壊し屋 俊秀   作:遼明

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 どうも遼明です。何気に連続投降です。
 それではどうぞ。


第18話 黒と白、再び

 リンディーは、しくじった。

 時に彼女が何を恐れて失敗してしまったのか。けして壊し屋の力の権化であるさなえを恐れたとか、日頃の恨みを晴らす為の過失でもない。ならば、失敗した原因とは?

 無論その答えは実にシンプル。連絡が取れなくなった部隊のせいである。勿論、彼等が悪いわけではない。さなえがいるせいで『か・な・り☆チキン』になっていた彼女はある事を恐れた。

 孫である俊秀の死亡。これだけは避けたかった。もう何としてでも避けたかった。故に正面からは俊秀を侵入させたくなかったのだ。

 何があるか分からないから――――。

 故に彼女は賢い頭をいつも以上に回転させた。そして、リンディー見つけたのだ。だが、まともな精神状態ではない彼女はしくじった。

 

 俊秀は今――――。

 

「くそっ、何でこんな場所に転送されたんだぁぁあああッッッッ!! 落ちるぅぅぅうううう!!」

 

 ――――次元の狭間に浮かぶ、時の庭園に張り付いていた。

 

 

 

 第18話 黒と白、再び

 

 息を大きく吸い込む、そして自身が生きている事を心底実感して思わず叫ぶのだ。

 

「助かったぁぁぁあああ!!」

 

 時の庭園に張り付いていた俊秀は、一人は入れそうな横穴を見つけ命辛々逃げ込む事に成功していた。とは言え、穴は小さく思うように身動きが取れず先に進むか後ろに戻るかの二択しかない。

 

(後ろに下がるのは論外だからな。先に進むしかないようだ)

 

 実際問題、回答は一つしか選べないのが痛いところではあるが空気の流れはあるようなので行き止まりではないのは俊秀にとってはありがたいところであろう。しかし、俊秀の表情は思わしくなかった。

 

(何なんだこの臭いは…………一体この先に何が?)

 

 空気に運ばれてかすかに漂う異臭。その臭いに不安を募らせながら俊秀は匍匐前進で横穴の奥へと進んでいくのだった。

 

 

   ■ ■ ■ ■

 

 

 黒と白のボディースーツを着た姉妹が体を伸ばしながら一歩二歩と前にいる侵入者、クロノ、なのは、フェイトに近付いていく。その様子は出番待ちしていたスポーツ選手がグランドに向かうような雰囲気を感じさせたが、それが逆にクロノ達を身構えさせた。

 

「止まれ、時空管理局だ。それ以上近付くなら戦闘意思ありと見なし、実力行使させてもらう。もし、意思がないのならそこで止まれ」

「戦闘意思? 面白い事言うね。僕は戦うつもりはないよ。ただ僕はある事を頼まれていてね。そのついでにモニタリングでもしようと思っているだけさ」

「モニタリングだと? お前たちのやっていることは犯罪だ。不当にジュエルシードを手に入れ、多くの人を巻き込んだ。猟奇殺人とやっていることは変わらない」

「猟奇殺人とは、酷いいいようね。私達(・・)はただ目的の為に研究しているだけよ」

「目的だと? その目的は一体何なんだ!」

「紫蘭、ちょっと話しすぎだね。さて君達に耳寄りな情報を教えてあげよう。この門には特殊な鍵がかかっている。特定の条件をクリアすることで開くんだけど、それの開け方知りたいはずだよね」

「まさか、戦えと言うのか」

「察しが良くて助かるよ。解錠の条件は実に簡単、僕達が装備している兵装防護服――――」

「黒師と白師の機能停止……だね」

「流石フェイト君、一度戦っているだけはあるね。その通りだよ、ただし時間と予算の都合で劣化版だけどね」

「さぁ始めるわよ!!」

 

 紫蘭の合図の瞬間、空気が放出させる音がクロノ耳に届いた。しかし、それが何の兆候なのか彼にはわからなかった。

 ――――それが不味かった。

 

「!? 速い――――」

 

 クロノの目の前に現れた紫蘭、狙いは一人でも数を減らす事。モニタリングを円滑にしたいが為の行動であった。

 あまりの速さにクロノはなすすべなく、そのまま薙ぎ倒されるかと思われた。

 

 しかし――――。

 

「あなた達の速さは知っています」

「フェイト……! 流石ね」

 

 ――――防御壁を展開したフェイトに阻まれていた。

 出雲姉妹とは二回目の対戦である彼女は兵装防護服の性能を知っていた。故に動けたのだ。しかし、フェイトは咄嗟の事で忘れていた。この中ではもう一人動けないものがいる事を。

 

「きゃぁぁぁああああ!!」

「しまっ! なのは!!」

 

 直進した紫蘭と違い、弧を書くように移動していた紫苑は僅かな時間差によりなのはを強襲。それに成功していた。紫苑が装備する黒師のスピードを利用したアッパーカットがなのはの腹部に直撃、彼女を宙に浮かすのは容易なことであった。

 そんななのはを更に追撃するため紫苑はエアブーストを使用しその場で跳躍、宙に舞った彼女を持ち上げ天井に叩きつけた。その瞬間、大きく時の庭園は揺れた。叩きつけられた力を分散する為だろう。だが、その力は完全には分散させず、天井に大きな穴と亀裂が走った。

 

「これで一人脱落、簡単なものだね」

 

 中に浮いていた紫苑はゆっくりと着地する。周りには、なのはの姿はなかった。あっと言う間に一人やられた。その事実にクロノは唖然とすることしか出来なかった。

 

「ありえない。魔力も感じなかっただと? これがお前たちが作る兵器と言うのか」

「油断しないで、まだあいつ等は本気を出してないッ」

 

 フェイトは展開させていた防御壁を消して、紫蘭にバルディッシュで追撃するが軽々しく避けられてしまう。しかし、今の目的は相手と距離を保つことであったフェイトは深追いはせずに呼吸を整えた。

 

「あら、今回は追撃してこないのね」

「あなたの白師は斥力を生み出す。無理に近付く必要はない」

「なるほど。少しは冷静みたいね」

 

 追撃してこないフェイトに感心する紫蘭であったが優位である事はわかりない為、余裕の表情である。ゆったりと構え、いつでも攻撃に転じれるようにした。

 

「さて、なのは君だったかな。なのは君がいない訳だが次の相手は誰がしてくれるのかい?」

「僕が相手しよう。速さはわかった、もう遅れは取らない。フェイト、君にはあいつを任せる」

「…………わかった」

 

 フェイトの同意が合図だった。クロノは即座に魔法を展開し、複数の弾丸を魔力によって具現化する。

 

 ――――高速追尾弾『スティンガーレイ』

 

 その空中に浮かぶ無数の弾丸はクロノの周りを囲むように出現した。

 

「む!? 手数でスピードを殺しに来るか!! 紫蘭気をつけろ」

「そ、そんなことわかってるわよ」

 

 紫苑はクロノの狙いを即座看破、紫蘭に警告した。そして、紫蘭はその攻撃に対処しよう構えを変える寸前に――――。

 

「私を忘れないで欲しい」

 

 ――――フェイトが眼前に現れた。

 

 それに焦った紫蘭は慌てて防ごうと白師の持つ機能『斥力』を発動、そのままフェイトは跳ね飛ばされると思われた。しかし、フェイトは一瞬だけ加速することでその見えない力を回避に成功したのだった。

 

(避けられた!?)

 

 予測を上回った速さに紫蘭は驚きを隠せない。そんな彼女にフェイトは目が覚めるようなバルディッシュの一閃は右肩を切り裂いた。

 

「うぐっ!?」

 

 紫蘭の顔が痛みで歪み、体勢が僅かに崩れた。そのチャンスをフェイトは逃がさない。続いて二撃目はバルディッシュを持ち替える事で防ぐ隙のない鋭い一閃が紫蘭を裂いた。

 

 ――――はずだった。

 

「フフ、甘いね。フェイト君と管理局員がタッグを組んでいるように、紫蘭と僕もタッグを組んでいることを忘れてるんじゃないの?」 

 

 先程までフェイトが握っていたはずのバルディッシュがいつの間にか紫苑の手に握られていた。しかも紫苑は動いた様子はない。

 

 一体何が起こった?

 

 その言葉だけがフェイトの脳裏に焼きついた。そして、視線をクロノのいた場所に動かす。するとどうだろうか、彼は地面に倒されていた。いや、見えない力で床に押さえつけられているように見える。更に宙を浮いていた無数の弾丸は消失しており、不自然に床が壊れていた。

 

「うそ…………この短時間で?」

「その様子じゃあ、僕が装備する黒師の機能『引力』を知らないようだね」

 

 紫苑はそう告げるとフェイトはだんだんと体に重みを感じるようになる。無論、紫苑が黒師を使って時の庭園内で発生している引力を強めているだけに過ぎなかった。

 

「それにしても魔導師にとって辛いこの環境下で良く戦えたもんだね。それに比べ君はあの床にキスをしている管理局員とは違いまだ戦えるようだ」

「…………」

「だんまりか。まぁ君一人でもモニタリングは出来る。さて、僕の相手も頼むよ」

 

 紫苑と紫蘭はゆったりと構えた。それは二人に挟まれたことを意味する。フェイトはチラリとクロノを見た。どうやら彼はまだ息はあるが強力な引力によって全く動けない状態のようだった。

 

(あの人の援護は望めない。でも私一人であいつ等を倒すことが出来るの?)

 

 当然の疑問であった。何しろ初めての対戦ではする事全てが対処され完封だった。それを踏まえ今回は一撃を与えることが出来たが二対一となってしまったら話は別だ。それに今はバルディッシュを奪われた状態、極めて悪い状況だった。

 そんな時、フェイトはふとある人物を思い出し、ポツリと呟いた。

 

「そう言えば、あの人はどうやって戦ったんだろう」

 

 その人物との出会いはある意味特殊だった。今思えば警察に突き出されなかったのは今でも不思議に思う。事情を余り説明していないのに家に寝泊りしてもいいと許可し、アルフがさらわれた時は無償で戦ってくれる。さらには無償でジュエルシードを渡してもらった。オマケに医療費と窓ガラス・フローリングの修理代まで払っていない。

 

(あれ? 今思えば、私物凄くあの人に迷惑掛けてる)

 

 本来、小心者(いいひと)である彼女は今までの愚行に恥ずかしくなった。そして、更に衝撃的事実にフェイトは気づいた。

 

「私、あの人の名前覚えてないッ!!」

 

 突然の奇声に紫苑と紫蘭は驚きで跳ね上がる。フェイトを出方を窺っていた彼女達はその温度差に口をポカーンと開けるしか出来なかった。

 

(どうしよ、ガラス代って高いのかな? フローリング代は…………それに医療費!! どうしよう、私の貯金じゃ足りないよね。それに今までの迷惑料も払わないと、それに――――…………)

「ねえさん、攻撃したら駄目なの?」

「紫蘭、ここは待つことにしよう。それが武士の情けってものさ」

 

 フェイトの懺悔が加速していく中、静かに見守ることにした紫苑と紫蘭はのんびり体を伸ばし始めた。

 何か和やかムードになっているがはっきり言おう。戦闘中である。

 

(それとそれと…………はっ!? そんなことじゃなかった。あの人はどうやってあいつ等と戦ったのかな?)

 

 少しトリップしていたが一周してやっと心に落ち着きを取り戻したフェイトは少し考え始める。和やかムードである今ならばいくらでも考えられる為、落ち着いて考えを煮詰めていった。

 

(私はあの人の戦い方を一度も見ていない。でもジュエルシードを持ってたって事は間違いなく、あいつ等を……。何か必殺の一撃を持ってたのかな?)

 

 その線が強そうだとフェイトは考えを固め始めた。とは言え彼女が持つ必殺技は軽々しく避けられている。さらに手元にバルディッシュがない為、発動は難しいだろう。

 

(じゃあどうすれば? ……………わかった。それでいこう)

 

 フェイトの瞳に力が篭った。その瞬間、和やかムードであったこの場は再び戦場と化したのだった。

 

「どうやらやっと開始のようね」

「ざっと三十秒、以外に速かった。さっそく相手をしてもらおうか。でも、君のデバイスはここにある。勝てるのかい?」

「問題ない、私は勝つ。勝つんだ!」

 

 その瞬間、フェイトは紫蘭に飛び掛った。しかし、丸腰である今紫欄にとってフェイトはただの葱を背負った鴨に過ぎない。軽々しく蹴り払うことで壁に叩きつけた。

 

「無策で突進するのはあまり感心できないわ」

「うぉぉぉぉおおお!」

「聞く耳持たず、ね。出来れば諦めてくれるほうがいいんだけど」

 

 紫蘭は少々呆れながら今度はフェイトの腕を掴んで地面に叩きつける。今度は全く手加減はしていない。だがフェイトは再び立ち上がると紫蘭に立ち向かっていき、また地面に叩き伏せられるその繰り返しだった。

 

「なぜ、フェイト君は僕に向かってこないんだ?」

 

 デバイスを手に持つ紫苑を存在すら忘れて突っ込んでいるようにしか見えないフェイトに対して紫苑、紫蘭困惑していた。まともに勝つつもりなら間違いなく紫苑の方に向かい取り戻そうとするはずだが、フェイトは紫苑には目向きもせず、ただひたすら突っ込んでいるだけだ。そのせいで紫苑は同士討ちを恐れて攻撃に転ずることが出来なかった。

 何故そのような行動に出たのかわからない。しかし、その行動により心を乱していた人物がいた。

 

「なんなのよ! 何で私の方に向かってくるのッ!? はぁはぁはぁ…………来るなッ!!」

(なぜだ。紫蘭は今冷静さを欠いている? まさか……フラッシュバックしたのか!?)

 

 出雲姉妹の密かに心に眠る僅かな闇が偶然にもフェイトの行動と重なり、紫蘭の表情は徐々に影を刺してきていた。

 ――――これ以上は紫蘭の心が限界だ。

 紫苑は妹を止める為、手に持っていたバルディッシュさえ投げ出して紫蘭の現れ庇うように前に出た。

 

「もういい紫蘭、後は僕が――――」

 

 この時、離れていた二人の距離は一気に狭まった。

 ――――それを狙っていたものがここにいた。

 

「――――バインドッ!!」

 

 突然、現れた金色の拘束具。それらは一気に紫苑、紫蘭を囲い込み拘束した。しかし、彼女達が扱っているものもまた兵器。このようなことも想定済みであり、すぐ引き千切れると判断していた。

 

 しかし――――。

 

「ぐぅぅぅううう!? これはただのバインドじゃない。魔力変換資質によって電気を流しているのか!?」

 

 紫苑と紫蘭を囲い込んだ拘束具は魔力を送り続ける事で高圧電流を流す。それにより強制的に筋肉を収縮、本来なら引き千切る事も容易い拘束具を破壊させなかった。言わば雷の拘束具(ライジング・バインド)なのである。

 そして、この拘束は魔力変換資質を持ってなければ出来ない芸当であり、この場で出来るものはたった一人しかいない――――

 

 ――――魔導師フェイトだった。

 

「くっ……やられたね。でも肉体に直接流れて分は防げてないけど、黒師、白師には雷撃対策は施されている。これでは機能停止には出来ないよ」

「…………誰も私が機能停止にするとは言っていない」

「なんだと? それは――――」

 

 紫苑がフェイトに尋ねたその時、突如天井に入っていた亀裂から閃光が洩れ一気に瓦解した。

 

 ――――――砲撃魔法!?

 

 紫苑がその存在に気づいた時には、その閃光は身動きの取れない出雲姉妹を無慈悲に包み込んだ。

 

「くっ………………これは一体、誰がッ!?」

 

 閃光に包まれる中、黒師の持つ自動防御に全機能を集中させることで何とか耐え凌いでいた。それは、僅かなチャンスを狙っての事だった。制限されたこの環境で魔導師がこれほどの威力を誇る砲撃魔法を放ってきたのだ。長続きしないの目に見える。

 紫苑は一瞬の隙をついて離脱を狙っていた。これ以上戦えないとの判断であった。

 

 しかし――――

 

「馬鹿な!? 魔力でっ…………僕の兵器を壊すだとッ!?」

 

 ――――魔力による暴力が黒師を確実に破壊していた。

 

 一瞬にして黒師の機能は全て停止、紫苑の身を守護する筈の装甲は完全に剥げダイレクトに力が伝わる。

 

 そして、紫苑は本能的に理解した。

 

 ああ、勝てない――――。

 

 

 

 

 ――――そして、出雲姉妹は閃光に完全に包まれ、辺りは強い衝撃が走った。

 

 

 

  ■ ■ ■ ■

 

 

 血が滴り落ちる音がする。その音は随分と近い場所で木霊しているような気がした。視界が擦れはっきり前が見えない。

 しかし、彼は捉えていた。ならばやることは一つであった何を企んでいるのかわからない人物を――――。

 

「俺は引き下がれない。いいさ、その歪んだ思想。きっちりと壊してやる」

 

 ――――止めなければならない。

 

 クロノ達が出雲姉妹に出会うほんの少し前、俊秀は既に戦っていた。




 次回もよろしくお願いします。
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