これは、呪いだ。
せめてあの時、少しでも気にかけていれば。
早く誰か通りかかれ。私を運んで行け。
こんなにも助けを求めているのに何もしないというのなら。
お前も、肉まんになってしまえ。
ループもの(ネタバレ
肉まん、というものを知っているだろうか。
知らない人の方が少ないかとは思うが、一応説明しておく。
肉まん。もしくは中華まん。
古くは諸葛亮が開発したとされる、白い見た目と中身の餡が特徴的な、ハンドフリーファーストフードだ。手が汚れづらい事から作業の最中に食べる事の多い、日本でもとりわけ有名な中華であると言えるだろう。
さて、そんな肉まん。
そんな肉まんに、なった。
なってしまった理由に関しては心当たりがある。
初めに言っておくと、私は然程肉まんが好きではない。とりわけ嫌いということもないが、「肉まんになりたい」などと思う程好きなわけではない。むしろピザまんが好きだ。
だから、今こうして肉まんであることは不本意だし、肉まんに対して尊敬の念を持っているなどという事はない。
この前提があるからこそ、その心当たり……つい
昨日。
私は仕事の帰りに緑色のコンビニに寄った。
コンビニに寄って、焼き鳥モモ(塩)を買った。
その駐車場で、無残にも捨てられた、半分だけの肉まんを発見したのだ。
購入者は満腹になってしまったのか、はたまた何らかのアクシデントがあって落としてしまったのか。
一瞬色々な想像をしたが、結果的に出てきた感想は「汚いなぁ」だった。
中の肉餡がぶちまけられていたし、包み紙もないままアスファルトの上にあったのだから、汚いとしか思えなかった。汚いと思うのが普通だと思う。
だから私は、その肉まんを避けて家に帰ったのだ。
思えばそれが悪かったのだろう。
あそこでもう少し肉まんに対して尊敬を……せめて隅に片付けるだとかしていれば、私はこんな、数奇で危篤でけったいな現象に会う事も無かったのだ。
肉まん。
もちろん足があるわけでも手があるわけでもないので、動く事は出来ない。
肉まん。
もちろん不思議なファンタジー力や能力を持っているわけでもないので、戻る事も出来ない。
私にできるのは、ただ空を見上げるだけ――。
嫌な仕事があった。
よくも知らない上司の上司に、上司の失敗を押し付けられて何故か自分が頭を下げ続けると言う、仕事の名を借りたただのいじめだ。上司が何をしたかも知らないのに、反省文まで書かされることになった。しかも手書きと来た。
最高だな、素晴らしきは古臭い日本国。誇りは崩れ落ちて埃とすす塗れの
会社の方向へサムズダウンを突きだして、ふぅと大きくため息を吐く。
暑い。流石はアスファルトジャングルニッポン。日差しが厚く、反射熱も暑く、熱のこもるコンクリートも暑く、湿気も暑い。
素晴らしいなニッポン国。暑い暑いとうだうだ言うのに、一切改善せずにコンクリート樹木を建て続ける。挙句の果てにクーラーを使うなクールビズ。ワイシャツにしたからと言って遮熱が出来るわけではない事くらいわかれと言いたい。
はぁ、無駄な糖分を使った。
それ以上に塩分を使った。なにか、塩辛い物を食べたい。
コンビニに寄ると、寒すぎる冷房が身を撫でる。
なんだここは。霊安室か。暑すぎたり寒すぎたりと忙しいが、これほどの寒暖差があるとご老体は体調を崩すのではなかろうか?
眉間に皺を寄せて、一刻も早くここから出るためにすぐにレジへ行く。
焼き鳥、モモ、塩で。あぁ、一本で。
こういう日は塩に限る。タレなど、余程腹の出た奴か若者が食べるものだ。
昔に比べて高くなったそれに目蓋を薄めつつ、ありがとうございましたの声を後に、店を出た。
……暑い。
コンビニを見習え。
駐車場は車ばかりで、出入りも激しい。
仕方がないので少し遠回りのルートを使う。
前方に白い物体。
汚い。食べかけの肉まんが捨てられている。
餡は大部分が飛び出ているし、皮も所々汚れている。
踏まないように気を付けながら、ソレを飛び越す――直前。
私は肉まんと目があった。
……暑さにやられているらしい。
有り得ない妄想だ。早く蟻にでも食われて綺麗に成れ。
改めて肉まんを飛び越え、家路に就く。
肉まんよりピザまんが食べたい。ピザまんの方が圧倒的な大差をつけて美味しいと思う。
さて、明日も嫌な仕事の日だ。
反省文も書かなければいけないし、今日の飲酒はやめておこうかな。
あぁ、明日が来なければいいのに。
発想元は怪談レストランのヒラメの話