壊し屋 俊秀   作:遼明

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第5話 成れの果て

 太陽が沈み、夜が支配する時間、海鳴大学病院では騒然としていた。原因はオフィス街の爆発だった。それにより負傷者が病院に殺到、この時間になっても未だ負傷者は運ばれて来ているのだ。

 騒然とする病院内で1人、手術室の前にあるベンチでずっと座っているなのはがいた。彼女は何時間もそこに座り込んで手術が終わる事を待っている。泣き嗄れるまで泣いていたのか目が充血し周りが腫れていた。

 

(ユーノ君、岩井さん助かるよね……)

(―――砲撃魔法に加えて、腹部の貫通……それによる流血、一般人ならショック死してもおかしくないダメージを岩井さんは食らっている。正直、助かるかどうかは僕にもわからない)

 

 ユーノの返答になのははさらに暗い顔になる。ユーノはなのはの傍で慰めたいがここは病院のため、中に入ることが出来ない。ユーノは再びなのはに念話を飛ばす。

 

(ごめん、なのは……僕のせいだ。僕がジュエルシードを見つけなかったら、この世界に来なかったらこんな事にはならなかったはずだ)

(そんなことはない!! 悪いのは私だよ。私があの時、突っ込まなかったら結果が変わっていたかもしれない……なのに)

 

 なのはは自分を責める。あの時もっと最善な手があった筈だ。それを自分で潰してしまった。逃げろと言う俊秀とユーノを無視し、怒りに任せ突っ込んでも化け物に軽くあしらわれ、殺されると思った自分は満身創痍の俊秀に庇われる。

 結局、私は場を無駄に掻き回しただけだ。そんな考えがなのはの心に暗い影を落す。

 突然、手術中ランプが消え、入り口からオペをしていた医師が出て来て高町の前に立ち手術結果を淡々と言う。

 

「なんとかオペには成功しましたが……本来なら死んでいてもおかしくないような傷を受けています。そのため、かなり危険な状態です」

「え? それって――」

「……彼は今、危篤状態です。我々も手を尽くしましたが―――覚悟だけはしといてください」

「そんな……」

 

 なのはに俊秀の様態を伝えた医師は非常に悔しそうな顔をし、再び手術室に入っていく。なのはは呆然と立ち尽くすのだった。

 

 

 

 

「なのは……どうだった?」

「………………」

 

 病院から出てきたなのはを見つけたユーノは手術結果を聞きになのはに声をかけるが返答はない。心境を察したユーノは帰路につこうとしている彼女の肩に乗った後、お互いに無言だった。

 帰り道、高町家が見えるまで静寂が続くが、最初に重たい口を開いたのはなのはだった。

 

「ユーノ君、私もう一度、あの暴走体と戦いたい」

「え? ……駄目だよ、1人で戦うなんて―――」

「うん、わかってる――――でもこのまま引き下がるわけにはいかない」

「気持ちはわかるけど、あの暴走体は並みの能力じゃない……正面から戦ったら岩井さんの二の舞になるかもしれない」

「それでもっ!! 私は町をめちゃくちゃにして、岩井さんをあんな怪我させたあいつも許せない、でも一番許せないのは岩井さんが危篤状態に陥った原因を作った私……足を引っ張るなんてもうしないから、ユーノ君お願い、力を貸して!!」

「なのは……」

 

 なのはの思いにユーノは困惑していた。ユーノは今日の一件でなのはをジュエルシードの回収に手を引いてもらおうと思っていた矢先だった。気持ちはわかるだが、今回の事件は何者かが関わっているのでわないかと考えている。本来、この海鳴市全体落ちているはずのジュエルシードの反応がこの一週間全く感知されないのはおかしいのだ。

 ユーノが発見したジュエルシードは全部で21個、それが最初の1個目を除いたら発動を確認できたのは今回が始めてである。ジュエルシードが発動しない事はいいが、あと19個あるジュエルシードがここまで発動しないのは何か人為的なものを感じる。だからこそなのはの手を引かせようと考えていたのだがもう手遅れだろう。

 この1週間、魔法の練習を一緒に行ってきたユーノはなのはの性格をある程度理解していた。こうなってしまったら止められない。

 

「わかった。力を貸すよ」

「本当!?」

「ああ、でも僕は勝てない勝負はしない。……勝つ為には、なのはに覚えて欲しい魔法がある」

「覚えて欲しい魔法?」

 

 ユーノの言葉に耳を傾けるなのはだった。

 

 

 

 

 そして、時が流れ3日後……。

 辺りは暗く、何もなくなったオフィス街。そこで佇む化け物がいた。その化け物は切り落とされた右腕がさらに太くなって再生していた。そして、胸元にあるジュエルシードの輝きは元に戻っていた。

 それを遠くから確認していたユーノはどこかでスタンバイしているなのはに念話を飛ばす。

 

『なのは……最終確認するよ。あいつには絶対近付いてはいけない』

『わかっているよ。私の戦い方は後衛型、それを活かした戦い方をすればいいんだね』

『戦闘が始まり次第、僕も仕掛けに入る……なのは、絶対に熱くならないでね』

『わかってるよ。じゃあユーノ君、行ってくるね』

「よし、レイジングハート行くよ!!」

『Ok. Mater』

 

 なのはは化け物がいる方へレイジングハートを構え、自身の魔力を集め始める。

 

「先手必勝、ディバインバスター!!」

『Divine Buster』

 

 レイジングハートに集められた魔力は砲撃となり、化け物へと襲い掛かる。砲撃は直撃し、化け物は土煙が上がり中に消える。

 

「よし、直撃!! レイジングハート、次に行くよ」

『Ok』

 

 なのはは空に駆け上がり、土煙が上げっている場所を見る。ゆっくりと晴れていき、そこにいたのは無傷の化け物だった。

 

「不意をつくとはいい狙いだが、防がれたら意味ないな……小娘、覚悟しろよ」

 

 化け物は俊秀には見せた高速移動と跳躍でなのはに近付こうとするが、突然強い引力に体が引っ張られるような感覚に陥り、そのまま拘束される

 

「ぐ……何だこれは」

「これは、レイジングハートがあなた用に作った拘束魔法」

『Gravity Restrict Lock』

 

 そうこれがなのはが新しく習得した技であった。この化け物は攻撃力も危険だが、それ以上にユーノはスピードの速さを懸念していた。今までユーノが教えてきた魔法は俊秀が前衛をする想定で後衛型だった。その為、接近戦になるとかなり分が悪くなる。そこで相手の速さを封じる為にチェーンバインドを教えるつもりだった。だがレイジングハートが『I need to construct a new way type. (私が新しい術式を組みましょう)』と発言、そして出来た魔法が『グラビィティ・レストリクトロック』だった。

 発動から完成までの間に指定区域内から脱出できなかった対象全てをその場に固定し、捕獲輪で動きや移動を封じる、通常のレストリクトロックの違いはやはり発動から完成までの間に指定区域内で強力な重力が発生し相手の動きを止め、そのまま捕縛する事が出来るのだった。

 

「くそっ――――こんなもの引きちぎって」

「チェーンバインド!」

「!? 小動物が……!!」

 

 化け物の身体に巻きつく鎖は完全に動きを止めた。必死に化け物はもがくが二重のバインドにより全く動ける気配が無い。ここがチャンスとばかりにユーノは声を張り上げる。

 

「なのはっ、今だ!」

「この攻撃、受けてみて!!」

 

 なのはは自身の魔力を集束していき、魔方陣が展開される。そして、集束された魔力が放出される。

 

「ディバイン…………バスター!!」

『Divine Buster』

 

 放たれた桃色の閃光が化け物を包み込み、大爆発を起こす。砂埃が舞い化け物がどうなったかわからないがなのはは構えを解かなかった。ゆっくりと晴れていく、そこには地面にべったりとうつ伏せになって倒れている化け物がいた。

 

「……やった、あいつを倒した」

「なのは、今のうちに封印を」

「うん、わかった」

 

 なのはは化け物についたジュエルシードを封印する為、構えを解いた。だが、この瞬間倒れていた化け物は起き上がり、近くにいたユーノを蹴り飛ばた。

 

「――――!?」

「ユーノ君!!」 

「小娘、あの攻撃は効いたぞ。3日前ならやられていたかもしれん」

 

 化け物は体をなのはに見せる。ディバインバスターを受けた部分は、トマトを潰したようになっているがそこから、糸ミミズに見える何かが伸びている。それらが絡まりあい最終的には怪我を綺麗に治した。

 

「そんな……」

「さぁ、覚悟はできているな。小娘!!」

 

 その瞬間、化け物はなのはの目の前から消え、気付けば真後ろにいた。化け物はなのはを地上に下ろす為、踵落しを打ち込み、思いっきり地面に叩きつける。そのまま、化け物は地面に落ちたなのはをそのまま追撃する為、左腕を前に突き出し光の円が現れる。

 

「小娘、これを耐え切れるかな?」

 

 閃光が辺りを包み込み、何もなかった場所が大きな大穴をあける。閃光が収まりその中心にはバリアジャケットをボロボロにしながらも、レイジングハートを杖にして立ち上がろうとするなのはがいた。

 

「ほう、お前もあの小僧同様にタフだな。評価を改めなくては」

「わ……たしは負けない」

「いい気迫だ。だがどんなに強い気持ちがあっても、それが実行できる力がなくてはただ腐っていくだけなんだよ。前までの俺のように!!」

 

 化け物は華麗に着地した後、なのはにゆっくりと近付いていく。

 

「小娘の後世のために言っておこう。気持ちなんて必要ない、必要なのは全てを圧する力だ!」

「私はそんなこと思わない、思いたくもない。だから私は最後まであきらめない」

「そうか……小娘、じゃあな」

 

 化け物はなのはに止めを刺すため、右のストレートを打ち込む。

 辺りに金属音が辺りに響く、これで終わったと思っていた化け物は驚いた表情ではなかった。むしろ目の前で拳を止めている男を見て、にたりと笑う

 

「来たか、小僧ッ!」

「助けに来たぜ……高町」

 

 俊秀は鉄パイプで化け物の拳を受け止めていた。そのまま鉄パイプで薙いで軽く化け物と距離を開ける。

 

「岩井さん、よかった……もう、目を覚まさないと―――」

「おいおい、心配してくれんのは嬉しいが勝手に殺すな……高町、少しはなれてな。コイツは俺が仕留める」

「仕留める? 小僧が俺を? 面白い事を言うな。さぁスパーリングの再開だ」

 

 そう言って化け物は構える。俊秀も鉄パイプを両手で握りなおすが、その鉄パイプは心なしか冷たかった。

 お互いにらみ合ってから、まず最初に動き出したのは俊秀だった。化け物との距離を縮め、攻撃範囲に入り鉄パイプを振り下ろす。それを化け物は右の拳でいなし、左の拳で俊秀を狙うがいなされた鉄パイプを器用に回しそれを防ぐ。拳と鉄パイプがぶつかり合う音は、この辺りを異様な雰囲気にしていた。

 

「はぁはぁはぁ……」

「人間とは脆いものだな……。怪我をしてもすぐに治る事はない。小僧、あちこちから血が滲み出ているぞ?」

「こんなの問題ない……俺は戦える」

「ふん、小僧もそこにいる小娘同様、人間として進化した俺に挑み、勝てるはずのない勝負を仕掛けている。はっきり言って無駄だ」

「無駄かどうかと決めるのは自分自身だ」

 

 化け物はそう言って、ピッチを上げてくる俊秀はそれについていく事しか最早出来てない。俊秀の体は悲鳴をあげ、閉じかかっていた傷も開き、血が流れ出る。だが俊秀の目は諦めが見えない。最早気持ちだけで戦っていた。

 

「お前は……お前等は何故ボロボロなのにそんな目が出来る? 戦えるんだ!!」

「そんなもん、負けたくないんだよ…………お前にな。どんな経緯でジュエルシード(それ)を手に入れたかは知らない。お前がジュエルシード(それ)に託した願いも知らない。だがな理由がどうであれ、そんなものを頼ってまで力を得た人間になんざ負けるわけにはいかねぇんだよ」

 

 俊秀の発言に化け物は攻撃を止め、突然俊秀に怒鳴りつけた。

 

「そんなものだと……お前に何がわかる!? 俺は手足が思うように動かなかった。精神的にも限界だった。3年間サンドバッグを叩き続けても思うように動かない。俺はリングに立ちたい……!! ただそれだけだったんだ!!」

「なら何故この町のオフィス街を壊した? 消した? お前がジュエルシード(それ)の力に踊らさせ何十人、何百人が死んだと思っている? お前のせいで何人もの人が悲しみ泣いているんだぞ」

「俺は、俺は、俺は、ただ…………………………リングニタチタカッタダケダ」

 

 突然、化け物の胸元にあったジュエルシードがまぶゆい光を放ち始める。その光は化け物を包み込み体を大きく変化させていく、俊秀は化け物との距離を取り為、後方に下がろうとするが、余りの揺れで動く事が出来ない。

 ゆっくりとジュエルシードの光が和らいでいく俊秀の目の前に現れたのは体長3メートルの人の形をした謎の生物だった。背中には触手のようなものが何十本も伸びており、体にはあちこちに口があった。

 

「これは、ジュエルシードが本格的に暴走し始めたか……!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 俊秀はこの化け物を見て、どこかむなしい気持ちになる。再びリングに立つ事を夢見た者の成れの果てがこんなにも醜い姿になるとは思っていなかった。恐らくジュエルシードを完全に取り込んでしまった事が原因だろう。もう二度と人間に戻れないかもしれない。

 

「……せめて、あの醜い姿を壊してやる」

 

 俊秀は鉄パイプを握り駆け出した。化け物は大きな雄叫びを上げ背中にある触手を伸ばし、近付く俊秀を牽制する。俊秀は薙ぎ払うように鉄パイプを振り邪魔な触手を斬ろうとするが、鉄パイプに熱が帯びてないため、斬れる事はなかった。

 

(駄目だ。今日の鉄パイプは熱が帯びない……でも引き下がるわけには行かない)

     

 俊秀は気合を入れ、鉄パイプを握り直す。すると鉄パイプに変化が起き始めた。鉄パイプが急激に冷え始め冷気を帯び、鉄パイプに氷が形成され刃の形になっていく。俊秀が変化に気付いた時には鉄パイプは氷の刃がついていた。

 

(もう……わけわかんね。この鉄パイプは普通じゃないのか!?)

 

 考えてもわかる筈がないのですぐに切り替え、戦闘に集中する。鉄パイプに氷の刃が出来たおかげで簡単に切裂けるが、刃渡りが短い為リーチが短い。その為、本体に切り込んでも余りダメージを受けていないようだった。

 

(短すぎる……もっと長くはならないのか)

 

 すると刃は長くなり先程の2倍の刃渡りとなる。俊秀は驚きを隠せないが、そのまま動きが悪い本体に切り裂いて化け物との距離を取り、触手の攻撃を警戒する。だが触手による攻撃が来ない。おかしいと思った俊秀は相手も観察すると触手の切り裂いた部分が凍っていて再生を阻害してるようだった。化け物はそれに気付いていないようで、触手を出そうとしていた。

 

「身体能力だけでなく、知能も低下しているのか……あれが元人間と思うと見るに耐えないな。次の一撃で開放してやる」

 

 俊秀は深呼吸をして、鉄パイプを両手で握る。鉄パイプはさらに冷気を帯び、氷の刃を成長させ、周りの温度を変化させた。狙いが定まった俊秀は化け物に一気に近付き氷の刃を下から上に振り上げる。

 

「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 俊秀の攻撃に何も対処できなかった化け物は見事、真っ2つに切られる。その後肉体は、凍ってしまったかのように真っ白になった後、肉体が崩れて跡形もなくなり、残ったのはジュエルシードだけだった。

 

「最後はあっけなかったな……」

 

 そこにいたはずだった。化け物の場所をボーと見て、呟く俊秀だった。しばらく、ボーとしていると後ろからなのはの声が聞こえたので振り返る俊秀だった。

 

「岩井さーん!! 大丈夫ですか!? ……体中真っ赤じゃないですか、早く手当てしないと……」

「……そういえば俺、危篤状態に陥っていたそうだな。心配かけた」

「本当に心配してんですよ……死んじゃうんじゃないかって――いつ目覚めたんですか?」

「昨日だよ。医者曰く、奇跡が起きたって言ってたな……そうそう、ジュエルシードがあそこにあるから封印してくれ」

 

 俊秀はジュエルシードの場所を指差し、なのははすぐに回収したが、どこか悲しい目をしていた。

 

「……このジュエルシードのせいで大勢の人が死んでしまったんですね」

「そうだな……今回は、それほど大きな戦いだった」

「岩井さん、私もっと強くなりたい。みんなを守れるぐらい」

「強くなれるさ。俺は魔法の事はわからんが協力はする。さて、そろそろ帰ろうぜ。夜も遅い、俺なんて面会謝絶の身でこっそり病院抜け出してきたからな。ばれたら大目玉だ」

 

 俊秀は病院に向かって歩き出すが、いつまで経っても歩き出さないなのはに気付いた俊秀は振り返る。なのはは何かを決意したような表情をしていた。

 

「岩井さんっ! 名前で呼んで良いですか?」

「勿論だ。ただし『さん』じゃなくて『先輩』な。『さん』よりかは親しみやすいだろう?」

 

 俊秀はニッと笑いながらなのはに言う。なのははそれを満面な笑みで返す。

 

「はい、俊秀先輩! 私もなのはって呼んで」

「わかった。じゃあ帰るかなのは」

 

 俊秀は病院へ、なのはは自宅への帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕のこと忘れないでーーーー!!」

 

 フェレットの声は彼らに届くのか?




次回もよろしくお願いします
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