東方十能力   作:nite

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前回で総計500話だったらしいです。これもまた大台、なのでしょうか。調べてみたら東方プロジェクトカテゴリでいつの間にやら六番目の長さでした


四百九十七話 帰途

紫が見るからに不機嫌そうにスキマへと入る。これ以上は手を出させないとばかりにご主人様をスキマの中に連れて行ってしまったので、ここでできることはもうない。

 

「ユズ、行くわよ」

「は、はい!」

 

紫の言葉に、各々思うところはあるだろう。でも、今ここに残っているメンバーは少なからずご主人様に対して良い関係を築いてきた人ばかり。

それに、先日ご主人様の身に起こったことを考えれば、その数週間あとにこんなことになるなんて酷い話だ。私だって腸が煮えくり返りそうなところをなんとか抑えて帰路につく。

 

「……主様は大丈夫です。絶対」

「あら、ユズも随分とご主人様を信頼するようになったわね」

 

雪の中を歩きながら、ご主人様が倒れても他の少女と違い泣くこともなく毅然としたまま見ていたユズが口を開いた。事件が起きてから目がずっと光っていたので、きっと何かを見ようとしていたのだろうと思う。

 

「そういうルーミアさんも、全然飄々としてますね」

「そうね……ご主人様は紫が持っていっちゃったけど、式神としての繋がりはまだ残ってるもの。力が流れ出てるみたいだから、私たちは全力で力を送らなきゃいけないけど、それさえしてれば少なくとも死んじゃうなんてことはないわ」

 

ご主人様の力をすべて把握しているわけではないけれど、沢山ある中の一つにちょっとの未来視があることを知っている。そのせいで先日家まで月の姫が押し掛けてきたわけだしね。

それによると、死んでしまう未来は先に見て回避することができるらしい。死なない未来はどれだけの怪我や病気になったとしても見えないらしいけど、死さえ回避すればご主人様は大抵回復してしまえる。

そういう意味でも、やはり今回私たちが必要以上に悲しむことはない。勿論、あれだけの傷を負ってしまうのは初めてなので苦しくはあるけれど……私たちが無駄に嘆いても現状は変わらない。それよりも……

 

「ご主人様をあんなことにした月を許さない。紫は攻め込むつもりみたいだけど、いいじゃない。私も連れてってもらうわ」

 

かつて、二度幻想郷は月へ戦争を仕掛けたことがある。一度目は随分昔のこと、月面戦争とも呼ばれる大きな戦いだったようで、私はその場にいなかったけれど、その戦いで月面及び双方の人的被害は凄まじいものだったという。

二度目は結構最近の話。理由は私も知らないけれど、いつの間にやら大事になってしまい、結構大きな戦いになって大変なことになったのを覚えている。最終的に逆に月から地上に攻めてくるなんてことになってしまい、霊夢たちがうまくやらなければ、今頃地上には月の都ができていたかもしれない。

 

「第三次戦争だなんて、面白いじゃない」

「ルーミアさん、悪い顔してますよ」

「式神としての矜持なのかしらね。ご主人様に対して敵対したやつへの復讐はすっごく気分が乗るのよね」

 

別に皆殺しにしてしまおうとか、残虐に殺してやろうとか、そう思っているわけじゃない。どうせ月相手に戦うのなら、そこまでの被害は出せないだろうし。

それでも、ご主人様を狙ったことは絶対に謝罪させる。月にも権力者がいるから、そいつらに土下座をさせる。ご主人様はそれを見てスカッとするタイプじゃないけど、私は気分が良くなるので絶対にさせる。

多分紫も大体同じように考えているだろう。月に戦いを挑むなら、戦争をするというのなら、どこかしら落としどころを決めておかなければいけない。

 

「それで、何か見えた?」

「……残念ながら。見たままの情報しか読み取れず」

「そんな申し訳なさそうにしないの。真実を見抜く能力は、何でも知ることができる能力じゃないんだから」

 

ユズの能力は、妖怪相手であれば凄まじい力を有しているけれど、月の民に対してはそこまでだろう。ユズ自身の戦闘能力も上がってはいるけれど、まだまだといったところ。今回の戦争では家で待機かしらね。

ユズが不動の式神みたいになっていたとき、その戦闘能力は霊夢を凌ぐほどで、ご主人様相手でも同等にやりあうことができるほどだった。あの戦闘能力を取り戻すことができれば……とは思うけれど、今のユズよりも残忍な感じがしたし、記憶は取り戻さない方がいいのかも。

取り敢えず今回は自宅待機ね。私は全力で戦いに行くからちゃんと準備しないと。

 

「ルーミアさん、主様の分も私の分も、よろしくお願いします」

「任せなさい」

 

雪が降るクリスマスイブの夜、サンタは血に濡れる。

 

………

 

「どうするんだぜ。一応私たちは月経験者だろ?」

「これは明らかな攻撃よ。ただ目的もよくわからないし、紫があそこまで本気だと……」

「いいじゃないですか、行き当たりばったり!定晴さんの仇は絶対に取ります!」

「早苗さん、落ち着いてください。それに、まだ定晴さんは死んでません」

 

強制帰宅をさせられたあと、私たちは、というか勝手についてきた人たちがうちの神社でわいわいと騒いでいた。早苗なんてさっきまで泣いていたくせに、いつの間にやら元気になって月への攻撃の意思を高めている。

まあ空元気だろうけど。彼女がこういうのに慣れていないのは知っている。

 

「こっちはクリスマスパーティを邪魔されたっていう大義名分があるんだぜ。私たちに不利益をもたらした、ならこっちはそれを追及する権利があるんだぜ」

「魔理沙、あなたたまに賢いこと言うわよね」

「なっ、私が馬鹿だと思ってたのか~!」

「魔理沙はいつも私やパチュリーのところから盗んでるじゃない。てっきり馬鹿なのかと」

「借りてるだけだぜ。アリスももう少し賢く生きた方がいい」

「その無鉄砲さ、いいですね。私も見習わなければ」

 

うるさいわねこいつら。誰の許可を得てうちで騒いでいるのかしら。

不完全燃焼だったからか、こいつらは騒ぎ足りないようで、どんどん話は脱線していく。萃香やあうんなんかもいて、神社の中は宴会のときくらいにうるさい。

と、そこで壁にスキマが開き、中から藍が出てきた。その顔はいつも以上に真剣な顔をしていて、紫が働いていることを物語っている。

 

「話しているところすまないが、霊夢には幻想郷に残ってもらう」

「あれ、なんでだ?」

「また月から反撃を受けるわけにはいかないからだよ。結界の維持と言う意味でも、霊夢には幻想郷で待機してもらうことになった。紫様からの命令だ」

 

いつになく強い口調で、淡々と紫からの命令を復唱する式神。どうも意識は別の所に飛んでいるらしく、連絡だけしたらさっさとスキマへと帰ってしまった。

藍があんなになるなんて、紫は相当頭に来ているようね。まあ、日頃の紫の定晴さんに対する執着具合を見ていれば、なんとなく理解できるけれど。

 

「じゃあ水那は月に行こうな」

「え、私ですか!?」

「霊夢はここに残るが、水那は何も言われちゃいない。折角の機会だし、旅行気分で行ってもいいと思うぜ。大丈夫大丈夫、定晴のことは紫がなんとかするだろうからな」

 

魔理沙が気兼ねない言葉で水那を誘う。水那は困惑しているようだけど、私が仕方なく頷いてあげると目を見開いて魔理沙に頷いていた。

幻想郷じゃ結構近い場所だけど、外の世界じゃまだまだ遠い場所だものね。月に行ってみたいならそう言えばいいのに、水那はまだ少し自己主張が弱い節がある。そんなんじゃ博麗の巫女はやっていけないわよ。

 

「紫があそこまで本気なのに、大丈夫?」

「なんならアリスだって一緒に行こうぜ。紫が本気だからこそ、私たちがバランスを取るってもんだ。何事もバランスなんだぜ」

「何よそれ、変な本でも読んだ?」

「失礼な。パチュリーのところから貰ったちんけな小説の一節だぜ」

「ちんけって言ってるじゃない」

 

わいわいがやがや、私は大きくため息をついた。これは大事になりそうね。

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