マダオ戦士Goddamn   作:はんがー

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受話器を耳に挟み、「もしもーし」と告げた。しかし、相手から何も返事が返ってこない。電話の相手は恥ずかしがり屋さんかもしれない。ここは、ひとつおれがその緊張をほぐしてやろう。口を大きく開いて音楽の授業で習った歌を歌う。

 

「もしもしかめよー、かめさんよー、せかいのうちでおまえほどぉー《ガチャッ》.........」

 

―――ツーツーツー

 

 

.........すっごい恥ずかしがり屋さんなんだな、きっと。そっと受話器を元に戻す。と、また電話が鳴り出す。やれやれ、仕方ない。よくみると、さっきと同じ番号だった。急用の内容か?

 

「お前の祖父さんを返してほしければ身代金を」

「祖父さんは昨日亡くなったんですけど」

 

「............」《ガチャッ》

 

―――ツーツーツー

 

 

訂正。急用じゃなかった。イタズラ電話だった。なんだ、暇人かよ。咄嗟に前世のコンビニのバイトのマニュアルを思いだし、対応した。ありがとう、店長。このマニュアル馬鹿にしてたけど、効果覿面だった。しばらくすると、また先程と同じ番号から電話がかかる。まったく、しつこいな。若干イライラしながら、受話器を取った。

 

「お前の祖父さんを返してほしければ身代金を」

「我建超世願 必至無上道 斯願不満足 誓不成正覚 我於無量劫 不為大施主 普済諸貧苦 誓不成正覚 我至成仏道 名声超十方 究竟靡所聞 誓不成正覚 離欲深正念 浄慧修梵行 志求無上道 為諸天人師 神力演大光 普照無際土 消除三垢冥 広土済衆厄難 開彼智慧眼 滅此昏盲闇 閉塞諸悪道 通達善趣門 功祚成満足 威曜朗十方 日月戢重暉 天光隠不現 為衆開法蔵 広施功徳宝《ガチャッ》………」

 

 

―――ツーツーツー

 

なんだ、また切れた。またもやクレーマー対応マニュアルが役に立った。正直、お経を今になって唱えるとは思わなかった。人生何があるかわからないね。ははは.........(遠い目)

 

またしばらくすると、電話が鳴り出す。今度は違う電話番号だ。もうこの頃になると受話器を取ることに抵抗がなくなってきた。さて、次はどう切り返そうか。「はァい」と慣れた手つきで受話器を取った。

「お前の祖父さんを返してほしければ身代金を」

「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏」

「ヒイィ!」《ガチャ》

 

 

 

――――ツーツーツー

 

.........あれ?また切れた。ジーザス、お前もか。悪霊退散ならぬ、悪戯退散。なんだ、この電話。やっぱり、流石、米花町といったところか。まさか知り合いの家に身代金要求のたちの悪い電話がかかってくるとはな。お経を覚えて損はないとこのとき心から実感した。おれが電話の対応を終えると、奥の部屋から沖矢さんが戻ってきた。

 

「どうやら阿笠博士は不在のようです。」

 

ん?阿笠博士がいない?さっきの電話でたしか祖父さんを返してほしければ身代金がどうだとか............祖父さんってまさか.........

 

 

「沖矢さん、博士が誘拐されたかもしれない」

 

おれが深刻な面持ちで告げると、沖矢さんの糸目が鋭く開き、緑の瞳が覗いた。

 

 

 

 

 

 

side 電話の向こう側

 

学校の帰り道、廃ビルで缶けりをしていた少年探偵団。だが、誘拐犯にコナンと灰原が捕まってしまった。警察に連絡したら二人の命はないと脅され、光彦、歩美、元太は110番通報ができなかった。誘拐犯は金持ちの老人を連れ去り、その家に電話をかけ、身代金を要求しようと計画していた。

 

事前に調べた電話番号を入力し、しばらくすると繋がった。

 

「もしもーし」

 

子どもの声だった。

 

「もしもしかめよー、かめさんよー、せかいのうちでおまえほどぉー《ガチャッ》.........」

 

子どもはそのまま童謡を歌い出す。ハッと反射的に電話を切った。しまった、これでは身代金を要求できない。もう一度電話をかける。

 

「お前の祖父さんを返してほしければ身代金を」

「祖父さんは昨日亡くなったんですけど」

 

「............」《ガチャッ》

 

な、何ィ!亡くなっただと!?咄嗟に履歴画面を開き、番号を確認する。間違っていない。たしかに金持ちの祖父さんの家のそれだ。すると、仲間の男が「何やってんだ!」と責め立てた。

 

「そ、それが祖父さん違いだったみてーでよォ......」

「何言ってやがる!ちゃんとかけ直せ!」

 

仲間の男に急かされ、もう一度ダイヤルを入力する。

 

「お前の祖父さんを返してほしければ身代金を」

「我建超世願 必至無上道 斯願不満足 誓不成正覚 我於無量劫 不為大施主 普済諸貧苦 誓不成正覚 我至成仏道 名声超十方 究竟靡所聞 誓不成正覚 離欲深正念 浄慧修梵行 志求無上道 為諸天人師 神力演大光 普照無際土 消除三垢冥 広土済衆厄難 開彼智慧眼 滅此昏盲闇 閉塞諸悪道 通達善趣門 功祚成満足 威曜朗十方 日月戢重暉 天光隠不現 為衆開法蔵 広施功徳宝《ガチャッ》………」

 

 

男はフラッと目眩がした。なんだ、いまの。まさか本当に亡くなっているのか?だったら、自分たちが誘拐したあの祖父さんはいったい.........背筋にヒヤリと汗が落ちる。

 

「おい!切っちまってどうすんだ!」

「こ、子どもの声が.........お経を唱え始めたんだよ!」

「んなわけあるか!代われ!おれがやる」

 

男に番号のメモを渡し、人質の二人の子どもの様子を見に行こうとした。すると、やはり仲間の男は顔色を悪くし、電話を切った。

 

「ヒイィ!ガ、ガキの声でお経よんでやがる.........」

「気味わりーよ。もう人質も金をいらねェ!はやくズラかろーぜ」

 

そうして、誘拐犯が逃げ出そうとすると、背後から何者かに拘束され、誘拐犯が次に目覚めたときは取調室だった。

 

 

 

 

 

side 江戸川コナン

 

犯人たちが慌てたように部屋を出ていき、チャンスだと思った。探偵バッチで床を叩き、光彦たちに電話をかけさせ、犯人たちを撹乱させていた。光彦、歩美、元太、灰原、あとは…………携帯の待ち受け画面を思い出し、光彦たちに指示を出す。あと残るは少年探偵団の………と探偵バッジを叩こうとして気づいた。

 

 

そういえば、おれ、番号しらねー……………

 

入間テム。ちゃらんぽらんでのらりくらりしている少年。本人曰く‘マダオ’。つかみ所のない大人のように見えたかと思えば、子どものようにゲームやいたずら好きの一面もある。今日も元太たちに帰りを誘われていたが、「おれ、パス」とどこぞの科学者(隣の少女)のように断っていた。いつもはぼんやりとしているのにどこか真剣な様子だったので追及してみると、「絶対に負けられない戦いがそこにある………!」と返され拍子抜けした。

 

 

くそっ、どうする!?もう携帯電話で犯人たちを撹乱させることはできない。おれが次の手を考えていると、犯人は身代金要求をするために部屋に戻ってきた。いったい、何が起きているんだ。犯人たちの会話に耳を澄ます。

 

「おい!切っちまってどうすんだ!」

「こ、子どもの声が.........お経を唱え始めたんだよ!」

「んなわけあるか!代われ!おれがやる」

 

「ヒイィ!ガ、ガキの声でお経よんでやがる.........」

「気味わりーよ。もう人質も金をいらねェ!はやくズラかろーぜ」

 

 

犯人は電話をかける度に顔を青くさせ、終いにはおれたちを置いて逃亡していた。すると、ロッカーに隠れていた歩美、光彦、元太が出てきておれと灰原の拘束を解いた。

 

 

《ドカッ》

《ボキッ》

《ガッシャーン》

 

 

不穏な物音が扉の向こうからきこえてくる。誰だ!?逃げた犯人が戻ってきたのか!?子どもたちを後ろに下がらせ、腕時計を構え、扉に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

扉の奥から出てきたのはーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャンパンゴールドのような金髪。いつもより輝いているライトブルーの瞳。入間君が「よぉ。」と気怠げに手を上げ、おれたちに声をかけた。

 

 

 

 

 

 


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