壊し屋 俊秀   作:遼明

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第6話 病院生活

 海鳴大学病院では、1人寂しく俊秀が入院している。かなり扱いが悪く、ほぼ監禁状態だった。何故このような扱いを受けているのか。理由は簡単、勝手に病院を抜け出した事がばれたのだ。しかも血塗れで帰って来たので、担当医の雷が俊秀に落ちた事は言うまでもない。そのせいで俊秀がいる病室には常に見張りがいると言う普通の病院ではありえない体制になっていた。ただし、面会謝絶は解除されているが見舞いに来る人がいないので、暇を弄ぶ事になっていた。

 

「患者なのになんでこんな扱いに?」

「黙れ問題児、お前の体はお前が思っている以上に重体なんだぞ。少しは体を大切にしろ」

「(この程度の怪我問題ないと思うんだけどなぁ)……わかりましたよ」

 

 溜息を吐いてから窓の外を眺める。遠くの方に見えるのは荒れ果てた地、前まではオフィス街があった場所だった。

 俊秀は1週間ほど前にあそこで化け物と戦った時の事を思い出していた。化け物の胸元に埋め込まれた青い結晶体『ジュエルシード』、その生み出す力は暴走するまで驚異的な運動能力を発揮させた。恐らくあれを作ったのはゴスロリの少女。何が目的であのようなモノを作っているかは謎だが、少女の言っていた『テキスト』と言うものが関係しているのだろう。しかし、『テキスト』が何の事かわからない状況では謎が深まるばかりである。

 

(くそっ……わからない事だらけだ。それに鉄パイプの事もあるしな)

 

 俊秀は横に置いてある鉄パイプが入った麻袋に視線を移す。最初はただの鉄パイプと思っていたが最近、力の片鱗を見せて来ている。何故あのような現象が起きているのかは不明だが、これから先、あの時の化け物と戦う事があれば、いつでも発動できるようにしておきたい。

 

(今までで発動したのは3回、共通している事があるのか?)

 

 再び、思考の海へと入ろうとした時、病室にノックの音が部屋に響き渡る。

 

「珍しいな。坊主に見舞いか……俺は外に出ているが、逃げようなんて考えんなよ」

 

 男は一言俊秀に言い残して、見舞いに来た人と入れ違ってに出て行った。男と入れ違いに入って来たのは見た目が若そうなカップルだった。俊秀は見覚えがなく、少し警戒しながら男の顔を覗く。

 

「君が岩井君かい?」

「はい、そうですが……貴方は誰ですか」

「僕の名前は高町士郎、高町なのはの父親だよ。こっちは妻の桃子」

「よろしくね、岩井君」

「ああ! なのはちゃんのご両親でしたか……で俺に何か御用で?」

「君に言っておかなくてはならない事があってね……うちの娘のせいでその怪我を負ってしまったらしいね……すまない」

「え? この怪我は俺が……」

「なのはからはある程度話は聞いている。君が身を挺して化け物から守ってくれたんだろ、娘を助けてくれた事実は変わらない、ありがとう。君には感謝しきれない」

「俺は……大した事はしてないですよ」

「そんなことはない。君は1人の命を救った……それは誇るべき事だ」

「……………………」

 

 俊秀は士郎のの言葉を聞いて考えていた。本当に誇るべき事なのか、あの時、現場にいた俺は何も出来なかった。化け物と交戦し、一瞬で多くに命を失った。助けたのはその1パーセントにも満たないたった1人。さらに言えばオフィス街にいた助けを呼ぶ人は誰1人救えなかった。それで誇れるのか?

 気付けば俊秀は拳を強く握り締めていた。

 

「岩井君。君の気持ちはわかる、でもあまり思い詰めない方がいい。君が潰れてしまう……少し話が変わるが岩井君の親御さんは今日は来るかな? 話がしたいんだ」

「……両親は来ませんよ。2人とも行方不明ですから」

「え!?」

「両親は5年前、2人で出かけたっきり戻ってこないんです。今は、ばあちゃんの仕送りで暮らしていますから金銭面ではご心配なく」

「……岩井君は1人で大丈夫なのか」

「今まで1人でしたし、今更問題ないですよ」

 

 俊秀はにっと笑いながら言う。だがその顔を見た士郎と桃子は心配になる。そこで桃子は俊秀に提案した。

 

「岩井君、今度私たちの家に遊びに来なさい。夕食をご馳走するわ」

「お! それは良いな! 岩井君、怪我が治ったら是非家に来なさい」

「え? いいですよ。そんな気を使わなくって……」

「――――来なさい」

「は……はい、機会があれば――――」

 

 満面の笑みで言う桃子の迫力に負けた俊秀は頷くが、桃子はさらに俊秀を逃がさない為、追い討ちをかける。

 

「もしすっぽかしたら、士郎さんの御神真刀流を全力で受けてもらうわ」

「……なんすか、その御神なんちゃらって」

「桃子、それはやり過ぎじゃ……」

「士郎さん、やってくれるわよね?」

「岩井君、ここは穏便に来てくれる事を約束できないか?」

(変わり身早ッ!?)

 

 俊秀は士郎の変わり身の早さに脱帽した。ちなみに士郎の目が本気になっていた。恐らく桃子は高町家の頂点に立つ者だろうが、一言だけでここまで人の考えを変えられるのは恐怖政治みたいな事をしているのか微妙に気になった俊秀だった。

 

「わかりましたよ……暇さえあれば、お邪魔しますよ」

「暇はあるものではないの、作るものなのよ岩井君」

「…………頑張ります」

「まぁいいわ、士郎さん。そろそろお店に戻らないと」

「そうだな……岩井君、絶対に来てくれよ。こちらは飯がかかっているんだ―――それとコレは連絡先だ。退院後、必ず連絡するように」

「さいですか」

 

 最後に俊秀の両肩を掴み、頼むように言った士郎だった。

 

(確かに飯抜きはきついよな……)

 

 士郎と桃子が病室から去った後、なんとなく桃子が高町家の頂点に立つ事を納得した俊秀だった。

 

 

 

 

 あれから1週間後、俊秀は担当医に診察を受けていた。

 

「うん、完治だね。明日、退院しても良いかな」

「本当ですか!? やっと味気のない病院食から開放される!!」

 

 俊秀の歓喜に苦笑いしながら担当医は手元にあったカルテを見ながら言う。

 

「それにしても君の回復力には驚くばかりだよ。危篤状態からの回復、その後の怪我の自然治癒力」

「いやぁ、それほどでも」

「後、怪我人の癖して僕の許可なしに勝手に外出して、血みどろで帰ってくるし ……………君には本当に驚かされたよ」

「ぐっ……すいません」

「いいよ。岩井君が生きているなら問題はない。でも気をつけてね、君の命は君だけのものじゃない。軽率な行動はやめるようにね」

「……出来るだけ気をつけます」

「本当に理解しているのかな。まぁ君が命に携わるような仕事に就けばわかる日が来るよ。今日の診察はこれでお終い、完治おめでとう」

「先生、ありがとうございました」

 

 そう言って、担当医は俊秀を残し病室を去った。病室には以前とは違い見張りがいない為か広く感じる。そして、俊秀はポツリと呟く。

 

「君の命は君だけのものじゃない――――か」

 

 この言葉が空しく病室に広がった。




次回もよろしくお願いします。
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