新世界の怪物   作:黄金王

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カジノ王、鉱山王になる

適当に用意した馬車に揺られること三日。

幾つかの検問を通り、着いたのは大きな都市だった。

船に関しては、出発する前にリ・ロベルの領主であるロベルト伯爵に金を握らせておいたから問題ないだろう。

何かしようとしても、ダイスやシモベたちが対処するだろう。

侵入者は生け捕りにするようには伝えてあるから、死体が転がっていることはないだろうと思うけど。

 

「テゾーロ様、着きました」

「分かった」

 

馬車を降りた先にあったのは、大きな館。

門前払いになると思ったが、馬車を降りて周りを軽く見回してその理由がわかった。

どうも、ステラが用意した馬車はこの世界では相当上等な物らしい。

欲深いと噂のブルムラシュー候なら、俺に金の匂いを嗅ぎつけて、飛び入りでありながら迎え入れてくれるらしい。

 

(好都合だ)

 

無駄な手間が省けて、実に良い。

そう思いながら、小間使いの少年が扉を開けると老年の執事が一礼して迎え入れてくれた。

 

「初めまして、私はブルムラシュー侯爵様にお仕えする執事のバンと申します」

「ギルド・テゾーロと申します。そちらのご予定があるだろうに、無礼にも突然来たことにお詫びを……そして、迎え入れていただいたことに感謝します」

 

笑顔でそう言うと、執事は淡々と告げてきた。

 

「私はご主人様のご指示通りにしているだけですので、その言葉はご主人様に直接お伝えください」

「分かりました」

「では、ご案内いたします」

 

執事の先導で館を少し歩き、着いたのは金ピカの扉。

執事がノックし、中から返事をすると扉が開かれた。

中は豪華絢爛と言えば聞こえはいいが、悪く言えば成金だ。

そう思いながらも、室内に入って俺は一礼する。

 

「初めまして、私はギルド・テゾーロと申します。こちらは私の部下のステラとノーフェイスです。お見知りおきを」

「うむ。リ・エスティーゼ王国侯爵のブルムラシューだ。かけたまえ」

「ありがとうございます」

 

俺だけ座り、向かい側にブルムラシューが座り、間にテーブルがある構図だ。

 

「それで、テゾーロ君だったか。なんでも話があるとか……」

「はい。簡潔に言うと、全ての鉱山を買取りたいのです」

「……は?」

 

ブルムラシューは呆け、俺は笑顔だ。

すぐに我に返り、ブルムラシューは口を開いた。

 

「も、申し訳ない。全ての鉱山を買取りたいと聞こえたが……」

「その通りです。正確に言えば、鉱山の所有者以外の全てをお売りいただきたい」

「……つまり、鉱山の所有者は私のままで、それ以外の全てはキミに売るということか」

「その通りです。さすがはブルムラシュー侯爵。話が早い」

「……分かっていると思うが、鉱山というのは常に金が発生する。出費はもちろん儲けもだ。それを一回の金で売れなどと……」

「鉱山一つにつき毎月金貨一万枚という条件でも、ですか?」

「え?」

 

またブルムラシューは呆けた。

そこで俺は一気に畳み掛ける。

 

「何か問題が発生したら私が責任を負いますし、解決もいたします。ですので、ブルムラシュー候は表向きは今までどおり。その実、鉱山を所有しているだけでそれ以外は私に任せきりという状態になります。あぁ、新たに鉱山を作る権利も頂きたいですね。それにかかる費用や人材もこちらが用意いたしますのでご安心を」

「ま、待て。待ってくれ。鉱山は全部で四十ある。そうなると毎月金貨一万枚だ。キミはそれを払えるのかな?」

「ごもっともです。ですが、ご安心を……おい」

 

ステラが前に出て、持っていたカバンを開けた。

すると、そこには一枚で金貨十枚分である白金貨が所狭しと並んでいた。

 

「カバン一つに白金貨一万枚。それを四つご用意しました。お確かめを」

 

四つのカバンを開け、白金貨四万枚を見せるとブルムラシューは生唾を飲んだ。

 

「り、理由は」

「私は賭博や娯楽施設がある船で旅をしていましてね。立ち寄った大陸でそれを行って稼いで、また別の大陸に行くということをしているのです。ですが、まずはその大陸の通貨が大量に必要なのです」

「なるほど、それで資金源を……ちょっと待て、ならばこの白金貨はどうしたんだ?」

「作りました」

「なっ」

 

ブルムラシューが三度目だが呆然とする。

 

「作るとしても、材料がないと話になりません。ですので、私は鉱山が欲しいのです」

 

そう言うと、ブルムラシューは観念したように息を吐いた。

 

「わかった。売ろう。だが、鉱山のいくつかは八本指……王国の裏に蔓延る巨大組織の持ち物だ。そちらまで売っては……」

「それらに関しては我々で話をつけます。ですので、侯爵にご迷惑はおかけしませんし、我々の船に来たらサービスを致しますので」

「……そのサービスというのは?」

 

食いついてきた。

俺は内心笑みを浮かべながらその答えをする。

 

「賭博などで幾らか無料で遊んでいただいても構いません。それに、私の船があるのは海の上……つまり、王国の法の範囲外。奴隷も、麻薬も……私が決めたルールを犯さなければ何をしたって構いませんよ」

 

軽い下調べで、この国では奴隷が禁止されていると知った。

そして違法な娼館があることも。

だが、それが違法でないのであれば、そちらへ行く方がいいのは当然の帰結だろう。

 

「今回は大まかにお伝えしますが、従業員に手を出さない。これは暴力はもちろん性的な意味でもです。それと盗みをしてはいけない。次に騙された方が悪い。そして最後に……全ては金が物を言うことです」

 

そして、このルールがあるからこそ、ブルムラシューを選んだのだ。

 

「なるほど……キミの最終目的は、キミの船内での自治権か」

「六大貴族であるブルムラシュー候であれば、協力してくれるかと……無論、礼は致しますとも」

 

その言葉でブルムラシューは今までのことの筋道が見えたのか、そして自分がどれだけ美味い話をされているのかを理解したのか笑みを浮かべた。

 

「任せたまえ」

「ふふっ。では、契約に入りましょう……っと、それと八本指と話をしたいのですが、どうすればいいでしょうか」

「それについても任せたまえ。私が場を設けよう」

「何から何までありがとうございます」

「キミと私の中だろう。気にしないでいいさ」

 

そしてブルムラシューは上機嫌で契約書を作り、そして契約を交わした。

これで万事解決だ。

その後、八本指と会談したが、なんともまぁ、馬鹿どもばっかだった。

既得権益を侵されるのを嫌って、俺を殺しに来たので刺客を返り討ち。

そしてそのまま幹部の賭博部門長を殺して、他の幹部たちも力と旨みをちらつかせて逆に乗っ取ってやった。

力はゴミだが、影響力や規模は使えるからだ。

そして合法鉱山で働く鉱夫も、非合法鉱山で働く借金まみれの連中も、労働環境を色々と改革し、ブルムラシューを使って船を宣伝。

こうして、俺はこの世界で生きていくのに必要なものを手に入れた。

後は、軌道に乗せるだけだ。

 

「さぁ、イッツ・ショォウタァーイム」

 

これからが楽しみだ。


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