壊し屋 俊秀   作:遼明

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第3話 暗闇の中で

 深夜、辺りは木々のせいで暗いが、葉と葉の間を通って月明かりが照らしているのおかげで先が見えないことはない。だが音は闇に溶け、風で葉っぱが擦れる音も虫のさざめきさえも聞こえない。闇がこの一帯を支配し、時が止まっているのではないかと錯覚させる。

 俊秀はカスミを連れ、国守山(くにかみやま)の中に入り奥へと進んでいた。知っている山でも夜遅く入るのは非常に危険なのだが、こんな時間に山に入ったのは理由があった。

 先日、なのはとユーノに別れを告げた後、早速ジュエルシードの捜索を開始したのだが、本来は魔法を使って探すものなのに、俊秀はシックスセンスを頼りに探すがそんなので見つかったら苦労しない。このままでは埒が明かないと思った俊秀は新聞やらインターネットなどを使い、海鳴市内の情報をかき集めた。そして、世間話をしていた近所の人の口から興味深い話を耳に挟んだのだった。

 

『国守山から毎晩、不気味な叫び声が聞こえてくるんですよ』

『えー? それは本当ですかぁ?』

『本当なんだって、昨日なんて特に酷かったんだから、夜もおちおち寝られないわ』

 

 俊秀は直感的に何かあると判断し装備を整えてから国守山に向かったのだった。

 そして、俊秀が現在持っている装備は鉄パイプ、背負っているリュックの中には水、缶詰15缶、包帯、そして米焼酎『白い悪魔』。ちなみにカスミを連れているのは、家には誰もいないため世話する人がいない。場合によっては何日か山で過ごす可能性があるため、カスミを連れてきたのだ。

 俊秀が山の中に入って2時間が経過した。

 

(不気味な山だな……さっきからずっと観られている様な気がする)

「くぅん……」

 

 山の中の気配が変わってくる。それを敏感に感じ取っているのかカスミは少し怯えた声で鳴いた。俊秀は深呼吸をしてから周囲を見渡し状況を確認する。

 気温が随分と下がっている。整備されなかったために乱雑に生えた草や木が少しずつ霜がつき、先程まで無音だったこの場所はなにやら音が聞こえる。吹き始めた風は冷気と音を運び、俊秀に恐怖を覚えさせる。

 

(俺が思っていた以上に、ここはヤバイな……惜しいが引き返すか?)

 

 緊張により額から流れる汗を両手首に着けているリストバンドで拭いながら考える。ここに何かあるのはほぼ間違いない。引き返して日を改めるのも良いかもしれない。だがここで引き返えせば、次の日も同じ現象と出会えると思えない。結局、俊秀は引き返す事をやめ、再び山の奥へと歩みを進める。

 それから5分後、不自然に整備された場所に出る。上を見上げると空が広がり満月と星がよく見えた。

 

『……ユ………………イ』

『……ス…………テ』

『…………コ……シテ』

「!? 誰だっ!!」

 

 俊秀は鉄パイプを強く握り締める。俊秀の周りから様々な声が聞こえる。どの声も何を言っているのか全く分からないが聞いているものに恐怖を植え付けるには十分だった。

 俊秀の汗は尋常じゃないほど流れている。全神経を集中させるため、深呼吸をするが精神を持っていかれそうな感覚に陥る。俊秀は思わず膝を折ってしまう。心配したのかカスミは俊秀によってくる。

 

「くぅん……」

(一体何なんだ!? 気が狂いそうだ……)

「おやおや、こんな時間にここまでくる奴がいるとはな」

「!? ……お前は何者だ」

 

 俊秀は気を入れて立ち上がり目の前に突然現れた男を見る。男は白衣にヨレヨレのTシャツとジーパンを履いている。身体は服の上からもやせていることがはっきりと分かり、顔までやせているため生きた骸骨を連想させた。瞳はまるで死人のように白濁しているが、その瞳の奥から得体の知れない何かが見え隠れしていた。

 

「まぁ、大方これを求めてきたんだろうが」

「そ……それは!?」

 

 男は懐から青く光る宝石『ジュエルシード』を取り出した。

 

「我々も運がよかったね。まさかロストロギアを乗せた輸送機が事故になるとは」

「答えろ!! お前は何者なんだ!?」

「それを君に答える義理はない。それよりも少し話をしないかい? このジュエルシードの有効的な使い方とか……」

「勝手に暴走するような物に有効的な使い方があってたまるか!!」

「確かにそれは御尤もの意見だね。でも、それを入れても見返りは十分あるのだよ」

「……どういうことだ」

「お? 乗り気になってきたみたいだね。いいだろ教えよう。ジュエルシードには膨大な魔力が秘められている。それが制御できずに願いをかなえると言う形で暴走してしまうんだ。もし短時間制御できるならどうなると思う?」

「そりゃ……脅威になるだろうな。あの回復能力、弱点を狙わないとまず勝てんな」

「おや、その口振りからすると君は暴走体と戦った事があるようだね。これは面白い」

 

 男は不気味な笑いをしながら、俊秀を見つめる。その動向に危険を感じた俊秀は持っている鉄パイプを握りなおす。

 

「よし、このジュエルシードは君に渡そう」

「……本当か?」

「勿論、本当さ……でも、俺の作品に勝てたらな!!」

 

 男はジュエルシードを掲げる。その瞬間、ジュエルシードの輝きに視界を奪われるがすぐに収まり俊秀は男がいたところを見た。

 

『タスケテタスケテシネタスケテタスケテコロスタスケテタスケテシネタスケテタスケテタスケテタスケテコロスタスケテタスケテシネタスケテコロスユルシテユルシテユルシテユルシテユルシテコロスユルシテユルシテユルシテユルシテユルシテユルシテユルシテユルシテコロシテシネコロシテコロシテシネコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテシネコロシテコロシテコロスコロシテコロシテ』

「何なんだよアレ……!?」

「このジュエルシードは暴走により黄泉の世界にリンクしたんだ。そこで俺が、ちょっと手を入れたら、なかなかの魔道兵器が出来たんだよ!! 面白いだろう!?」

 

 俊秀の目の前に現れているのは黒い巨大な人間だが、体中には人の顔がありその口からは助けを呼ぶもの、泣き叫ぶもの、殺人衝動を起こしているものの声が俊秀の耳に届いた。

 しかし、どの声も共通するものがあった。苦しんでいるのだ。理由は分からない、でも俊秀は男に対し怒りをあらわにした。

 

「お前……これは死者への冒涜だっ!!」

「冒涜? ふん、面白い事を言うな。何の根拠があってそんなこと言う。死人に口無しと言うようにそんなことを立証できるものがいるのか? むしろ、感謝されたいぐらいだよ。この世界に再び蘇らせてくれたってね」

「お前は……お前には、この声が届かないのか!?」

「ふむ、お喋りはここまでにしよう。そろそろモニタリングも始めたいしね。簡単に死ぬなよ」

 

 男は俊秀とジュエルシードの暴走体を残し、霧のように消えていった。

 俊秀は背負っていたリュックを投げ、カスミに隠れているように指示した後、暴走体を観察する。体の大きさは目測5メートルほどで、腕はゴリラのように太い、あの腕から振り下ろされる一撃は、間違いなく必殺だろう。しかし、巨大な身体と腕に対し、足はそこまで長くない。移動スピードは早くなさそうだがそれをカバーするかのように体中には人の顔があるため恐らく死角をつく攻撃は出来ない。

 

『タスケテコロスシネユルシテコロシテシネコロスタスケテコロシテユルシテ……』

「今、楽にしてやる」

 

 鉄パイプを強く握り締めた俊秀は一気に駆け出す。それを見た暴走体は太い腕を振り回す。振り回した腕は俊秀に当たる事はなかったが木に当たるとそのままなぎ払われた。その攻撃力を見て俊秀は少し顔が青くなるが今回の暴走体の攻撃はモーションが大きく動きが読みやすい。無理に攻撃しにいっても落ち着いて行動すれば避けられない事はなかった。

 俊秀は落ち着きながら暴走体に対し、頭と体を狙ってヒット・アンド・アウエーを繰り返すのだが決定的なダメージを与えられていなかった。

どうやらその部位はかなりの防御力があるようで、このまま攻撃を続けても駄目だろうと判断した俊秀は暴走体の足を狙う事にした。

 観察するにこの暴走体の足は発達していない。今の装備では恐らくその場所以外攻撃を通せないだろう。ただ暴走体の攻撃範囲に深入りしてしまうので少々危険な賭けだが狙うしかなかった。

 ならばと意を決し自分の攻撃範囲に入るため、取っていた距離を縮める。暴走体は俊秀の狙いに気付いたのかそれを防ぐ為に腕を振り回す。俊秀は何とか暴走体の攻撃を全て避けきり、足を狙って鉄パイプを振るが…………。

 

「グアラァァァァァァァァァァァァァァ!!」

「!?」

 

 暴走体は大きく跳躍し俊秀の攻撃を軽々と避け、押しつぶそうとそのまま落下してくる。俊秀は相手の狙いに即座に気付き、すぐさま離れようとするが何者かに両足を掴まれる。

 

「!? ……何だ!!」

『イ……チャ…………ダメ』

(嘘だろう――――何でこのタイミングで死霊が)

 

 俊秀は急いで振り払うが既に暴走体は俊秀目掛け落ちてくる。もう避けられない、死を覚悟した俊秀は目を瞑る。

 

『大丈夫……貴方は死なせない』

「え?」

 

 不思議な声が聞こえ、思わず目を開けてしまう。目の前には結界のような障壁が現れ俊秀を覆い、暴走体ののしかかり攻撃を止めていた。だが暴走体はその結界を砕くため、のしかかりながら自身の拳を叩き込んでいる。

 

(訳分からんがとりあえず、助かったみたいだな……しかし、砕かれるのも時間の問題だぞ)

 

 攻略の糸口を探す為、俊秀は思案する。暴走体はかなりの防御力があり、まともな攻撃はまず効かないであろう。唯一効きそうな部位は足なのだが効くのか分からない上に、近付くにはまたあの猛攻を避ければならない。

 

(――――やはり正面突破あるのみか!!)

 

 俊秀は腹を括った。気合を入れるために両手で顔を叩き、鉄パイプを持ち直してから暴走体を見る。暴走体が攻撃していた結界は今にも割れそうだった。俊秀はゆっくりと構え呟くように言う。

 

「…………その呪縛きっちり壊させてもらう」

 

 暴走体がついに結界を破り、そのままの勢いで俊秀に拳を振り下ろす。それと同時に俊秀はバックステップで攻撃を避ける。暴走体は追うように次々と拳を振り下ろすが、モーションが大きく、動きも遅いため、簡単に避けられる。

 

『モウイヤダタスケテカイホウシテ……』

「ああ、今助けてやる――――次の一撃で!!」

 

 俊秀はさらに気合を入れるため、意気込む。勿論、俊秀には一撃で葬り去る様な攻撃はない。だが負けるわけにはいかない。苦しんでいるものがそこにいるのだ。今すぐ開放してあげたい。その気持ちが今の俊秀を後押しする。

 暴走体は当たらない攻撃にイラついてきたのか、渾身の力で拳を振り回し始める。しかし、それの攻撃は俊秀にとって隙だらけの攻撃だった。俊秀は木を使って高く跳躍する。鉄パイプを振り上げ、暴走体を一撃で倒すつもりで頭を狙う。

 

「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 気迫で振り向かれた鉄パイプは突如変化が起こる。熱を発し始め炎を纏う。炎を纏った鉄パイプは暴走体を高温で切り裂いた。切り裂いた際、余った火力で大きな火柱ができ、暴走体を包み込む。暴走体は炎を撒こうと必死で暴れるが撒く事は出来ず、おぞましい叫びを上げて肉体は崩れて灰となる。

 しばらくのあいだ火柱は天まで届いていたがそれも消え、残ったのは暴走体の核、青く光るジュエルシードだった。

 

「…………はっ!! 何や!? 何で、火柱なんかできんねん!? てかあつぅ!? 一体何が起こったんや!?」

 

 しばらく、放心状態だった俊秀は突如パニックに陥る。目の前に現れた火柱は暴走体を包み込み肉体を跡形もなく消したのだ。パニックになるのもしょうがない。

 しばらく、パニック状態が続き、地面をのた打ち回っていたが、心配でよってきたカスミに顔をなめられてやっと平常心を保つことが出来た俊秀は、とりあえずジュエルシードを回収した。

 

「これで、黄泉の世界に帰れたのかな……」

「くぅん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? ここは、国守山に入った場所じゃないか…………」

 

 気付けば、俊秀は国守山の入り口に立っていた。荷物は俊秀の足元に置かれていたので、中身を確認すると『白い悪魔』だけがなく、最初は化かされたと思ったがポケットにはジュエルシードが入っていた。

 

「もう……わけわからん。帰って寝よ……今日は休日だし」

 

 ゆっくりと荷物と背負い、歩いて帰るのだった。

 

 

 

 後日、俊秀は花束を持って国守山に訪れるが、前と同じ場所にはいけなかった。ジュエルシードが生み出した世界だったのかもしれないと思い、国守山の入り口に花束を置いて家に帰るのだった。

 

「彼らに安らかな眠りと冥福を祈る」




次回もよろしくお願いします。

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