「ただいま――――ってこっそり入らなくてもよかったか」
やっとの思いで、自分の住んでいる高層マンションの一室に帰ってきた俊秀は時計を見る。針は夜の11時を指しており、宿題を終わらせてないので肩を落す。
(……宿題は誰かに見せてもらおう。それよりも今は怪我の手当てをしないと)
先ほどの戦闘で左肩を負傷した俊秀は止血は済ませているが、傷を放置するわけにいかないので取り合えずリビングに向かう。
「くぅん……」
「あれ? カスミ、待っていてくれたのか」
リビングの扉を開けると、子狐が座って待っていた。この子狐は岩井一家がこの家に引っ越してきた時から飼っているのだが別に態々ペットショップに買いに行ったとか、山に行って捕まえられたからペットにしている訳ではない。
この子狐は最初から飼っていたのではなく、ここのマンションに引越ししてきた時には何故か既にこの部屋に住み着いていた。俊秀の父は追い出そうとするが……失敗。父は悔しいのでどうやって追い出そうか企んでいたが、俊秀は折角だから飼おうよと提案、父は全力で拒むが母は父を押さえ込み無理やり納得させられた様だった。父的にはエキノコックス症が怖かったようなので子狐を連れ病院へ行くが、陰性だったのでそのまま飼われる事になったのだった。
しかし、この子狐もう一つ謎な部分があった。子狐を飼い始めて早8年、全く見た目、大きさが変わらない。うちの狐はこれが完全体なのかと疑問に思っている。
「えっと、包帯は……」
「くぅん」
「おお、ありがとう」
子狐こと、カスミが未開封の包帯を咥えて持ってくる。
「えっと、消毒液は……」
「くぅん」
「おお!? ありがとう」
カスミが咥えて持ってきたのは海鳴市名物、米焼酎の『白い悪魔』……。
「って、何でこんな物があんねん!?」
「くぅん?」
「…………(てか、妙に知能が高い事も謎の一つだよなぁ)」
焼酎も消毒液も同じアルコールなので、傷にかけても大丈夫だろうと判断した俊秀は包帯と『白い悪魔』を持って風呂場に行き、着ている服を脱ぎ左腕を見る。
(神経、及び骨には当たってないようだな。触手が意外に細かったのか?)
俊秀は見た目ほど重傷じゃないのを確認してから、『白い悪魔』を片手で開け、傷口にかけるのだが……。
「――――――――――――!!」
あまりの痛みに声にならない叫びを上げる俊秀であった。
次の日、俊秀は学校も終わりある公園に来ていた。理由は昨日あった少女と小動物と公園で落ち合う事になっていたのだ。近くのベンチに腰を下ろし、待つこと数十分、昨日の少女が小動物を連れ走ってこちらに来た。
「す……すいません。昨日の人ですよね」
「ああ、そうだ。早速だが、説明してもらうぜ」
「その前に自己紹介まだでしたよね? 私、高町なのはって言います。こっちはフェレットのユーノ君」
「こんにちは、僕はユーノ・スクライアです」
「高町にユーノか、俺の名前は岩井俊秀だ。よろし――――」
俊秀は言葉を止めてしまう。この小動物にふと疑問を持ってしまったからだ。俊秀は『フェレット』は見たことが無いが『イタチ』と『プレーリードック』は見たことがある。この小動物は『イタチ』と『プレーリードック』を足して2で割ったような姿をしている。さらに人間と同じように話す知識と発音器官、さらに理性。これらを考慮して導かれる答えは……。
「お前……キメラ?」
「フェレットです」
「……そろそろ本題に行くか、話してくれるよな」
「はい……実は」
その後、ユーノの口から色々と説明される。要約すると、ユーノは考古学を精通しており、遺跡発掘をして失われた技術『ロストロギア』を発見することが仕事らしい。
そして先日、発見されたロストロギアを輸送したところ輸送機が墜落、ユーノが発見した『ジュエルシード』と呼ばれる物がこの地域一体にばら撒かれた。それを知ったユーノは独自に回収する為、ここに来たのはよかったが最初に発見したジュエルシードが暴走し手に負えなくなる。そこでユーノは助けを求め『念話』と言うものを使って呼びかけたらしいのだが、それに答えたのは高町なのはだったと言うわけだ。
ユーノはなのはに協力を依頼、理由を聞いた高町は1つ返事で承諾し、ユーノが最初に見つけたジュエルシードの封印にかかるが失敗してしまい逃げているところで俊秀と出会ったのだった。
「なるほどな……魔法があるのにも驚きだが、別次元を自由に行き来出来るとはふざけた技術力だな」
他にもユーノは魔法の存在、次元世界、管理局、ジュエルシードの危険性がどうこう言っていたがその辺は聞き流していたので、ちゃんと聞いていましたよ的な言葉を言った俊秀であった。
そして俊秀は少し考えた後、口を開く。
「遠回しに言うのは苦手だから単刀直入に言わせて貰う、ユーノに高町、今すぐ回収行為をやめろ」
突然の発言にユーノと高町はあっけに取られる。
「お前等……死ぬぞ」
「突然何を……?」
「考えてみろ、高町が魔法を知ったのは昨日の今日なのに、何が出来る?」
「そんなことはありません。なのはは凄い才能で――――」
「才能がある? 笑わせるな! お前はそんな理由で高町を危険にさらすのか」
「僕はそんなつもりはありません……。ただ僕の力が戻るまで協力して欲しいんです。ジュエルシードは先程も言ったように暴走すれば大きな被害を出すかもしれないんです」
ユーノは必死だった。自分自身がなのはを危険に巻き込んでいるのは分かっている。だが、それ以上にジュエルシードをほっとく訳にはいかなかった。ジュエルシードは自覚の有る無しにかかわらずを叶える特性を持っている。もしほっとけば、被害が拡大し大変な事になるのは火を見るより明らかだった。
「それはわかっている、でも昨日のことを思い出してみろ。あの時、俺が来ていなかったら下手すりゃ怪我、最悪死んでいたかもしれないだぞ……。それでも回収すると言うならば、俺は手段を選ばんぞ」
「でも……」
「ちょっといいですか?」
俊秀とユーノの会話を黙って聞いていたなのはが話に割り込んできた。いいタイミングで割り込んできたなと思いながら俊秀はなのはに発言権を渡す。
「岩井さん……私、やりたい事が無いんです。私の同級生、友達は見つけているのに……私だけなくて、『何かやらなきゃ』って思っても、その先が見つからなくて……ただそれだけなのに寂しくて、悲しいような、苦しくなるような……行き場のない気持ちが胸の奥から出て行かなくて、毎晩、布団の中で泣いていたんです。でも昨日ユーノ君に出会って、魔法の存在を知って最初の封印は失敗しちゃったけど、2回目成功した時思ったんです。『こんな私でも役に立てるんだ』って、その時胸の痞えも取れた気がして……不謹慎ですよね。私の命が危なかったのに……でも、私思っちゃたんです『もっとうまくなって、もっと役に立ちたい』って、だからお願いしますユーノ君を手伝わせて下さい!!」
なのはは目から涙を流しながら、頭を下げてくる。正直な話、重い話になるとは俊秀とって予想外だった。性格上、俊秀は重い話は苦手なのだ。そもそも、なのはの見た目は小学生ぐらいなので少し脅せば、好奇心はなくなるだろう踏んでいたが、見通しが甘かったようだ。
昨日の今日だが魔法は高町にとって倫理変化に大きく関わっている。やりたい事が見つからなかった高町にとって魔法は渡りに船だったのかもしれない。それを高町から取り上げるには酷だろう。そう思った俊秀は最悪の結末にならぬ様、腹を決める事にした。
「―――1週間だ」
「え?」
「1週間、ジュエルシードの回収はやらず、魔法の練習をしろ……ユーノ今すぐ練習メニュー組めるか?」
「勿論、出来ますが」
『I need to construct a practice schedule.(私が、練習メニューを組みましょう)』
「宝石が喋った!?」
突然、なのはの首に掛けている宝石が点灯したと思ったら電子音がするので驚く俊秀であった。
『Hello, Mr. Iwai. I am called the raging heart of an intelligent device. (こんにちは、岩井さん。私はインテリジェントデバイスのレイジングハートと申します)』
「おお、よろしくな……で練習メニュー聞けるか?」
「Ok」
俊秀はレイジングハートがなに言っているのか分からなかったが、とりあえず自己紹介をしているのだと判断し華麗にスルーする。そしてレイジングハートは練習メニューを俊秀の目の前に投射するが、俊秀は何が書いてあるか全く読めない。だが、基本的な事だろうと判断したのだった。
「よし・・・これの10倍やって来い」
「え!? これを10倍!?」
文字が読めるユーノは内容を把握していた。レイジングハートはスパルタなのか、恐ろしいメニューがそこには書かれており、これを10倍するとなると体が持たない。
「誰も、毎日しろなんていっとらん! 1週間でせめて自分の身を守れるぐらいなれって事だ。まぁメニュー10倍ってのはそれぐらい必死にやれって言う……そう目標だな」
「はぁあ……」
「そんじゃあ、1週間後またここで落ち合おう……じゃあな」
「え? 岩井さんは一緒にやってくれないんですか」
俊秀が去ろうとした時、なのはが引き止める。どうやら、練習を見ていて欲しそうだが俊秀はここにいるわけにはいかなかった。
「ああ、俺にはやる事があるんでね」
「やる事って」
「ん? んなもん、1週間ジュエルシードを探せないお前等の代わりをするだけだよ」
「それじゃあ……」
「手伝ってやるさ、ジュエルシード集めをな……じゃ、しっかり励んで強くなれよ高町」
手を振りながら、俊秀は去っていくが再びなのはに呼び止められる。
「岩井さん!! ありがとうございます!!」
(御礼されるような事はしてないって)
俊秀はふっと笑ってから再び歩き始めたのだった。
次回もよろしくお願いします。