リアルが忙しいのです。
それでも投稿させて頂いている作品は完成させるつもりですので、生暖かい目で見てください。
なお、最後にある『2人の男が話し合っていた』場面の会話は少し改変されました。
(2014・1・5)
俊秀は訳が分からなかった。彼は今、高町家の道場にいるのだが目の前にいるなのはの兄らしき人物が睨みながら言うのだ。
「剣を取れ、パラガス。今日こそ引導を渡してやる」
何故、パラガスと呼ばれているのか意味不明である。だがそんな事はお構いなしに目の前にいる男の瞳は怒りで燃え、憤怒がその瞳を見なくとも嫌でも伝わってくる。
(顔も知らぬパラガスよ、お前は何をしたのだ!? そもそも俺は何で道場にいるんだ!?)
俊秀は記憶を遡るのだった。
「翠屋のお菓子を買ってきて欲しい?」
蟲じい宅の中庭でリハビリついでにトレーニングをしていた俊秀だが、突然お使いを頼まれるものだから首をかしげた。
「いや……なんて言うか、研究が煮詰っちゃって甘いものでも食べて気分を入れ替えようと思っただけだ」
「ふぅん。(研究は全然進まなくてもいいだが、最近お世話になりっぱなしだし行ってもいいか)……わかった」
「おお、助かる!! ほれ、お金と地図だ。甘いものなら何でもいいからすぐに帰って来いよ」
仁志は財布と地図を無理矢理俊秀に渡すとスキップしながらその場から立ち去ろうとするが、その前に俊秀に呼び止められるのだった。
「ところで蟲じい、中庭にあった大岩壊してもよかったか?」
「大岩? ああ、山から落ちてきた落石の事か! 懐かしいなぁ……落ちてきた時は本当に死ぬかと――――おっと、話がそれた。勿論、壊せるものなら壊してもいい。かなり邪魔だし」
「そうか、ならいいんだ。それじゃあ、ちょくら行ってくる」
俊秀は2、3秒体を伸ばした後、走って翠屋に向かっていった。その姿を見送った仁志は中庭にある大岩の場所まで歩いていく。
(壊していいといったが、まだ壊せていないようだな)
そう思いながら仁志は大岩に触れるがその瞬間、大岩は音も立てずに砂の山になっていた。
「…………へ?」
彼には目の前で何が起こったのか全く理解できなかった。唯一つ言える事は仁志が俊秀に声をかけた時には既に破壊されていた事だ。
「あいつ……何をしたんだ」
仁志はごちるが、その答えは全く見出せなかった。
(ここが翠屋か…………結構、綺麗な店なんだな)
地図を頼りに翠屋にたどり着いた俊秀は、店に入ろうとせずに少し離れたところで様子を見ていた。
(ケーキ屋か何かと思っていたんだが、どっからどう見ても喫茶店じゃないか。持ち帰りとか出来るのか?)
俊秀は色々と無駄に思案する。喫茶店とは会社員がコーヒーを飲んだり、カップルが待ち合わせに使ったりする場所だと彼は思っている。その為、テイクアウトなんて出来ると思っていない。そのせいでなかなか足を踏み入れる事ができないのだ。
(そう言えば、前世でも喫茶店なんて行った事がないと言うより、喫茶店が全部瓦礫になったと言う方が正しいな……まぁいい、ここで足踏みしててもどうしようもないし、さっさと入るか)
踏ん切りをつけた俊秀は店内に堂々と足を踏み入れた。
「ごめんくださーい」
「いらっしゃいませー……って岩井君じゃないか、久しぶりだね」
「あっ……どうもです。(げ!? ここは職場だったのか!)」
店内にいたのは高町なのはの父、士郎であった。
「(まずいぞぉ……ずっと前に退院している事がばれたら、ごなんちゃらで切り裂かれる。…………ご、なんだっけ? とにかく気付かれる前に去らなくては)いやぁ、なんと言うか……ここで働いているんですか?」
「働いているというよりも経営しているって言ったほうが正しいかな。僕は店長だからね」
「へえ、それは立派ですね。ところでここお菓子の持ち帰りとかできますか?」
「勿論出来るよ。ちなみに当店の自慢はシュークリームだよ」
「それじゃ、それ3個ください」
すかさず、それを要求した俊秀。とにかくすぐにこの場から離れたいと思っているので、お菓子を選ぶ時間なんてない。
士郎は慣れた手つきでシュークリームを箱に入れ、それを差し出した。俊秀は素早く財布を出して代金を支払って、その場を後にしようとする。
「では失礼……」
「待て」
重々しい声が俊秀にかけられる何事かとその方向を向いた。そこには邪気を放つ1人の男が俊秀を睨みつけていた。
(あの人は家に忍び込んだ時、家前で張っていた片割れ……。なのはの兄か?)
「まさかお前からここに来るとは思わなかったな……。来い! 今日こそ決着をつけてやる!!」
「は、はいぃ?」
そして、気付けば拉致られ現在高町家の道場。
(うん……さっぱりわからんね。とにかく全力で人間違いしているって事はわかった)
俊秀はなのは兄を見る。その身から無駄に溢れる闘気はまさしく現代を生きる武人だ。恐らく得意な得物も剣で間違いないだろう。はっきり言って分が悪い。俊秀が扱う武器は差し出されている木刀よりも長く、重量がある槍や大太刀を好む。その点で言えば、依然扱っていた鉄パイプはまさにちょうどいい重量かつ手ごろな長さだったので彼にとって最高な武器だったのだが、ジュエルシードの暴走に巻き込まれた時に紛失してしまった為、今は持っていないのだ。
(とは言え、何で戦わなければならん。こっちは怪我完治してないのに……)
俊秀は差し出された木刀をとりあえず握って目の前に立つ男、なのは兄を見据える。かなりの手練なのだろう。全く隙が見えない。
俊秀の額から嫌な汗が流れ、顔を引きつらせた。正直、嫌な予感しかしない。
「それじゃあ、一本勝負――――」
「待った!! なのはの父さん、何かおかしいと思うんですが?」
道場の隅で控えていたなのはの父、士郎は鋭い目で俊秀を見定めるように言った。
「前から思っていたんだ。岩井君の歩き方は武人と言うより、コソ泥……いや忍者のように気配をまるで感じない。そんな人間がどうやって戦うのか見てみたいんだよ。それと僕の事は士郎でいいよ」
「コソ泥が武人に勝てると思っているんですか!?」
「何を言っているパラガス! いつもの貴様なら『キョウヤよ! 私に勝てるとお思いなのかな? ヌハハハハ!!』と言っていつも…………思い出すだけで腹が立つ!!」
「(まだ見ぬパラガスよ……お前は本当に、本当に一体何をしたのだ!!)八つ当たりは勘弁して欲しいんですが?」
「そうそう話は変わるけど、桃子に岩井君の足止めを頼まれているんだ。1対1か、1対2……どちらの方がいいかな?」
(逃げ場ないじゃん!? しかも戦う事は確定!!)
そう、既に士郎は思い出していた。あの時の約束を!! 俊秀が戦う事を拒否すれば、間違いなく2人で襲い掛かって来るだろう。それだけは回避したい。
しょうがないので俊秀は覚悟を決めた。
「…………じゃあ、1対1でお願いします」
「やっと覚悟を決めたかパラガス……。今日こそ引導を渡してやる!」
「それでは一本勝負、始め!!」
合図と同時に、なのは兄(以降キョウヤ)は床を蹴った。俊秀との距離を一気に詰めつつ、横薙ぎに一閃。目に止まらぬ速さだった。試合開始寸前、直感的に危険を感じた俊秀はキョウヤが動き出すと同時に1歩だけ後ろに下がり、その攻撃を回避するが僅かに首を掠めた。
(速い……! てか殺す気か!?)
考えて動いていれば間違いなく回避は間に合わずに木刀なのに首が刎ねられていただろう。すぅと背筋に冷汗が流れる。このまま攻め続けられたら明らかに不利だ。そう判断した俊秀は攻めに転じようとするが、それ以上にキョウヤの攻撃動作は隙が全くない。すでに横薙ぎの一閃から繋げて連撃が俊秀の頬を掠める。完全に攻め込まれていた。
「パラガス……お前の実力はこんなものではないだろう! 舐めているのか!!」
「くっ、誰がお前を舐めるか……!!」
キョウヤの一閃一閃は間違いなく俊秀を追い詰める、彼は若いながら達人級の実力を持っている。俊秀が捌けているのは無駄に高い身体能力があるおかげだろう。だがこのままではいずれ崩され、何も出来ないまま、敗北に帰す。
(勝つ為には、奴の木刀を破壊するしかない)
相手が根っからの剣士で分が悪いならば、同じ土俵の上に必要はない。相手の最も得意とする戦闘方法を出来なくすれば、俊秀にも十分勝機がある。それが短時間で導き出した彼の答えだった。
「きっちりと破壊させてもらう」
覚悟を決めた俊秀は不敵に笑うのだった。
――――ありえない。
恭也と俊秀の戦いを見ていた士郎が思ったことだ。
(何で岩井君が恭也と全く同じ動きが出来る……!)
士郎は俊秀と知り合ってから興味が尽きない存在だった。オフィス街が消滅する事件があったあの日、なのはから守ってもらったと言う事を聞いてから、彼の身体能力の高さが窺える。しかし、今日見た彼の足運びはコソ泥もとい忍者そのものなのだ。全く気配を感じさせない、その気になれば立ち位置の認識を隠すような移動法を持っているかも知れないと感じたのだ。だから、恭也に相手をさせた。その移動法を見るために、そして俊秀は確かにそれを見せた。恭也の初撃を回避出来たのは、俊秀の立ち位置が認知している位置よりも微妙にずれたからだ。それ以降も当たらないのはそれの恩恵だろう。だがその認識はすぐに変わる。いつの間にか俊秀の動きは恭也の動きと全く同じになっているのだ。俊秀は無意識かもしれない。だが恭也の呼吸、リズム、癖、ありとあらゆるもの、コピーできるものは全て俊秀はコピーしているのだ。それに恭也も気付いているのか、口元を緩ませ『やっと、本気になったか』とごちるのだ。
(今、周りの気配が変わった……次で決まる)
打ち合っていた2人が離れた。この瞬間、士郎はお互いの思考が最終段階に入った事を悟った。両者はゆっくりと木刀を構えた。その刹那、両者はすれ違った。まさに神速、お互いに間合いを一瞬で詰め、その閃光は御神流を瞬間的に超えているだろう。どっちが勝ってもおかしくはない。
「がはっ」
先に声を上げ、倒れたのは俊秀だった。怪我していた肉体には耐え切れなかったのだろう。傷口が開き、そこから血を流しながら倒れた。そして、恭也は辛うじて立っているもののじっと握っている木刀を見ていた。
「…………引き分けか」
持っていた木刀は音もなく崩れ去っていく。俊秀はすれ違った時、木刀を文字通り跡形もなく破壊した。それを見た恭也も、床に膝を落とす。彼もまた限界だったのだろう。
「ぐう……流石俺の好敵手パラガス、怪我をしていてもなお引き分けに持っていくとは……父さん、パラガスの怪我の手当てを、俺は動けそうにない」
「……そ、そうだね」
呆けていた士郎は恭也の声ではっとする。それほどまでに濃い一瞬だったのだ。
(引退したとは言え、僕もまだ負けていられないね。今の戦いで剣と言うものが何なのかわかったような気がするよ)
この戦いを見た士郎は何かを悟ったが、今は怪我人の手当てをしなければならない。士郎はいそいそと俊秀を治療を始めるのだった。
そして、士郎は数年の月日をかけて剣の道の頂点へと駆け上がり、とある地域で剣聖と言われる事になるのだがまだ先の話である。
俊秀と恭也が戦っているその頃、とある図書館前の公園では2人の男が話し合っていた。
「ここで会うなんて奇遇だねぇ、パラガス」
「…………定期連絡はまだ先のはずだが?」
「言ってるだろ? 奇遇だって、それよりそっちの方はどうなっている」
「順調だ。ジュエルシードの回収は予定通り…………そろそろ管理局もジュエルシードに気付くはずだ。明日明後日来てもおかしくない。とにかく、俺はかち合う事だけは避けたい」
「なるほどねぇ、細心の注意を払う必要があるわけだ。…………あれ? それにしてはパラガス、何処か楽しそうな顔をしているね。やっぱり会えるのが楽しみなのかい?」
「顔に出ていたようだな。全く楽しみすぎて待ち遠しい! 俺はこの日のためだけに、大地に立ち続けていたんだからなぁ」
「そうか、ついにか。…………おっと、そろそろお姫様を迎えに行かないと」
「私もすずかお嬢様をお迎えに行かなくては」
「何だ? その喋り方は」
「勿論、仕事中の私の話し方に決まっている。これでも執事だ」
「……そう言えばそうだったねぇ」
2人は公園を後にするのだった。
次回もよろしくお願いします。