サブタイトルの変更と本文への加筆を加えて再投稿しました。あぁこれから展開どうしよ…
「おはよう一夏」
耳障りの良いソプラノの声が、睡眠から覚めたばかりの一夏の鼓膜を優しく叩いた。
「あぁ…おはよう、シャルル」
「今日もいい天気だよ、ほら」
カーテンの隙間から射し込む朝日に一夏は目を細めた。太陽が月を追い払い、夜闇を駆逐し、地上の在るもの全てを白日に晒す。
それが陽の光を拒むことを選択したものであったとしてもだ。
「千冬姉を説得することは出来なかったな…」
「…あの人は結局、一夏の事なんか何も考えてなかったんだ、自分の思い描く理想の一夏しか見てなかったんだよ」
シャルルは一夏の頭を胸に抱きながら慰めるように撫でた、差し込む朝日に照らされたシャルルの姿はまるで教会のステンドグラスに描かれた聖母のよう。
「…カーテン閉めるね」
カーテンを隙間なく閉じた部屋は、一夏にこの世界で自分とシャルルしか存在しないように錯覚させた。
二人は逃げたのだ。差し伸べる手も、糾弾する罵声も、二人は全てを振り払って。陽の光差す事のない、仄暗い場所へと。
「…千冬姉にだけは、話しておきたかったんだ。理解して欲しいなんて贅沢は言わないから…」
一夏の目は滲んでいた、たった一人の肉親の拒絶は、一夏の心に大きなダメージを与えたようだった。
「例え世界中の人間から後ろ指を刺されても、千冬姉が認めてくれれば、俺は…それだけで、良かったのに…」
「大丈夫だからね一夏…僕が、一夏を守ってあげるから」
だから、ずっと僕の傍に居て。一夏の身体を抱きしめながら、シャルルは一夏の耳元で彼への愛を囁く。
一夏の目から涙があふれた。熱い、涙だった。
「慰めてあげるね……一夏……」
シャルルは自身の唇を一夏の唇へと重ねた、水音が部屋へと響く。
IS学園から脱走した織斑一夏とシャルル・デュノアは、全てを捨てて。二人だけの世界へと溺れていった。
織斑千冬は朝のニュースの司会とコメンテーターのやりとりを目覚まし替わりに目を覚ました、部屋の電気とテレビを消すのを忘れていたようだった。
憔悴。今の千冬の顔にはまさにこの言葉が相応しいだろう、実の弟の告白と、その後の行動は彼女から生気を奪っていた。
千冬に テレビの液晶に映る番組司会とコメンテーターの議論は白熱していた、それを千冬は他人事のように眺める。実際はそうではないのだが。
液晶画面の左上へ千冬は視線をやる、そこは現在番組で取り扱っている情報を示していた。
『織斑一夏くん(15)シャルル・デュノアくん(15)二人の男性IS操縦者が突如失踪、二人に一体何が…』
番組司会の男は神妙な面持ちだった。
「やはり誘拐…なのでしょうか」
番組に招かれた評論家たちはそれぞれ持論を展開していた、軍事評論家の男は二人が専用機の保有者であることを指摘する。
「しかし二人は専用機を所持しています、ならそれを使用して自衛する事が出来た筈…」
その一方で、芸人崩れの文化人の男がにやけ顔で独自の推論を展開する。
「私ねぇ、この一件、実はこの二人が自主的に姿をくらましたんじゃあないかと思ってるんですよ」
「まさか!」
犯罪心理学教授の女が破顔する。
「駆け落ちじゃあるまいし!」
軍事評論家の男は呆れ顔だった。
「女だらけの環境で男二人ってのが不味かったんだよ」
文化人の男は芸が受けたといった様子で得意げな表情だ。
「それは仕方のない事ですよ、本来ISは女性だけが使えるものです、ISを使うことが出来る男性は現在あの二人しか発見されていないのですから」
番組司会の男は評論家たちの議論に耳を傾けながら滞りなく番組を進行させていった。
番組を千冬は呆けた目で眺める。
「何故こんなことに…」
私が二人の関係を認めていれば、こうはならなかったのか。いや、例え私が認めたとしてもIS委員会が黙ってはないだろう。きっと二人を引き裂こうと、物理的に二人を引き離そうとする筈だ。
「一夏…」
千冬の小さな呟きは千冬の自室を強くノックする音でかき消された、千冬は重い足取りで来客を出迎える。
「織斑先生、会見まで後一時間です。そろそろご準備を」
ノックの音の主は千冬の同僚だった。名前は山田真耶、千冬の後輩でもあり、現在は千冬が教鞭を振るうIS学園一年一組の副担任を務める。
真耶の目の下にはクマが出来ていた、学園への男子生徒二人の失踪に対する問い合わせと各関係者への説明に追われていたのだろう。
本来ならば千冬もIS学園に属する教員としてこの問題への各対応をしなくてはならないのだが、学園長やその他真耶を含む教員には彼女の内に秘めた動揺を見抜かれていたようで、半ば強制的に教員宿舎の自室に押し込まれたのだ。
「わかった、すぐに支度をする」
「…先輩、あまり無理をなさらないでくださいね」
「…あぁ…」
千冬は真耶とのやり取りを切り上げて、身支度をする為に自室へと戻っていく。その背には彼女が本来持つ覇気が失われていた。
どうしてこうなったと、千冬は身支度をしながら考えた。いつからあの二人は惹かれあったのだろうか、と。
千冬は二人の片割れであるシャルル・デュノアがIS学園に来た日の事を思い出していた。
この1話を書くだけでも5日ほどかかってしまい自分の文才の無さを痛感してます…