歩く死者たちは、世界各地の廃墟に現れるようになりました。


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不死者狂騒曲

 

 

現在アメリカでは、空前のゾンビブームだそうである。

世界各地の廃墟に現れるようになった、歩く死者たち。

ぼろぼろの衣服をまとった彼らがどこから来たかは、まだ誰にもわかっていない。

わかっているのは、ソレに接触するとその人間もゾンビになるということだった。

日本では空前の狩猟免許申請者増加が発生して、猟友会も警察も銃砲店もてんやわんやである。

なにしろ、今までこんなことはなかったのだから。

ゾンビが害獣認定され、駆除対象に指定されたのは民間人や警官や猟師の犠牲が複数発生してからのことだった。

廃墟に行ってゾンビ化する興味本意の映像配信者やマスメディアの人間は、被害を拡大させたことから社会的に激しく批難されることとなった。

初期対応の重要性がこれで再認識される。

されたが、アホにはわからない。

よって、被害は今も一部拡大中。

ゾンビへ説得を試みようとする者すら存在し、彼らはゾンビ化した挙げ句に他人に迷惑をかけるため、『ゾンビ罰金』も現在進行形で検討中という。

遺族にとっては泣きっ面に蜂となるので、まさに踏んだり蹴ったりだ。

とある生命保険会社がゾンビ化した感染者の件で払う払わないと揉めて、その会社は結果的に契約者をかなり減らした。

 

そんなゾンビたちも散弾銃で駆除出来る。

それが我々人間にとっての救いなのかも。

ゲームみたいに頭を撃っても吹き飛ばぬ。

そんなことは当たり前だ。

頭部は骨の塊なのだから。

 

普段猪だの鹿だのを撃って農家に感謝はされるものの、かなりの誤解も少なくない猟友会。

だが、近頃は訳わからんほどの大人気だ。

気持ち悪いくらいの手のひら返しである。

ゾンビを撃ちたいだけで銃砲所持許可が出るほど警察は甘くないが、ゾンビの件では与党が野党に追求され、首相や官房長官や警視庁長官や警察庁長官などが国会で曖昧模糊な返答に終始している。

警察署や派出所や自衛隊駐屯地には連日訳のわからない人々が押し寄せては、ゾンビの人権だの生存権だのを暑苦しいほど熱く訴え続けている。

彼らこそが、ゾンビ以上の脅威かもしれない。

こうした者たちがゾンビ化するのは世界各地のお約束となってきており、ゾンビを見かけたら即通報して近づかないようにとの注意を理解出来ない者は意外と多い。

 

ゾンビの正体は未だよくわかっていない。

彼らを撃ったら消えてしまうからである。

二次感染者は消え去ってくれない。

だから、余計にややこしくなった。

そして、葬儀社も大混乱に陥った。

復活をおそれた当局によって動かなくなったゾンビ感染者の土葬は全面禁止とされ、一部の遺族が政府を激しく批判した。

 

無茶な学者たちは『ゾンビを“生きた”まま捕獲して欲しい』と要望しているらしいが、そんな戯言を真に受けるのはゾンビの人権を訴える妙な連中くらいだ。

そういうのが社会的発言力を持っていると大変めんどくさい。

事実、自称文化人たちがゾンビの人間性だのなんだのを言い出したために、一時期ゾンビの駆除が出来なかったのだ。

その為、被害が拡大した事例も発生した。

勿論、そんな適当な奴らが責任を取る訳はなかったけれども、ゾンビの被害に遭った遺族たちからこぞって私刑に処せられた。

今のところ、それらに関しての死者は発生していない。

 

不用意な発言や行動は慎むようにとの政府や警察や市町村などから公式に『お願い』があったけれども、自らの考えを正義と信じて視野狭窄に陥った人間は考えを改めようとしないのが常だ。

正義とはなにかを模索するならば兎も角、正義とはこうだと人に押し付けるのは彼らにとって当たり前のことだ。

それが間違っているかもしれないという発想は、彼らの頭には存在しない。

ゾンビ駆除のために出かけた現場で猟師を邪魔するのは例外なく彼らだし、彼らがゾンビ化して駆除対象になるのを役場は大変嫌がった。

補助金としての報奨金が発生するからである。

ゾンビ一体につき、二万円が法的に決められた報酬額だ。

しかも、討伐が終わるまでを撮影しなくてはならないのが煩雑で面倒極まりない。

そもそも、猟師にそれをやれというのが酷な話だ。

ただし、不正防止の意味があるし、なにより殺人罪に問われないためには必要な行為と言える。

だから、猟師と公務員が組んでゾンビ討伐するのが基本的な流れである。

これは、ゾンビ感染者の遺族が猟師を訴えたという理不尽な行為に端を発している。

無論、これは特殊中の特殊例だ。

こんなのばっかりだったら、誰が駆除しようだなんて考えるだろうか。

じゃあ、そのゾンビ感染者を遺族が駆除出来るのかという話にもなる。

捕獲したとして、どうやって安全性を維持出来るのか。

一体誰がその費用を負担するのか。

地方自治体はそれを行う義務ある?

なんというご冗談を仰るのですか!

そしてなんとも酷いその訴訟は、最高裁までもつれにもつれこんだ。

猟友会はその猟師のため、腕利きの弁護士を雇って遺族に対抗した。

幸い、庶民からすると訳のわからない裁定を下すこともままある最高裁は原告の訴えを棄却した。

遺族が非常識な変人揃いだったのも、その結果に関与している。

猟師たちは全員ホッとしたことだろう。

ゾンビを駆除して法的に訴えられるなど、本末転倒なのだから。

殺人罪が適用されるようでは、ゾンビを討伐する猟師が一人もいなくなってしまう。

猟師を訴えようとする遺族は非常識、という流れになってきているのは実に助かる。

だが国会議事堂へ直接的に訴えかける人も複数いて、状況は未だ混迷を続けていた。

 

猟師と役人と警官を組み合わせればいいのだとする意見も出始めていて、それが今の時点では最良かもしれないと思われている。

他に名案が浮かべば、それに取って変わるだろう。

今大切なのは、人的被害を最小限に抑えることだ。

 

 

なんとかチューバーやらゾンビの人権を訴える人々やら文化人気取りの意識高い系の人やらが感染した結果らしく、村の奥にある廃工場はなんとかハザード状態になっていた。

人間はなんと愚かなのだろうか。

思わず、猟友会の先輩や村役場の担当者や馴染みの警官と顔を見合わせる。

現在、ゾンビの駆除を意図的に妨げる人々に対して罰金を科す法案が国会で審議中だが、まだまだそれは通らないだろう。

つまり、現在は地方自治体がいろいろ負担しなくちゃならないのだ。

担当者はかなり怒っている。

そりゃ、当然そうなるわな。

思いっきり人災と言えよう。

彼はソニーの古い業務用ビデオカメラを回し始めた。

ベータテープを使う品だが、彼はあちこちの電器店からテープを掻き集めたらしい。

実用性は充分だ、とは彼の弁である。

 

青黒い肌のゾンビに、虚ろな表情の二次感染者たち。

ぞくり、とする雰囲気。

緩慢に動き回る死者群。

彼らの動きが鈍いのは、射手にとっての救いである。

さて、散弾銃の用意を開始しよう。

彼らを永遠に眠らせる手続きへ取り掛かろう。

古参の先輩が、レミントン社製の手動連発銃の準備を始める。

私も、ブローニングの古いリコイル・オートの準備を始めた。

銃も散弾も、神社で清めてもらった。

気分の問題かもしれないが、案外そういうことが大切なのである。

 

そして我々は念仏を唱えながら、ゾンビを淡々と駆除していった。

 

 

 





某猟師系小説を読んで、とあるメリケンの会社の猟銃はすぐれているのだと思っていたら、某老練系猟銃使いの方がそのボルト式小銃をけちょんけちょんにけなしていました。
人気が無かったり会社が倒産するのは理由があるんだなあと思いましたけれども、個体差もあり得ますし感覚差も考えられます。
難しいですね。
『山賊ダイアリー』を一度しっかり読んでみたいものです。

ちなみに今回出てきた散弾銃は、レミントンM870とブローニング・オート5です。
作者は銃火器に詳しくないので、ツッコミがあってもきちんと受け答え出来ない可能性が多々考えられます。
予めご了承くださいませ。


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