東方十能力   作:nite

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五百六話 頂

「まだ追ってきています!」

 

誰にも被害がないように森の深い方向へ逃げているが、幻想郷はそこまで広くもない。いつまでも逃げることはできないだろう。

とはいえ、被害を抑えるという目的は果たされた。例え攻撃を受けたとしても、ここらへんにいるのは本能だけで生きる野良妖怪だけだろうから、幽々子たちの心もあまり傷まない。

だからこそ、逃げながらも幽々子は従者に対して言葉を告げる。それは主命。それこそが、妖夢がここに在る理由。

 

「……妖夢、斬れるかしら?」

「っ!」

 

幽々子の言葉に、妖夢が追ってきている兵器を再度見つめる。

大きさは家一軒ほど。材質は不明で、どこに動力部があるのかも分からない。河童の発明品を参考にするのであれば、中央に動力部が置かれていることが多いが、月は技術力で言うと河童を凌駕しているため妄信するのは危険だ。

しかし。

 

「斬って見せましょう。それが幽々子様と、剣の師匠を助けるためであれば」

 

妖夢は急停止。二振りを構え、ただまっすぐ兵器を見つめる。

刃渡りだけで攻撃をしても両断などできるはずもない。それなりに刀身が長いとはいえ、刀というのは巨大なものを斬るようには設計されていない。

だが、妖夢が斬るのは質量だけではない。自らの剣は、石を断ち、鉄を断ち、水を断ち、時を断つ。なれば、ただ大きなだけの鉄の塊を斬れぬなどどうして妖夢が言えようか。斬れぬというのであれば、それはただ妖夢の実力が劣っているだけだ。

 

「ふぅ……」

 

ただ斬る一点のみを見る。

 

頭に浮かべるは至高の一撃。

 

 

至るは極地。

 

 

 

 

ひたすらに

 

 

 

 

 

 

無想

 

 

 

 

 

 

一閃!

 

「やああああああ!」

 

兵器が妖夢の間合いに入った瞬間、その二振りと共に妖夢の姿は消滅した。否、消滅したと錯覚するほどの速度で移動した。

酷く考えた結果、やはり自分では頂には届かない。一振りで大質量を両断することは叶わない。だから、別のことでその問題を解決したのだ。その結果の、瞬間移動にも紛う移動と共に繰り出される一閃。

 

「かはっ、はぁ、はぁ……」

 

あまりの負荷に、体が悲鳴を上げる。息は荒く、ふらりとそのまま墜落してしまいそうだ。

と、

 

「よくやったわ、妖夢。流石うちの剣士ね」

 

幽々子が優しく妖夢のことを抱き留めた。定晴は落とさないようにしつつ、妖夢のことを優しく包み込むように抱きしめる。

その直後。

 

ドカアアアン

 

二人の背後で兵器が地に堕ちる。質量と衝撃により、木々は吹き飛び妖夢たちにもまた風圧が襲い掛かる。

 

「大丈夫よ」

 

さっ、と幽々子が扇子を軽く振るう。すると、扇子から大きな風は発生し、兵器から生まれた自然な風を押しのけて弾き飛ばす。

服の裾を靡かせながら、幽々子はすべての風を払いのけたのであった。

 

「はぁ、はぁ、幽々子様、大丈夫ですか」

「ええ、守ってくれたおかげでね。本当に流石よ、妖夢」

「ありがとう、ございます」

 

息は荒いままに笑みを浮かべる妖夢。少しずつ反動にも慣れてきて、妖夢は一人で浮かび上がる。

兵器は完全に停止しており、動き出す様子はない。妖夢たちではどうしようもないのでこのままここに放置するが、すべてが終わったあとに紫か月の民か河童が回収しに来るだろう。

ひとまずは、自身の成長を喜ぶ。そして気を引き締めなおす。まだ何も終わってはいないのだから。

 

「幽々子様、次はどちらへまいりましょう」

「そうねぇ……本当はもう少し欲しかったんだけど、今は大丈夫でしょう。冥界に戻るわよー」

 

ふよふよと冥界に向かって移動し始める幽々子を急いで追いかける妖夢。剣を鞘に戻すとき、違和感を覚えて刀身を見つめる。

ねとりと刀身に何かが付着している。油のように見えるが、月の機械も油を点して動かしているのだろうかと思いつつ、スカートのポケットから刀用の手拭を取り出して拭き取る。

 

「妖夢、行くわよー」

「はい、今行きます!」

 

………

 

「かはっ」

 

ほぼ同時刻、月某所。

八雲紫は吐き出すようにしながら息を吹き返した。ぼんやりとする思考のままに、倒れている体を起こす。

そこは小さなテントのようだった。だが、臨時で立てたにしてはやたらと物資が中に置いてあるし、何より紫は妖怪たちにこんな拠点を作れと言ってはいない。そもそも少数精鋭で来ているので、拠点を立てる予定はないはず。

段々と記憶が蘇り、自分が依姫に敗北したあと、何かによって意識を飛ばされたことを思い出す。正体はよく分からないが、依姫諸共謎の兵器によって自分たちは吹き飛ばされたのだ。

 

「いったた……これは二日はかかるわね」

 

節々の痛みで、回復までの時間を計算する紫。と同時に、誰かが中に入ってくる。

 

「え、あっ!豊姫様ー!」

 

それは月の兵隊、月兎である玉兎であった。いつものヘルメットはそのままに、紫に気が付いて逃げるようにして外に飛び出す。

紫にとっては何がなんだか分からない。捕虜にされているのかと思えば、何かに拘束されているようにも思えない。だが、力が出しづらいことを見ると、ここはどうやら月の都と同じように穢れを拒絶する何かが仕掛けられているらしい。

このテントの中だけは、一応術が弱くなるようにしているようだが、それは紫を療養させるためか。

 

「あら、目が覚めたわねぇ」

「……どういうつもりかしら、私を捕虜にするんじゃなかったの?」

「そういう段階じゃいられなくなったのよぉ」

 

テントの中に顔を出すのは豊姫。いつもの緩い空気の中に、どこか張り詰めたような緊張というのを紫は感じ取った。

なんとなく、紫は彼女に助けられたのだろうということに気が付く。豊姫は距離を操る能力があり、月と地球の行き来も彼女の力によるものが大きい。気絶して動けなかった紫を安全圏まで飛ばすのも造作もないというわけだ。

 

「ここは?」

「月の某所の避難地域といったところねぇ。妖怪を招き入れるのは初めてよっ」

「別に嬉しくないわよ……依姫はどうしたの」

「一緒に救出済みよぉ。気づくのが遅れたら、二人とも蒸発しちゃってたかも」

 

なんて恐ろしいことを、と紫は思いつつも、確かにそうかもしれないと思い出す。気絶する寸前に感じた衝撃と、兵器の持つ能力。それらを思い返してみると、手負いの紫や依姫を蒸発させるくらいはわけないのだろう。

問題は、それが月の兵器らしいことなのだが。

 

「あれは月の兵器でしょ。なに、軍部が暴走でもした?」

「……似たようなものよ。むしろ、軍部の暴走なら止めるのも簡単だったんだけど……ついてきて」

 

紫は地に足をつけ、豊姫についていく。まだ体にダメージが残っているせいで、途中でふらついて豊姫に支えられてしまう。

だが、そんな紫の姿を気にしている人は周囲にはいない。ここにいる玉兎たちは、誰も彼もどこかしら負傷をしていたり、治療をしていたりする。紫が起きていることを知っているのは先ほど遭遇した玉兎くらいだろう。

 

「何があったのよ」

「……」

 

豊姫に導かれてやってきたのは、作戦会議室として使われているらしいテント。これまた仮設のものであると一目で分かるようで、絢爛たる月の都には似合わない。

 

「結論を言うわ。私たちは、正体不明の何者かに、兵器のほとんどを奪われました」

 

真面目な口調になった豊姫が指したのは、月の表面を滑るように動く月の兵器を映したカメラであった。

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