道路脇に咲く桜を見て美しいと思った今日この頃…………。
それでは本編どうぞ。
ズルズルと何かをする音が天井から聞こえる。何も知らぬ人がここにいるのならば、その日との不安を煽り、恐怖を助長するだろうがこの場では人っ子一人いないのが救いであるだろう。なぜならば、簡単に侵入できる他―――。
「うぉりゃぁぁあああああああッ!!」
――――怒号を上げ、エアダクトを破壊しても気づかれることはないからだ。
「侵入成功ッ! もう二度とあんな場所に入りたくないな」
俊秀はほっと一息つくとその場に座り込んだ。なれない匍匐前進は以外に彼を疲労させたのは勿論の事。エアダクトが何処まで続くかわからない不安が精神的に辛かった事も理由として挙げられた。
(それにしても、ここはどこだ? …………それに異臭もさっきより強まっている)
狭い場所から開放させたことで気分的に落ち着いた俊秀は今いる場所がどこなのか、確認する為に首だけを動かす。
周りにはダンボールのような箱が無数に詰まれており、そこ横では静かにベルトコンベアが動いていた。何かを生産し、ここから運び出していたのは間違いないだろう。俊秀は立ち上がると箱を開き中身を確認した。
――――中には、見覚えのある石が詰められている。
(ジュエルシードか、つまりここが生産ライン。……にしても、こんなに誰一人いないのは妙だな。せっかく生産したのを置いていくなんて――――――誰かいるのか?)
思考の海に入りかけていた俊秀はかすかに鉄バットを擦る様な音を耳にした。その音はまだ遠いが間違いなくこちらに近付いて来る音であった。
全身に力が入った。敵対勢力ならば間違いなく戦闘に移行する。隠れてやり過ごすか、それともこのまま正面から戦うのか。
しかし、後者の選択を取れば、俊秀の手元には武器となる鉄パイプがない。相手が鋭利な武器を所持していた場合、苦戦は必死だろう。あの時、勢いでさなえについて行った自分を後悔する俊秀であったが覚悟を決めた。
(逃げるにしてもいずれ見つかる。ここで潰すのが一番いいはずだ)
目を閉じ、辺りの息吹を探り始めた。相手の武器を知らなければ、何も対策を練ることが出来ないからだ。しかし、近付いて来る者の息吹を感じた瞬間、俊秀は動揺し始める。
「え? この息吹……、馬鹿な何でここに? いやそんな事よりも――――嘘だろ!?」
その息吹は俊秀も良く知るモノであった。そして、引きずっている武器さえも彼が良く知る武器であった。そして、近付いて来る者を見た時、驚きを隠せなかった。
「くぅーん!!」
「カスミッ!? 一体どうやって……鉄パイプ持ってきたんだ!!」
岩井家宅に住まう子狐のカスミであった。しかも、引きずっているのは間違いなく俊秀が愛用している鉄パイプである。最早、驚きを通り越して唖然とする事しかできなかった。
しかし、その状態は長くは続かない。俊秀に鉄パイプを運んできたカスミは褒めてと言わんばかりに尻尾を激しく振っていた。
(…………どうやってここに来たのかは不明だが、丁度困っていたんだ。飼い主としてここは褒めるべきだな)
もう考えるのが面倒になった俊秀は『よくやった』と言いながら、カスミの頭をやさしく撫でるとそれに喜び、さらに尻尾を激しく振るのだった。
「よしカスミ、続きはこの仕事が終わってからな。俺はまだ調べないといけないことがあるんだ」
「くぅーん……」
カスミは残念そうな鳴き声を上げるといつもの定位置――――俊秀の頭の上――――に行くと安心したように張り付いた。それに俊秀は苦笑するが気持ちを切り替える。
「さて、先に進むか…………」
息吹を探った時に感じた幾つかの違和感、そして侵入してから強まる異臭の正体。それらを確認するため、先を急ぐのだった。
故に俊秀は気付かなかった。通路の端に転がっている米焼酎『白い悪魔』が転がっていた事を――――。
■ ■ ■ ■
俊秀は特に戦闘もなく一室の部屋に辿り着いていた。
その部屋は全く換気をされていなかったのだろう。扉の前まで来ると異臭が隙間から洩れ、その場で立っている鼻が曲がりそうになっていた。つまりこの臭いが近くにあるエアダクトを通って臭いを運んでいたようだった。
そして、俊秀ははっきり言ってこの部屋を開けたくはなかった。しかし、息吹を感じた時の違和感はこの異臭がする部屋の先にあり、避けては通れなかったのだ。
避けては通れない道ならば意を決して通らなければならない。俊秀は扉に手をかけ、勢い良く開ける。
――――そして、彼は戦慄した。
「なんだよ。これ…………」
眼前に広がるのは一つの黒ずんだ赤色だった。所々に飛び散り、白い壁の一面を飾り妙に目立つ。そして、部屋の中心では細かい虫が蠢き、何かを喰らい目でわかるほど成長し続ける。
その瞬間、俊秀は確信した。臭いの元はこれだと――――。
「………………」
俊秀は無言のまま蟲が蠢くそれに近付き、鉄パイプを振り上げる。鉄パイプは真っ赤な炎を作り出し刃を作り出した。
そして、蟲だけを切り裂く。
――――蟲の断末魔が静かに部屋に解けた。
それでもまだ細かい蟲は何かを喰らい続ける。俊秀は丁寧に一匹一匹素手で潰し始めた。そして全てを潰し終わった後、蟲が喰らい続けていたモノを静かに見つめた。
肉片であった。臓器は床に撒き散らされ、それを蟲が食い尽くしていたようだった。剥き出しになった骨は一部砕かれていたが一体何なのか、その正体に難しくなかった。
――――人骨だった。
奇跡的に喰われていなかった頭部がそれを確信させたのだ。
血が通っていない肌の色。そして、死後硬直により死んだ直前の表情が絶望に満ちていた。一体、この場で何があったのか、死者は何に絶望して死んだのか。最早口が開く事がない者に聞く事はできない事だろう。俊秀は静かに目を瞑り合掌する。少しでもこの死者が安らかに眠れることを信じて――――――。
――――それしかできる事がなかった。
「ん? これは…………?」
合掌を終え、目を開けると死者の体内に黒光りした細いものが見える。おもむろに手を伸ばす。そして、それは俊秀も良く知る物であった。
「USB? こんなもの誤飲したとは考えにくいな」
体内から出てきたのはUSB。見るからに生前飲み込んであろうそれは俊秀の直感を刺激するに十分であった。飲み込んでまで隠したいもの、間違いなく重要なものである
俊秀はそれを絶対に落とさぬようバックにしまった。その後にもう二度と死者が辱めを受けぬよう鉄パイプの力を使い、その死体の全てを燃やした。
そして、全てが終わった後。力強く立ち上がった。
(さて、この先に違和感を感じたのだが…………入り口がない)
俊秀は奥の壁の方に寄った。彼が感じた息吹は間違いなくこの先に違和感を感じ取った。しかし、入り口となるものがない。色々と探る俊秀であったが隠しスイッチのようなものも見つからず困り果てた。
そして、結局彼が出した答えは…………。
――――道がないなら、作ればいい。
「どりゃぁぁぁぁああああああああああ!!」
張り上げられた声は再び鉄パイプを赤く発熱させ一本の刃を具現化、試しに壁に一閃を入れた。するとどうだろうか深く食い込んだ切れ目から隙間風が吹く。
(どうやらビンゴのようだな)
俊秀はこの先に目的のものがあると確信し、更に鉄パイプを振り下ろした。
結果だけ言えば三閃目で壁は俊秀が余裕で入れるほどの大きさになる。その先は少し暗いのだが全く見えないというわけではない。慎重に進んでいった。
■ ■ ■ ■
少し進んだ先、時間にして二十秒も経っていないだろう。俊秀は一つのカプセルを見つける。それはほんのりと明かりを燈し、暗い場所では重要な光源となっていた。しかし、そのカプセルが俊秀に違和感を感じさせるモノであった。
「……液体の中に、人が浸かっている?」
そこには肌が死んだように白く透き通った少女が浮んでいた。歳は体格だけ見るなら十五歳程、顔は幼さを残していた。漂うように液体に揺られる髪は金色であるが、ほんのりと燈る光が怪しく輝かせ不思議な魅力を感じずにはいられなかった。それに何処か見覚えがあり、一瞬知り合いかとも思った。
しかし、見るからに死んでいる。まるでそのままホルマリン漬けにされているようにだ。だがこの場で感じている情報に混乱していた。
「嘘だろう…………間違いなくこの少女は死んでいる。でもまだ彼女が生きていると息吹が教えてくれる。一体どう言う事だ!?」
俊秀の感じた違和感だった。俊秀の息吹は間違いなくこの少女が生きている事を証明していた。だが、それと同時にこの少女が死んだものとして息吹は捉えている。目の前で何が起こっているのか、答えを導き出す事は不可能と思えた。
「迷っているようだね、岩井君。不思議だと思わないかい? あれでもアリシアは生きているんだよ。ゆっくりだが体は成長している」
突然、背後から低い声が聞こえた。俊秀は咄嗟に身構える。背後はいつの間にか男が現れていた。しかし、それと同時に俊秀は背中から嫌な汗が流れる。
――――気配に全く気付かなかった。
それを知っての事か、現れた男はケタケタと笑いながら不気味に近付いて話を続ける。
「と言っても、死んでるって言葉も間違いではないね。あの少女は器の中身を失くしているのだから」
「? どう言う事だ」
「そのままの意味と言えばいいのかな? 魂、それは肉体と言う器に入って初めて人は機能するモノだと考えて貰ったらわかりやすいかな」
「…………植物人間だと言うのか?」
「違う違うねぇ? 植物人間は言わば、魂だけが時に縛られる。そして、その呪縛から開放された時、目覚めることが出来る。しかし、彼女は違う。けして目覚める事がないッ! 永遠にねぇぇえええ!!」
突然奇声に似た声で叫ぶ男に俊秀は僅かに後ろに下がる。彼の直感が警告を鳴らしたのだ。この男は危険だと、不用意に近付くなと――――。
その感覚を信じ、俊秀は頭に乗っかっていたカスミを下ろし、部屋の隅に逃げるように指示した。背負っていた荷物は邪魔にならぬよう後ろに投げ飛ばした。
その様子を見た男は狂気を俊秀にぶつけてくる。
「おやおやぁ? 何で下がるのかなぁぁあああ? 岩井くぅぅぅううん?」
「…………さっきから馴れ馴れしく話しているが、俺はお前の事を知らないしお前に名前を教えた覚えはない」
「あひゃあぁ? おかしいね。岩井君とは会った事が…………そうか、この顔は初めてだったね。ならば、この人物とは会った事があるんじゃないのかなぁ?」
その瞬間、耳に嫌な音が聞こえた。その音は骨が粉砕された時の音、肉が磨り潰されるような音。それらは男の頭部を形を変える為に発せられた音であった。
そして、男が顔を作り変えるのは5秒とかからなかった。男は作り変えた顔を狂気に満ちた表情で俊秀を見つめていた。
「さてぇえこの顔なら見覚えあるよねぇえええ?」
「めがねイケメン……? お前、あの蠍を仕向けた男だったのか!!」
「その通りあの時の男さぁ。あの時の兵器はよく覚えているだろぉ? あの時は楽しかったぜぇええ! お前が無様に必死になる姿がよぉ。だがそのせいで予定が少し狂ってしまった。上手く誘導してくれたおかげで住居地のど真ん中の爆発が出来なかったからんな。許せんよな、許せるはずが無いだろぉぉぉおお! 許しを請えよ! ほら早く土下座だ。――――ま、そんな事しても許す気は零だけどな。あひゃひゃはははは!!」
「……………何が楽しいんだ? それにお前に聞きたい事がある。少し黙ってもらおう」
男の理解しがたい言葉に俊秀は怒りを覚えていた。
『この男は人の命を何だと思っているのか』と。だがその事についてはあえて触れなかった。狂気に満ちているこの男の気を無駄に触れたくなかったと言うのがあるが、会話の中で気になる疑問点が浮上していたからだ。
しかし、この男が俊秀の質問をまともに受け答えするはずなかった。
「聞きたいことぉ? 人に頼むなら俺の事は様付けで呼びな。…………そうだ。ならこうしよぉおか。岩井君、君が私に一撃入れる度に質問に答える。いいね、いいじゃないかぁぁああ? それじゃあ、始めようか。死闘ってヤツをよぉぉぉおおおおおお!!」
「――――チィッ!」
突如、突っ込んでくる。男のそのスピードは想像以上で俊秀は思わず舌打ちしてしまうほどだ。左右に回避する事は不可能であると判断した俊秀は正面からその男を受け止め、そのまま地面に叩きつけようとした。
しかし――――
「あまぁぁぁぁぁい!!」
――――逆に叩きつけられていた。
男は俊秀の手前まで来るとさらに加速、そのスピードは俊秀の反応を許さない。まさに俊秀を嘲笑うかのような攻撃であった。
「あひゃひゃひゃひゃははははははははははは…………! 甘い甘い甘い甘すぎるねぇぇええええ!? 私から話を聞きだすつもりはあるのかね」
男は地面に叩きつけた俊秀を何度も踏みしめた。その度に骨が軋む音が耳に届く、俊秀を中心にクレーターのような穴を開けていった。しかし、どれも決定打ではない。明らかに手を抜かれていた。
――――舐められている。
その事実に俊秀は今だに手放していなかった鉄パイプを強く握る。その瞬間、うつ伏せになっていた体を時計回りに回転、さらに体の動きに追随するように鉄パイプが振るわれた。その力の乗った鋭い振りは男の横腹に深く食い込んだ。
「ッ!」
予想していなかった反撃だったのか、僅かな呻き声と痛みで僅かに男の攻撃の手が緩んだ。
俊秀はその隙をついて、一気に男から離脱。適度に距離を取って再び構え男の様子を探る。男は俯いてはいるようだが、僅かに体が震えている。しかし、その様子は何処か痛みに耐えているような雰囲気ではなかった。そして、俊秀はある事に気づいてしまう。
(あいつ、痛みに耐えてるんじゃなくて笑っている!?)
その不気味な行動に背筋から嫌な汗が再び流れる。先程の一撃は間違いなく入った。男の外傷を与えるものではなかったとしても、鎧も装甲もない生身の人間が笑っていられるはずもない。その不気味さに俊秀は恐怖を少し感じていた。
「――――あひゃはははは。いいねえ、まず一撃だよ。いいよ、質問に答えよう。まずは自己紹介だ。名前を聞きたがっていたなぁぁぁ? キーファ・ノーヴァ。良く覚えておけよぉぉおお!?」
「キーファ・ノーヴァだとっ!? 何故ここにいる!」
「あれ、俺を知ってんの? 流石、あの女の孫ッ!! あひゃひゃはははは。これは面白い、サイコォォォ…………の気分だよぉお。いいだろう、その疑問答えてやろう。俺はあんな事件を起こした後だ。管理局の上層部に処刑された、死んだんだよ。でも俺の武勇伝はここからだぜぇ? でも俺は蘇った。あの人が力の断片を授けてくれたおかげでぇええええ! あひゃひゃはははは――――さて、これ以上は言えないね。聞きたいならば一撃入れるこったな。あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ…………」
再び男は構える。俊秀は先程のスピードを考慮して、少し屈んだ様な構えをとった。しかし、その対策は無駄となった。
男――――キーファ・ノーヴァは肉体を変えてきた。
再び耳に嫌な音が聞こえた。その音は骨が粉砕された時の音、肉が磨り潰されるような音だ。しかし、変化が完了する時間は先程よりも断然に速い。2秒と満たない時間でキーファの右腕は無数の触手に変化、左腕は明らかに生物ではないモノ――――黒錆びた何かに変化していた。
(あの黒錆びたもの…………。何かしらの機械に見えるが、あれが何なのかはわからん以上、不用意な行動は出来ない。触手に掴まって絞め殺される)
俊秀は一度大きく息を吸って吐き出すと共に感覚を研ぎ澄ます。一瞬でもキーファの動きを読み取ろうとした鋭い眼光。そして、鉄パイプは赤く発熱していた。触手を容易に切り裂く為であった。
それを見てわかったキーファもまた俊秀を狂気の表情で様子を窺う。
――――静寂がこの場を包んだ。
俊秀はキーファがこの静寂を破り、攻撃に移った瞬間がチャンスだと考えていた。触手による攻撃は脅威ではあるが掻い潜れば勝機がある。だが問題はその後、あの黒錆びた左腕である。一体何が変化した姿なのか。それがわからなければ攻略は不可能であろう。
しかし、それまでにキーファにあの腕で攻撃を打ち込まれる前に一撃を打ち込む事が出来るのならば、倒す事は不可能ではないとも考えていた。しかし、キーファの速さは俊秀の反応速度を上回るほどだ。攻撃を当てられるビジョンが全く浮かび上がらない。
(ならば、相手のスピードを上回る一撃を叩き込めばいい)
そう考えの至った俊秀は両手で握っていた鉄パイプを片手――左手だけ手放し、右手とは逆側。鉄パイプの端を掴んだ。これによって鉄パイプの両端を掴んだことになり奇妙な構えを相手に向ける事になる。
「実に面白い構えを取るね。でも辛くないのかい。岩井君の手が真っ黒ステーキになっちゃうよぉぉぉおお?」
「肉を切らせて骨を絶つ…………。そんな余裕、すぐに崩してやるさ」
そう言って俊秀は不適に笑う。しかし、既に高温を発している部分を握っている左手は焼け焦げ始め、額から脂汗が浮び始める。自身の手が焼け焦げていく嫌な臭いが鼻に刺した。しかし、だからと言って鉄パイプの能力を引き出す事を止めれば、少ない勝算を失くすと同意義であった。
再び、睨み合う両者。どちらかが動き出さなくては戦いは永遠に始まらないかと思われた。その時だった。
――――空き缶が地面に落ちた時になるような音。
それが合図となり両者が一斉に動いた。キーファは無数の触手となった右手を横に薙ぐように振るった。一見、ただ捕縛を狙っているような攻撃ではあるが触手の先端は何か鋭利なものに部分変化しており、それを使って何かを突き刺し投げつけて来ていたのだ。
しかし、息吹を感じいた俊秀は既にその攻撃を看破していた。斜め上に高く飛ぶことでキーファに近付き、更に触手による攻撃を回避に成功していた。そのまま俊秀は鉄パイプを振るうと思われた。だがその前にキーファが動いた。
――――左手を使ったのだ。
黒錆びたモノから突然無数の細い何かが飛び出て俊秀を強襲する。普段の彼であれば、鉄パイプで幾つか払う事ができただろう。しかし、今の俊秀は鉄パイプを両端を両手で掴んでいる為、捌くことが出来ない。それらは無慈悲に俊秀の体を突き貫けた。
痛みで表情が歪む。だが体勢を崩すことはない。キーファの左手――――黒錆びたモノは全弾撃ち終わっており、次弾の装填はまだである。狙っていた形ではないがそのチャンスを逃す俊秀はなかった。
鉄パイプを握っていた左手を僅かに持ち方を変えてから、両手に力を入れる。それは攻撃する予備動作に過ぎない。空中を彷徨っていた俊秀はついにキーファを攻撃範囲へと入り込み、渾身の一閃を放った。それを不適に笑って行動を起こさないキーファ。どんな攻撃であろうと対処できると言う余裕があったのだろう。堂々と待ち構え、俊秀を誘っていたのだ。
しかし、その余裕はあっけなく崩れ去る事となる。なぜならば…………。
「が…………はっ!?」
――――その一閃はキーファの目では捉えることができなかった。
胴を切り裂かれたキーファは宙に血の花を咲かして地に伏した。余りにも速かった一閃はキーファを一瞬たりとも動かす事をさせなかった。驕りが勝敗を分けたといえるだろう。もしキーファがすぐに守りに入っていれば、避ける事は難しいが防ぐ事は可能であったのだから。
(それにしても随分とあっけない。気絶したのか?)
俊秀は焼き爛れた左手を見てから、床に倒れるキーファに視線を移す。俊秀は一閃を入れる直前に鉄パイプの力を抑えることで手加減をしていた。この男には色々と聞かないといけない事があるため、戦いをする事になったがこんな結果になるとは全く思っていなかった。
(まぁいい。あんまり意味がなさそうだが縛り付けておくか)
そう結論に至った俊秀は放り投げた荷物の中にロープがあったことを思い出し、それを取りに行こうと背を向けた時。
――――再び血の花が宙に舞った。
次回もよろしくお願いします。