪我だ!! すぐに直してやるぞぉぉぉぉ!!

私は天才無免許医師、高村仁志だからなぁ!! ふはははははははははは!!」

「おい!! 少し落ちつけぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 男こと仁志は俊秀が抱えていた少女をかっさらって、家の中に戻っていった。その後を追うように俊秀も中に入っていたのだった。

 

 

 

 あれから1時間ほどが経過した。仁志の家の地下に造られたオペ室の前にある長椅子にアルフを寝かせ、様子を見ながら俊秀は手術が終わるのを待っていた。さっきまで弱かったアルフの呼吸はだいぶ正常になっていた。

 

(アルフはもう大丈夫のようだな。あとはフェイトが無事なら――)

 

 俊秀が顔を上げるとちょうど、仁志がオペ室から出てきた。仁志は俊秀に近付いてポケットからハンカチを取り出し汗を拭きながら言った。

 

「傷をふさいだけだが手術は成功した。血の流れた量が予想より多かったから少し焦ったが問題はなかったよ」

「よかった……蟲じい、立て続けに悪いがこの子も見てくれないか?」

「ん? 耳に尻尾……俗に言う獣娘かぁ!! ヤヴァ!! 無免許医師の俺でも始めて見た!! すんげぇ、もふもふしたいッ!! けど診察が先だな――でも触りたい!! どうする俺ッ!?」

「早くしてくれないか?」

 

 そして、5分ほど俊秀と仁志のやり取りが続くのだった。やっと落ち着いた仁志はアルフの診察を始めた。とりあえず外傷はなかったので今はレントゲンで骨が折れていないか確認していた。

 

「骨は折れていない。この子は怪我をしてなかったようだ。右膝以外は」

「すいません。それやったの俺です」

「……まぁ何があったかは詮索しないとして、次は俊秀、君を診察させてもらおうか」

「そんじゃあ、見てもらおうかな……蟲、使わないよな?」

「知り合いとその患者には使うつもりはない。あれはまだ不確定要素が多すぎる。実用にはあと半年ぐらいかかるな」

(あと半年ぐらいで完成かよ)

 

 俊秀は唖然とするが仁志は俊秀の左腕を掴んでリストバンドを外した。するとリストバンドが隠していた場所には、銀色の枷の様な物が手首にあった。それはボロボロに砕けて何とか原形を留めているようだったがリストバンドを外してからゆっくりと崩れ始めていた。

 

「やっぱりね。壊れていたか……(なら治療は必要なさそうだな)」

「なんだこれ? 俺こんなの着けてたっけ?」

 

 見覚えないものが左手首に着いており、首を傾げてしまう俊秀だが、仁志は何か知っているようで納得しているようだった。

 

「蟲じい、何か知っているのか?」

「……これは力と一部の記憶を封じるものだよ。装備された瞬間、不可視となって装備者は勿論、周りも見えなくなり、装備者と完全同化する。滅多に壊れる事はないけどかなり重い負荷がかかった為に砕け、枷の効果が切れたみたいだ。それで今は見えているわけだね」

「何でそんなもんが俺に?」

「その辺の記憶はまだ戻ってないようだ。それなら会長に直接聞いてくれたほうがいいな」

「会長……ばあちゃんの事か?」

「そうだ。会長は海外にいるが、もうすぐ帰ってくる筈だ。そのとき聞けばいい。それと、あの子は1階の病室に連れて行った。今日は遅いからお前もそこで寝ればいい」

 

 俊秀に言いたい事を伝え再びオペ室に戻ろうドアを開けた時、仁志は思い出したかのように振り返った。

 

「俊秀、絶大な力には必ず代償があるんだ。良く覚えておけ」

「? 何を突然」

「会長に会えばわかるさ。じゃあな」

 

 仁志は俊秀を残して、オペ室に入っていった。俊秀は最後に言われたと言葉が頭から離れず、しばらく呆然とオペ室の入り口を見ながらポツリと呟いていた。

 

「……俺は何を忘れているんだ。――何者、何だ」

 

 俊秀は自分の存在に疑問を抱き始めたのだった。

 

 

 

 

 

 フェイトは夢を見ていた。あたり一面、花畑で子供が1人はしゃぎながら、小さい体を大きく動かし走り回っており、その後ろからやさしい笑みを浮かべて女性がついて来る。子供の母親なのか女性を呼ぶ為に止まってから振り向いて子供は早く早くと女性を急かすが同じ歩調でゆっくりと近付いていく。なかなか近くに来てくれない女性に痺れを切らした子供は、自ら女性まで走っていきその胸に飛び込もうとするが、突如地面が割れ子供と女性は引き離される。お互いに名前を呼び合い手を伸ばすが、届く長さではなかった。女性がいた場所は地面が割れた衝撃でどんどん崩れていく。ついに女性の足場が崩れ始めた。女性は一言伝えたくて、声を張って子供に言った瞬間。足場が完全に崩れてそこが見えない場所に落ちていった。子供は女性の落ちていった場所に大声で叫んだ。

 

「母さん!!」

 

 ここで、フェイトは覚醒した。勢いよく飛び起きた為か掛け布団が大きくずれており、今にも落ちそうだった。窓から光が差し込み、太陽は一番高いところまで上りかけていたので、昼ぐらいだと判断した。その後、自分の体に不快感があったので見てみると寝汗が酷かったのか服と体に巻かれた包帯がピッタリと張り付いていた。部屋の中を見渡すと自分がベットの上で寝かされていた事がわかった。その横ではアルフがベットにかじりつくように寝ており、そこから少し離れた場所で絶妙なバランスを保ちつつ、丸いすに座りながら俊秀が寝ていた。

 俊秀が寝ている体勢はまるでアッパーをもらったように大きく反って今にも地面に落ちそうだ。しかし、足でバランスを取っているのかなかなか落ちない。その寝ているポーズを見たフェイトは思わず笑ってしまう。だが、そのポーズは長くは持たなかった。突如大きくバランスが崩れた途端に椅子から転げ落ちてしまった。この衝撃により起きた俊秀はうめき声を上げながらゆっくりと立ち上がった。

 

「体中が痛い、特に首が痛い……俺、一体どんな体勢で寝てたんだ?」

「大丈夫ですか」

「お! フェイトやっと起きたか、なかなか目覚めないから心配したぜ」

「私、どれぐらい寝てたんですか?」

「丸3日だな。今日入れれば、4日だ」

「嘘、そんなに寝ていたの……」

 

 俊秀は首筋と背筋をほぐしながら答えるが、フェイトの表情が真っ青になっていくのを見逃さなかった。どのような事情があってジュエルシ-ドを求めているのかは知らないが、今まで必死で探していたのだろう。それがここに来て溜まりに溜まった疲労は今回の怪我と重なった為になかなか目を覚まさなかったようだ。

 

「早く行かないと……!! っ!?」

「おっと、大丈夫か!?」

 

 ベットから降りて出て行こうとしたフェイトはバランスを崩し、こけそうになったのを俊秀はがっちり受け止めた。俊秀はそのまま抱きかかえて再びフェイトをベットに寝かした。

 

「あまり無理をするな。お前は怪我人だぞ。まず傷をしっかり治してからでも遅くはない」

「……それじゃあ、駄目なんです」

「何でだ?」

「早く、ジュエルシードを集めないと、母さんが……」

 

 フェイトの言葉を聞いて俊秀は腕を組んで考え始めた。怪我人の彼女をどうやったらベットの上で大人しくさせられるか。フェイトと出会って数えるほどしか言葉を交わしていないが、ジュエルシードに対する執着心が大きい事がわかっている。

 彼女を必死に、それも自分の体がどれほど傷つく事があってもジュエルシードの回収を止めようとしないだろう。俊秀はフェイトをそうさせる母親の存在が気になった。

 

「……フェイト、ちょっと頼みがあるんだがいいか?」

「まず怪我を治せ……ですか」

「そうだな。本当ならそうしたいが、俺が言っても止まる事ができないんだろ? 俺の頼みたい事は簡単だ。母親の為にジュエルシードを必死で探すのはいいけど、無理だけはするなよ」

「え? それだけですか」

「ああ、それだけだ。それと手を出せ」

 

 フェイトは首を傾げるが俊秀の言われたとおりに手を出した。それを見てから俊秀は右手をポケットの中に突っ込んであるものを取り出し、フェイトの手の上に置いた。フェイトの手に置かれたのは2個の青く光る小石だった。

 

「これはジュエルシード、2個も!! どうしたんですか」

「あれだよあれ、あの姉妹が置いていったもんだよ。俺には不必要だからフェイトにあげるわ」

 

 フェイトは手の上に置かれたジュエルシードを両手で包み込むように握り、小さい声で礼を言ったのが聞こえたので、用事を済ませた俊秀はさっさと退散する事にした。

 

「それじゃあ、俺はさっさと退散するか……フェイト今日の夕飯は9時だから、それまでには帰ってこいよ」

 

 フェイトにそう言ってから俊秀は部屋を後にした。外に出るため廊下を歩いていると、この家の主『蟲じい』こと仁志が玄関に立っており、俊秀を呼び止めた。

 

「帰るのか?」

「ああ、フェイトは目を覚ましたから用事を済ましたし、長居する必要はないだろ」

「そうか、ならいいんだ」

 

 仁志はポケットから黒飴を取り出し、口の中にいれ満足そうな顔をした。しばらくその場で立ち尽くしていた俊秀は頬を両手で叩き気合を入れる。それから大きく1歩踏み出した。

 

「蟲じい。色々とありがとな」

「気にすんな。俺は俺の信念を貫き通しているだけだ。怪我したらいつでも来い。蟲を使ってすぐに治してやる」

「……知り合いには使わないんじゃなかったのか?」

「それまでには完成させといてやる」

「これは迂闊に怪我できないな。じゃあ行って来る」

「おう、気をつけろよ!!」

 

 そして俊秀は玄関から飛び出ていった。仁志はその様子を俊秀が見えなくなるまで見送っていたかったが、今進めている研究も進めないといけないし、何より怪我人の様子を見に行かなくてはならない。仁志は玄関から離れフェイトのいる部屋の前まで来た。子供とは言え、いきなり入るのは失礼だと思った仁志はノックをするが返事がない。おかしいと思った仁志は扉を開けると、窓が全開で開けられ、ベットで寝ていたフェイトとアルフが消えていた。その代わりにフェイトがいたベットの上には置手紙があった。

 その手紙には一文だけ文字が書かれているが、見た事ない文字が書かれているので仁志にはさっぱりだった。きっと感謝の言葉が書いてあるんだろうなと思い軽く流す事にした。

 

「たく、若いもんは勢いがあっていいねぇ。俺も頑張らねぇとな」

 

 欠伸するように大きく体を伸ばした仁志は研究を完成させる為、地下の実験室に篭りに行くのだった。




 オリキャラ紹介

 高村仁志 (たかむら ひとし)

 見た目は老人、年齢は壮年の(おっ)ちゃん。若干ハイテンションになりやすく、黒いジャックさんと同じ天才無免許医師(自称)である。昔は医師免許を持ち優秀な医者であった。しかし、ある日を境に今までの名誉を捨て、裏世界の医者となった。
 何やら医療の研究をしているようで、完成に向けて日々努力をしている。
 ちなみに『蟲じい』と言うあだ名は会長につけられた。以降、彼を知るものは余程なことがない限り『蟲じい』と呼ぶ。


 次回もよろしくお願いします。
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