東方十能力   作:nite

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四百九十八話 策

定晴はしっかりと結界で保護をした。少なくとも、これで誰にも手を出すことはできない。

スキマの中は私の作り出した完全かつ完璧な空間。月の民ですら、この空間にまでその手を伸ばすことはできない。

 

「だから、貴方は何も手を出さないで頂戴」

「っと、そんなに怒らなくてもいいじゃないか」

 

私のものじゃないスキマに手を突っ込んでごそごそしているのは、私と定晴の共通の知り合いであるどこぞの時空神。一応定晴が重症を負ったって聞いてやってきたみたいだけど、定晴の状態を確認すると、いつものふざけた調子に戻ってしまった。

少なくとも、私が定晴をスキマの中に守っている間は問題ないと判断したのだろう。実際それは事実であり、ミキみたいな直接スキマの中に介入してくるような輩でもない限り定晴には手を出せない。

神を卸すあの姫でさえも、私のスキマに介入することはできない。

 

「にしてもバッカでぇ、定晴なら回避なり無効化なりやりようはあったと思うんだがね」

「レーザーは定晴に対して指向性を持って行われた攻撃だった。回避で避けれなかったのも道理よ」

「そもそも隣にはお前がいたんだろ?スキマ使えばよかったのに」

「貴方、本当に人の傷を抉るのは得意よね」

 

あの時、あの場にいた面子にこの事態を避けることができた人は何人だっていた。私がスキマで定晴を隠していればなんとかなった。咲夜が時間停止で遠く離れれば時間を稼ぐことができた。そもそも出力的には、大妖怪が攻撃を重ねれば相殺できるようなものであった。

でも、あまりにも咄嗟のことで誰も動けなかった。着弾して、定晴が倒れたときに初めて攻撃を知覚したのだ。

私たちが全然気が付くことができなかったのは、月の技術だからだろうか。私たちを欺くための技術を開発していても何も不思議ではない。

 

「んで、戦争をしようと」

「私の定晴を攻撃したのよ。それに定晴を治す術も見つけないといけないし……一応聞くけど、貴方は何もしてくれないのよね?」

「俺は時空不介入だ。そうさねぇ、この戦争で月が割れて消滅しちまうようなことになれば介入してやるよ」

 

ミキは私たちの悪友のようなものではあるけれど、私たちに助力をしてくれることはない。曰く、時空の運命だからと。

じゃあ何のためにここに来たのかと言えば、流石に定晴が死ぬのは本意ではないからだと。死ぬようであれば助けるが、死なないなら手は出さないのだという。

 

「安心しろ。もしぽっくり逝っちまっても地獄には顔が効く」

「そもそも幻想郷の死は幻想郷の管轄よ。閻魔様にどうにかして頼み込むわ」

 

あの閻魔様なら、どれだけ私が頼み込んでも首を縦に振ることはないだろうが……いえ、そんな悪い未来の予想なんて立てても仕方ないわ。定晴が衰弱してしまう前に、月との決着をつけないと。

 

「おっと、もう日を跨いでるな。うーん、サンタの赤は返り血の赤とは誰が言ったのか」

「何が返り血よ。別に私たちだって殺戮しようってわけじゃないの。ただ懇切丁寧に定晴の治し方を聞きに行くだけなんだから」

「そんな超強力な妖術式を用意しておいてよく言う」

 

本当なら眠っている時期。クリスマスパーティだからと目を覚ましただけの今日は、本来ならまともに術を編むのも難しい。

でも、今回は無理をすべき場面だと判断した。だから、私の中の妖力を無理に引き出して術を構築している。これが終わったあと、いつもよりも長く私は眠ることになるだろう。

 

「紫様、霊夢に伝言を……む、貴方も来ていたのか」

「お邪魔してるぜー」

「邪魔するなら帰って」

「ふっ、そう簡単には帰らないぜ」

 

別にミキは何もしてないし、私が術を構築しているのを眺めているだけなんだから、別に帰って貰っても全然かまわないというか、ミキも忙しいんだから帰った方がいいと私は純粋にそう思うんだけど。

今私が組んでいるのは対神霊用の術。現状、月の都の最大戦力は彼女なのだから、神卸しをさせない、もしくはそもそも出撃させない策が必要になる。神が降りた彼女を止めるとなると、絶好調の私じゃないと難しい。

 

「紫、あまり無理すんな。定晴のことが大切なのは分かるが、それで紫がどうにかなったら定晴が自責で死ぬぞ」

「むぅ、確かに定晴のことだから変に責任を感じるでしょうけど……私がやらなくて誰がやるっていうの。月の都に攻めるのなら、相応の準備をしないと厳しいわ」

 

一応月の都でも弾幕勝負をしてくれる人はいる。それこそ、月の姫だとか幻想郷に頻繁に降りてくるような子たちは適切に対応してくれる。

でも、それだけを期待してはいけない。対妖怪用の装備を一般兵が持っているのは私も把握していることだし、向こうが私たちの思い通りに対処してくれるとは思えない。今回、彼らは今までの協定を超えて、結界も無視して定晴を穿ったのだから。

たまたまなんてわけない。定晴が誘導用の道具を持っていたのがその証。

誘導用のやつをいつ定晴が手に入れたのかも確認しておく必要があるわね。内通者、というわけじゃないけど、定晴のことを殺すことに加担したやつがいるならばお灸を据えなければいけない。

 

「紫様、集める人員はこんなに少なくていいのですか?」

 

藍が手元の紙を見ながらそう尋ねてくる。今回の戦争をするにあたり、実際に幻想郷から出撃するために集める人員の名簿だ。

 

「いいの。並の妖怪じゃ歯が立たないわ」

「しかし、それにしても数が少ないのでは?月の戦力をこの数で抑えるのは……」

 

名簿に書かれているのは十数人。どれも名の知れた大妖怪だけど、確かに数は少ない。

 

「別に殺し合いをしましょうって言いたいわけじゃないの。ただ、私が月の偉い人と話し合いをする間、邪魔が入らないようにしてもらうだけよ」

「つまり陽動と」

「ええ。月を取ろうってわけじゃないんだから」

 

定晴のことを傷つけた責任はとってもらうけど、それ以上を求めることはない。月の領土とか、今更貰ったところで困っちゃうし。

ともかく、きちんと私が話している間に戦力を分散してもらえればそれでいい。危なくなったら逃げちゃっていいし、そう時間をかけるつもりもない。

 

「まあ全員が承諾してくれるとは思ってないし、もし足りなそうなら藍の独断で追加の人員を呼び掛けて頂戴。定晴との縁があれば、それなりにちゃんと応対してくれるはずよ」

 

よし、術式は完成。ひとまずこれで、依姫が神を卸しづらくできるはず。それに、あの子も定晴には好印象を持っているようだったし、ちゃんと話せばなんとかなるはず。

 

「じゃあ集合は紅魔館よ。私が行くまでは待機しておくように」

「はい」

 

そうして私はスキマを開く。用意しておくものが色々あるから、ちゃんと持って行かないと。

ミキに見送られながら、私は幻想郷の中に移動した。

 

………

 

「行ったか、いないな?本当に?いないよな?」

 

声をかける。うむ、いないな。

空間に残っているスキマの残滓、それを掴んで無理やり開く。そんで中に入ってしばらく歩くと、そこには倒れ伏したまま目を瞑る親友の姿。血は止まっているが、霊力やらの流出が止まっていないようだ。

 

「んじゃ、時空神運送の時間だ」

 

腕を掴み、自前の転移で移動する。紫にバレたら面倒なことになるので、慎重に。

 

「ほれ、早く起きないと本当に……俺が出ることになるぞ」

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