マダオ戦士Goddamn   作:はんがー

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ゲームセンター「GAME ON GAME」。米花町唯一のゲーセン。随分前に事件があったらしいが、いまも変わらず営業している肝が据わった店である。いや、このゲーセンに限らず、レストラン、喫茶店、銀行、etc…………米花町で店を構えるところは、事件が起きようが平気だ。だってそれが日常だ。それが米花町クオリティ。

 

 

太鼓の仙人でもしようかと店に入ると、テンション高くはしゃぐ女子高生がいた。クレーンゲームに挑戦して、失敗したらしく悔しそうな顔をしている。そう簡単には獲らせてくれないだろうな。店側も利益をあげなきゃいけないし。さて、おれもゲームしようっと。

 

どん、カッ、カッ、連打~~~~!!

 

バチを太鼓に叩きつけていると、横から視線を感じる。ちらりとみると、蘭さんそっくりの女子高生がジーと画面を食い入るようにしてみていた。「………やってみる?」と声をかけると、パアアと表情を明るくさせた。

 

 

 

 

 

 

***

 

阿笠邸。少年探偵団に誘われてお邪魔することになった。元太君がお好み焼きを食べたいと言い、今日のお昼は阿笠邸でいただくことになった。おれも何か手伝おうと、灰原さんにきくと、「じゃあ、キャベツを頼むわ」と頼まれた。よし、まかされた。

 

すぅと呼吸を吐き、ピンと背筋を伸ばす。目の前にあるのはまな板の上にあるキャベツ。閉じていた目を開き、包丁を構えた。

 

 

ーーーーーキィン!

 

 

「すっごーい!テム君!まるでお侍さんみたい!!」

 

歩美ちゃんが手を叩いて褒めてくれた。阿笠博士も「ほぉ」と声を上げている。

侍みたいだと例えてくれたが、これはそのお侍さんに教えてもらった。おれの包丁捌きはだいたいこの人のおかげである。割烹着が妙に似合い、おれはオカンと呼んでいる。オカンは唯一コンニャクを切ることができないが、大抵切っている。そのオカンに比べれば、まだまだの腕前だが、日本料理の人参の花とかお手のものだ。

 

 

「オカンに教えてもらったんだ」

「へえ!テム君のお母さんは料理上手なんですね」

「おれのかーちゃんもできるかなぁ」

 

…………ん?なんか勘違いされているような…………まあいいか。少年探偵団のキッズたちは今日も元気だ。笑顔が眩しすぎる。灰原さんもパチパチと気持ち程度に拍手していた。今日もクールだな。江戸川君は毛利探偵について行って、事件を捜査しているらしい。………うん、しばらく米花町で事件は起こらないな。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

翌朝のニュースでヴェスパニア王国の王女が来日したと報じられていた。記者会見の様子をみると、王女はとても愛想がいいとは言えなかった。代理の人が王女のコメントを読み、まるで操り人形のようだった。…………あれ、この王女、一緒にゲームやった人じゃね?…………いや、蘭さんか?背中に汗が流れたのはきっと気のせいだ……………

 

 

ゲーセンの帰りみち、気まぐれに海沿いを散歩していると見覚えのあるシルエットがみえる。黒いハット帽にスーツ姿、保護者たちが帰還したようだ。東都タワーに降ろされた不満を訴えようと近寄ったら小さな子どもの姿が目にはいる。赤い蝶ネクタイに、青いよそ行きのジャケット。ここしばらく学校を休んでいた子。

 

 

「…………江戸川君?」

 

 

思わず口に出してしまった。すると、彼はこちらを振り返り、瞳を大きく開かせていた。「ひ、久しぶり、入間君」と頬をひきつらせながら挨拶された。ちらりと保護者たちをみると、そういうことらしい。ここは、互いに知らぬ存ぜずでやり過ごす、と。…………なるほど。状況は把握した。江戸川君は暫定一般人のおれをこの場から遠ざけたい。保護者たちはおれとの繋がりを江戸川君に知られたくない。おれも同じくややこしくなるので、知られたくない。江戸川君はおれと保護者たちの間で視線を巡らしている。きっと、彼の頭のなかでどうやってこの場を切り抜けるか考えているのだろう。……………実はおれも考えている。知らぬは本人ばかりだ。

 

「……………何してるの?」

 

意地悪だが、慌てている江戸川君をみるのはめったにないのでつい、からかいたくなって聞いた。

 

 

「ボ、ボク、ちょっとトイレ!またね!」

 

 

江戸川君は保護者たちに手を振り、焦るようにおれの手を引く。でた!伝家の宝刀、トイレ。これ幸いと、おれも便乗してこの場を去ろうとする。だが、途中で江戸川君の歩みが止まった。「どうした?」とおれが江戸川君の顔を覗くと、彼の眼鏡がキラリとあやしく光った。

 

 

 


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