壊し屋 俊秀   作:遼明

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第13話 中篇 時間制限

 14時19分、1機のプロトタイプを破壊し、ジュエルシードを取り出した俊秀は住宅街に来ていた。先ほど息吹を感じ取って作成した地図上で似たような物が多数あったからだ。

 

(この辺で感じたはずなんだが……。それにしてもさっきの戦闘でよく振り落とされなかったな。カスミはどれだけ執念深いんだ)

 

 先ほどの戦闘で振り落とされなかったカスミの執念深さに驚きながらも俊秀は走り続けた。3分ほど住宅街を直進し左のカーブに差し掛かったぐらいに俊秀は急に走るのを止め、近くにあった電柱の陰に隠れる。それから電柱に隠れながら顔を出して、こっそり先を見る俊秀は動揺が隠せなかった。

 

(いきなり過ぎるだろ!? なんで残り全機が住宅街に集結してんだよ!!)

 

 俊秀の隠れる電柱から10メートル先に蠍の形をした機械が集結していた。機体の色はそれぞれ違う。しかし、形は先ほど壊したモノと大小違いはあるがほぼ同型である。もう少し観察すると何やらそれぞれの機体からケーブルのような紐が伸び、ケーブル同士が接続されていた。

 

(データの交換をしているのか? …………よくわからんがこれはチャンスだ)

 

 俊秀は気持ちを落ち着かせる為に大きく深呼吸をした。鉄パイプを持っている右手に力が入る。俊秀はゆっくりと投擲体勢に入った。

 

(これで、終いだ!)

 

 サイドスローで投げられた鉄パイプは寸分の狂いなく集結している機械に突き刺さるが俊秀は舌打ちしてしまう。

 俊秀が鉄パイプを投げたと同時に2体の機械が気付いたのだ。機械は投げられた鉄パイプは止められないと判断し、その2機が盾となり、3機には攻撃が届く事はなかった。

 全機を仕留めようと考えていた俊秀にとって誤算だった。かなりの力が込められていた鉄パイプは2体の機械に突き刺さった数秒後、爆発が起こる。爆音が住宅街に広がると共に爆発による粉塵が煙と共に巻き上がり視界を遮った。

 俊秀は煙で前が見えないが、息吹が遠退くを感じる。どうやら残りの3機は逃げられたようだ。

 

「くっ……逃がした!! ……カスミ!? 何処に行く!?」

 

 俊秀は全て仕留められなかった事を悔やみながらも、とりあえず壊した2体の機械に積まれているジュエルシードを回収しようとした時だった。頭に乗っていたカスミは急に頭から飛び降り、俊秀をおいて行ってしまったのである。

 後を追おうとする俊秀だが、地面に落ちているジュエルシードと鉄パイプを残してはいけない。すぐに回収して顔を上げるがカスミの姿を見失ってしまった。

 

(カスミの行方も気にはなるが……今は時間が惜しい)

 

 俊秀はこの場から立ち去ろうと動き始めた瞬間、足元に何かが通った気配がした。前には何もいないので後ろを振り向くけば、迷彩色の機械が2体物凄いスピードで駆け抜けていた。

 

「はぁ!?」

 

 俊秀は突然の事に2秒ほど唖然とするが、すぐに正気を取り戻し全力で2体の機械を追い始めた。

 

(くそっ……なんで気付かなかった。すぐ傍にいたのにも関らず…………そうかすぐ傍にいたから(・・・・・・・・)気付けなかった(・・・・・・・)のか!!)

 

 俊秀の感じている息吹。どんなものかは今だ不明であるが、1つだけはっきりしていることがある。それは同じ材質でできたものは感じ分ける事が難しいのだ。

 辺りには先ほど爆発した2機の部品が散らばっているため、似たような息吹が感じられた。これに隠れるようにそれはいたのだ。さらに巻き上げられた粉塵と煙は完全に晴れていないために視界が悪い。たまたま迷彩色だった2機はその場で待機し逃げるチャンスを窺っていたようだ。

 

(俺から逃げられると思うなよ……!!)

 

 俊秀はさらに走るスピードを上げ、逃げる2体の機械の後を追った。だがこの時、俊秀が爆発現場から離れていくところをこの一帯に住む住人に目撃され警察に通報されたわけである。

 

 

 18時2分、私立聖祥大附属学校校門前。俊秀はある場所に潜伏していた。時折、回りの様子を見るために顔を出し、すぐに引っ込める。それを繰り返していた。

 

(駄目だ……。今出るのは危険すぎる。早くここから出たいんだが……)

 

 俊秀は暗くてじめじめしている場所に30分程いるのだが、我慢の限界が近かった。その理由はいたってシンプル、体調が優れないのだ。

 この場所に入ってから徐々に気分が悪くなり、今では身の危険まで感じる。正直、一刻も早くここから出たいと言うのが彼の本音だが出て来る場所が場所の為、完全に不審者だ。そのせいでなかなか踏ん切りがつかないようだった。

 

「くそっ……全てはこいつのせいだ」

 

 俊秀は右手をポケットの中に突っ込んで中に入っていたものを取り出し、それを見た。闇の中で青く光るジュエルシードが4つ握られ、辺りを明るくする。周りはセメントで固められちょうど1人だけが上り下りができるような広さであった。俊秀の頭上には丸い鉄板があって、時折その鉄板をズラして外の様子を窺っている。

 ちなみに俊秀のいる場所、それはマンホールの中であった。なぜ彼がこのような場所に潜伏しているのか、少しだけ時を遡る。

 

 

 

 

 

 第13話 中篇 時間制限

 

 

 

 17時25分、俊秀は目の前を激走する2体の機械の後を追っていた。相変わらず、自転車に乗った警官に追跡されているが、俊秀の方がも精神的に(まさ)っていたようで距離が徐々に開いていた。

 

「ぜぇぜぇぜぇ……しょっ、書類の仇討ちぃぃぃいぃぃ」

(スピードが落ちているとは言え、あの執念深さ……。まったく、厄介な人が警察に入ったもんだ)

 

 俊秀は警官の執念深さに心の中で称賛(?)を送りながらも、目の前にいる蠍型の機械を確実に追い詰める為にペースをさらに上げた。しかし、俊秀はある事に気付いてしまう。

 

(まずい、この先は交通量が多い交差点だ……。信号に引っかかったら見失ってしまう!!)

 

 機械は奇跡的に今まで裏道を激走していた為、信号機で止められる事はなかったがこの先は私立聖祥大附属学校がある。そのせいで交通量も多くなっているのだ。つまり下手な行動はできなくなる。しかも、戦闘になったら無関係の一般人を巻き込む危険性があった。

 

(一か八かで、鉄パイプを投げて仕留めるしか…………。駄目だ。まだ勝負の時じゃない)

 

 俊秀は鉄パイプを投げようとするが思い止まった。俊秀は肩の強さにかなり自信を持っている。体勢が悪くても1体は破壊するは出来るかも知れない。だが、その後の事を考えたのだ。俊秀があの機械に対抗できるのは鉄パイプのみ、それ以外はまず通用しないだろう。だがもし鉄パイプを手放した瞬間、逃げに徹していたあの機械が攻撃に転じてくるなら状況は変わってくる。ここでの戦闘は絶対に避けたかった。

 

(くそっ……あの時仕留められていれば、もっと早くに気付いていれば……!!)

 

 俊秀の頭の中は後悔だけが渦巻くが、すぐに気持ちを切り替え前を走っている2体の機械を見据えた。

 

(後悔なんて後でもできる。今は……あれを壊す事だけを考えろ!!)

 

 ついに2体の機械は交差点に入った。信号は青で無論俊秀も渡れる。俊秀はこのまま変わらないでくれと祈りながら走り続けるがこの時、事故が起こった。信号無視したトラックがそのまま突っ込んできたのだ。道路にいたのは2体の機械、うまく避けたので1体は引かれずに済んだ。しかしもう1体の方は避けきれず、トラックに吹っ飛ばされる。1回、2回と回転しながら宙を舞い、そして偶々点検があった為に開いていたマンホールの中に入ってしまったのだ。近くで見ていた俊秀はすぐに急停止しマンホールの中に潜入した。

 

「さて、勢いよく入ったのはいいが真っ暗で何も見えんな」

 

 どうやら点検作業は終わっていたらしく、明かりが1つもない。俊秀は思わず頭を掻くが闇の中に1つだけ青く光るものを見つけた。近寄ってみるとトラックの体当たりにより、大きく破損した機械があった。かろうじて原型を保っているようだが、ボディーは大きく割れ、青く光る宝石ジュエルシードが剝き出しになっている。さらに観察してみると兵器のプロトタイプと言ってもトラックの一撃には耐え切れなかったようで、機械は完全停止していた。

 

(どうやら、この機械は安価な素材で作られたものだったようだな。……さて、ここからどうやって出よう)

 

 俊秀は入った場所に戻ろうと考えるが、さっきまで俊秀を追っていた警官に捕まる恐れがあるため他の出口を探すのだった。

 

 

 

 そして、30分ほどマンホールの中を彷徨い、やっと外に出られると思いながらゆっくり蓋を開けてみると私立聖祥大附属学校校門前と言う訳である。

 

「もう……腹を決めて出るしかないか」

 

 俊秀は不審者のレッテルを張られることを覚悟しマンホールの蓋を開けようとするが、その前に上から声がかかる。

 

「俊秀先輩、そこで何しているんですか」

「…………その声はなのはか? マンホールの中にいるのによくわかったな」

「まぁ蓋を開けてきょろきょろしているの見ましたし、あははは」

 

 俊秀はなのはの顔は見えないが間違いなく苦笑いをしているなと思っていた。知り合いが仕事でないのにマンホールの中に入る。まさに傍から見れば滑稽だ。

 

「あんた、そこに隠れてないで早く出てきたら? 今は周りに私達しか人はいないわよ」

「……本当か! それは助かる」

 

 俊秀はなのはとは違う声が聞こえたので、少し躊躇(ためら)うがその声を信じて外に出る事にした。やっと暗くじめじめした場所から解放された俊秀は大きく深呼吸をした後、辺りを見渡す。先ほどまで俊秀を追っていた警官の姿は見えない。完全に撒いた事を確認してからなのはの方へ向き直った。

 

「いやぁ……助かった。あのまま居たら、命が散ってかもしれない……。ところでそこの2人は?」

 

 俊秀はなのはの後ろにいた2人の女の子に目線がいく。なのはは慌てて彼女達を俊秀に紹介した。

 

「えっと、この2人は私の友達のアリサちゃんに、すずかちゃん」

「アリサ・バニングスよ」

「月村すずかです」

「バニングスに、月村な。俺の名前は岩井俊秀だ。よろしく」

 

 なのはの後ろにいた彼女達の名前を聞いた俊秀は記憶の片隅に置いておく事にしておいた。軽い自己紹介を終えた後、なのはは俊秀に対して気になっていた事を聞いていた。

 

「ところで、俊秀先輩。マンホールの中に入って何やっていたんですか」

「ん? ……ちょっと厄介事に巻き込まれてな。それよりもお前等はこんな時間まで学校に残っていたのか。親が心配するぞ」

 

 俊秀はなのはの質問に言葉を濁し、すぐに話題を切り替えた。なのははそれに気付いたのか眉を少し動かすが余り深追いしないほうがいいと判断し、俊秀の言った話題にのっかって来る。

 

「実は、この辺で不審者が出たらしいんです」

「そうよ! そのせいで塾には行けないし、こんな時間まで学校に缶詰になるし……」

「まぁまぁ、落ち着いてアリサちゃん」

「へえ、そうなんだぁ」

 

 俊秀は棒読みで返答しつつ、冷や汗を流した。俊秀がついさっきまで警官に不審者扱いされ追われていたなんて事は、口が避けても言えない。もう通報されるのは御免だった。

 俊秀はなんとなく腕時計で時間を確認する。時刻は18時6分、残り時間は心許ない。それに少し外の空気を吸っていたからなのか、気分がだいぶ良くなっている事に気付いた。体力的にも少し回復しているようでこれ以上の長居は不要と判断した。

 

「……ちょっと先を急いでいるんだ。すまんがまたあった時に話そう」

「あっ、ちょっと待って下さい!」

 

 俊秀はなのは達に背を向けて立ち去ろうとするが誰かに呼び止められ、左腕を掴まれる。強引に振り払う訳にはいかず振り向く事にした。

 

「なのは、説明はまた今度――――へ?」

 

 振り向きながら俊秀は言うが途中で言葉が詰まる。俊秀は呼び止めてきた人物はなのはだと思っていた。だから、腕を掴んだ人物もなのはだと思った。しかし、俊秀の眼前に立っていたのは先ほど知り合ったすずかであった。

 しかし、どうも様子がおかしい。肌の色がどんどん紅潮していき、真っ赤に染め上げる。それを隠すように顔を伏せ、掴まれていた左腕もいつの間にか離されていた。

 俊秀は突然顔を真っ赤にするすずか心配になり、すずかの顔を覗き込もうとするがそれはかなわなかった。

 

「きゃぁぁあああああああ!!」

「へ!? ――――ぶふっ!!」

 

 すずかの渾身のビンタが俊秀の頬を襲った。まさか攻撃が来るとは思っていなかった俊秀は防ぐ事は勿論、受け流す事もできない。俊秀の見る世界が1回、2回と反転しながら1メートルほど吹っ飛ばされた。

 俊秀はぶたれた事よりも油断していたとは言え、小学生ぐらいの女の子に吹っ飛ばされた事実に信じられず地面にうつ伏せながら唖然としていたが、それを破るように声が聞こえる。

 

「すずかちゃん、大丈夫?」

「あんた、すずかに何したのよ!!」

「お…………俺が聞きたい」

 

 俊秀はパニックになりそうな頭を抱え、状況を分析するが原因が何なのかさっぱりわからない。とりあえず謝ったほうがいいと判断し、頭を下げようとするがその前にすずかがアリサを宥め始めた。

 

「アリサちゃん、岩井さんは悪くないよ。私が驚いてしまっただけだから」

「えっ……そうなの? 本当に何かされてない」

「うん、ただ左腕の怪我を近くで見たら動揺しちゃって……」

「ホントだ。俊秀先輩怪我している」

 

 なのは達の会話を聞いて俊秀は自身の左腕を見てみる。ジャージは破れ、そこから血が流れているのが見えた。どこで怪我したんだろうと俊秀が思案しているとすずかは右手にハンカチを持って俊秀に差し出した。

 

「あの……これ使ってください」

「ん? ああ、これぐらいの怪我問題ない。今まで普通に動かしていたから――――」

「駄目だよ。俊秀先輩はいつも怪我のこと考えないんですし、止血ぐらいしてくださいっ!!」

「私は怪しいあんたの事はまだよく知らないけど、すずかが折角使ってもいいって言っているんだから使いなさいっ!!」

 

 いつの間にか俊秀は3人の少女に囲まれ、迫られていた。俊秀は穏便に事を済まそうと色々と思案してみるが受け取る以外に最善な道が見えなかった。

 

「わかった。ハンカチを使わせて貰うが、止血は走りながらする。先を急いでいるからな」

「……まぁしょうがないわね」

 

 俊秀はすずかからハンカチを受け取った後、なのは達に別れを告げまた走り出すが5分ほど経ってから足を止め、後ろを振り返ってみる。俊秀は彼女たちが見えない事を確認をしてからハンカチをズボンのポケットに突っ込んだ。

 

「こんな高そうなハンカチ。他人の血で汚せるかよ……」

 

 俊秀は向き直り、彼女にどうやってハンカチを返すか思案しながら走り始めたのだった。

 

 

 

 

 

 俊秀が走り去っていくのを見送ったなのは達であったが、アリサは疑問になっていた事をなのはに聞いた。

 

「なのは、どこであんな奴と知り合いになったのよ」

「え? まぁ色々とあってね……」

「何? その意味ありげな返答は……。まぁいいわ、もう遅いしさっさと帰りましょ――――すずか?」

 

 3人一緒に帰路に着こうとしたアリサであったが、俊秀が走り去って行くのを惚けて見ているすずかに気付いた。心なしか顔も赤く、これはまさかと思いながらアリサはにやけてすずかに後ろから抱きついた。

 

「どうしたのよ、すずかっ! もしかしてアイツに一目惚れ?」

「えっ!? 違うよっ!! 私はそんな事で見ていたわけじゃ……」

「えー本当? 何か必死に否定しているとか逆に怪しいぞ? どう思う、なのは?」

「ふえっ!? ひっ、人を好きになるのは理屈じゃないと思うよ」

「もーからかわないでっ!!」

 

 てんやわんやで騒ぎ始めるなのは達一行、この騒ぎはしばらく続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 20時41分、住宅街外れで俊秀は固唾を飲み込む事を忘れるほど集中していた。彼の眼前に広がるは1体の蠍型の機械、数時間前に取り逃がした迷彩色のそれだ。その機械も俊秀の動きを窺っているのかピクリとも動かない。もう10分ほど硬直時間が続いていた。

 

(おかしい。さっきまで逃げていたモノが今度はそっちから近付いて来るなんて……何を考えているんだ)

 

 そう俊秀の目の前にいる機械は正面から現れたのだ。不意打ちを仕掛けに来たと最初は思った俊秀は身構えるのだが、全く攻撃を仕掛けてくる気配が無い。何か罠を張っているのではないかと俊秀の感が告げる。そのせいで踏ん切りがつかず、硬直が続いていたのだ。

 

(…………じっとているだけじゃ何も始まらない。ここは攻める!!)

 

 俊秀は決心し、じりじりと距離を詰め始める。本音を言えば残り時間が少ない為、さっさと破壊したいのだが相手の不動の構えが俊秀の心に不安を煽る。相手が人ならば俊秀もここまで慎重にはならなかっただろう。しかし、今回の相手はオーバーテクノロジーと言っても遜色ない未知なる兵器かもしれない。今まで破壊したモノよりもスペックは高いかもしれない。そんな考えが俊秀の頭の片隅に警告として響き続ける。

 

(俺の攻撃できるギリギリの間合いまで入った……。これでも動きがない)

 

 俊秀は明らかにおかしい相手の出方に疑問を抱きながらもいつでも攻撃に転じれるよう鉄パイプを強く握り締めた。それでもまだ動きはない。明らかに何かあると確信するしかなかった。だがここで引く事はできない。この機械『プロトタイプ』を作った男は時間制限を設定してきたにもかかわらず、時間を過ぎてしまった時、何が起こるか知らされてない。恐らくプロトタイプに積まれているジュエルシードを利用し『次元震』と言う地震が起こすだろうが、それだけで済むとは思えなかった。

 

(よし、牽制を入れよう。これで反応がなかったら……一気に決める)

 

 俊秀は相手に隙を見せない程度に攻撃を入れる事にした。しかし、牽制だからと手を抜くつもりはない。一瞬の油断が身を危険にさらす。それは朧げながらではあるが、前世の記憶がそう語っている。ゆっくりと鉄パイプを振りかざし機械を目掛けて振り下ろそうとした時、ここで沈黙を続けていた機械はここでアクションを起こした。

 機械は俊秀の鉄パイプの振り下ろす軌道を読み最小限の動きでそれを避けながら、左の鋏を俊秀の腹に叩き込んだ。

 

「がはぁっ!?」

 

 機械による重い一撃により吸っていた空気は無理やり吐き出された。俊秀はなすすべもなく宙を舞い地面に叩きつけられる。さらに機械は間髪入れずに俊秀に鋏を振り回してくるが俊秀も一方的にやられるつもりはない。意地でも手放さなかった鉄パイプを振り抜き、機械の攻撃を弾くが……。

 

(なんだ……!? この馬鹿力は!!)

 

 機械の繰り出す攻撃は俊秀が防ぐ為に弾いていると言うよりも防御を弾かれている。このままではまずいと思い距離を取ろうとすれば、機械はそれを許さずどんどん攻め込み俊秀に間を取らせる隙さえ与えなかった。

 

「ちっ!!」

 

 俊秀は舌打ちしながらも相手の攻撃を捌き続けるが、突然視界に正体不明の物体が見えた。その次の瞬間、俊秀はそれに顎を殴られる。この攻撃により俊秀の脳は揺れ、一瞬だけ意識が刈られた。機械はそれと同時に左右の鋏を合わせハンマーにし、機体の横回転を開始する。その勢いを利用し、達磨落しの要領で俊秀の胴を思いっきり殴りにきたのだ。

 俊秀はちょうど横回転し始めた辺りで意識を取り戻すが、その時にはもう避ける事は不可能。とっさに防ぐ以外に方法はないと判断し、鉄パイプを両手で持ち、受けきろうとした。

 

「ぐっ――――!?」

 

 しかし、勢いのある機械の攻撃を殺しきれず、鉄パイプごと薙ぎ払われた。横腹に食い込むミシミシと骨がきしむ音。気付けば5メートルほど飛ばされ、木にぶつかっていた。

 

「げほげほ…………(また内臓のどこかがいかれたか)」

 

 俊秀は血を吐き捨て、傍に落ちていた鉄パイプを拾ってから立ち上がった。その間、機械が向かってこない事に疑問を覚え、機械がいる方向に目を向ける。機械は溜まった熱を逃がしているのか、体中から水蒸気のような煙を上げ待機している。

 

(今は熱を逃がしているから行動を起こせないのか……? よくわからんがこれはチャンスかもしれない。さっきまで防戦一方だったが今ならこちらから仕掛けられる!!)

 

 俊秀は気力を振り絞って駆け出す。相手が動けないのなら、逃さない手はない。右手で握られている鉄パイプは急速に温度を上げ、熱を帯び始めた。

 

「今度こそ壊す!!」

 

 俊秀は高熱を帯びた鉄パイプを機械に向けて突き立てる。しかし、俊秀は失念していた。自身の意識を一瞬刈取った謎の攻撃を。機械は俊秀の攻撃を止める為、正体不明の物体が右手首に衝突する。

 機械を破壊しようと勢いが乗っていた為に俊秀の右手首は悲鳴を上げた。ミシミシと手首に食い込み、鉄パイプを手放してしまう。

 

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 

 

 しかし、俊秀は手放した鉄パイプを再び右手で掴みそのまま機械に突き立てた。装甲を融解させ貫くが機械は抵抗を始める。機械は俊秀を振り払おうと両手の鋏を振り回し攻撃を続けた。

 

「この手は放さない!! お前らを破壊するまでは絶対に!!」

 

 俊秀の体はもうボロボロであったが、『目の前のモノを壊す』。その執念が、気迫が肉体を凌駕し俊秀を突き動かす。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 この機械を確実に破壊する為、さらに鉄パイプを押し込む。機械の抵抗もこれに合わせて激化するが、鉄パイプを押し込まれた事で機体に搭載されていたコンピューターが破壊された。そのおかげか次第に機械の動きは鈍くなり、小さな爆発音と共に完全停止したのだった。

 

「はぁはぁはぁ……後、1機!!」

 

 俊秀は気合を入れるように声を張り上げる。その声は誰にも聞かれることなく闇に溶けていくのだった。




次回もよろしくお願いします。
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