マダオ戦士Goddamn 作:はんがー
さて、そろそろ移動するかと駅に向かった。クラクションがけたたましくなり、人々の怒号が飛び交う。ワンセグ(いまはガラケーが主流)を繋ぐ。どうやら大阪から西へ避難する人が押しかけパニックになっているらしい。新幹線も満員。高速道路も渋滞。奈良駅もまた逃げ惑う人々であふれかえっていた。あれ?おれ、危険から逃れるためにこっちに来たのに自ら突き進んでる?............ガッデム!!
おれが奈良にいると伝えると江戸川君は「行き先が関西だと見当していたが、まさかドンピシャで奈良とは…………」とのたまった。ちょっと待て。なんでおれの行き先知っているんだ?「おめーの着うた、たしか関西が舞台のアニメだったよな」おれのプライバシィィィィ!!!「それより、今からそこに服部がーーー」
バイクのブレーキ音が重なった。音の方をみると、色黒に太眉、一部が鋭く尖った前髪が特徴的な男がいた。江戸川君、これは一体どういうことだ?おれが江戸川君に質問する前に男が先に口を開いた。
「金髪に青い眼の坊主って、お前か?」
「誰やねん、自分。」
思わず、関西弁で返した。いや、名乗らずともわかる。西の高校生探偵・服部平次ですよね。.........劇場版かよ!!江戸川君が言うには奈良で仏像を狙う泥棒がいるらしく、ウイルスは嘘だと判明した。おい!マスコミ!ちゃんと裏をとってから報道してくれ。誤報だったじゃねーか!
「みつけたで、工藤。この坊主連れて行けばええんやな?」
「あぁ。入間君を頼んだ、服部」
どういうわけか犯人探しの数に入れられてたおれはヘルメットを受け取り、後ろに乗った。当然の如く拒否権なんてなかった。結局こうなるのかよ…………(遠い目)
「セキュリティが低くなってる場所っちゅーたら........寺なんてぎょーさんあるいうのに、見つけるにも時間が足りひん」
「豪福寺は?おれ、さっき行ったんだ。国宝級の仏像がたくさんあったし、人が誰もいないこんな状況なら………………格好の的だな。どうします、ボス?」
「誰がボスやねん!仏さん盗む罰当たりがおるかッ!!」
「おれに計画をもちかけたのは兄さんやないですか」
「アホ!おれが強盗犯になってどうすんねん。さらっと兄さん言うな、さらっと」
「しかし、このバイクじゃ全部持ち運べないな。どうします、ボス?」
「せやから誰がボスやねん!!あー、もう兄さんでエエわ………ほんま腹立つ坊主や」
そんなやりとりをしながら豪福寺へ急ぐ。おれたちが到着すると。ちょうど仏像を運び出す警官姿の男たちがいた。すでに何体かトラックの中に積まれている。
「なーるほど。うまいこと考えたモンやなァ。飛行船使ォたバイオテロは陽動作戦。ホンマの目的は皆を避難させ、もぬけの殻になった国宝の仏さんをいっぺんに盗んでまうことやったんやなァ。普通、仏さん盗もうなんて言うヤツおらへんからのォ。」
おれが「罰当たりなやつら」と汚物をみるように吐き捨てていうと、「どの口が言うてんねん」とピシャリとツッコミを入れられた。泥棒たちは「わしら、仏さん守ろうと思って」と言い訳を言う。
「アホ。おれと坊主の二人だけで来るはずがないやろ?ほんまの奈良県警がこの寺の周りに駆けつけてるで」
ボス、もとい兄さんはどや顔で言うが、はったりである。そっと兄さんから離れ、泥棒たちと兄さんの会話の応酬を聞く。
「おまえらの悪事はお見通しっちゅーわけや」
もう一度言う。警察は寺の周りを取り囲んでいない。はったりである。音を立てないように静かに作業をしながらおれはやり取りを見まもる。
「なに言ってんだ。所詮子どもの言うことだ。うそに決まってる!」
その通り、はったりである。泥棒たちは口々に言い合い、兄さんは少しどや顔が削げ落ちる。
そろそろ頃合いだろう。準備を終えたおれは兄さんたちの前に姿をあらわした。
「仏も昔は凡夫なり。どんな人間でも努力すれば、仏のような立派な人間になれる。それがたとえマダオであっても。」
兄さんは「坊主ッ!」とおれに向かって叫んだ。それをきいて泥棒たちは「まさかまだ寺の関係者がいたのか!?」「チッ!計画は中止だ!ズラかるぞ!」とおれを寺の坊主と勘違いしたらしい。仏像を置き捨て、反対方向へ走り出した。
逃げた先はブービートラップがあるのに.........
仏の光より金の光。仏のありがたみを忘れて金に欲張った結果、泥棒たちはおれが仕掛けたトラップに引っ掛かり、............「おい!なんだこの喧しい音は!」「てめぇ!わしの足踏んだな!」.........果てには仲間割れを起こしていた。よし、時間稼ぎはうまくできた。
「オッサンたちの言うとおり警察は来てなかったよ―――――さっきまではね」
チラリと後ろに目配せをする。
「奈良県警をなめたらあかんで!!」
パッとライトが照らされ、強盗犯の周りを奈良県警が包囲した。よかった、まにあった。奈良県警の鹿角剛士という奈良にぴったりなお名前の警部さんがスピーカーを片手に泥棒たちへ迫った。
***
おれたちが警察に連絡したとき、すでに道路は大渋滞で現場に到着するのに時間がかかると予想された。だから、おれたちは強盗犯たちが逃げないように警察が来るまでの時間稼ぎをすることになった。兄さんの喋りで相手を引き付けている間におれは罠を仕掛けた。
まずは小学生お馴染みの防犯ブザー。ワイアーを防犯ブザーのスイッチに結び付けておくだけでいい。罠に引っかかってワイアーを引っ張るとブザーのスイッチが入り大音量が鳴る。次にゴム風船を膨らませ、浅く穴を掘る。此処にゴム風船を置いて周りの木の葉や土を被せてカムフラージュする。コイツを踏んだら風船が破裂する。防犯ブザーの音に驚いている漉きができたところに、穴に足を取られて転ぶという寸法だ。
警察が泥棒を拘束している間におれが防犯ブザーを回収していると、「なんや、こそこそしてる思たら罠仕掛けてたんか」と兄さんが話しかけてきた。「工藤から聞いたとおり、ほんま恐ろしいガキやわ」と、兄さんはおれがつくったトラップをまじまじ観察している。
「ちょうどよく仏像はトラックに積まれているし、チャンスだ。どうします、ボス?」と言うと、「誰がボスやねん!!しばいたろか!」と返される。いや、兄さん。あんた、了承なしにおれをバイクに乗せたよね。それ、誘拐じゃね?「そ、それは工藤から説明されたんとちゃうんか?」.........なるほど。江戸川君はこの結果を見越して、おれを連れていけと兄さんに言ったのか.........
「ところで、さっきから工藤って、なんのこと?」
「て、寺のお坊さんの苦行のような修行より厳しいって言おう思うてな、いい間違えたんや」
「.........ふーん」
兄さんはそのまま警視庁のヘリを使って飛行船の後を追う。翌朝、おれは東都へ帰った。テレビでは、一連の事件の功労者として服部平次が取り上げられ、ヘリで発言した「クジラが跳ねよったァ!」が名言として繰り返し放送されていた。