壊し屋 俊秀   作:遼明

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第14話 メッセージ

「……ここは何処だ」

 

 ベットに寝かされている俊秀は目覚めた。目の前には、部屋を照らす為に設置させた蛍光灯があるが電気がついていない。その代わりに開かれた窓から差し込む太陽の暖かい光が部屋を明るくしているようだ。そこから時々、やわらかい風が部屋の中に吹き込み心地よさを覚える。

 俊秀は窓の外を覗き込もうと体を起こそうとするが、全身に激痛が走り思うように体が動かせなかった。

 

(くぅ……何だ、この怪我は? 俺は何をして……)

 

 俊秀は自分が何故怪我を負ったのかを思い出そうとするが、思うように頭が回らない。記憶は断片的に思い出せるが、それがなかなか繋がらない。まるでジグソーパズルを相手にしているようだ。

 

(……確かこの怪我は――――――そうだ。町は、海鳴市はどうなったんだ!?)

 

 半刻ほどかけて思い出された記憶に焦りを覚える。ジュエルシードの光に包まれてからの記憶が全くないのだ。『海鳴市は無事なのか』その言葉が俊秀の頭の中を支配した。

 

 ――――こんなところで油を売っている暇はない。

 

 俊秀は痛みを堪えて起き上がろうとした時、扉が開かれる音を耳にする。視線を向けてみれば、俊秀が知る人物が近付いて来た。

 

「おっ!? 俊秀、起き上がったら駄目だ。怪我人は大人しく寝てな」

「蟲じい!? と言う事はここは……」

「俺の家だ。まっ、意識を取り戻してよかった」

 

 蟲じいこと仁志は、起き上がろうとしていた俊秀をベットに寝かせてから傍に置いてあるパイプ椅子に座った。

 

「蟲じい、町は、海鳴市は!?」

「自分の怪我より、町の心配か? 少し落ち着け、詳しい事は知らんが海鳴市は健在だ」

 

 仁志の言葉を聞いた俊秀は安堵した。しかし、仁志の表情が芳しくない。まるで深刻な問題を抱えている、そのような感じだった。

 

「蟲じい、何か問題でもあるのか」

「俊秀、お前の怪我が予想以上にやばい事になっている」

「……脹脛の怪我ですか?」

「いやそこじゃない。確かにお前の左脹脛が焼き爛れてかなりの重症だが、それは問題ない。俺の持つ医療技術(肉蟲)(試作品)を使えば、綺麗さっぱり――」

「蟲、もう完成してしまったのか」

「…………露骨に嫌な顔をするな、話を戻すぞ。問題はお前の体内の細胞組織のあちこちが少しずつ焼かれている事だ。原因は不明、色々と手を打ってみたが進行を抑える事しか出来ない。まるで癌細胞を相手にしているようだ」

「治る見込みは?」

「正直に言う。現段階では治せるかもわからない、とにかく原因がわかるまで絶対安静だ」

 

 俊秀は仁志の説明を聞いて、頭の中に言葉が浮かんでいた。

 

 ――――荷電粒子刀

 

 戦闘が終わった今も光の粒子が自身の体を蝕んでいる。静かに忍び寄る死に対して少し恐怖を覚える俊秀であるが、そんな事より気になる事が1つあった。それを仁志に聞くことにする。

 

「…………ところで誰が俺をここまで運んだか知ってます?」

「ん? そう言えば、言ってなかったな。確か栗毛の少女とお前がこの前連れて来た金髪少女だ。ちゃんと礼を言っとけよ。怪我の状態から言ってもかなりやばかったんだからな」

(金髪少女はフェイトで栗毛は誰だろう……なのはか? とにかくフェイトが俺を運んだと言う事は、集めたジュエルシードは間違いなくすられたな)

 

 フェイトは最初に倒れている俊秀を発見し蟲じいの家に運んでいるところ、なのはに出会って一緒に運んできたのだろうと俊秀は結論付けた。

 

「金髪少女と言やぁ…………そうそう、これ渡すの忘れてた」

「これは、紙?」

「手紙だよ、手紙。そこになんか書いてあるだろ?」

「…………何だこれ? 象形文字? いや……楔形文字か?」

 

 仁志から渡された紙に書いてあったのは見たことのない文字。なんとなく英語にも見えなくはないが、俊秀にとって意味不明なものであることは間違いない。

 

(異世界の文字か…………これでは読めないな)

「そんじゃあ俊秀、俺はそろそろ研究室に戻る。とりあえず安静にしておけ」

 

 仁志は椅子から立ち上がると俊秀に手を振りながら部屋を後にした。それを見送った俊秀は再び残された手紙を見る。

 

(この手紙はなんて書いてあるんだ? 気になるねぇ……)

 

 しばらく俊秀は手紙と睨めっこをするが読めない字を幾ら睨んでも読めるはずもなく、諦めて寝ようと思った時、再び扉が開かれた。

 俊秀は視線を扉の方見向けると仁志がそこにいるのだが、部屋に入ってくる気配が無い。そこで俊秀は声をかけてみることにした。

 

「蟲じい、何か用か」

「おっ、俊秀起きてたか。命の恩人2号がお見舞いが来たぞ」

「……失礼します」

「その声は……なのはか?」

 

 仁志の後ろに隠れていたなのははすっと部屋の中に入ってくる。仁志はなのはが部屋に入った後、『ごゆっくり』と一言言い残して部屋から去って行った。

 

「ここに運んでくれてありがとう、おかげさまで助かった。まぁそこの椅子に座ったらどうだ?」

「あっ……ありがとうごさいます」

 

 俊秀にすすめられた椅子になのはは座るが、何処か表情が暗く元気が無い。俊秀はどうやって話を切り出そうかと思案するが、その前になのはが声をかける。

 

「俊秀先輩……怪我は大丈夫なんですか?」

「ああ、まぁこの通り体はボロボロだが問題はない。すぐに治る」

 

 俊秀は爽やかに言うが、全く説得力はなかった。彼の体は全身に包帯が巻かれ、ギブスまで付けられている。まともに動かせるのは左手だけである為、心配するなと言う方が無理があった。

 

「…………ごめんなさい」

「?」

「私が、私がもっと強かったら……俊秀先輩は怪我をしていなかった」

「!? おいおい、気にするな。俺が怪我した事になのはは関係ないだろ」

「でっ……でも!!」

 

 突然謝って来るなのはに驚きつつも俊秀は頭をフル回転させる。何故彼女はそこまで責任を感じている原因がイマイチわからない俊秀であるが、彼女を見ていると何処か焦っているようにも見える。ジュエルシードの捜索が上手くいっていないのだろうか。ジュエルシードに関する事件に巻き込まれ、怪我を負いながらも次々回収する俊秀に負い目を持ったのか?

 両方とも十分ありえる話だ。しかし、俊秀は1つだけ確信があった。そんな事を言いに見舞いに着たのではないと。

 

「少し落ち着け、これまで何があったかは知らないが俺の怪我はすぐに治る。それよりも何か聞きたい事があってここに来たんじゃないか?」

「…………」

 

 そもそも彼女の今までの行動パターンを考えると見舞いをしている暇があれば、ジュエルシードの捜索に向かうはずだ。前回、俊秀が怪我した時は1回もなのはは見舞いに来ていない。更に余談だが学校の友人、クラスメイト、担任さえも病院に来ていない。そのせいで非常に寂しい病院生活を送ったのは言うまでもなかった。

 話を戻そう。つまり『高町なのはが見舞いに来た=岩井俊秀に何かを求めている』と言う方程式が俊秀の中で完成したのだ。現に的を射た発言だったのか、なのはも下を向いて黙りこくっている。

 

「…………」

(む…………何かを決心したのか?)

 

 この時、俊秀はなのはから何かを感じ取る。理由はわからないが雰囲気が一瞬、変わったような気がした。

 意気込むようになのはが『よしっ』と一言漏らすとなのはは急に顔を上げ俊秀に迫った。

 

「俊秀先輩! 私に接近戦を教えて下さい!!」

「…………」

 

 予想外の物申しに俊秀は言葉が出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 一週間後、海鳴市にある某グランド。そこで俊秀は頭を悩ませていた。

 

「岩井さん、これって意味あるんですか」

「意味はあるが……ここまでセンスがないとは、野球選手としては絶望的だな」

 

 彼らの視線の先、そこにはなのはがいた。現在俊秀はなのはにノックをしているのだが、動きにセンスを感じないのだ。

 俊秀の肩の上に乗っていたフェレットのユーノは、彼のしている事を見守っていたがこれが接近戦と関係があるとは思えず、どうしても疑問に思ってしまう。そこで俊秀に聞いてみることにした。

 

「そもそも野球と接近戦が関係あるんですか?」

「ん? そんなの関係ないに決まっているだろ」

「えっ!? それじゃあ何で?」

「どれだけ動けるのか知りたかった。接近戦を教えるにしてもどれぐらい動けるか知りたかったし、どうせなら(自分が見て分かる)スポーツをやらせて見極めたほうが良い。そう判断したんだが…………意外な収穫があった」

 

 俊秀はにやっと笑ってユーノに返答した。仁志に無理を言って今日退院をした甲斐があったと思いながらなのはにノックを打ち続ける。なのははそれを危なげなく捌いていく。

 

「きゃ!?」

(やっぱり、難しいイレギュラーを易々と捌くな…………コイツ、磨けば化けるぞ)

 

 俊秀はなのはに1つの才能を見出していた。スポーツに関しては確かに才能のかけらもないだろう。しかし、今までなのはは一度もボールをグラブからこぼした事はない。難しいイレギュラーバウンドさえもど素人臭いが捌いてくるのだ。

 

(空間認識能力、間違いなく高いな。さて時間も余り残されていない。短時間でどうやって磨こうか……)

 

 遠くない未来で彼女が接近戦を習得し無双する。俊秀はそんな妄想を膨らませた瞬間、なぜか背筋に寒気を覚えるのだった。

 

(…………そう言えば、なのはの父親だっけ? あの人に頼めば、剣術の1つや2つ教えてもらえるだろうが、なのはの元々の身体能力がへちょ過ぎる。まずはそこからだな)

 

 俊秀は少しずつ接近戦習得のプランを立てていくが、他の事に対してもプランを立てる事を忘れてはならない。

 

(とにかく俺も余り時間を割いてられない。あの手紙に書いてあったことが本当なら、こちらから行動を起こす必要がある)

 

 実は俊秀はなのはが仁志の家に訪れた時にあの手紙を窓の外に隠れていたユーノを捕獲し、解読してもらがその時、傷口が開いて大惨事になったのは記憶に新しい。

 俊秀はその時、聞かされた手紙の内容を思い出す。手紙に書かれた一文には1人の少女を縛る事ができる強力な呪文が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『母親を開放して欲しければ指示に従え』と。




 次回もよろしくお願いします。
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