販売所付きの2階建て住宅に改築してから、1年あまりが過ぎた。
その間、さまざまなところへ手を入れ、見栄えと機能性を充実させてきた。飾り気のなかった販売所の壁にも鹿の
だが、彼の中ではまだ不満が残っていた。かつて友人のくれた助言どおり、"
ある日、彼は意を決して玄関の扉を開けた。
「お疲れさまです。お出かけですかぁ?」
目ざとく見つけたエルモニーの販売員が声をかけてきた。雰囲気作りのため、
他の売り子たちも頭を下げて
「壁の…鹿の間に飾る絵を探してくるよ。出かけてばかりで申し訳ないけど、留守をよろしくねぇ」
行ってきます、ともう一声かけ、背中にかかる見送りの言葉へ手を振り、
とある湖畔に佇む、彼の家と色違いな造りの販売所へ差し掛かった時、それは起きた。
「壁に掛けるのにぴったりな各種の絵を扱ってます。いかがですか~?」
落ち着いた
思わず視線を向けた先に、浅黒い肌と、白く映える2つの豊満な膨らみがあった。
そのとたん、身を大きく震わせ、
パンデモス女性の服装は、よりによって"
営業なのか趣味なのかは分からないが……困る。とても困る。とにかく困る。
目のやり場にも、商談をするにも…とても、とっても、とてつもなく困る。
販売所の床が高めなところへ
気まずさ満点の彼をよそに、当の相手はまるで意に介さない様子だった。左右の手に別々の絵柄を掲げたまま、おだやかに
「いかがですか~? 他にもありますよ?」
脈ありと思われているのは明らかだ。お茶を
"しかたない…
正面を向くと
「お声がけ、ありがとうございます。どのようなものが、置いてありますか?」
口調が硬い。自分は今、どんな
「そんなに緊張することないですよ? この格好に驚いたんでしょう? どうぞ気にしないでくださいねぇ。私も平気ですから~」
大柄なためか低めな声が、この状況では気持ちを落ち着かせてくれるのにちょうど良い。また、話し方や笑い方は無邪気で人なつこく、緊張をほぐす効果があった。
改めて観察する彼女は、健康的で躍動感のある美しさに満ちた顔立ちをしている。
結局…勝手に意識しすぎただけか…と気づいたとたん、なぜか自分でもおかしくなってしまい、口元がほころぶ。
この際、ちゃんと詫びを入れてから、相談に乗ってもらおう。絵図を扱っているお店はそこそこあるが、何種類も取りそろえているのは貴重だ。これこそ"
「ありがとうございます。先ほどはお見苦しいところをお見せして、失礼しました」
頬のほてりや胸の高鳴りはもうない。うん、これなら大丈夫だ。
心身ともに
「どんな絵がふさわしいかを、一緒に考えてもらえると助かります」
と締めくくった。
販売員はそれを聞くと、あごに手を当て、視線をしばらく宙に泳がせた。
「そうですかぁ。あまり目立たせない感じですか?」
彼がうなずくのを見てから、彼女は陳列棚の下へ潜り込む。やがて、左右の脇に2~3枚ずつ抱えて頭を出し、棚の上から外向きへ降ろし、立てかけていく。
合計6枚。うち1枚は彼の手元にもある
「他にもあるんですけど、大勢が描いてあるのはご希望に合わないかなぁと思って、出しませんでした。あと…横向きに飾るのが多いですけど、不都合はないですかぁ?」
嬉しい心遣いだった。彼も爽やかな表情で応じる。
「大丈夫です。ありがとうございます。じゃあ、見てみますね」
5枚はどれも渋めの画調で描かれ、壁の色と似合いそうだ。
まずは、ニューターとパンデモスの女戦士が切り結んでいる光景。これは即座に"合わない"と感じた。協力しあえる種族どうしで、なぜこうも
次は、宝玉らしきものを前に、両手持ちの杖を掲げて詠唱するコグニートーの女性。構図は美しいが、彼が扱う商品には魔法関係のものは少ない。看板を
3枚めと4枚めは、どちらも生産の様子を描いている。一方は楽しそうに調理や調合をするエルモニーの男女、もう一方は熱くたぎった
これはご縁がないかな…と、
彼は息を呑み、叫んだ。
「あ、これだ!」
この
命を賭けて、協力しあってがんばってくれる人たちへ。
お礼と、ねぎらいと、励ましの気持ちを込めて。
そう思える1枚が、そこにあった。
中央には、互いの背中を
この1枚が彼の心を捉えて放さない理由…それは、人物たちの
明らかな
そこにあるのは、決意。
"倒す。切り抜ける。みんなで生きて帰ろう!"
彼の耳には、戦士たちが交わすそんな言葉が聞こえていた。
「あの~…どうかしましたかぁ?」
のんびりした声で、彼は我に返る。そのまま、
「いえ…みんなこうやって、素材を取りに行ってくれているんだなと。命がけで…って。そう思うと、目が離せなくなって。いつも…ありがとうとか、おつかれさまとか、どうか無事で、とか…思ってます」
飾らない、つっかえながらの、けれど素直な独白。それは、愛想とは異なる笑顔を聞き手に呼び起こした。
「優しいんですねぇ。いいお話を聞かせてもらいました。私も見習いますね」
販売員の言葉がくすぐったい。耳まで真っ赤になってうつむく。けれども悪い気はしない。喜びで胸がいっぱいになる。
そして、ふと気づいた。
闘いや狩りで得た毛皮や
それはすなわち、
"存在感と統一感を両立させながら、自分の思いも表す"
という彼の理想が実現することに他ならない。ますます、この1枚を見逃すわけにはいかなかった。
指が吸い寄せられる。手に取る。売値を聞く。財布を開ける。お代を払う。包装をしてもらう。
それらの
「お世話になりました! 来てみて良かったです」
商品を受け取り、小脇に抱えて丁寧にお辞儀をする。
「どういたしまして。こちらこそ、お求めに応えられてうれしいですー。お気持ちが皆さんへ伝わるといいですねぇ」
添えてくれる言葉が、本当に
「お買い上げありがとうございましたぁ」
今は、手を振る水着姿が
別れの挨拶を済ませ、家路につく。
満たされた気持ちに足取りも軽く、さらに早く飾りたい思いに背中を後押しされて、自然と歩調が速まるのだった。
その道すがら、見栄えのする配置を思い描いてみる。絵の中で1つの情景ができあがることと、鹿の剥製が醸し出す雰囲気との折り合いをどう着けようか。
額縁は販売棚の奥の壁へ飾るとして…横長なので、圧迫感が出ないように位置を下げよう。ただ、鹿の剥製とあまり近づけると
太陽が山陰に隠れる頃。
家へ近づくと、玄関の扉が開いて見慣れた顔が現れた。
「おかえりー。おじゃましてるよ~」
口の端を軽くつり上げ、
「ただいま…って、いつの間に?」
本人に
伐採や採掘で出るならともかく、探し物で
「夕飯を作って来たんだよ。売り子さんから物探しに出てるって聞いたから、待たせてもらおうと思ってさ」
まぁ…善意からだから、仕方ないか…。"親しき仲にも礼儀あり"という言葉を飲み込み、小さくひと息ついてから友人へと向き直る。
「それはわざわざすまないねぇ。ありがとう」
頭を下げるのに合わせて、相手は押しとどめるように両手を振った。
「いやいや、こちらこそ急に押しかけてごめんよぉ。それにさ、どうせなら誰かと食べる方が
こう言われてしまうと彼も悪い気はしないし、許せてしまう。これまた当人は自覚していないだろうが、ちゃんと
ちゃんと謝り、理由を
中へ入ると、販売を手伝ってくれている男の子が出迎えた。台帳を渡しながら、他の皆さんはお店の
改めて少年をねぎらい、先に夕食をいただくよう促す。嬉しそうに返事をし、小走りに友人へ付いていく姿が愛くるしい。よほどお腹が
品名、単価、数量、売上高の横に、販売員の名前と大まかな時間帯も
彼は商売に
出先では思い至らなかったが、彼らも戦士たちと同様、"助け合い、がんばっている"のだ。そういう意味でも、持ち帰ったこの絵は販売所に
そんな確信や思いを
牛の
作った本人はいつもながら、
「大したことないよぉ」
などと言っているが、まったく口もきかずにほおばる少年の有り
そのようにして心行くまで夕食を
めいめいに包装へ手をかけ、
「いくよ。せ~のっ!」
そのとたん、派手な音を立てて
「ごめんなさい」
食事の提供者が床へ頭をこすりつける。その身振りと
家主と少年は両脇から布地を水平に引っ張った。友人は
土下座する友人の横で、男の子が取り乱したように辺りを見回している。それを仕草でなだめつつ、しゃがみ込んで絵をゆっくり持ち上げる。
幸い、画面には傷やひび割れなどもなく、無事なようだ。胸をなで下ろしてから立ち上がり、彼は友人へ向き直った。
「まぁ、大丈夫みたいだし、そこまで気にしなくていいよ。それよりも、これを起こすのを手伝ってくれないかな」
すると当人は、
「いやー…正直おっかないんだけど」
「そんなに
努めて明るく振る舞いながら、思ったよりも
「それに、
言葉を続けながら、こっそりと目配せする。それを受けて、男の子からも"
「手助けしてもらえるとすごく安心です。お願いします!」
つまり、2人がかりで、"君の助けが必要だ。ないと困る"と訴えかけているのだった。
果たして、もともと人の
「これでいい?」
作戦成功。お互いに目でうなずき合う。これまた2人そろってお礼を述べてから、両側から腕を伸ばし、指を差し込む。
「よーいしょっとぉ!」
こうして絵画と
1人は
ややあって、後者の反応を示した方が、遠慮がちに言葉を紡ぐ。
「本当に…それ、飾るの? なんか迫力ありすぎて怖いんたけど…」
助け合い、がんばる姿が目を引いたこと。その姿が、危険を
決して
「なるほどねぇ。それなら
その返しを耳にして、彼が喜びのあまりに破顔したのは言うまでもない。
そして夜が明けた。
お店の準備に来た人たちと協力して、販売所の模様替えを終わらせた。
まず、
次に、剥製を配置
するとどうだろう。2頭の鹿が額縁を挟んで向かい合う構図は実に格調高く、空間全体が"絵になる"光景へと早変わりしたのだ。まったく想定していなかっただけに、とても嬉しい収穫だった。
最後に商品管理用の黒塗り
途中、ちょっとした困りごともあった。
お手伝いの女の子が画中の怪物を見て
「そうだよなー、こわいよなぁ」
後ろから、縦に1つ、振動が伝わってくる。
「けどさ、そんなこわーい怪物たちをさぁ、この3人はこれからやっつけるんだぜ」
「…え?」
小さな声とともに、ゆっくりと絵へ向き直るのが気配で感じ取れた。
「どうして…わかるの?」
待ってましたと言わんばかりに、手に持った杖を絵へ向ける。
「見てみなよ。負けそうな
首を横へ振る反応に、我が意を得たりと大きくうなずく。
「だろー? だから応援してあげような。みんな負けるなー、がんばれーってさぁ」
片腕を突き上げる
「がんばれー…まけないでー」
身を震わせつつも、本人なりに理解したようだった。
この対応ぶりに、困り果てていた家主も救われた。周りからも安堵したような雰囲気が伝わってくる。
"ありがとう、助かった"
"どういたしましてー"
片手を軽く上げて交わすやり取りは、まさしく協力と信頼の証だった。
いつもながら、何かをする時にはいろいろな
今回のことも、まとめると簡単に済む話だ。絵を手に入れ、販売所へ飾り、全体のまとまりを見直した…だけ。
けれど、それにまつわる話が、さまざまな彩りを添えてくれる。貝殻
それに振り回されて、気が動転したり冷や汗をかいたり、はたまた溜め息をついてみたりと慌ただしかったが、こうして終わってみると、不思議と悪くない気持ちになる。充実して楽しかったし、満足感と手応えも味わえる。
やってみて、本当に良かった。
今は、この一言に尽きる。
楽しくも頼もしい、この素晴らしい仲間たちへ
心から、そう願うのだった。(了)
お読みくださり、ありがとうございます。
筆者には、そんな経験が幾度もあります。
また、同じ絵画を飾る時も、上下左右にずらしていろいろ印象や雰囲気を変えられるので、ついつい模様替えに励んでしまいます。
MoEの家造りや部屋づくりの、言わば
残念ながら、動かす際の制限も多いです。1マスずつしか動かせないし、左右(壁用は上下)にしか回転させられません。積み上げられる高さにも限りがあります。
種類ももっと増えてほしいなぁとも、正直、思います。
けれど…そんな制限があるからこそ、満足感も大きいです。
え? 筆者だけ?(汗)
きっと…他にも分かってくれる人はいる……はず?
いると……いいなぁ。
などと願いつつ、今回はここで筆を置こうと思います。
MoEへ興味を持ってくださる方が、増えますように…。(筆者 拝)