壊し屋 俊秀   作:遼明

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第12話 動き出す影

 なのはとフェイトが戦い始める少し前、離れたビルの屋上でその様子を見ている男がいた。白衣の中は無地の白色Tシャツに青いジーンズを着ており、胸元のポケットには少しフレームの形が曲がった眼鏡が入っていた。

 その男の目の前には色々な機械が置かれており、それを弄っている様だった。

 

「……おお、やっと始めたか! これでデータが取れるもんだ。松下さん、ジュエルシードの設置ありがとう」

 

 男は機械を弄りながら、後ろにいつの間にか立っていた松下に声をかけた。松下は少し驚いた表情になるが、いつもの振る舞いで答えた。

 

「いえいえ・・・・様、私は紫苑様からしっかりと励んでくるようにと背中を押されました」

「ふふふ、紫苑らしいな」

 

 男は鼻で笑いながら、機械を弄り続ける。データの取り逃しをしたくないので先ほど始まった彼女達の戦いを見ながら、空中に映し出されたディスプレイに入力していく。松下は屋上の片隅に持ってきたコーヒーメーカーでコーヒーを入れながら口を開いた。

 

「それにしても、よろしかったのですか? ジュエルシードをタダであげるような事をして、社長から怒られますよ」

「問題ない。まだ手元にジュエルシードはあるし、解析も終わっている。何よりこれは彼女達のテストなんだ。1人の魔導師の実力は知っているが、もう1人の魔導師の実力が私は知りたいんだよ」

「ほぉ……と言う事はあれが完成したのですか?」

「察しがいいね。さすが松下さんだ。私のモニタリングには絶対に魔導師が必要だから困っていたが……まさに棚から牡丹餅だ。さぁ彼女の実力はどれくらいなのかな?」

 

 男は意気揚々と彼女達の戦いを観戦し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 なのはとフェイトが戦闘を始めて5分ほど経過した。空では金色と桃色の光が何度も交差し、お互い後れは取っていなかった。フェイトは持ち前の高速飛翔を生かしたヒットアンドアウェイで攻撃を仕掛けるが、なのははそれを魔力総量を生かした力任せの防御で完全に防いでいる。一方なのはもフェイトの攻撃を防ぐ事ができるが、攻撃はフェイトに避けられ完全に手詰まりだった。

 

(駄目だ、防御が崩せない。どうすればいい……)

(速い、私の砲撃魔法は当らない。それに――)

 

 お互い攻め方を思案するため、距離を取った。その間もお互い戦略を練る。

 

(あの子の魔力量は私よりも多いかもしれないけど、余り戦いなれていない……罠を仕掛ければ崩せるかもしれない)

(牽制で使ったアクセルシューターは全部撃ち落とされている。それにスピードも私の方が劣っている。けど少しでも動きを止められれば……チャンスはある)

 

 フェイトはなのはよりも少し早く動き出した。ボソッと呟き、フェイトが持っているバルディッシュは反応した。すぐさま術式が展開され、フェイトは一気になのはに迫まりバルディッシュを右肩から袈裟に振り下ろす。それをなのはは両手で持ったレイジングハートで受け止めた。デバイス同士の接触により火花が飛び散り、デバイス同士が擦れ合う音が響く。力で押し切れないと判断したフェイトはなのはに右足の蹴りを腹部に入れた。防ぎきれなかったなのははそのまま地面に向かって落ちていく。フェイトはこの隙に呪文の詠唱に入ったが、突如四肢の自由を奪われ詠唱を中断した。

 

「これは、バインド!?」

「捕まえたよ」

 

 なのはは蹴られながらもフェイトが動きを止めた事を見逃さなかった。

 

「くっ……外れない」

「ディバインバスター」

『Divine Buster』

 

 レイジングハートは杖の先に集めたなのはの魔力を収束して撃ち出す。桃色の砲撃は一直線に伸びフェイトに当った。しかし、まるで霞に当ったようにフェイトの姿は掻き消えてしまった。

 

「えっ!? きゃあ!?」

 

 なのはは何が起こったのかわからず、動揺してしまった。拘束魔法で捕らえたはずのフェイトがディバインバスターを当てたら消えたのだ。魔法初心者のなのはに動揺するなと言うのは無理だろう。この隙を突いてなのはの背後にフェイトが現れ、アークセイバーをなのはの背中に放った。勿論なのははそれを防ぐ事ができずに直撃を貰った。

 そして、これが決定打になった。アークセイバーの当たり所が悪かったのか、なのはの意識を刈取られ重力に引っ張られるのだった。

 

 

 

 なのはとフェイトの決着がついた頃、狼と戦いながらなのはの様子を見ていたユーノは思わず叫んだ。

 

「なのは!!」

「おっ決着がついたみたいだね。ジュエルシードを渡してくれるなら通してもいいけど?」

「……っ。わかった、あのジュエルシードは渡す」

「物分かりがよくて結構、いきな。あんたにはもう用はない……けど次、邪魔するなら本気でガブッといくよ」

 

 狼はなのはの元に行くユーノに言うが、最後の方はユーノに聞こえていたかわからなかった。とりあえず、近くに転がっていたジュエルシードを回収した狼は念話を飛ばした。

 

(フェイト、ジュエルシードは回収したよ)

(ありがとうアルフ、じゃあ次いこう)

(あいよ)

 

 念話を切ったアルフはこの場から立ち去ったのだった。

 

 

 

 

「道路のど真ん中に倒れて、一体何があった……?」

 

 あれから数分後、俊秀はなのはとフェイトが戦っていた場所に着いた。自分の目の前に広がるのは大きな亀裂が幾つも入りボロボロの道路、その道路のど真ん中に倒れているなのはがおり、その横ではフェレットのユーノがなのはの体を揺すっているのだ。それを見た俊秀はなのはに駆け寄り、何が起こったのかユーノに聞いていたのだった。

 

「ジュエルシードが暴走したんだ。そこで1人の魔導師と戦闘になって……それより、なのはは?」

「……脈は正常、目立った外傷はない。気絶しているだけだろう。しばらく安静にしとけば大丈夫と思うが、早くこの場から去ろう。警察とかに捕まったら面倒だ。ユーノ、なのはの家に案内してくれ」

「わ……わかりました」

 

 俊秀はなのはを背負って立ち上がった。ユーノは俊秀の肩に登り、なのはの家へ誘導するのだった。

 

 

 

 

 あれから10分経過した。ユーノの指示に従い、高町家を目指していた俊秀は空を見ながら歩いていた。

 

「そういえばユーノ、魔導師と戦ったって言ったな。どんな奴だった?」

「女の子でした。ちょうどなのはぐらいの……月光に反射する金髪が印象に残ってます」

(フェイトなのか……? 無理してなかったらいいが)

「岩井さん、ちょっと気になる事があるんです」

 

 ユーノとは道のりを聞くかこちらから何か聞く以外は会話をしてなかった俊秀であったが、いきなりユーノの口から相談を持ちかけられるとは思っていなかった。思わず口元が笑ってしまう。

 

「恋愛相談か? 残念だが、人間とフェレットは添い遂げられんぞ」

「ちっ……違います! それに今の姿はフェレットだけど、僕は人間です!」

「お前人間だったの。全く、魔法は面妖だなぁ…………すまん、話がそれた。で、どうしたんだ」

 

 俊秀は歩調を変えずにユーノの話に耳を傾ける。少しの間、俊秀の足音がリズムを刻むだけであったが、ゆっくりとユーノの口が開いた。

 

「僕達はこの1ヶ月間で海鳴市をほぼ全域捜索しました。それで手に入れたジュエルシードは奪われた分を合わせて6つ。今日会った魔導師が残り全部持っているんでしょうか? そうしたらジュエルシードを捜索しても見つからなかった理由が説明ができるんですが……」

「そうだな……。可能性がゼロってわけではないが俺は今回の事件、根っこから考え直す必要があると思う」

「それは……どう言うことですか?」

 

 俊秀の予想外の返答にユーノは目を丸くした。俊秀の顔は真剣な表情になり、淡々と理由を説明し始めた。

 

「考えてみろ、ジュエルシードは危険なものなんだろ? それを運ぶ輸送機が簡単に事故ると思うか。例え事故っても、危険物をばら撒かないように頑丈なもんで覆われているはずだ。まぁ結果的にはばら撒いてしまうわけだが、何故残骸が落ちてない。そこで幾つか可能性が生まれる。もし輸送機の事故が嘘で、人為的に操作されたものなら? 事故に見せかけた事件なら? 事故は起きたが輸送機が回収されていたなら……ジュエルシードが見つからない説明がつく」

「事故を起こした輸送機が回収された? 本当は事故は起きていない? でも、事故が起きた事は間違いない。僕の元に情報がきた。それに岩井さんの意見は完全に仮説だ」

 

 俊秀はユーノの意見に頷く、確かに俊秀が立てた仮説に過ぎない。だがそう考えないと辻褄が合わないのだ。

 

「ユーノ、俺が今までジュエルシードを手に入れた。もしくは見た物は第三者の手に渡っているか、手を加えられているみたいだった」

「本当かい!? で、でも僕達が探していない1週間の間に探したのかもしれない」

「その可能性もあるがジュエルシードを持っていたある男が言っていた『まさかロストロギアを乗せた輸送機が事故になるとは』ってな。あの時は気にもしなかったが今思えば、事故を起こした輸送機を回収した可能性も考えられるんだよ」

「そんな……正直信じられないよ」

(気持ちはわからんでもないが……でもこの仮説だと色々問題が残るんだよなぁ。ユーノが見つけたジュエルシードがどうやって海鳴市に落ちたのか、何故フェイトは母親のためにジュエルシードを集めているのか……まだ俺の知らない真実が隠れていそうだな。それを全て知った時、全てのピースが繋がるはずだ)

 

 こうして俊秀とユーノは思考の海に沈み、これ以降お互いに話す事がなく高町家付近に着くまでは沈黙が続いたのだった。

 余談だがなのはは高町家付近についても起きず、そのせいで2階の窓から潜入しベットに寝かしたのだった。この時、なのはの兄、姉らしき人物が玄関前に立っていた為、ばれるかひやひやしたが見つからなかったので胸をなでおろしたのは言うまでもない。




 次回もよろしくお願いします。
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