一章最終話です。先の二話と比べると実に短いですがよろしくお願いします。
それでは、本編をどうぞ。
俊秀とキーファの目の前に槍姫と名乗る女性が現れた頃、出雲姉妹との先頭を終えた。クロノ達は動力室に来ていた。
戦闘では全く役に立たなかったクロノはここで役立とうと破壊する前に部屋にあった管理用PCを使って、情報を集めようとしていた。
「駄目だ。情報がなかなか抜き取れない。一体どうすれば――――」
「全く手際が悪いね。そんな事がちゃっちゃと出来ないなら僕がやってあげようか? さぁクロスケ君、縄を解きたまえ僕が一分で情報を抜き取ろう」
「僕の名前はクロノだ。それに縄を解くつもりはない。大人しくしていろ」
妙にフレンドリーに話しかける紫苑であるが、クロノは犯罪者に対する態度を変えようとはしなかった。手を借りたいのは山々であるが、逃げられでもしたら後々メンドクサイ事になる。絶対に縄を解くつもりはなかった。
そして、傍らではなのはが一生懸命クロノの手伝いをしているが、むしろ進行を遅くしているようにしか見えない。それに溜息を吐くクロノ。さらに視線を動かすと静かに座っているフェイトがいるのだが、精気がまったく感じられない。なのはが言うには戦闘が終わりに出雲姉妹と話した後からずっとあの様子なのだった。
「それにしても君達はフェイトに何を言った。あの落ち込みようは……見ていて心配になる」
「フェイト君には知る権利があったからね。ある事を教えただけさ、彼女には辛い結末だけど僕はフェイト君に目を背けて欲しくなかった。だから僕達が知っている真実を全て話しただけさ。知りたいなら彼女の口から聞いてくれ。この事に関して君に直接言える立場ではない」
そう言うと紫苑はだんまりとした。クロノは聞きたい気持ちがあったが、それは今の彼女から到底聞きだせるものではない。今は諦め作業に集中する事にした。それを見計らった紫苑は今度はなのはにちょっかいをかける。
「それにしても高町君だっけ? 凄い砲撃魔法だったね。そのまま極めれば将来は有望だね」
「あはは……。ありがとうございます」
敵からの邪気のない賞賛に思わず、苦笑いするなのはであったが一応礼は言う。
出雲姉妹を破った決定打は別の階層にいた高町なのはが放った一撃必殺の砲撃魔法、スターライトブレイカーであった。この空間で強力な魔法を使えるとは思っていなかった出雲姉妹達はあっけなくやられてしまったのだが、勝負の世界は結果が全て。言い訳はできない。
(全く、予想外の事もちゃんと想定しないといけないな。それにそろそろ時の庭園が爆破されそうな時間になる。まだ紫蘭は目覚めそうもないし、松下君が来るまでもう少し彼等とお話をしようか)
絶対逃げられると確信している紫苑は悪い笑みを浮かべるのだった。
■ ■ ■ ■
俊秀は唖然としていた。突然現れた女性に助けられたと言う事ではない。そんな事よりも気になる事が一つあった。最初は奇妙な金色のカチューシャかと思った。しかし、頭部にあるそれは明らかに血が通ったもので作り物の雰囲気がない。間違いなく狐耳であった。
そして、そうなると腰に目線が移る。ひらひらと揺れる金色のそれは間違いなく尻尾である。
「もう訳わからん」
「我が主の主。ここは槍姫にお任せ下さい。もう時間がありません。ここは敵の手によって爆破されます」
「爆破!? くそっ、後でちゃんと話してもらうからな」
「承知!!」
爆破と言う一言で今すべき事を悟った俊秀はカプセルに入る少女アリシアを出す為、動き始めた。しかし、黙ってそれを見過ごそうとするキーファではない。槍姫を擦り抜け、俊秀に止めを刺そうと突っ込んだ。だが、その刹那。槍姫の長い槍がキーファを阻んだ。
「我が主の命により、これ以上先にはいかせません。いきたければ、私の屍を越えてゆけッ!!」
「この小娘がぁぁぁぁぁあああああああああ!!」
この瞬間、キーファの殲滅対象最優先順位の上位が槍姫となった。阻まれた怒りを叩きつけるように槍姫に打ち込むキーファだが、全て軽くあしらわれた。それどころか速い槍捌きにより多くの手数を受ける事になった。
「クソアマァァァァァァアアアアアアアッ!!」
「ほえる事など、狐でも出来ます。さっさと来なさい」
怒りのボルテージが上がるキーファを槍姫はさらに油を注ぎ冷静な判断を奪っていた。これでもうキーファは俊秀の事が完全に離れたであろう。
「すげぇな。これならこっちの作業に集中できる」
俊秀はそんな戦いを少し遠くから見ていたが、すぐにやるべきことを開始する。アリシアのカプセルは頑丈に金属で固定されているようで力任せに破壊すれば、カプセルまで破壊するであろう。それではアリシアを傷つけてしまう恐れがあった。ならばと鉄パイプの能力を使った切断方法を思いつくが思うように力が発揮できず、上手く切断できない。
(くそっ……こんな時に!!)
焦る気持ちを抑えるように何回も深呼吸をする。そして、落ち着いたところでもう一度切断しようと鉄パイプを固定された金属に近づけた時。
――――時の庭園全体に大きな亀裂が入った音が全体に響いた。
その数秒後、突然時の庭園全体が揺れ始めた。倒壊の始まりである。どこかで引き起こされた魔力による爆発はここに格納されていた量産型ジュエルシードを巻き込み、次元断裂が発生。更に強い揺れが引き起こされ、虚数空間がいたる所に発生した。
「我が主の主。もう時間がありません。早々に退避を!」
「出来ない!! 俺は最後まで諦めないッ」
俊秀は辺りを見渡す。俊秀の近くにも虚数空間が発生しており、それがブラックホールのようにあらゆるものを吸い込む。このままでは切断した後、間違いなくアリシアが巻き込まれる。
「何かないのか!? あれは!!」
俊秀は視線を横に滑らした先にそれはあった。戦いの為隅に投げた荷物である。
(そうだ。あれにはロープがっ! それにUSB!!)
気づけば俊秀は怪我も忘れて駆け出していた。無我夢中だったのだ。素早く荷物を回収した俊秀はそのまま背負ってロープを取り出した。それをカプセルに巻きつけてからガッチリとそれを腕に巻いた。これで簡単に吸い込まれる事はなくなった。
その時、一瞬だけ気が緩んでしまった。それが俊秀の命運を分けた。
「!? しまっ」
俊秀は足を滑らせた。その瞬間、一気に虚数空間まで引き込まれる。完全に引き込まれなかったのはロープを握っていたからだろう。それが命綱となって、彼を繋ぎ止めたのだ。しかし、俊秀に虚数空間から脱出するほどの力は残っていなかった。
「我が主の主!! 今――――」
「いいのかよぉぉおお! 私がアリシア喰らうぜぇぇぇぇえええええええ!!」
「くッ、今すぐ叩き伏せる!!」
槍姫が助けに入ろうとするが、キーファは目的達成をチラつかせ行動を封じていた。万事休すである。そんな時、俊秀はカプセルの固定具の状態に気づいた。今にも抜けそうなのである。
(後もう少しで、あれは抜けるな。ならばこれを当てる!!)
最後の足掻きとして俊秀は鉄パイプの投擲準備に入る。思うように投げられるか不明ではあるが、このまま漂っていても無駄に等しい。それに何よりあの男にアリシアを渡したくない気持ちが勝ったのだろう。俊秀は勝負に出た。
「槍姫! 今から鉄パイプを投げる。刺さった鉄パイプしっかり回収して逃げろよ!!」
「我が主の主。一体何を!?」
槍姫の答えを聞かずに俊秀は思いっきり鉄パイプをカプセル目掛けて投げた。それは寸分狂わず、止め具を固定している床を打ち抜いた。
「よしッ!! 俺の勝ちだ!!」
するとどうだろうか、今まで虚数空間の吸い込みにも耐えていたカプセルが大きく俊秀のいる虚数空間に導かれ、そのまま吸い込まれるのだった。
「我が主!! ――――承知」
槍姫はそれを見届けるとキーファを薙ぎ払って吹っ飛ばすと、刺さっていた鉄パイプを回収。その後すぐに槍姫は俊秀の後を追うように虚数空間に自ら飛び込んでいったのだ。
余りの早業にあっけを取られるキーファ。そして…………。
「くッッッそぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」
勝負に負けた事だけが彼の意識に刷り込まれた。
■ ■ ■ ■
ある場所は、妙に暗く静かだった。ジメジメしているわけではないが水が滴り落ちた音が室内を反響し、微妙に居心地の悪さを演出していた。
そんな部屋に、話し声が聞こえる。どうやら何かを報告しているようだった。
「今回の事件の報告をします。時の庭園での死亡者は一名、プレシラ・テスタロッサ。彼女は今回の事件の主犯として。そして、彼女を殺した犯人は管理局員クロノ・ハラオウンが持ち帰った証拠を根拠に、壊し屋の岩井俊秀を犯人として処理しました。そして、これがその概要が書いてある書類です。どうぞ」
「なるほど、いい感じに仕事してくれたじゃんか。これで一部の人間しか我々の存在を認知できなくなったわけだ」
「どうもありがとうございます。それで俺は任務を果たした。何時になったら俺の願いを叶えてくれるんですか?」
「ふふふ、そんなに焦る事はないよ。まだあの御方が目覚めるのにはもう少し時間が掛かる。それが終われば君の願いを叶えよう。パラガス君?」
知らず知らずに隠蔽された事実。そして、陰謀。しかし、誰もそれを知る事はできなかった。
■ ■ ■ ■
冬空である。辺り一面は雪や氷で覆われ、非常に過酷な世界であった。場所にポツンと立つ男が一人いた。その男は時より休んでは歩き始めるの繰り返しで辺りを探索しているようだが、どうも目にやる気がなく、何処かダルそうに見えた。
「さて、あの死神はここに俺を落としたわけだけど…………俊秀は本当にこの世界にいるのかなぁ~」
この男はまだ知らない。物語がこの地で始まろうとしていた事を。
次章予告。
死神が暇つぶしに俊秀を殺した超合金タライ事件。その事件には続きがあった。
次々に殺される目撃者達。さらに無理矢理の異世界転生。
そして物語の舞台は乱世ベルカ時代に移行した。
迫り来る強敵の数々。そして、避けられぬ激突に血を流す転生者達。
そして、それを裏で望むモノ。ついに敵の正体が明らかとなる。
そう、全ての因縁はここから始まった。
第二章 冥府の炎王に三本矢は集う
「逃がすなッ。あれだけは壊さなくてはならないッ!!」
現在、プロット製作中――――。
次回もよろしくお願いします。