壊し屋 俊秀   作:遼明

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 どうも遼明です。
 連投です。それではどうぞ


第20話 語られる事実

 俊秀は何が起こったのか、理解できていなかった。さっきまで地に足を立てていた筈なのに今では地に伏し、全身から血を流している。ただ理解できている事は間違いなく先程受けた攻撃によるものだと言う事だった。

 

「ははは…………。やってくれんじゃないのぉぉぉ? 岩井くぅうん。おかげで私の一張羅に泥がついた…………あひゃひゃひゃひゃはははは――――」

 

 奇声を上げるキーファはゆっくりと歩み寄っていた。それに俊秀は気付くが思うように力が入らず、もがく事すらできない状況だった。

 そして、俊秀まで歩み寄ったキーファは俊秀の頭を鷲掴みして顔を覗き込んだ。

 

「それにしてもあの一閃には驚いた。今ならわかるが…………ハンマーで打ちつけた釘を抜く時の力み方かな? 力みが無い一閃は実に速かった。さて、岩井君。君は一撃を入れた。何か聞きたい事はないのか?」

「あ、……あの部屋にあった死体は何だ? お前が殺したのか?」

「んんんんん? あの役立たずの事を知りたいのか。まぁいいだろう――――岩井君の想像通り、私の手で殺した。最初の頃はいい駒ではあったが…………わざわざ事件まで起こしたというのに最近は研究の成果が出てからはまったく使えない駒だったよ」

「事件……? ジュエルシードの輸送事故か?」

「ジュエルシード? あひゃひゃひゃひゃはははは!? それは違うよぉおお。あれの事故に関しては我々は全く関係ない。その時にはレプリカの製造は始まっていた。まぁその事故に便乗したのは間違いないが」

「何? じゃあお前の言う事故は何だ」

「次元エネルギー駆動装置ヒュードラの暴走事故。当時、ミッドの中央技術開発局の第三局長であったプレシア・テスタロッサが起こしたとされる事件。まぁ別の次元で起きた事件なんて君が知ってるはずがない。概要だけ言えば、ただの暴走事故だけど裏では違う。このヒュードラが稼動してもらうと、色々と困る人がいたんだよねぇえええ? わかるかい」

「色々と困る人? 真崎の人間か」

「そう我々の会社だ。当時、新エネルギーの開発を我々も手がけていてね。何としてもヒュードラの稼動を止めたかった。しかし、ただ止めるだけでは駄目だ。また研究をし始めるかもしれない。寧ろ止めた事で足がつく可能性が高かった。そこで私は思いついたのだよ。一番いい手を――――」

「まさか、お前!?」

「察しの通り、私はヒュードラそのものを……いや、研究所そのものをヒュードラで吹っ飛ばす事をね。あひゃひゃひゃひゃはははは――――――サイコォォォオオオのショーだった!! 僅かな細工で中規模次元震が起きる!! 一瞬で研究所は勿論、研究データも消え去った!! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃはははっはははははははッッ!! とは言え、万が一の事がある。私は一応研究データが残っていないか確認する必要があった。だからもう一度研究所跡地に足を運ぶ事になるが、案の定データは木っ端微塵、跡形もなかった。その時は無駄足かと思ったぜ。でもその後にいい拾い物をしたんだぜぇぇええええ? 何だと思う? わからないよなぁぁぁぁ? 教えてやるぜ? あの災害の中、奇跡的に助かっていた幼女。アリシア・テスタロッサだ」

「アリシア……だと!? 待てそれだとおかしいだろう。それじゃあ、あそこにいる彼女は――――どう言う事だ!」

「いいぜ。その反応待っていた。そして、彼女を見た私はある事を思い出す。アリシアはプレシラの最愛の娘だった事をな……つまり、コイツを餌にすればプレシアは操り人形。優秀な研究者を無償で働かせる事ができる!! 会いたいがために必死になっていたあの女は見てて滑稽だったぜぇ? やっとの事で数十年越しに会う娘は死んだ同然で魂宿らぬ、抜け殻だったんだからなぁぁあああああ!! それを知った時のあの女の顔、見せたかったぜぇ? あの絶望に染まる顔をよぉ。ん、そう言えば…………見たな? 見たはずだな。見たはずだろ! お前はプレシアの死体をその目で見たんだからなぁッ!!」

 

 その時、俊秀の脳裏に死してなお絶望に染まる顔が過ぎった。あの時の顔はかつて娘が生きていると信じていた生者だった。しかし、それはまやかしでただ一人の男に空しく踊らされていた玩具、一体の人形に過ぎなかったのだ。

 儚い。儚かった。全くの救いがなかった。その死者の言葉を俊秀は代弁するかのように怒鳴った。

 

「お前にはッ、血も涙もないのか!? 腹を痛めて産んだ子供だぞ? 誰がそんな結末を待ち望んでいる!」

「私は待ち望んでいたさ。人が絶望に染まる瞬間、最高に美味くなる。それも長年、待ち望んだ希望というものが儚い妄想であったと気づいた瞬間がよぉぉおぉおおおお!! ――――おっと? 危ない。もう動けるのか」

 

 俊秀は気迫で立ち上がりキーファを強襲。だが振り抜いた鉄パイプは空を切り、キーファ軽やかにバックステップを踏む。距離は両者が最初に向き合っていた間合いとなるが、急に動いた反動で俊秀の傷から血が流れ落ちていた。しかし、俊秀の血液で床を赤く染められていく中、妙に感覚が鋭くなっていたのもまた事実。

 血が滴り落ちる音がする。その音は随分と近い場所で木霊しているような気がした。視界は先程のダメージが回復しきれていないのか、擦れてはっきり前が見えない。

 しかし、彼は捉えていた。ならばやることは一つであった何を企んでいるのかわからない人物を――――。

 

「これ以上、お前を野放しにする訳にはいかない。覚悟しろよ…………キーファ!!」

「いいのか? その言葉、我々に対しての宣戦布告として受け止めるが? もう戻れないぞ」

「どっちにしろこの問題には首を突っ込んだ時点で答えは決まっていた。俺は引き下がれない。いいさ、お前のその歪んだ思想。きっちり壊してやる」

「あひゃひゃひゃひゃひゃははははっははははは!! そうじゃなくてはな、壊し屋ぁぁぁあああッ!!」

 

 奇声を上げてキーファは迫り来る。いつの間にかキーファの右腕は鉈の様な鋭利な刃物と変化しており、それを振り上げていた。しかし、俊秀は避ける気配など見せなかった。

 

 ――――止めてみせる。

 

 そのまま振り下ろされたキーファの右腕は俊秀に吸い込まれるように向かう。それを俊秀は素手で掴んだ。肉に食い込み、飛び散る血潮。しかし、その刃は俊秀の素手を切断まで至らなかった。そして、俊秀は反撃として素手で掴んだ刃を握力のみで圧砕した。

 

「――――!? まだまだぁぁぁ!!」

 

 痛みで一瞬、表情が歪んだキーファであったが更なる手段を使って俊秀を狙う。

 ――――あの左手だった。

 黒錆びたモノから飛び出た何かは至近距離で俊秀を強襲。しかし――――。

 

「残念ながらその爆弾受けたくない」

 

 ――――鉄パイプの力によって具現化した氷壁がキーファの攻撃を阻んでいた。

 

 その後、数秒遅れて氷壁は爆散する。その破片は攻撃を打ち出したキーファを嘲笑うように無数の氷雨なって降り注いだ。そう俊秀は最初の攻撃で看破していたのだ。

 

「チッ……小癪な!!」

 

 無数の氷雨はキーファに少なくないダメージを与えるだけでは留まらず、氷壁は爆散した事により水蒸気が発生、キーファの視界を奪い俊秀を完全に見失った。

 

「ここで決めるッ!」

 

 僅かに得たチャンスをこの男は逃がさなかった。爆散した瞬間、大きく弧を描くように移動していた俊秀はそのままキーファの側面に入り込んだ。

 

 ――――一撃目。

 

 拳に(はやさ)を乗せたシンプルな一打、それはキーファの頬を直撃した。骨が軋むような音が聞こえる。この一打は間違いなくキーファを脳震盪に至らせ意識を刈った。

 

 ――――二撃目。

 

 足元から崩れていくキーファを、勢いを失う前に回し蹴りを胴に放つ。意識を刈られた相手は防ぐ事は叶わず、渾身の一撃はあばらの骨を数本折っただろう。

 

 ――――そして、三撃目。

 

 キーファの足を狙った鉄パイプの横薙ぎの軌道は直撃し、動きを封じ確実に確保に移る――――。

 

「!?」

 

 ――――の筈だった。

 

 突如、時の庭園全体に大きな揺れが発生。その為、攻撃を繰り出していた俊秀はバランスを崩した。しかし、バランスを崩した俊秀は無理矢理鉄パイプを振り抜く。

 だが、それは空しく空を切り…………………。

 

「調子のってるじゃねぇええぞ?」

 

 キーファの振り抜かれた足が俊秀の頭部を捉え、力任せに吹っ飛ばす。その攻撃は防御する事が出来ない俊秀を壁に叩きつけた。その衝撃で吸っていた空気は勿論の事、体内に溜まっていた胃液と血液が逆流し、吐き気を覚えさせる。そして、俊秀はある事に気づいた。

 

(…………やっぱりコイツにただの打撃が通用してない)

 

 鉄パイプの能力による一撃は間違いなくキーファにダメージを与えた。しかし、それ以外の打撃に関してはどんな渾身の一撃であろうと全くのダメージを受けてないような立ち振る舞いだ。確実に意識を刈取ったであろう拳、俊秀が放った渾身の回し蹴り。どれも間違いなく決まったはずで、手にも足にも確かな感触は残っている。防がれたとは考えにくかった。魔力を使って傷を治癒したとも考えた。しかし、この空間で魔力を運用するには相当燃費が悪い。数えるほどしか打撃を当てた事がないにしろ、あんなにピンピンに傷を癒し、表情を全く変えずに動けるとは思いにくい。

 つまり、この男――――キーファ・ノーヴァは何か異邦の力を持っている可能性が高いということだった。

 

(何と面妖な。今の俺に勝てるか?)

 

 俊秀の現状はまさに満身創痍。限界を超えるダメージを多く受けてしまった肉体はまだ動くには時間が必要であった。さらに怪我も深刻で流れ出る血は確実に彼の体力を奪う。そして、そんな体を無理矢理動かした反動が今起こっており、一切体に力が入らない状態であった。

 そんな焦る俊秀は無視し、キーファは奇声を上げながら俊秀を指差した。

 

「さぁぁぁああて、調子に乗っていた岩井君、最後の質問タァァァァアアアイム! あひゃひゃひゃひゃ!! 冥土の土産に何でも答えるぜ?」

(うまく時間を稼げるか?)

 

 俊秀の状態を見て、勝利を確信しているキーファは僅かに隙を見せた。さっさと始末すればいいものを律儀にルールを守ってきた。恐らくこれが最後の質疑応答であろう。上手く時間を稼げれば、再び戦う事が出来るかもしれない。

 その僅かな希望に俊秀は全てを賭けた。

 

「お前の話を聞いて疑問に思う事があった。アリシアの事だ。プレシアは彼女と会うまでは研究に協力的なのはわかる。でもな、おかしい事がある。プレシアは間違いなく最近に亡くなった方だ。お前の言動でわかった。お前はアリシアが死んだと知った時の顔を見せたかったと言った。つまり息絶えた時の表情がその時の顔と同じだったという事だ。そして、疑問が生じる。何で今まで協力的だったんだ。俺なら娘が死んでいるとわかった瞬間、間違いなく組織オサラバする。流石に殺した犯人まではわからないからな」

「ほう…………それで?」

「そして、話はお前が現れたところに戻る。お前は確か言ってたな。死んでいるけど生きているみたいな発言を。その発言をプレシアにも言ったんだろう? それを彼女は信じた。だから今までこの組織にいた。そして、彼女はアリシアを奪還するために何かしら計画を密かに練った。それが何なのか俺はわからないがお前は研究成果が上がっていない理由がそれだと気づき、プレシアを始末したってところだろう。どうだここまで間違っているか?」

「いいねぇぇええ。素晴らしいよ。君はシャーロックかい? 名推理だね。それでまだ続くんだろう」

「勿論だ。そして、さらにここで疑問が生じた。何でお前がここにいる? 目的を果たしたならさっさとトンズラするのが一番だ。しかし、そうしなかった。なぜか? 探していたんじゃないのかアリシアを。お前にはあの子の価値が高かった。そう、管理局に渡したくなかったんだろ? 何故リスクを犯してまで彼女にこだわる? 答えろッ!」

 

 俊秀は今出る精一杯の声を張り上げた。そして、窺うように霞む視界でキーファを見る。その男の表情ははっきりと見えぬが、何処か雰囲気は毒気が抜かれていた。

 これはどう言うことなのか。俊秀は疑問に思った瞬間、キーファは決壊したダムのように表情を崩し、狂気の笑い声を上げた。

 

「まさかねぇ。ここまで言い当てられるとは思わなかった。そうアリシアは私にとって七色に光るダイヤの塊よりも、数十万トンの金塊よりも、この宇宙全ての謎の解明よりも価値があるだよッ。あひゃひゃひゃひゃひゃっははははははっははっは――――!! わからないだろうねぇ。人の肉の美味さがわからない人間ではね」

 

 キーファの発言に俊秀は背筋が凍る。一瞬冗談とも思ったが目は本気であった。

 

「お前は化け物か」

「化け物……少なくても私は人間だよ、見た目はね。けど岩井君、あの御方から力の断片を授かったその時から既に中身は人間という枠組みから外れている。そう死と言う理を超越した到達者である私がただの人間であるまい。お前が一瞬だけ返り咲く野花とするならば、私は永遠に咲き乱れることが出来る永遠の大輪であるッ!!」

「到底信じられる話ではないな。人間が人間である限り死と言う運命から逃れられない。たとえ一度お前が蘇っているとしてもだ」

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ――それが可能なんだよ。私が授かったスキル、喰人鬼があればな」

「まさか、お前がピンピンしてんのは」

「喰人鬼によるスキルのおかげだ。このスキルは人の肉、若しくは魂を喰らう事で力を手に入れることが出来る。つまり喰らえば喰らうほど幾多のスキルを簡単に使う事が出来る。要するにこの好き野の前じゃお前の勝機は全く零に等しい。そうやって時間を稼いでいてもな。ざぁぁぁぁあああああねんだったなあ!!」

 

 キーファは俊秀を脅すように奇声を上げた。しかし、俊秀は動じず、慎重に考えた。聞きたい情報が一歩手前まできているのは間違いない。落ち着いて核心に迫る。

 

「なるほど、つまりアリシアの魂がないって言ったのはお前が食ったからなのか」

「その通り。しかし、魂だけ喰らうのは条件が揃わなければ喰らえない、しかもスキルの成長が遅くなる。出来ればしたくはなかったが、プレシアが生きていた間は泣く泣く諦める必要があったがもうアリシアの存在は必要ない。残るその器を喰らえば、更に私は強くなる。だからこそ彼女を喰らいに来た。さらにその片鱗であるクローンのフェイトもその後で喰らってやる。あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃはははははは…………!!」

(フェイトがクローン!? そうか、あの時見覚えある感じがしたのはそう言うことなのか)

 

 アリシアとフェイトの意外な接点に驚く俊秀であったが、それは数秒にも満たない感情であった。今、俊秀の胸にある感情は『怒り』その言葉のみである。なぜフェイトが生み出されたのかは謎ではあるが、私欲の為に命を奪おうとするのは絶対に見過ごす事ができない。

 そんな精神が俊秀の体に活力を与え、限界を突破した肉体を動かしたのだった。

 

「これはもう負けられないな。きっちりと壊させてもらわないとな」

「ほう、まだ戦うと言うのか? 今逃げれば、特別に見逃してもいいぞ?」

 

 鉄パイプを杖にして立ち上がる俊秀を馬鹿にしたような視線を送るキーファ。今逃げれば、約束はきっちり守るキーファは間違いなく見逃すであろう。俊秀は満身創痍でありながらもその答えを瞬時に一蹴した。

 

「誰が逃げる? ここにお前によって人生を滅茶苦茶にされた子がいるんだ。しかも、数十年も私欲の呪縛に囚われた子もいる。ならば、助けないはずがないだろうッ! 俺は引かない。ここで死ぬ事になっても!! 貴様だけはここで止めるッ!!」

「ならばここで死ね。そして、私の糧となれッ!!」

 

 キーファは言葉を吐き捨て、左手を白刃に変え突っ込んでくる。だが、俊秀は立ち上がったとは言えど、即座に反応する事ができない。

 ――――勝敗は明らかだった。

 

「死ねぇぇええええええええ!!」

 

 キーファの奇声が脳内に響き、狂刃は俊秀を無残に引き裂く一秒前。俊秀は死を覚悟した。

 その時、彼等間に黒い影が舞い降りた。そして狂刃の進行を止めたのだ。咄嗟の事で唖然とする両者。一体何が、起こったのか理解が追いつかない。キーファはやっとの思いで突然現れたモノに問いかけた。

 

「お前、何時からこの部屋にいた。お前は誰だ!?」

「我が主の命により参上した。私は槍姫(ソウヒ)。ここから私がお相手しよう」

 

 現れたのは槍姫と名乗る長い槍を持った黒髪が美しい女性であった。




 次回もよろしくお願いします。
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