海鳴市湾岸倉庫、深い闇に支配された海を見ている2人の少女がいた。その少女は2人とも体を隠すようにマントを羽織っており、そのマントは風でなびいていた。
人の気配を感じ取った2人の少女は同時に後ろを振り返る。その視線の先には、黒髪で黄金色の瞳を持ち、両腕に白いリストバンドをつけた少年と金髪でルビーのように赤い瞳の少女がいた。
「やっと来てくれたようだね。岩井君、そしてフェイト君」
「俺の名前だけでなく、フェイトの名前も知ってんのか。お前等は一体何者なんだ」
俊秀は麻袋から鉄パイプを取り、2人の少女に対して構える。フェイトもポケットから三角の形をした物を取り出す。
「バルディッシュ、セットアップ」
『Setup』
金色の光に包まれ、ゆっくりと収まっていきフェイトの姿を確認した時には服装が変わっていた。黒いマントに包まれ黒を基本にした服装に白いスカートを着ており、手にはポールウェポンに分類される
「なかなかいいスピードじゃないか……少し驚いたよ」
「アルフを帰して……!!」
「勿論帰すさ、この戦闘が終わってからねっ!!」
少女はバルディッシュを掴みながら顔を蹴り上げ、空中に浮いたフェイトを両手で押し出すように撃ち出し、フェイトを吹っ飛ばした。俊秀は飛ばされたフェイトを自ら壁になり受け止めた。
「フェイト、大丈夫か?」
「げほっげほっ……大丈夫です」
フェイトに外傷はないようだが、ぎこちなく立ち上がる。表情がどこか痛みを堪えるような感じだった。俊秀はフェイトを支えながら2人の少女を見る。小さい少女とはいえ簡単に吹き飛ばしたその身体能力に警戒する。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕としたことが礼を書いてしまうとは!」
「ねえさん……また名乗るの?」
「勿論だよ! 名を名乗るのは人として当然だろう?」
フェイトを吹っ飛ばした少女はズボンのポケットから名刺を取り出し……。
「僕の名前は八雲紫苑(14)! 文武両道、才色兼備がよく似合う、とある企業の天才所長さ!」
「同じく、八雲紫蘭(14)! ねえさんより文武両道、才色兼備でかつ天才よ!」
最初に自己紹介した長い黒髪を一つにまとめた少女、紫苑はどこか気に食わない様子で隣にいる黒髪ショートヘアーの少女、紫蘭に言う。
「紫蘭……君が僕よりも上とは、些かおかしいと思うのだが?」
「何よ! 文句ある?」
「勿論! 君はテストの点数でも、スポーツの成績でも、バレンタインで女の子から貰ったチョコの数でも、ラブレターを貰った数でも、そして胸の大きさだって僕に勝った事はないじゃないか」
「なっ!? む、胸の大きさなんて関係ないでしょ!! それに姉さんに勝ってる所はあるわ」
「へぇー、それは一体なんだい?」
「男に貢がせている数」
「ふん、痴女め」
「何でそうなんのよ!! ねえさんだって――――」
「岩井君、これは名刺だ。受け取ってくれたまえ」
「私の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「なんだい? もう話は終わったんじゃなかったのかい?」
「……もういいわ、この場でどっちが上なのかはっきり決めるわよ」
紫蘭は涙ぐみながらも本来の目的を果たす為、気持ちを入れ替える。紫苑も紫蘭に刺激されたのか真面目な顔になり、俊秀とフェイトに視線を変える。
「見苦しい所を見せてしまったね。では、本題といこうか。岩井君、フェイト君に挑んだのは他でもない、こいつらの相手もしてもらいたくてね!!」
紫苑と紫蘭は羽織っていたマントを脱ぎ捨てた。2人がマントの中に着込んでいたのは、体のラインがわかるほど体にフィットしたボディーアーマーのような物を着ていた。明らかに従来のボディーアーマーよりも装甲が堅そうな上に、総重量も軽そうに見えた。
それぞれ2人は色違いの物を着けており、紫苑は黒。紫蘭は白だった。
「開発コードGYF―490―113。兵装防護服『
「同じく、『
名乗り終えた後、2人は一気に俊秀とフェイトの距離を詰めてきた。フェイトはとっさに『フォトンランサー』を地面に打ち込んで牽制をいれ、2人をそれぞれの方向に分けた。
「ナイス! 俺は黒を狙う。白は頼んだ」
俊秀は黒師を着けている紫苑の方へ走り出した。紫苑も狙いを俊秀にしたようで俊秀に向かってくる。ある程度距離を詰めた俊秀は鉄パイプ握り締めて薙ぎ払うが、力は入りすぎたのか動作が少し大きくなった。紫苑は動作が大きい俊秀の動きを読み滑り込みながら鉄パイプを避け、左のアッパーカットを打ち込んでくる。俊秀も紫苑の動きを読んでいたので軽々と避けられたはずだった。
「エア・ハンマー!!」
俊秀の体に何か堅い塊のようなものが腹部に辺り、抉られる様な衝撃が俊秀を襲う。体が宙に浮き1回、2回と回転しながら10メートル程飛ばされた。俊秀は突然の衝撃が体を襲った事が理解できず、そのまま地面に叩きつけられる。
「がはぁ!? ……何だ今の!?」
「岩井君、驚くのはまだ早いよ」
俊秀はすぐに立ち上がり、構える。一体何が体に当たった。その一言だけが俊秀の頭に渦巻く。答えを導く前に再び、紫苑が距離を詰めてくるが、先程よりもスピードが格段に上がっていた。紫苑の構えからして正体不明の攻撃を狙っているのが一瞬でわかった俊秀は、鉄パイプを地面に突き刺し、それを足場として高く飛び上がる。紫苑は俊秀が上に逃げる事を予想してなかったのか、動きが緩慢になる。その隙を突いた俊秀は重力を乗せた左足のかかと落しを繰り出す。しかし、俊秀が撃ち出すよりも早く両腕でガードしていた紫苑に防がれた。
「ちっ……防がれたか」
「このスーツは、人間の限界能力まで力を引き出せるからね! 隙を突いても簡単にはもらわないよ。それにしても、これについてくるだけでなく反撃に転じるなんて……恐ろしい身体能力だね!!」
「俺だって、伊達に体を鍛えてるんじゃない!! 当たり前だ!!」
俊秀は止められた左足を軸に右足での回し蹴りを仕掛ける。紫苑は素早く左足を離し距離を取った。この隙に俊秀は地面に突き刺した鉄パイプを回収し、10メートル程距離を取る。
「病み上がりじゃなかったら、もっと凄いんだろうけど……僕もそろそろスーツのモニタリングを進めないといけないからね。本気でいくよ! ここから先ついてこれるかな、岩井君?」
紫苑が構えた瞬間、紫苑の周りで何かが吸い込まれるような音が聞こえる。本能的に俊秀は身構え紫苑の出方を見る。音が収まったの同時に紫苑は右足を1歩踏み出した次の瞬間、10メートル程あった距離が一瞬で詰められていた。俊秀は反射的に鉄パイプを振り下ろしていた。だが、紫苑は右手で鉄パイプを掴み、左の拳で俊秀の右頬を殴り飛ばし、さらに追撃するため右手に持った鉄パイプを使い、
俊秀は紫苑がした動きに驚きを隠せなかった。先程連撃、いくら人間の限界能力まで力を引き出せるとは言え、突然逆回転の動きが出来る筈がない。
あの時、紫苑は俊秀を左の拳で殴った事により俊秀との距離を詰めるためのスピ-ド、前進する力と左で殴る時、時計回りの回転の力が加わっている。そこから逆回転の動き、さらに俊秀が殴り飛ばされた事を考えると2撃目が間に合うはずが無いのだ。
俊秀は鉄パイプを杖にしてよろけながらも立ち上がった。
「まさか、今の攻撃を受けても立ち上げれるのかい」
「げほっげほっ…………何だよ、今の動き」
「……君に敬意を表して説明しよう。このスーツ『黒師』と妹が着けているスーツ『白師』にはパワーアシストとして『エア・ブースト』が大小あわせて28個取り付けられている」
「ブーストだと? つまりあの音は空気を吸い込む音だったのか」
「そう、それを圧縮し一気に放出する事で瞬間的に人間の限界を越える事ができるんだ。スピードは風の如く、打撃は巨大なハンマー如く、普通の人間なら骨を圧砕するはずなんだけど――――頑丈だね」
「こんなんよりも、もっと酷い扱い受けた事があるからな。へばってられるか!!」
と俊秀は笑い飛ばすが、体の方はかなりボロボロだった。かろうじて骨は折れていないようだが、骨にひびが入っているのは間違いない。体のあちこちが痛むが倒れるわけにはいかなかった。
「戦いが続く事はいいんだけど、あそこで妹がフェイト君を落したみたいだからこっちも終わらせないといけないね」
「え? ・・・フェイト!?」
俊秀は紫苑が指差した場所を見ると、フェイトが空から地面に向かって落ちていていた。
「ナイス! 俺は黒を狙う。白は頼んだ」
と俊秀は言ったので、フェイトは白師を着ている紫蘭の方に視線を動かした。紫蘭はフェイトの放った『フォトンランサー』によって足場が不安定になりよろめいていた。フェイトはすかさず『アークセイバー』を使用しようとするが、バルディッシュが命令無視して防御魔法を発動した。
「バルディッシュ!? ――――!!」
「ふーん、なかなかいいデバイス持ってるわね」
バルディッシュが発動した障壁に何かが当たった。フェイトは何が当たったのか確認しようとするが何もない。紫蘭は少し驚いた様子でフェイトを見ていた。
「まさか、初撃で防がれるとは思わなかったなぁ……ならこれはどう?」
紫蘭は離れている場所でゆっくり右手をフェイトに向けて伸ばした。フェイトは接近戦になると判断し一気に紫蘭に近付き、バルディッシュを振り下ろす。
「あなたの速さにはもうやられないよ!!」
「え!?」
紫蘭は動いていないのにもかかわらず、振り下ろしたバルディッシュは空を切るが、フェイトはそのまま2撃目に移る。紫蘭は右手をフェイトに向けて伸ばしているだけで全く動かない。次こそ当たった。フェイトがそう思った瞬間、気付いたら後ろに建っている倉庫の壁まで吹っ飛ばされていた。紫蘭はにっこり笑いながらゆっくりとフェイトに近付く。
「いくら優秀なデバイスでも斥力は防げないようね」
「せき……りょく?」
「2物体間でお互いに遠ざけようとする力だわ、テキストにより切り替えは自由に出来るから、今からあなたから私に近付く事が出来ない」
「……フォトンランサー・マルチショット」
フェイトは複数のフォトンスフィアを体の周囲に生成し、紫蘭に向けて撃つが簡単に避けられてしまう。紫蘭はフォトンスフィア避けきった後、少しずつ姿が見えなくなってくる。相手に一体何が起こっているのかわからないフェイトは紫蘭を見失ったので、バルディッシュを使い探索するが結果はロストだった。
「逃げられ――――かはっ!?」
「呼び寄せたのは私たちだよ。逃げるわけないじゃん」
フェイトは腹部にハンマーでど突かれたような痛みがくる。紫蘭の声はするが姿が見えない。危険を感じたフェイトは空へと逃げるが、それを紫蘭は許さない。空気が放出するような音が聞こえたと思えばまたハンマーに叩かれた様な衝撃がフェイトを襲い、その衝撃で空高くフェイトを打ち上げる。
フェイトの体勢は崩れ、まともに飛行できる状態ではなかった。それを見た紫蘭は姿を見せ、さらに追撃ちを仕掛ける。紫蘭の周りは空気を吸い込むような音が響く、それが収まり紫蘭は空に向かって右手を突き出し、静かに言う。
「――――エア・ストライク」
溜め込まれていた空気は一気に吐き出され、見えない弾丸としてフェイトに向かう。バルディッシュは危険を感知し防御魔法を展開し、防ぐが障壁に亀裂が入っていく。
フェイトはバルディッシュが防いでいる間に体勢を立て直しさらに高く空へと飛ぶ。その後に障壁は破られたがフェイトに当たる事はなかった。
「あれも防ぐか……ほんと、いいデバイスだわ」
紫蘭はまたすぅーと姿を消した。フェイトは今度は落ち着いて対策を考える。
姿が見えないなら広範囲に打ち込めばいい。
そんな結論に至ったフェイトは自身の持つ最強の魔法を放つ為、呪文詠唱を始めた。
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。フォトンランサー・ファランクスシフト」
フェイトは次々に魔力を込めた30以上のフォトンスフィアを生成し、フェイトは紫蘭がいると思われる一帯に狙いを定める。
「撃ち砕けッ――――ファイアー!!」
フェイトの合図と共にフォトンスフィアからフォトンランサーが湾岸倉庫一帯に降り注ぎ、次々と破壊していき、フェイトが狙った場所は跡形もなく消し去っていた。
「考えはよかったけど、惜しかったわね」
「!?」
フェイトより頭上から紫蘭の声が聞こえその方へ向くと、姿を現した紫蘭がそこにいた。
「斥力の応用で白師に付いてあるエア・ブーストを使えば、自由飛行は出来なくても空高く飛ぶ事は出来るわ」
「くっ!!」
フェイトは紫蘭に切りかかるが、斥力によって引き離されてしまう。紫蘭は左手を前にして、右手を引いた為の構えをとった。そして引いた右手に光が少しずつ集まっていった。
「ライトニング・レイ」
引いた左手と同時に突き出された右手からは閃光が一直線に地面に落ちていくフェイトを包み込むのだった。
「何だよ……あれは!!」
一部始終を見ていた俊秀はフェイトの安否が気になり、いつの間にか走り出していた。だが俊秀の相手をしている紫苑に道を阻まれてしまう。
「おっと、行かせないよ! 君の相手はこの僕だからね!」
「邪魔だ!! 退け!!」
俊秀は鉄パイプを思いっきり振り抜く、紫苑は軽く捌き俊秀に肘撃ちを決めようとするが俊秀の足の裏で止め、そのまま蹴りを入れた。足で止められると考えてなかった紫苑は大きく体勢を崩すが、ブーストの補助ですぐに構えを直した。
「本当に打撃攻撃はめっぽう強いね」
「ちっ……ならこれならどうだ!?」
俊秀は深呼吸をして鉄パイプを握りなおすと、鉄パイプは電気を帯び始め火花を散らしていた。それを見た紫苑は少し驚いた表情で俊秀を見つめる。
「報告になかった技? 得体の知れないシロモノだね。それは!!」
病院で俊秀は無駄に惰眠している時に鉄パイプの能力発揮条件を発見していた。発揮条件はテンションの高さ、属性変化は心理的なことが関わっている。そして精神をコントロールが出来るようになれば、色々とできるあるだろうと俊秀は考えに至った。そこで精神をコントロールする方法を考えた結果、深呼吸をして気持ちを高める事から始めたのだ。もとより俊秀は深呼吸をして心を静めると同時に気持ちを高める癖があったので、簡単に出来たが心理的な事まではコントロールはできなかった。
だがこれにより能力発動トリガーになり、いつでも鉄パイプの力を引き出せるようになったのだった。
「これで、仕舞いだ!!」
「残念だけど、終わるのは――君だ!!」
俊秀は紫苑に接近戦を挑むつもりで向かっていくが、紫苑はその場で左手を俊秀に向けてただけだった。俊秀は紫苑が何か狙っていることはわかったが、距離を詰めるしか攻撃手段がない俊秀はそのまま突っ込むしかなかった。
「射程範囲内だ!!」
「!?――――ぐあっ!!」
突如、体が引き千切れるような痛みに襲われ、俊秀は体を見る。あちこちからは切り傷が出来ており血を流していた。こうしている間にも傷はどんどん増えていき、傷口も深くなっていく。
このままでは不味い。そう思った俊秀は効力範囲外に逃れようとするが、何か紫苑に引っ張られるような感覚があって離れられなかった。
「原子振動だけでなく、引力まで使わせられるとは思わなかったよ!!」
紫苑はエア・ブーストを使い、一気に俊秀に近付いて来た。俊秀はここが最後のチャンスと感じ、俊秀は鉄パイプを紫苑を紫苑に向けて振り下ろし一撃必殺を狙うが、紫苑は身体を宙に浮かせながら回し蹴りを鉄パイプを持っている俊秀の左手首に入れた。
蹴りをまともに受けた俊秀の手首は骨が折れるような音が響くが紫苑の攻撃は終わらない。そこから手首に触れている足を基点に回転してエア・ブーストにあった圧縮された空気を全て使い俊秀に拳を叩き込む。
「エア・ハンマー!!」
「――――!?」
腹部を狙った一撃は見事クリーンヒットし、俊秀を遠くにある倉庫に吹っ飛ばた。常人なら死んでもしてもおかしくない一撃を俊秀に叩き込んだ紫苑は勝負は終わったと確信し、紫蘭の元へ向かおうとする。
「待てよ。お前に聞きたい事がある……」
「え!? 嘘だろう? まともにあれを受けて………………まだ立てるのかい!?」
紫苑が振り返ると満身創痍になりながらも闘志を燃やしている俊秀が立っていた。
次回もよろしくお願いします。