深海棲艦提督は動かない   作:深海棲艦大好き棲姫

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第5話 深海棲艦提督は動かない

 戦艦水鬼から上がってきた報告書を、やっと読み終えた。

 

『大本営との交渉をしたついでに、大本営をぶっ潰した。

 その時つい深海棲艦であることバラしちゃった。

 ごめんごめん!

 でも安心して!

 途中で任務は思い出したから!

 ちゃんと全部の責任を曙に押し付けておいたよ!』

 

 要約するとこんな感じだ。

 うん、なるほど。

 大本営をぶっ潰しちゃったのか。

 曙のせいにしちゃったのか……。

 

 なにしてんだろうなぁ。

 

 あいつら本当に、なにしてんだよ。

 艦娘に対する大本営の評価を上げる為にショートランド防衛を曙の手柄にして、って頼んで、どうして大本営潰すことになるんだよ。

 しかもなんで曙を深海棲艦のボスにしてるんだよ。

 馬鹿なの?

 ……馬鹿だったわ。

 あいつら練度が上がっても、頭の練度は1のまんまだ。

 イ級並みだ。

 もう本当に、ばかっ!

 

「……はぁ」

 

 いや、これも全部の俺のせいだ。

 俺の命令が正確じゃなかったのが悪い。

 監督不行届きだ。

 あいつらは元々悪意の塊、こうなることは予想できたはずだ。

 

 昔、あいつらに道徳や良心って物を教えようとしたことがある。

 感動系の映画を見せたらいいんじゃないかと思って「フランダースの犬」とか「火垂るの墓」を見せた。

 そしたらあいつら、パトラッシュとネロが死んだ時ゲラゲラ笑ってやがった。

 節子が死んだ時なんか、外人4コマみたいな盛り上がり方をしてたくらいだ。

 普通に最悪だと思う。

 一回怒られた方がいい。

 

「戦艦水鬼、南方棲鬼、深海海月姫、空母棲姫。お前ら執務室に集合」

 

 放送をかけて、あいつらを呼ぶ。

 あいつらを怒るのは俺の役目だ。

 ものの五秒もしない間に、あいつらはやって来た。

 

「提督、呼んだか」

「ああ、呼んだよ。お前ら、ちょっとそこ座れ」

「……?」

 

 不思議そうな顔をして、戦艦水鬼達は座った。

 

「うん。そんな不思議そうな顔すんな。ちょっと腹立つから」

「も、申し訳ない。提督を不快にさせるつもりはなかったのだ。ただ私は、提督にその、褒めて貰えると思っていたものでな。任務だってこなしたし、オムライスも美味しかっただろう」

「確かにオムライスは美味しかった。それについてはありがとう」

「だ、だろう! やはり都心に近いスーパーはいい。品揃えがまるで違う! 私の腕も、満足に振るえるというものだ。

 ふっ、提督よ。私をもっと褒めてもいいのだぞ」

「よくやった、戦艦水鬼」

 

 まるで喉を撫でられた猫のような顔を、戦艦水鬼はした。

 他の深海棲艦達がそんな戦艦水鬼の様子を見て、ぴんと手を挙げる。

 

「はいはいはーい! 私も頑張ったよ!」

「私の功績も、もっと讃えられて然るべきだと思うけどな」

「あらぁ。そういうことなら、私もよね?」

「うんうん。みんなよく頑張ったな――って違う!」

 

 深海棲艦達はなにを言ってるか分からない、という顔をした。

 

「お前ら全然! ぜんっぜん任務達成できてないから!」

「な、何故だ!? しっかり大本営は潰したぞ!」

「それだよ! 俺がいつ大本営さんを潰せって言ったよ!」

「……あっ」

「ばかっ!」

 

 俺は立ち上がって、大声を出した。

 こいつらに教育をしなければならない。

 

「『大本営さんを攻撃しません!』はい復唱!」

『大本営さんを攻撃しません!』

「人類を傷つけません!」

『人類を傷つけません!』

「艦娘にも優しくします!」

『艦娘にも優しくします!』

「分かったな?」

『はい!』

 

 声が揃ったいい返事だった。

 ただこいつらは、いつも返事だけはいい。

 実際は全然理解してない事がよくある。

 

「だれか質問あるやつ」

 

 俺の問いかけに、南方棲鬼が手を挙げる。

 

「優しく艦娘を殺すのは大丈夫よねぇ?」

「『優しい』の意味を辞書で100回読み直してから同じ質問をしろ。次」

「傷をつけず……ということは、毒殺や絞殺を推奨してるのか?」

「お前の馬鹿さ加減で俺が傷ついたわ。次」

「提督、オムライスの感想を詳しく聞かせてくれないか?」

「それはまた後で。次」

「私はちゃんと艦娘に優しくしたよ? 攻撃もしてないし、遊びにも付き合ってあげたもん!」

「そう、それだよ! 空母棲姫、よくやった。徹夜で一緒に道徳の教科書を読んだ甲斐があったな」

 

 あの時は地獄だったなあ。

 我ながらよく頑張ったと思う。

 最初「お婆さんが道路を渡れなくて困っています。どうしますか?」って問いに「お婆さんを殺して三途の川を渡らせてあげる!」って答えた時はどうしようかと思った。

 もう本当に、わざとボケてんのかと思ったくらいだ。

 それが今じゃ「道路を壊して通行止めにする!」と答えるくらいには成長してる。

 空母棲姫の成長には涙が止まらない。

 

「やったぁー! 提督、ご褒美ちょーだい!」

「分かった、何か考えておく。空母棲姫はもう下がってよろしい」

「うん! 楽しみにしてるね!」

 

 他の深海棲艦が羨ましそうに見ている中で、空母棲姫は執務室を出て行った。

 出て行く時、振り向いてこんなことを言った。

 

「あっ! 曙ちゃんに全部の責任押し付けたのは、戦艦水鬼だから」

「なっ!? 何故それを言うんだ!」

 

 空母棲姫はあっかんべーして、今度こそ執務室を出て行った。

 ……さて。

 この中に隠し事をしている奴がいるようだ。

 

「戦艦水鬼」

「う、うむ」

「俺は言ったな。嘘をついちゃダメだよ、って」

「言ったかもしれない」

「言いました」

「はい」

「お前、嘘をついたな?」

「ついてない。黙ってただけだ。け、見解の相違だな」

「屁理屈を言うな。お仕置きだ。南方棲鬼、深海海月姫、戦艦水鬼をとりおさえろ」

「や、やめろ! 離せ!」

 

 二隻が両脇から戦艦水鬼を取り押さえる。

 戦艦水鬼はもがいていたが、流石に二対一では分が悪い。

 俺は戦艦水鬼に近づき――デコピンした。

 

「あうっ」

 

 デコが赤く腫れる。

 戦艦水鬼は叩かれた所をさすりながら、涙目で謝った。

 

「ううぅ……すまない」

 

 何故かはよくわかないが、装甲が厚いこいつらにも俺の攻撃だけは効く。

 普段ダメージを受けないせいか、こうしてちょっとデコピンするだけで立派なお仕置きになる。

 

「南方棲鬼、深海海月姫。終わった感じ出してるけど、お前らにも罰則はあるからな」

「あらぁ、お姉さんにお仕置きしたいの?」

「南方棲鬼は反省の色が見られないからこれから一週間、海沿いの掃除な」

「? ビーチにいる人間を殺せばいいのかしら?」

「違う。そういう意味深な掃除じゃない。ゴミ拾いだ」

「艦娘を拾うの?」

「艦娘はゴミじゃありません。普通のゴミを拾ってきなさい」

「艤装の使用許可は――」

「降りないに決まってんだろ。ゴミどころかビーチも消えるわ」

 

 こいつらは何でもかんでも悪い方に解釈しようとする。ゴミ拾いを命じたつもりが、うっかり地形を変える所だ。

 

「深海海月姫、お前はなんだかんだで一番大本営さんに迷惑をかけたな。そこで一番の罰則を与えようと思う」

「何かな? 例えなんであろうと、あなた様からの罰則であれば私は喜んで受けようとも」

「一週間便所掃除」

「ちょ、待っ――」

「それと、戦艦水鬼。お前は大本営さんに謝って来い。曙にもだ。分かったな?」

「……くっ。この私が人間や艦娘ごときに謝る羽目になるとはな。だが、いいだろう。言う通りにする」

「それじゃあ解散」

 

 深海海月姫はまだ何か言いたそうにしていたが、他の二隻に促されて出て行った。

 これで三隻への罰は終わった。

 残る仕事は、ショートランド泊地に在籍する艦娘達への褒美だ。

 ずっと戦い続け、仲間も多く失った。そんな彼女達には長期休暇と報酬が必要だと思う。

 

「集積地棲姫、執務室に来て欲しい」

「呼んだかい!」

 

 放送したとほぼ同時に、集積地棲姫が執務室に入って来た。相変わらずこいつらの速力はどうなってるんだ。

 

「資材はどの程度集まった?」

「この鎮守府の倉庫くらいは軽く満杯にしたよ。今は溢れ出しちゃってるレベル」

「流石だな」

「だろう?」

「ああ。その資材の――そうだな、四割くらいを売って金にして欲しい」

「オッケー、任せて下さいな!」

 

 今、どこの国も資材不足だ。

 きっとそれなりに纏まった金になるだろう。

 その金を艦娘達に分配しようと思う。少し遅いが、艦娘達への特別ボーナスだ。

 ……いや待て。

 

「金になったら、それを大本営名義で艦娘に上げてくれ。特別戦果ボーナスとかなんとかの名目で」

「……なんで?」

 

 さっきまでとは一転、集積地棲姫が冷たい声を出した。

 

「それはおかしいよ。

 あの資材は僕が集めて来たものだ。その僕は提督の所有物だ。だから提督からの報酬だ。

 ただでさえ提督のことを少しも理解できないガラクタ共に何かあげるのも我慢ならないのに、他の奴の手柄にするだって?

 提督のお考えとはいえ、ちょっと理解しかねるな」

 

 集積地棲姫は少し怒っていた。

 

「言いたいことは分かる。

 でもな、俺は提督としての責務で艦娘達にボーナスを出すんじゃない。彼女達のことを思いやってお金を渡すんだ。

 もしあの子達が大本営さんに見捨てられたことに気がつけば、絶対に傷つく。だから俺は、大本営さんの名義で報酬を与えるんだ。その方が彼女達にとって嬉しいだろうから。

 相手のことを本当に思い遣るのなら、自分を基準に置かず、相手が一番喜ぶことをやるべきだ。そうだろう?」

「それは……そうかもしれない。だけど提督があのガラクタ共を思い遣ってるように、僕も提督を思い遣ってるんだ。だから提督の働きが正当に評価されないのは、傷つくな」

「ありがとう。俺の働きは十分評価されてるよ」

「――はぁ。これ以上は何を言っても無駄そうだね。

 もうこれ以上は何も言わない、と言いたいところだけど。一つだけ言わせてくれ」

「なんだ?」

「人間滅ぼす気になったら、直ぐに教えてね」

 

 その言葉を最後に、集積地棲姫は去って行った。

 ウチの奴らはなんでこう、どいつもこいつも俺を世界の敵にしたがるんだろうか。

 俺めっちゃ優しいのに。本当は俺だって艦娘にちやほやされたい所を、大本営さんに手柄譲っちゃうくらい紳士的な男なのに。

 ……でもちょっと悔しいから、長期休暇は俺からのご褒美ってことにしとこ。

 このくらいの茶目っ気は許されるだろう。

 代わりに大本営さんには、集めた資材を匿名で送っておくことにする。向こうも復興が大変だろうから。ウチの馬鹿が本当にすみません。

 ペンネームは『謎の提督X』とかでいいかな。

 

 

   ◇

 

 

 ――――一方その頃大本営では。

 元帥と吹雪を筆頭にして、復興作業が進んでいた。

 艦娘の圧倒的な力により、瓦礫の撤去はスムーズに進んだ。整地も終えたところで、いよいよ建物を建てる段階である。

 

 元帥は赤城が出した艦載機に乗り、上空から見回していた。

 自分が見ている光景を、そのまま艦娘達に送る。

 多角的に見ることで作業の効率はぐっと良くなる。

 ――とはいえ、建築自体は素人だ。

 苦労もした。

 しかし、それももう終わりが近い。

 

 ――元帥は自分の艦娘達を誇りに思った。

 

 自分達が最強、という自負があった。

 深海棲艦の上位個体にも決して引けを取らない自信があったのだ。

 それが思い上がりだったと、心底思い知らされた。

 

 自信に満ちた心は、粉々に砕け散った。

 PTSDを発症し、部屋で震え続けていた者もいる。

 それが今は、こうして明るく前を向いて復興に励んでいた。

 無論、それは吹雪という折れない柱があったからではあるが。それでも立ち直れたことには変わりない。

 

「司令官!」

 

 吹雪の呼び声が聞こえた。

 大本営復興の第一歩、いよいよ最初の建物が建つのだ。

 流石にみんなも手を止めて集まってきた。

 

「やっとここまで来ましたね!」

「……まだまだスタートラインだ。だろう、吹雪?」

「! ――はい!」

 

 二人は笑い合った。

 

「それじゃあ、行きますよ」

 

 吹雪が釘とトンカチを掲げた。

 最後にこれを打ち込めば完成だ。

 みんなが見守る中、吹雪が釘を打ち込もうとした正にその瞬間!

 

 ――絶望(戦艦水鬼)が降って来た。

 

 建物が粉々に壊れる。

 着地の衝撃で、せっかく整地した地面にも大きな亀裂が入った。

 戦艦水鬼は瓦礫と成り果てた建物の上に立ち、元帥を思いっきり見下した。

 

「すまんな」

 

 それだけ言って、戦艦水鬼は再び飛び上がった。

 その瞬間余波で、一部無事だった建物や材料も吹き飛んでいく。

 後に残ったのは、ただ瓦礫ばかり。

 一瞬の間元帥は呆然とした後、怒りがこみ上げて来た。

 

「くっ――くそったれえええええ! あの悪魔、僕達が復興しかけた瞬間全部ぶっ壊しやがった! クソがぁ! こんなことが許されるのか、なあ!? おい!」

 

 元帥の怒声がこだました。

 

「(――ふっ。今回は誰も攻撃しなかったし、しっかり謝れた。今度こそ褒めてもらえるだろう)」

 

 戦艦水鬼はウキウキしながら、ショートランド泊地へ戻っていった。

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