【MoE】 もっこす奮闘記   作:うにねこ

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販売所の絵を飾る話です。

鹿の剥製を作って壁に掛ける話の続きになります。



【MoE】 もっこす奮闘記 模様替え編 販売所の場合 その2

 販売所付きの2階建て住宅に改築してから、1年あまりが過ぎた。

 その間、さまざまなところへ手を入れ、見栄えと機能性を充実させてきた。飾り気のなかった販売所の壁にも鹿の剥製(はくせい)を2つ並べて、明るく華やいだ雰囲気になった。そのおかげか、売上もいくらか出るようになっている。

 だが、彼の中ではまだ不満が残っていた。かつて友人のくれた助言どおり、"絵画(かいが)のある情景"への憧れが日増しに強まっていたのだ。手持ちに1枚、譲り受けたものはあったのだが、あまりにも雰囲気が独特すぎたために断念した。そんな事情も、彼の思いに拍車をかけた。

 

 ある日、彼は意を決して玄関の扉を開けた。

 「お疲れさまです。お出かけですかぁ?」

 目ざとく見つけたエルモニーの販売員が声をかけてきた。雰囲気作りのため、魔道師(マギステル)風の格好をしてもらっている。つばの広い山高帽(やまたかぼう)とコウモリの翼は、友人と親しい癒やし手(ヒーラー)に譲ってもらったものだ。思いつきで組み合わせてみたが、良く似合っている。身に着けている当人もまんざらでもなさそうだ。

 他の売り子たちも頭を下げて挨拶(あいさつ)してくる。片手を上げて応えてから、彼は目的を告げた。

 「壁の…鹿の間に飾る絵を探してくるよ。出かけてばかりで申し訳ないけど、留守をよろしくねぇ」

 行ってきます、ともう一声かけ、背中にかかる見送りの言葉へ手を振り、転移装置(アルター)に向かって足を踏み出した。

 

 とある湖畔に佇む、彼の家と色違いな造りの販売所へ差し掛かった時、それは起きた。

 「壁に掛けるのにぴったりな各種の絵を扱ってます。いかがですか~?」

 落ち着いた声音(こわね)が耳を打つ。

 

 思わず視線を向けた先に、浅黒い肌と、白く映える2つの豊満な膨らみがあった。

 

 そのとたん、身を大きく震わせ、(ほほ)を赤らめ、頭を横へ振り抜く。傍目(はため)には平手打ちでも食らったように見えたろう。()き立つ脳みそ。跳ね躍る心臓。彼の全身は(たちま)ち混乱のるつぼと化した。

 

 パンデモス女性の服装は、よりによって"貝殻水着(かいがらビキニ)"! 胸と陰部のみ大きな白い2枚貝で隠し、他はひも状の布地が覆うだけ。大胆を通り越して非常に際どい。

 

 営業なのか趣味なのかは分からないが……困る。とても困る。とにかく困る。

 目のやり場にも、商談をするにも…とても、とっても、とてつもなく困る。

 販売所の床が高めなところへ水着の店員(パンデモス)彼自身(ニューター)の身長差が加わり、()()と視線が合ってしまったのだった。なんという偶然、いや悪戯(いたずら)であろうか。

 その手のもの(なまめかしさ)にはまるで免疫がないために、衝撃も大きかったのだ。

 

 気まずさ満点の彼をよそに、当の相手はまるで意に介さない様子だった。左右の手に別々の絵柄を掲げたまま、おだやかに微笑(ほほえ)んでいる。それを見て、彼も落ち着きを取り戻しつつあった。

 「いかがですか~? 他にもありますよ?」

 脈ありと思われているのは明らかだ。お茶を(にご)して立ち去ってもいいのだが、慌てて逃げるようで気恥ずかしく、そして心苦しい。良くも悪くも彼の人柄と言える。

 "しかたない…手短(てみじか)に切り上げて、早々にお(いとま)するか…"

 正面を向くと()()なので、彼女の顔、つまりやや上へ角度を合わせてから、おもむろに向き直る。

 「お声がけ、ありがとうございます。どのようなものが、置いてありますか?」

 口調が硬い。自分は今、どんな表情(かお)をしているだろう。あ、相手がクスクス笑った。きっと小馬鹿にしているに違いない…

 「そんなに緊張することないですよ? この格好に驚いたんでしょう? どうぞ気にしないでくださいねぇ。私も平気ですから~」

 大柄なためか低めな声が、この状況では気持ちを落ち着かせてくれるのにちょうど良い。また、話し方や笑い方は無邪気で人なつこく、緊張をほぐす効果があった。

 改めて観察する彼女は、健康的で躍動感のある美しさに満ちた顔立ちをしている。()羽色(ばいろ)の長い髪を横や後ろへ流し、額からは、つややかな髪をかき分けて短い角が上へ伸びている。鳶色(とびいろ)の瞳は、形の良い吊り目の中で温かい光を(たた)えている。紅をさした唇は、形の変化で持ち主の心情をよく表しそうだ。

 結局…勝手に意識しすぎただけか…と気づいたとたん、なぜか自分でもおかしくなってしまい、口元がほころぶ。

 この際、ちゃんと詫びを入れてから、相談に乗ってもらおう。絵図を扱っているお店はそこそこあるが、何種類も取りそろえているのは貴重だ。これこそ"()(えん)"に違いない。そう思い直した。

 「ありがとうございます。先ほどはお見苦しいところをお見せして、失礼しました」

 頬のほてりや胸の高鳴りはもうない。うん、これなら大丈夫だ。

 心身ともに()いだのを確かめてから、本題へ入る。絵を1枚、ここと同じ造りの販売所へ飾りたいこと、鹿の剥製との兼ね合いも考えて選びたいこと、などを明かした上で、

 「どんな絵がふさわしいかを、一緒に考えてもらえると助かります」

 と締めくくった。

 販売員はそれを聞くと、あごに手を当て、視線をしばらく宙に泳がせた。

 「そうですかぁ。あまり目立たせない感じですか?」

 彼がうなずくのを見てから、彼女は陳列棚の下へ潜り込む。やがて、左右の脇に2~3枚ずつ抱えて頭を出し、棚の上から外向きへ降ろし、立てかけていく。

 合計6枚。うち1枚は彼の手元にもある()()()作品だったので()くとして、他の5枚はどれも初めて見るものだった。

 「他にもあるんですけど、大勢が描いてあるのはご希望に合わないかなぁと思って、出しませんでした。あと…横向きに飾るのが多いですけど、不都合はないですかぁ?」

 嬉しい心遣いだった。彼も爽やかな表情で応じる。

 「大丈夫です。ありがとうございます。じゃあ、見てみますね」

 

 5枚はどれも渋めの画調で描かれ、壁の色と似合いそうだ。

 まずは、ニューターとパンデモスの女戦士が切り結んでいる光景。これは即座に"合わない"と感じた。協力しあえる種族どうしで、なぜこうも切羽(せっぱ)()まった状況にならなければならないのか…と首をかしげたからだ。

 次は、宝玉らしきものを前に、両手持ちの杖を掲げて詠唱するコグニートーの女性。構図は美しいが、彼が扱う商品には魔法関係のものは少ない。看板を(いつわ)るようで気が引けたので、見送ることにした。

 3枚めと4枚めは、どちらも生産の様子を描いている。一方は楽しそうに調理や調合をするエルモニーの男女、もう一方は熱くたぎった金属の塊(インゴット)金床(かなとこ)へ力強く打ち付けるパンデモスの鍛冶師。まるで対照的な光景がどこか面白く、つい笑みがこぼれる。ただ…なぜだろう。もの作りという彼の仕事に合うはずが、"どちらも何かが足りない"と引っかかりを覚えてしまう。

 これはご縁がないかな…と、(なか)(あきら)めつつ、最後の商品を見やったその時。

 

 彼は息を呑み、叫んだ。

 「あ、これだ!」

 この絵面(えづら)こそ、うちの店にぜひ…そう直感した。

 

 命を賭けて、協力しあってがんばってくれる人たちへ。

 お礼と、ねぎらいと、励ましの気持ちを込めて。

 そう思える1枚が、そこにあった。

 

 金縁(きんぶち)(がく)に納まった()()は、激戦のさなかにあった。その場の埃っぽさや音までも感じ取れるかのようだ。

 中央には、互いの背中を(かば)い合う3人組の姿が見える。仲間の壁となるべく、大きな(たこ)形の盾を掲げるパンデモスの重戦士。口元を引き結び、敵を見定めて両手剣を構え直すニューターの女戦士。油断なく周囲を目で追いながら、呪文を唱えようと杖を握りしめるコグニートーの女魔法使い。背中を預け合う彼らへ左右から迫り来る、半魚人(イクシオン)らしき3体の影。より大勢が取り囲んでいることをにおわせる。

 この1枚が彼の心を捉えて放さない理由…それは、人物たちの表情(かお)にあった。

 明らかな窮地(きゅうち)にあって、女性2人には絶望も諦めも、ましてや焦りの色もない。後ろ姿しか見えない男性も、たぶん同じであろうことは容易に想像がつく。

 そこにあるのは、決意。

 "倒す。切り抜ける。みんなで生きて帰ろう!"

 彼の耳には、戦士たちが交わすそんな言葉が聞こえていた。

 

 「あの~…どうかしましたかぁ?」

 のんびりした声で、彼は我に返る。そのまま、真摯(しんし)で熱っぽい眼差(まなざ)しを女性へと向ける。

 「いえ…みんなこうやって、素材を取りに行ってくれているんだなと。命がけで…って。そう思うと、目が離せなくなって。いつも…ありがとうとか、おつかれさまとか、どうか無事で、とか…思ってます」

 飾らない、つっかえながらの、けれど素直な独白。それは、愛想とは異なる笑顔を聞き手に呼び起こした。

 「優しいんですねぇ。いいお話を聞かせてもらいました。私も見習いますね」

 販売員の言葉がくすぐったい。耳まで真っ赤になってうつむく。けれども悪い気はしない。喜びで胸がいっぱいになる。

 

 そして、ふと気づいた。

 闘いや狩りで得た毛皮や(つの)があればこそ、剥製を作り上げることができた。言うなれば、()と剥製との間に繋がりが生まれるのだ。

 それはすなわち、

 "存在感と統一感を両立させながら、自分の思いも表す"

 という彼の理想が実現することに他ならない。ますます、この1枚を見逃すわけにはいかなかった。

 

 指が吸い寄せられる。手に取る。売値を聞く。財布を開ける。お代を払う。包装をしてもらう。

 それらの(わず)かな時間さえ、今はもどかしくて仕方がない。来店時の動揺や気まずさは、とうに吹き飛んでいた。

 「お世話になりました! 来てみて良かったです」

 商品を受け取り、小脇に抱えて丁寧にお辞儀をする。

 「どういたしまして。こちらこそ、お求めに応えられてうれしいですー。お気持ちが皆さんへ伝わるといいですねぇ」

 添えてくれる言葉が、本当に心地(ここち)良い。見えない贈り物をもらったように、心が軽やかになる。

 「お買い上げありがとうございましたぁ」

 今は、手を振る水着姿が愛嬌(あいきょう)たっぷりに見える。よく似合ってるな、また機会があれば()ようと思った。

 

 別れの挨拶を済ませ、家路につく。

 満たされた気持ちに足取りも軽く、さらに早く飾りたい思いに背中を後押しされて、自然と歩調が速まるのだった。

 その道すがら、見栄えのする配置を思い描いてみる。絵の中で1つの情景ができあがることと、鹿の剥製が醸し出す雰囲気との折り合いをどう着けようか。

 額縁は販売棚の奥の壁へ飾るとして…横長なので、圧迫感が出ないように位置を下げよう。ただ、鹿の剥製とあまり近づけると狭苦(せまくる)しく感じるかもしれない。剥製を両端(りょうはし)へ離すか、手前と奥の壁へ向かい合うように掛け直すことになりそうだ。

 

 太陽が山陰に隠れる頃。

 家へ近づくと、玄関の扉が開いて見慣れた顔が現れた。

 「おかえりー。おじゃましてるよ~」

 口の端を軽くつり上げ、()()の高さから見上げる顔は、差し入れをよく持ってきてくれる友人(エルモニー)のそれだった。

 「ただいま…って、いつの間に?」

 本人に悪気(わるぎ)はまったくないのだが、時々こうして抜き打ちでやってきては、勝手知ったる我が家と言わんばかりに待ち構えているのだった。

 伐採や採掘で出るならともかく、探し物で方々(ほうぼう)へ足を運ぶ場合は帰宅時間の予測が立たない。相手を待たせるのも気まずいし、留守番よろしく居座られるのもどこか気色(きしょく)悪い。

 「夕飯を作って来たんだよ。売り子さんから物探しに出てるって聞いたから、待たせてもらおうと思ってさ」

 まぁ…善意からだから、仕方ないか…。"親しき仲にも礼儀あり"という言葉を飲み込み、小さくひと息ついてから友人へと向き直る。

 「それはわざわざすまないねぇ。ありがとう」

 頭を下げるのに合わせて、相手は押しとどめるように両手を振った。

 「いやいや、こちらこそ急に押しかけてごめんよぉ。それにさ、どうせなら誰かと食べる方が美味(うま)いと思ってさ」

 こう言われてしまうと彼も悪い気はしないし、許せてしまう。これまた当人は自覚していないだろうが、ちゃんと後始末(フォロー)のつく形になっているのが、この友人の不思議なところだ。

 ちゃんと謝り、理由を端的(たんてき)に明かす。言い訳とも取られかねないところを、前向きな理由で好印象を持たせる。人との関わりにおいて大切な(すべ)が、自然と身に付いているのだろう。

 

 中へ入ると、販売を手伝ってくれている男の子が出迎えた。台帳を渡しながら、他の皆さんはお店の(しめ)を終えて帰りました、と知らせてくれた。わざわざ敬礼しているのは、"お客さん(家主の友人)"の手前、格好良く見せたいからだろう。実は(なご)み要素になっているという事実は、本人の名誉のために伏せておこう。

 改めて少年をねぎらい、先に夕食をいただくよう促す。嬉しそうに返事をし、小走りに友人へ付いていく姿が愛くるしい。よほどお腹が()いていたのだろう。

 微笑(ほほえ)みながら見送った後、台帳をめくる。そこには、細かな気配りと大きな手がかりが詰まっていた。

 品名、単価、数量、売上高の横に、販売員の名前と大まかな時間帯も(しる)してある。さらに、前に売れた時の日付や売上の比較、家主への言伝(ことづて)などを添えている行もある。

 彼は商売に(うと)いので、品物を渡した(あと)のことは販売員たちに任せている。帳面の書き方に口を出したこともない。ただ、素人(しろうと)目にもよく工夫してあるのが分かって感服(かんぷく)するし、実際にとても役立っている。新しい注文や知人の獲得に(つな)がったり、売れ(すじ)を見極める良い判断材料になったりしたのだから。

 出先では思い至らなかったが、彼らも戦士たちと同様、"助け合い、がんばっている"のだ。そういう意味でも、持ち帰ったこの絵は販売所に相応(ふさわ)しいはずだ。そして雰囲気が良くなれば、営業努力に報い、さらに貢献できることは間違いない。

 そんな確信や思いを(いだ)きながら帳簿を静かにたたむ彼だった。

 

 牛の腰肉の(フィレ)薄切り焼き(ステーキ)と、野菜の煮固め(ジュレ)

 作った本人はいつもながら、

 「大したことないよぉ」

 などと言っているが、まったく口もきかずにほおばる少年の有り(さま)が、料理の腕前を雄弁に物語っている。彼も、肉汁のしたたる旨味と、閉じ込めた野菜の風味が織りなす調和(ハーモニー)を味わった。

 そのようにして心行くまで夕食を堪能(たんのう)したあと、いよいよお披露目(ひろめ)となった。

 

 めいめいに包装へ手をかけ、

 「いくよ。せ~のっ!」

 

 そのとたん、派手な音を立てて()()()()に倒れる額縁。しばし流れる沈黙。

 「ごめんなさい」

 食事の提供者が床へ頭をこすりつける。その身振りと口調(くちょう)は珍しく真剣そのものだ。

 家主と少年は両脇から布地を水平に引っ張った。友人は(おお)いの真ん中を掴み、勢い良く手前へ引き寄せた。そのために絵が傾いてしまい、差し伸べた手も(むな)しく(くう)を切り…というわけだ。

 土下座する友人の横で、男の子が取り乱したように辺りを見回している。それを仕草でなだめつつ、しゃがみ込んで絵をゆっくり持ち上げる。

 幸い、画面には傷やひび割れなどもなく、無事なようだ。胸をなで下ろしてから立ち上がり、彼は友人へ向き直った。

 「まぁ、大丈夫みたいだし、そこまで気にしなくていいよ。それよりも、これを起こすのを手伝ってくれないかな」

 すると当人は、滅相(めっそう)もないとばかりに手の平をかざしてみせる。

 「いやー…正直おっかないんだけど」

 「そんなに(おび)えなくても大丈夫だよ。支えてくれればいいからさ。立てるのは私がやるよ」

 努めて明るく振る舞いながら、思ったよりも(へこ)んでるなぁと彼は見て取った。いつもは明るくのんびり屋な友人だが、こういう事態に()うと萎縮(いしゅく)しやすい一面も持ち合わせている。初めは彼も意外に思い、(おどろ)いたものだが、今では"根が真面目(まじめ)なのだろう"と理解している。

 「それに、この子(ひとり)だけじゃ起こすのも難しいし。ぐらついてまた倒れて、傷物にでもなったら元も子もないからさぁ。頼むよ」

 言葉を続けながら、こっそりと目配せする。それを受けて、男の子からも"援護(えんご)射撃(しゃげき)が飛ぶ。"

 「手助けしてもらえるとすごく安心です。お願いします!」

 つまり、2人がかりで、"君の助けが必要だ。ないと困る"と訴えかけているのだった。

 果たして、もともと人の()い当人は、こちらの意図を確かめるようにしばらく見つめた後、片(ひざ)をついて絵を少し持ち上げ、できた隙間へ手を差し入れる。

 「これでいい?」

 作戦成功。お互いに目でうなずき合う。これまた2人そろってお礼を述べてから、両側から腕を伸ばし、指を差し込む。

 「よーいしょっとぉ!」

 

 こうして絵画と()()した時の様子は、ある意味で対照的だった。

 1人は 感嘆(かんたん)して目を見張り、すごーい、かっこいいを連呼(れんこ)している。もう1人は身を(こわ)ばらせて(まばた)きを忘れ、口を開けたままになっている。

 ややあって、後者の反応を示した方が、遠慮がちに言葉を紡ぐ。

 「本当に…それ、飾るの? なんか迫力ありすぎて怖いんたけど…」

 荒事(あらごと)を嫌う友人らしい感想だった。そこで彼は、購入へ至ったいきさつや、この絵に込めた思いを語って聞かせた。

 助け合い、がんばる姿が目を引いたこと。その姿が、危険を(おか)して素材を届けてくれる人たちや、営業へ励んでくれる販売員たちと重なって見えたこと。彼らへの感謝とねぎらいの気持ちを表すのにふさわしいと思ったこと。さらに、鹿の剥製と関わりを感じたこと。

 決して要領(ようりょう)よく話せたわけではないが、当人は神妙な面持ちで耳を傾けてくれていた。

 「なるほどねぇ。それなら(わか)る気がするよ。いいのを選んだんじゃない?」

 その返しを耳にして、彼が喜びのあまりに破顔したのは言うまでもない。

 

 そして夜が明けた。

 お店の準備に来た人たちと協力して、販売所の模様替えを終わらせた。

 まず、陳列棚(ちんれつだな)の向かい側の壁へ絵を掛けた。明るい砂色の中央で、目立ちすぎず溶け込みすぎず、ほど良い存在感と(おごそ)かさを漂わせている。ねらいどおりの結果に、左右の拳を握りしめながら会心の笑みが浮かぶ。

 次に、剥製を配置()えした。果たして絵の周囲が窮屈(きゅうくつ)になってしまったので、出入口の真上と反対側の壁とに付け替えてみた。

 するとどうだろう。2頭の鹿が額縁を挟んで向かい合う構図は実に格調高く、空間全体が"絵になる"光景へと早変わりしたのだ。まったく想定していなかっただけに、とても嬉しい収穫だった。

 最後に商品管理用の黒塗り箪笥(たんす)木目調の保管箱(バンク ボックス)を奥の端へ寄せて、作業完了となった。

 

 途中、ちょっとした困りごともあった。

 お手伝いの女の子が画中の怪物を見て(こわ)がり、エルモニーの売り子の後ろへ隠れてしまう。これを選んだ理由を説明しても(らち)かあかず、彼も途方に暮れてしまった。すると、当の販売員がお気に入りの帽子を直しながら、背後へ優しく声をかけた。

 「そうだよなー、こわいよなぁ」

 後ろから、縦に1つ、振動が伝わってくる。

 「けどさ、そんなこわーい怪物たちをさぁ、この3人はこれからやっつけるんだぜ」

 「…え?」

 小さな声とともに、ゆっくりと絵へ向き直るのが気配で感じ取れた。

 「どうして…わかるの?」

 待ってましたと言わんばかりに、手に持った杖を絵へ向ける。

 「見てみなよ。負けそうな表情(かお)、してるかい?」

 首を横へ振る反応に、我が意を得たりと大きくうなずく。

 「だろー? だから応援してあげような。みんな負けるなー、がんばれーってさぁ」

 片腕を突き上げる仕草(しぐさ)に、ぎこちないけれど確かなつぶやきが続く。

 「がんばれー…まけないでー」

 身を震わせつつも、本人なりに理解したようだった。

 この対応ぶりに、困り果てていた家主も救われた。周りからも安堵したような雰囲気が伝わってくる。

 "ありがとう、助かった"

 "どういたしましてー"

 片手を軽く上げて交わすやり取りは、まさしく協力と信頼の証だった。

 

 いつもながら、何かをする時にはいろいろな出来事(できごと)が付いてまわるなぁと思う。

 今回のことも、まとめると簡単に済む話だ。絵を手に入れ、販売所へ飾り、全体のまとまりを見直した…だけ。

 けれど、それにまつわる話が、さまざまな彩りを添えてくれる。貝殻水着(ビキニ)に困惑したり、人なつこい大柄な女性販売員に和んだり照れたり、友人の差し入れや絵のお披露目をめぐる騒動があったり、売り子の少女の反応へ素晴らしい助け舟が出たり。

 それに振り回されて、気が動転したり冷や汗をかいたり、はたまた溜め息をついてみたりと慌ただしかったが、こうして終わってみると、不思議と悪くない気持ちになる。充実して楽しかったし、満足感と手応えも味わえる。

 

 やってみて、本当に良かった。

 今は、この一言に尽きる。

 

 楽しくも頼もしい、この素晴らしい仲間たちへ()(むく)いをもたらす模様替えとなりますように…

 心から、そう願うのだった。(了)

 




お読みくださり、ありがとうございます。

家財道具(アセット)が1つ加わり、配置が少し変わるだけで、雰囲気も違ってくる…
筆者には、そんな経験が幾度もあります。

また、同じ絵画を飾る時も、上下左右にずらしていろいろ印象や雰囲気を変えられるので、ついつい模様替えに励んでしまいます。

MoEの家造りや部屋づくりの、言わば醍醐味(だいごみ)かな?と思いますが、いかがでしょう?

残念ながら、動かす際の制限も多いです。1マスずつしか動かせないし、左右(壁用は上下)にしか回転させられません。積み上げられる高さにも限りがあります。
種類ももっと増えてほしいなぁとも、正直、思います。

けれど…そんな制限があるからこそ、満足感も大きいです。
家財道具(アセット)の組み合わせや重ね方、置き方に工夫を凝らし、個性や生活感を出せた時は、やり遂げたという手応えに小躍りしてしまいます。

え? 筆者だけ?(汗)
きっと…他にも分かってくれる人はいる……はず?
いると……いいなぁ。

などと願いつつ、今回はここで筆を置こうと思います。

MoEへ興味を持ってくださる方が、増えますように…。(筆者 拝)
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