マダオ戦士Goddamn 作:はんがー
オトンがスタイリッシュにベーコン豆を作る姿はカッコいい。ベーコン豆はグリーンピースとベーコンを炒めたものだ。ベーコン豆がオトンの好物であることは知っているが.........いやいや、あのオトンがわざわざ手料理を振る舞ってくれてるんだ。残すなんてもったいない。チマチマ食べていると、オトンが「悪いな、テム。仕事が入っちまった」と申し訳なさそうに言い、明日の夕飯はおれに一任された。極力、外出は避けたいが、こうなったら仕方ない。スーパーへ行くか。
***
小学校の授業を終えると、固定されつつある帰りのメンバーが「一緒に帰ろう」と集まった。けれども、今日のおれは用事がある。時刻は夕方4時前。夕方のタイムセールにはまだ間に合うな。おれは、いまから戦場へ向かうんだ。少年探偵団の諸君に「おれ、パス」と手短に断りを入れる。
絶対に負けられない戦いがそこにはある........!
「………おめー、どこの解説者だよ」
江戸川君がボソッと呆れたように言う声を聞かなかったことにして、おれはスーパーへそのまま走った。
***
おばちゃん、半端ないって............
おれが着いたときにはすでに戦いの幕が上がっていた。
おばちゃん半端ないってほんとに。意味わかんねーよ。後ろ向きのカートがスッゴいトラップするし......そんなことできないだろう、普通!そんなことできるか?言ってくれよ、できるんだったら.........
鬼の形相で「とったどー」って、おれの手に入れたお買得たまごが危うく潰れそうになったよ!!チラシだ、もう全部チラシ持っていかれたよ。1個にしとけばよかった1個に!
ガッデム!!
おれがひとり、反省会をしていると聞きおぼえのある声が聞こえた。
「おや、君はたしか、少年探偵団の」
「.........コンニチハ」
片言になったのは言うまでもない。いつぞやの放火事件でみた大学院生の沖矢さんとバッタリ出くわした。沖矢さんがスーパーで、買い物している、だと.........
「えぇ。実は隠し味にヨーグルトを入れたカレーを作ろうと思いまして」
「いやいや、カレーの隠し味は蜂蜜に決まってるだろ」
沖矢さんはおれの買い物カゴヘ視線を向けて、ピシリと固まった。何故ならおれの買い物カゴにはかごからはみ出す勢いの蜂蜜が大量に入っていたからだ。この蜂蜜はおれの戦った証だ。(ドヤ)
「カレーに蜂蜜を入れると、甘みとコクが増してスパイスが引き立つんだ。しかもトロみが出てきて濃厚な味わい!蜂蜜の甘みは、自然な甘さが加わるから調和のとれた旨味とコクたっぷりの美味しいカレーだ!」
「..................なるほど。」
勢い余って蜂蜜の良さを力説すると、たっぷりと大きく間が空いて、沖矢さんは返事した。沖矢さんがヨーグルト派だったとは、きっと中の人つながりなんだろう。ちなみにいうと現地の人はケバブにソースをかけることはしない。
「......しかし、こんな量の蜂蜜が必要だとは思えませんが」
「最近、医者から練乳禁止されたんだ。だから、蜂蜜に嗜好を変えて.........ほら、練乳より栄養あるだろ?」
「...............」
な、なんだよ、その無言は。仕方ないだろ?米花町に住んでたら、いつ事件に巻き込まれるかヒヤヒヤしながら生きる毎日だぞ?ストレス溜まり過ぎる生活なんだ。はじめの頃はゲームで発散してたんだが、終わらないサザエさん時空に毎日鳴り止まないサイレンの音。糖分摂らなきゃ、こちとらやってらんねーだよ!!(逆ギレ)
やがて、沖矢さんは名案を思いついたとばかりにおれに言った。
「宜しければ、その蜂蜜カレー教えていただけませんか?」
「ヨーグルトは?」
「始めはそのつもりでしたが、少し興味が湧きまして」
「............」
「そうですね、デザートにプリンもあり
「行きます!」
........では、まずはその蜂蜜を元の場所へ戻しましょうか」
最初は沖矢さんの提案に渋った。そんなフラグが立ちそうなイベントは結構です。だが、デザートにプリンがついてくるときいて即答した。けっして、そのプリンが人気爆発で、おれが手に入れられなかったものだったということはない。.........断じて......(焦)......いや、正直食べたかったです、ハイ。
おれは、沖矢さんと共に籠いっぱいに詰めた蜂蜜を商品棚へ戻し、工藤邸へ行くことになった。あぁ、さらばおれの糖分よ............
***
「ニンジンいらないよ」
「好き嫌いはよくないですよ」
ニンジンを端の方へ寄せていると、沖矢さんがお隣の阿笠博士の方へお裾分けしにいくと言う。.........まて、まさかこのカレー、博士も食べるのか!?マズイ!博士はダイエット中だというのに......!そして何がマズイかって、阿笠邸にはスーパー管理栄養士・灰原さんが目を光らせているのだ。下手したら、おれまで巻添えで食事制限されそうだ.........(震え)
沖矢さんを止めるべくおれもその後を追うと、阿笠博士の家は、チャイムを鳴らしても誰も出てこなかった。おかしい。おれと鍋を抱えた沖矢さんは顔を見合わせ、おれはそぉーっとドアノブをまわした。
「博士。お邪魔する.........って、だれもいない......?」
おれがドアを開けると、ガランと静かで人の気配がしなかった。「様子をみてきます」と沖矢さんが家のなかへ進む。勝手知ったる様子で奥へと進む沖矢さんを見送る。今更だけど、これ不法侵入だよね?.........ハッ!そういえばオトンもオカンも不法侵入しているな。記憶を遡るとおれ自身、ルパンに直々に教えてもらったし、ついでとばかりに他所のパソコンへの侵入も教えてもらった。
何故かな、一般人からどんどん遠ざかっていく気がする。「どうしてこうなった」と半目になりながらルパンに言うと、「俺の不二子への愛はな、海よりも深く、山よりも高いってワケ!」と当然のように返された。どこの北条さんだよ......気が付けば、お宝探しのためにオトンやオカンとともにエッサホイサとダウジングしていた。また一般人から遠さがっていく.........今後、ピッキングやらハッキングやらの技術を使う機会が訪れないことを願う。.........(遠い目)
それはさておき、おれが玄関に佇んでいると、電話の音が聞こえた。
――――Prrr
電話の音が鳴り響く。こういうときに限って沖矢さんは近くにいない。これは、おれに出ろ、ってことか?おれは重い手で受話器を取った。