壊し屋 俊秀   作:遼明

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第13話 前篇 超持久戦

 夜の11時36分、海鳴市中を全力で走る俊秀の姿があった。昼から夜までほとんど休みなく走っているせいか着ている服は汗が染みて体に張り付き、手に握っている細長い麻袋も汗で濡れている。息は完全に上がっており、最早気合と根性だけで走り続けていた。

 

(もう、残り30分切ってんじゃねーか……後一機、何としても見つけて破壊しなければ……!!)

 

 刻一刻と迫るタイムリミットに俊秀は焦りを隠せなくなって来ていた。俊秀の探しているものはここで見失った為にさっきから住宅街を何周もしている。

 そろそろ諦めて別の場所を探そうかと思い始めた頃、住宅街の曲がり角を右に行くと俊秀が探しているモノはそこにあった。

 

「見つけたっ!! 今度こそ絶対逃がさん!!」

 

 それを追い詰める為、最後の力を振り絞って走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 第13話 前篇 超持久戦

 

 

 

 気絶したなのはを家に送り届けた次の日、俊秀はテレビを見ながら筋トレをしていた。見ている番組は平日の10時ごろにやっているニュースである。ちなみに学校は休校なので、サボっているわけではない。

 

(道路の事件やっとんな)

 

 先ほどから俊秀は筋トレを止めて、テレビのニュースを食い入るように見ていた。ニュースの内容は昨日起こった地震とそれによる被害についてやっていた。改めてみると被害の大きさに唖然としてしまう。

 

(しかし、今回はよく怪我人でなかったもんだよなぁ……なのはとフェイト、ユーノにアルフ。あいつ等はなにやってんだ? 地面に亀裂が入ったのは置いといて、どうやったら地震が起きるほど戦闘ができる? 魔法ってほんと、恐ろしいわ)

 

 ジュエルシードが地震の原因と知らない俊秀はそう結論付け、筋トレを終わりにした。しかし、この数十分後、考えを改める事になるのだった。

 

 

 

 11時50分、もうすぐ昼飯にしようと思った俊秀は台所に行く為立ち上がろうとするが、突然テレビの方から警報音が鳴り出した。何事かと俊秀はテレビの方を向くが特に変わった様子はない。おかしいなと思いながらテレビを探っていると、子狐のカスミがテレビの横から四角い機械を咥えて出てきた。カスミは咥えたそれを俊秀の目の前に置いて、その場に座り込む。

 

(これは……あの時のか?)

 

 これは以前、紫苑と紫蘭が送ってきたもので俊秀はこの存在をすっかり忘れていた。どうやら、この機械から音が鳴っているようなので、前と同じように手にとってボタンを押してみることにした。すると空中にモニターが浮かび上がり映像が流れ始めた。しかし、映像が映しているのは海鳴市にある湾岸倉庫ではなかった。様々な機械が置かれており自動車工場を思わせるラインがあるので、どこかの工場だと思い映像に映っているラインをよく見るがどうやら稼動はしていなかった。

 

(見た感じ何かを量産する為の工場に見えるが……一体、何なんだ?)

 

 数秒、同じ映像が流れた後、画面の下から1人の男が出てきた。男の格好は白衣を纏い、その下に無地の白色Tシャツに青いジーンズを着ている。白衣についている胸元のポケットには少しフレームの形が曲がった眼鏡が入っていた。

 

『こんにちは……と言うより初めましてだ、岩井君? …………そうそう言い忘れてたけど、これはテレビ電話みたいなものだから私と話せるよ。さぁ難しい顔をしないで重たい口を開こうじゃないか!!』

 

 俊秀は頭を抱えた。全く意味がわからない。紫苑や紫蘭が出てくるならともかく、メガネが似合いそうなイケメンが出てくるとは思ってもいなかった。

 

(……嫌な予感がするなぁ。正直、こいつと話したくない)

 

 身の危険を感じる俊秀だが、この男が連絡をしてきたと言う事は何かしら用事があるのだろう。俊秀は意を決して、気になった事を口にした。

 

「何で俺の名前を知っている。紫苑、紫蘭の仲間なのか?」

『そうだね。良き仲間でもあり、ライバルでもある。だから君の話もよく聞いている。彼女達が製作した黒師、白師を相手に引き分けたらしいじゃないか。しかし、熟練の魔導師でもない君に彼女達が遅れを取るとは私は思えない。そこでだ、君にテストを受けてもらおうと思う』

「……何をするつもりだ」

『ゲームだよ、ルールは簡単。私が作品を完成させる為に製作した6機のプロトタイプを海鳴市内に配置した。それを時間制限以内に破壊してもらう。もしテストを受けないと言うなら、プロトタイプに積んでいるジュエルシードを暴走させ、次元震を起こす』

「ちょっと待て、次元震ってなんだ? ジュエルシードが暴走すれば、実体化するだけじゃないのか」

『おや? ジュエルシードにかかわっているのに次元震を知らないのかい……昨日起こったのになぁ』

 

 俊秀は男に疑問をぶつけた。今まで俊秀がユーノに聞いた情報を思い出せば、『次元震』と言う言葉は一切聞いていない。だが実際は最初説明を受けたときにユーノはしっかり次元震の事を話していたがテキトーに話を聞いていた俊秀は聞き流していたのだ。

 

『そうだね……。簡単に説明すると次元震は、この世界だけではなく多次元の世界を滅ぼすほどの地震だ』

「………………は!?」

 

 余りのスケールのでかさに俊秀は全く理解ができなかった為にフリーズしてしまう。その間、俊秀の頭の中には男が言った言葉が何回も繰り返される。数秒たってやっと理解した俊秀は男を睨みつけた。

 

「ふざけるな!! 俺をテストさせる為にこの世界の人を人質に取るだけでなく、他の人も巻き込むつもりなのか!!」

『勿論。でも君がしっかりプロトタイプを破壊して、ジュエルシードを回収すれば次元震は起きない。数々の物を破壊してきた岩井君には簡単だろ?』

「くっ…………わかった。テストを受けよう」

 

 俊秀の返答を聞いた男は薄ら笑みを浮かべ、胸元のポケットに入っている眼鏡のレンズを拭き始めた。そして、男は再び口を開いた。

 

『制限時間は深夜の0時まで……今から約12時間だ。私の作ったプロトタイプの形は全て(さそり)の形をしている。まぁ見ればわかるだろう。それでは開始だ!!』

 

 四角い機会によって映し出されていた映像は男の合図と共に消え、その瞬間俊秀は走りやすい格好に着替えた。手首にはリストバンドではなく腕時計をして時間をわかるようにしたがふと疑問が浮かんでくる。

 

(それにしても、あの男は俺にテストを受けさせて何のデータを取るつもりなんだ……。一体、あの男の本当の目的は?)

 

 俊秀はこのまま思考の海に潜りかけたが、今は考える時ではないと気持ちを切り替えた。俊秀は玄関に置いてある細長い麻袋に入った鉄パイプを持って家を出ようとするが……。

 

「くぅーん!!」

「ぐおッ!? いててて、ってやめろカスミ!! 前が見えん!?」

 

 俊秀が玄関のドアノブを手にかけた瞬間、カスミが俊秀の頭に背後から飛びついた。その反動で俊秀の頭はドアにぶつかり痛がっている隙にカスミが視界を隠していたのだ。

 

「カスミ頼むから降りてくれ、俺は急いで……いたいっ!! 頭を噛むな!! はげるぅ!?」

「ぐぅーん!!」

 

 俊秀はカスミを下ろそうと色々とやってみるが俊秀の頭をカスミはガッツリと噛んでいる為、無理に引き離そうとすれば、確実にはげてしまう。とりあえず俊秀は冷静になって考える。

 

(もしかして、しばらくかまってなかったから怒ってんのか? こんな時、妙に知識の高い子狐は困りものだな。人の嫌がる場所を的確に狙って足止めしてくるし……。しょうがない、連れて行くか)

「カスミ、とりあえず頭にのっかったままでいいから視界を隠さないでくれ」

 

 カスミは俊秀の言う事を聞き、いつも俊秀の頭に乗っているポジションに移動した。視界が元に戻った俊秀は今度こそ家を飛び出た。

 

 

 

 

 13時25分、俊秀は臨海公園付近に来ていた。海鳴市内に配置されているプロトタイプを探す為、隅々まで探しているがまだ1機も見つけていない。制限時間はまだたっぷりあるが、この勝負には多くの人の命がかかっているため楽観できない状況だった。

 

(駄目だ、範囲が広すぎる。これじゃあいくら時間があっても足りん……。少し息吹(・・)で探してみるか)

 

 俊秀は目を閉じ、周囲を探り始めた。あらゆるものが呼吸するような感覚が頭に流れ込んでくる。その情報を元に頭の中では立体的に地図が製作されると共にその地図上に動く人や自動車、動物などが配置されリアルタイムに更新される地図が完成した。

 俊秀はその完成した地図で索敵を開始する。この地図を作る時にこの世界では存在しない異質の息吹を放つ存在を確認した俊秀は真っ先にそこを調べた。

 

(………………見つけた)

 

 男が言っていた蠍の形をした機械は臨海公園付近を徘徊しているらしく、距離はここから約100メートル先の曲がり角にいた。

 俊秀は目を開け、額から流れた汗を拭う。ここまでするのに数秒とかかっていないがかなりの疲労感が俊秀を襲っている。しかし、休憩している暇はないので走り出した。

 

(1回使っただけでこの疲労感……。乱用は避けたいところだな)

 

 俊秀は麻袋から鉄パイプを取り出して、息吹を感じた100メートル先の曲がり角を曲がった。するとそこにはのろのろと稼動音を響かせながら動いている蠍型の機械があった。

 

(なるほど、見ればわかるって言ってたが間違いなくあれだ)

 

 蠍型の機械は高さ10センチ、平たいボディーは赤錆びた色になっていた。本体から伸びる8本の細い足を器用に動かしている。あの機械の武器だと思われる2本の大きな鋏と大きく反った尻尾はそこまで脅威には見えなかった。

 機械は俊秀の存在に気付いていないようで、依然のままのろのろと動いていた。チャンスだと判断した俊秀は一気に距離を詰め、鉄パイプを機械目掛けて渾身の力で突いた。

 しかし、渾身の力で突いた鉄パイプは装甲に突き刺さる事はなく、大きな金属音を辺りに響かせ弾かれる。

 

「ぐっ……硬い!」

 

 この攻撃で仕留められなかった為に機械は俊秀の存在に気付いた。機械は閉じていた右の鋏を俊秀に向けて開いた。すると中から機関銃のような砲身が勢いよく出てくる。

 

「マジ!?」

 

 俊秀は左に回避行動をとっさに取りながら砲身に蹴りを入れる。俊秀に向けられた砲身は大きくそれた後に弾丸は放たれ、近くに生えていた木々を何本か大きな穴を開け貫通した。機械は弾丸が外れたと判断すると次は閉じていた左の鋏を開き、中からはブレードのようなものが出てくる。それを俊秀に向けて突き刺そうと機体を回転させた。それを俊秀は鉄パイプで弾いて金属の衝突音と共に火花が散る。

 左のブレードを弾かれた機械は大きく反った尻尾で俊秀を叩きつけようとするが、その前に俊秀は左手で尻尾を掴んでいた。そこから俊秀は攻撃に転じる。先ほどの攻撃では装甲に傷1つ付けられなかった。そこで今度は自身の一撃の威力を上げる為に体を回転させ、右手に持っている鉄パイプを突き刺したのだった。

 

「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 俊秀の気合の入った叫びと共に鉄パイプは高熱を帯び、装甲を融解させ深く貫いた。それと同時に機械は動きがぴたっと止まり、稼動音の代わりに電化製品がショートを起こしたような音が聞こえる。しばらくの間、俊秀は機械に鉄パイプを突き刺したまま警戒していたが動き出さないようなので警戒を解いたのだった。

 

「ふぅ、まずは1機……。あと5機も相手にしないといけないのか」

 

 思わず天を仰いでしまう俊秀であったが時間が惜しい為、機体に積まれているジュエルシードを回収してなんとか取り出し、この場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 海鳴市に存在する某町交番、ここに1人の警察官がいた。彼は書類を書いているようでせっせと記入していた。どうやら同じ書類を何万枚以上書き直ししているようで、横には書き損じた書類の塔(全長約1メートル)が建設されていた。一体何時間浪費すればこのような高い書類の塔ができるのか不思議だが、もうすぐ彼はあと一項目で書類が書き終わる。長き戦いに終止符を打つ事ができるのだ。彼は固唾を飲み込み、左手で握っているペンを書類に下ろした。ペンを走らせ生み出される文字は美しいの一言、彼は舞っていたまさに野原に舞う蝶のように、あと一字で書き終わるそんな時だった。

 

『RRRRRR……RRRRRRR――――』

 

 突如、交番に設置されていた固定電話が鳴り出した為に男は大きく驚いてしまう。その反動で書類に大きな線が走り、今まで綺麗に書き上げていた書類がお釈迦になったのだった。

 

「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 意味不明の叫びを上げる警官、今までの苦労が水の泡。余りの悔しさに血の涙を流し始めた。このまま泣いていたかった男であるが、無情にも電話は鳴り続ける。このまま無視する訳にもいかず、電話を取った。

 

「はい、こちら――――」

『遅い!! わたくしは、不審者を見ましたのよ。さっさと捕まえてくださる?』

「す……すみません――――え!? 不審者ですか」

 

 余りの迫力で思わず謝ってしまう警官だったが、『不審者』と言う言葉が聞こえたような気がしたので聞き返した。すると電話をかけてきた人物は見た状況を話してくるのだった。

 

『そうよ、大変なのよ。鉄パイプを持った不審者があちこち物を壊して暴れまわってますの。怪我人は出ていないみたいだけど、これじゃあオチオチ外にも出られませんわ! 何とかしてくれません?』

「わかりました。申し訳ありませんが目撃した場所を教えて貰いませんか。すぐに向かいます」

『そうですわね。住所は――――』

 

 警官は言われた住所を書きミスをした書類の後ろに書き込み、それが間違っていないか確認を取った。間違いが無いことがわかったあと、通報者に一礼をしてから警官は電話を切った。

 

「ふふふ……書類の弔い合戦だ。待ってろよぉ不審者ァ!! 俺が捕まえてやるぜぇい」

 

 この時の警官は心の底から恐ろしく気味悪い笑みを浮かべていたとたまたま目撃した通行人は口をそろえて言うのだった。

 

 

 

 

 

 17時18分、俊秀は右手に鉄パイプを握り締め海鳴市中を駆けていた。理由はもちろん、彼の目の前を激走する蠍の形をした2体の機械のせいだ。そしてもう1つ、2メートル後ろから自転車を必死に漕いで俊秀を追跡する警官がいた。あれこれこの鬼ごっこは2時間以上繰り広げているのだが、一向に勝負が終わる気配がなかった。

 

「不審者ァ!! お前のやってしまった罪は重いぞぉぉぉ!! あれが最後の1枚だったんだぁ!! なのに貴様のせいでミスっちまっただろぉぉぉぉぉ!!」

「一体何の話だよ!! 身に覚えのない罪を擦り付けようとすんなぁ!!」

「貴様が身に覚えがなくても、俺にはオオアリじゃい!! さっさとお縄につけぇい!!」

「俺は今、でっかいもん背負(しょ)ってんだ。捕まるわけにはいかん!!」

 

 俊秀と警官はお互い体力が限界に来ており、最早気力で走っている。俊秀はあの警官にだけは捕まりたくないため、必死に走っているのだ。ではあの警官は何者なのか?

 それはかつて、俊秀を補導し3時間説教した警官なのだ。あの時はまだ機嫌がそこまで悪くなかったので3時間で済んだ。だが今はどうだろうか、明らかに機嫌が悪い。捕まったら最後、説教は前の倍にはなるだろう。

 

「捕まえたら、まず説教してじわじわ苦しみを与えてやる……ふふふふふ」

 

 警官の地獄の底から湧き上がるような笑い声が俊秀の耳に届く。きっと恐ろしく気味悪い笑みを浮かべながらペダルを漕いでいるんだろうなぁと俊秀は思いつつ、前を激走している2体の機械を睨みつけた。

 

(そろそろ、あの2体を破壊しないと体力的にまずいな)

 

 俊秀は額から流れ落ちる汗を拭う事はせず、ひたすら走り続ける。目の前に破壊しなければならないものがある限り。

 

「人の命を簡単に奪うようなものならば、きっちり壊させてもらう」

 

 制限時間はあと6時間ほど、彼の戦いはまだ終わらない。




 次回もよろしくお願いします。
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