「…………ん? もうこんな時間か」
家で寝ていた俊秀は、時間を確認する為時計を見た。時計の針は9時40分を指しており、テーブルの上に作って置いといた3人分の料理はすっかり冷めていたので思わず頭をかいてしまう。
(結局、フェイトとアルフは帰ってこなかったか)
俊秀は立ち上がってテーブルと共に置いてある椅子に腰をかける。右手に箸を持って、黙々と食べ始めた。時計の針が刻む音は静かに部屋に響き、時が流れている事を教えてくれる。しばらく箸を進めていた俊秀であったが、ある事に気付いて箸を止めた。
(……辺りの息吹が乱れているな。何かあったみたいだな)
俊秀は玄関に置いてある鉄パイプをいつもの麻袋に入れて、家を出たのだった。
俊秀が目覚めるよりも少し時を遡る。時刻にして9時30分、ジュエルシードを求めて1人の白い魔導師ことなのはが空を舞っていた。どうやらジュエルシードの暴走体と戦っており、空中戦を繰り広げていた。
なのはは高速で飛翔している暴走体の足止めしようとディバインシューターを飛ばすが、暴走体の体から生み出した光の粒子で全て防がれていた。さらに暴走体はその粒子を使って光に弾丸を生成し、それを乱射するため、迂闊に近付けられない。それを見たユーノは物理的な拘束を狙って拘束魔法を使用した。
「チェーンバインド!! なのは、後はお願い」
「任せてユーノ君!!」
高速で飛翔していた暴走体は、ユーノが使った『チェーンバインド』により拘束されたところでなのはは両手で持っていたレイジングハートを右手に持ち替え距離を詰めた。
「ディバインクロウ」
『Divine Claw』
空いているなのはの左手に桃色の閃光が集まり、大きな5本の爪となった。それをなのはは拘束されている暴走体に振り下ろした。抉るように暴走体の体に食い込んだ瞬間、大爆発を起こしなのはも巻き込んだ。煙が立ち込み、上空にいるなのはの安否わからないユーノは叫んだ。
「……なのは!?」
「ユーノ君、ジュエルシード確保したよ!!」
ゆっくりと煙が晴れ、なのはは無傷でジュエルシードを左手で掴んでいた。ユーノはなのはが無事なのを確認したので、安心した表情になる。ゆっくりとユーノの元に舞い降りたなのはは、地面に着地したのだった。
「これで、ジュエルシードは5つだね」
「約1ヶ月で5個かぁ……」
ユーノは思いふけるように呟いた。俊秀が入院してから、なのはとユーノはジュエルシードを求めて海鳴市を歩き回っていた。レイジングハートの力を借りて捜索してもらうが、今まで見つけたジュエルシードは5個。あと16個という数のジュエルシードがこの海鳴市に散らばっている事はほぼ間違いない。しかし、もうすぐ海鳴市全域を捜索し終えそうで、残りのジュエルシードが全部そこに落ちているとは思えなかった。
「なのは、そろそろ最悪の事態も想定しないといけなくなった」
「最悪の事態?」
「うん、もしかしたら僕達以外にジュエルシードを集めている人物がいるかもしれない」
「え? まさか、俊秀先輩? でもまだ入院中じゃ」
「……それもありえるけど、だとしたら退院した事を教えてくれるはずだ」
「俊秀先輩なら勝手に病院抜け出すと思うよ」
「……それにもうすぐ海鳴市の捜索が終わる。けど、集めたジュエルシードの数は5個。あと16個もかたまって落ちているとは思わない。誰かが回収していると考えるほうが自然なんだ」
「でも、ユーノ君。だとしたら一体誰が?」
「わからない。でも誰かが、ジュエルシードを回収している可能性は高――――これは魔力!?」
ユーノは突然感じた膨大な魔力に驚き、言葉を止める。なのはも魔力を察知したらしく辺りを見渡し始めた。
「今のは……何?」
「もしかして、誰かが魔力を使ってジュエルシードを暴走させるつもりかもしれない。なのは、こっちだ!!」
ユーノは魔力を感じたほうになのはを誘導するのだった。
高層ビルの屋上に佇む2人の人影があった。1人は頭に犬耳、腰辺りに尻尾がある。もう1人は2つに髪を束ね、眼前に広がる景色を見ていた。
「フェイト、戻らなくてもいいのかい?」
「アルフ。私の目的覚えているよね……だから戻れないんだ」
「……フェイトがそういうならあたしは従うだけだよ」
「ありがとう。じゃあいくよバルディッシュ」
フェイトの指示に従い、バルディッシュはバリアジャケットを展開させる。即時に装着されたバリアジャケットを確認してからフェイトはバルデッィシュを天に掲げた。
「今から膨大な魔力をこの辺り一帯に散布させて、ジュエルシードを暴走させる。アルフ、位置の確認お願い」
フェイトの呪文の詠唱と共に術式が展開された。これにより辺りの雰囲気ががらりと変わった。空は曇り始め、雷が鳴る音が響き天気が悪くなっていく。アルフはその間にジュエルシードのありかを探していた。
「……!! 反応あり、フェイト見つけたよっ」
ジュエルシードの反応を察知したアルフはフェイトと共にジュエルシードのある場所まで移動するのだった。
「なのは、ジュエルシードだ!! 早くしないと暴走する!!」
「まかせて!!」
感じた魔力を頼りに、なのはとユーノは道路の真ん中にあるジュエルシードを発見した。目の前のジュエルシードは辺りの魔力を吸収しているのか今まで見たものよりも青き輝きが強いので、暴走寸前だと言う事はわかる。そこでなのははジュエルシードを封印する為、レイジングハートを向けて封印魔法を放つ。しかし、何者かが逆方向からジュエルシードを狙って魔法が放たれていたようでそれが同時でジュエルシードに着弾してしまう。
この反動でジュエルシードはさらに輝きを強め、本格的に暴走し始めた。
「何この揺れ!?」
「まずい、次元震起こっている……ここままだと、大災害が――」
「!? 早く止めないとっ」
「なのは!? 近付いたらだめだっ!!」
ユーノの制止を聞かずになのははジュエルシード目掛けて走り出した。ジュエルシードの魔力の余波で道路は次々に大きな亀裂が入っていく。バリアジャケットを装着している魔導師と言えど、近付けばただですまない。しかし、気付いたらなのはの体は動いていた。
「ディバインクロウ!!」
なのはは左手に集めた魔力でジュエルシードを掴み、放出される魔力の余波を相殺してから封印しようとした。しかし、ジュエルシードを掴んだ瞬間、ジュエルシードの魔力の余波がなのはを襲った。なのはを守るバリアジャケットはどんどん破れボロボロになっていく、体を引き裂くような痛みが全身に広がり顔を歪ませた。
「なのは!?」
「くぅぅぅぅぅぅ…………!!」
破れてしまったバリアジャケットの隙間から血が流れ出て、白いバリアジャケットが真っ赤に染め上げていく。ジュエルシードの魔力の余波のせいで近づけないユーノはなのはの名前を叫ぶが、その声はジュエルシードの放つ余波でかき消された。
「お願い!! 止まって!!」
なのはは、ジュエルシードの余波を抑える事を諦め無理やり封印しようとする。レイジングハートがそれに答えようとディバインクロウの術式を変え始めた。それによりジュエルシードの暴走が徐々に押さえられいき、次第に余波は収まっていくのだった。
「凄い、暴走を無理やり押さえ込んだ……」
「ユーノ君、ジュエルシード封印完了だよ」
「!! なのは、大丈夫かい!?」
「うん、ちょっと疲れたけど大丈夫」
なのはは笑顔でユーノの元に戻ってくるが、ユーノはそんななのはを見て苦い気持ちになった。彼女のバリアジャケットはあちこち破れ、そこから血が少し流れている。なのに何故笑顔になれるのか、ユーノは戦慄を覚えた。
「なのは……何で君は笑えるんだい?」
「? どうしたのユーノ君」
「え? ……いやなんでもないよ。それより早く帰ろう、今日もこっそり家を出たんだしばれたら大変だよ」
「そうだね――――きゃあ!?」
なのはがジュエルシードがあった場所から背を向けて立ち去ろうとした時、反対方向から金色の何かがなのはの背中に直撃した。その衝撃で手にしていたジュエルシードを手放してしまう。それを見たユーノはあわてて、なのはの元に駆け寄って後ろに回りこんだ。
「うぅ……一体何?」
「そこにいるのは誰だ!!」
なのはは振り返って、ユーノが睨みつけている場所を見る。そこには5メートル先にある電柱の上に立っている黒いバリアジャケットを装備した少女がいた。
「…………そのジュエルシ-ドを渡してください」
「あ、あなたは誰?」
「……ごめんね」
「!?」
電柱にいた少女は一気に距離を詰め、なのはに斬りかかった。なのははレイジングハートで止める事ができたが、力で押し負けユーノと引き離されてしまう。少女の攻撃に反応できなかったユーノはあわててなのはを追おうとする。
「なのは!!」
「おっと行かせないよ!!」
「!! あの子の使い魔か」
しかし、ユーノの目の前に一匹の狼が現れて道を阻み、なのはを完全に孤立にさせた。ユーノはあの少女の使い魔と思われる狼に質問した。
「ジュエルシードは危険なものなんだ。それを集めて……君たちの目的は何だ!!」
「……目的を誰かに言って、何か解決するのかい? あたしはフェイトが集める必要があれば、それに従うだけさ!!」
「どうやらあの子に直接聞くしかないみたいだ。早くなのはを追わないと」
「ふん、使い魔のフェレットなんかに、絶対にここは通さないよ!!」
「僕は使い魔じゃなくて人間だ!!」
ここでユーノと狼の戦いが幕を開けた。
「ディバインシューター!!」
鍔迫り合いで完全に力負けしていたなのはは、状況を変えるために少女に2個の魔弾を打ち込む。少女は読んでいたのか魔法が発動した瞬間に距離を取り簡単に避けた。
2メートルほど距離を取った少女は相手の出方を見ており、すぐにはかかってこない雰囲気だったのでなのはは口を開けた。
「私の名前は高町なのは! あなたの名前は」
「……フェイト・テスタロッサ」
「あなたは何の目的でジュエルシードを集めいているの?」
「ごめんなさい……あなたに言う義理はない!!」
そう言ったフェイトは再びなのはに襲い掛かったのだった。
次回もよろしくお願いします。