マダオ戦士Goddamn 作:はんがー
世界の駅乗降車数ランキングをみると、以下の通りだ。
1位新宿駅
2位池袋駅
3位渋谷駅
4位大阪駅(梅田駅含む)
5位横浜駅
6位北千住駅
7位名古屋駅(名鉄・近鉄含む)
8位東京駅
9位品川駅
10位高田馬場駅
ランキング上位を日本が独占しているのがみてとれる。毎日、人の行き交いが起こっている。改めて言うが、これは日本ではなく、世界の駅乗降者数のランキングだ。つまり、世界基準でもトップクラスの乗降者数の駅で、一人一人の人間を細かくチェックするなんて限界がある。だから、怪しい人物が紛れていてもおかしくない。人にもまれながら、改札をくぐり抜け、ようやく駅のホームにたどり着いた。
眠りの小五郎こと毛利探偵は毛利ポアロウだなんて髭をクルンとつまんで自己紹介したり、江戸川君と灰原さんは、「アガサ・クリスティの【オリエント急行】みたく、殺人事件が起こるかもね」なんて話していたり、ミステリーマニア率の高さにビビった。こんなとき、鉄道関連の文学で宮沢賢治の【銀河鉄道の夜】を思い浮かぶおれってズレてる?そんなおれの呟きが聞こえていたらしい。
「ジョバンニが友達のカムパネルラと銀河鉄道の旅をする物語で、宮沢賢治童話の代表作ですね!」
光彦君が弾んだ声で言った。灰原さんは「貴方の場合、一匹狼気取りのジョバンニというところかしら」と腕を組む。どうしよう。歩美ちゃんから仲直りしてね!とお願いされたが……………ジョークのつもりなんだろうけれど、そのジョークは笑えない。よりにもよって、おれをジョバンニに例えるとは………
遠い目をしながら、ぼそりと「鉄郎みたいに999号に乗って旅でもするか………」とつぶやく。鉄郎とは永遠の命に憧れ、機械の体を無料で貰えるという終着駅の星を目指してメーテルと共に999号で旅をする少年のこと。永遠の名作だが、これがわかる現代っ子はいるのだろうか………案の定、子どもたちの頭は「?」が浮かんでいる。
これが若さか…………
世代間ギャップ、いや異世界ギャップ……ガツンと頬を殴られた気分だ。「そういえば、ジョバンニって空想好きな一面もあるんですよ!」と光彦君がおれを励ますように言う。ぐはッ。………もういいよ、そういうことにしておこう。鉄郎は【おれがかんがえた最強のキャラクター】として扱おう。せめて想像力が豊かだといってほしかった………
元太君は「その駅弁って鰻重なのか?」と腹をグゥ~と鳴らしている。元太君の謎の鰻重推しは今日もブレない。そんな元太君に朗報だ。このベルツリー急行の終着駅は名古屋らしいから、名古屋名物のひつまぶしがあるかもしれないぞ。
駅のホームで少年探偵団の皆としゃべっていると、江戸川君と目が合った。「あれ、テム君も?」とおれが来ることを知らなかった様子だ。何故ならおれはベルツリー急行に誘われたときに一回断っている。すると、歩美ちゃんが「歩美がいっしょにいきたいっていったの~」とにこにこしながら答える。江戸川君は「………そうか」と何処か思案するように視線を落としていた。
***
完全個室の車内でおれは少年探偵団、阿笠博士と共にいた。少年探偵団は白いカードを見つけ、江戸川君を先頭に走り去っていく。残ったのは、おれと阿笠博士。博士は「テム君は行かんでよかったのかのォ?」と、おれと子どもたちが出て行った扉をチラチラ見ている。
「いいんだよ、おれは。ジョバンニみたいに探しているわけじゃないし………それより博士。このチョコ食べないか?」
「おぉ!いただくとするかのォ」
灰原さんがいない今はだれも咎めないし、好きなだけ甘い物を食べられる。糖分って大事だよな。博士も久しぶりのチョコで大変ご機嫌だ。〇〇のチョコは苦いとか、カロリー0になる理論とか、お菓子メーカーに対する要望とか、語り合った。何を隠そう、博士とは糖分同盟を結んでいる。チョコを一つ摘まむ。口の中にカカオとミルクの甘い香りが広がった。至福のひとときだ。個室空間のためか、部屋の中にチョコのにおいが充満していた。換気のために少し窓を開けた。
しばらくすると、少年探偵団と蘭さんたちが部屋にやって来た。入るなり、元太君がクンクンと「なんか甘いにおいがするぞ」と嗅ぐ。ぎくッと博士の方が揺れる。博士は灰原さんを恐る恐るみる。灰原さんは青白い表情でおとなしく椅子に座っていた。ホッと博士が息を吐く。あれ?いつもなら、辛辣に「またメタぼるわよ」と言い放つのに…………だが、灰原さんはスマホを取り出し、画面をじっと見ている。その表情はさっきより悪化している。真っ青というより、顔半分をマスクで覆っているため、『はんぶんあおい』というべきか。画面をみつめ、おれや博士や蘭さん、少年探偵団の顔を交互にみている。その様子はまるで、だれかに脅されていて、命の危険が迫っているようなーーー
……………なんて考えすぎか。少なくともおれの知る限り、劇場版でベルツリー急行に乗るという描写なんてなかったし、今回は爆弾の心配をしなくていいから気が楽だ。せいぜい個室で殺人事件が起こるだろうと高を括っていたら、本当に事件が発生していたようだ。えぇい、江戸川君の事件吸引機はバケモノか!
***
江戸川君には個室で待機しているように言われたが、そう言われると部屋からでたくなるのが人間のサガだ。灰原さんも出て行ったし、江戸川君も推理ショーしているだろうし………そんな言い訳をしておれは廊下を歩く。A B C D......とかかれた個室を通りすぎると、人影が見えた。近づいてみると、沖矢さんと相対した灰原さんがいた。彼女は薬のケースを後ろ手に隠しており、その手は震えていた。
「そうやって、自分を犠牲にして友達を救おうだなんてカムパネルラみたいだ。」
おれは、やれやれとでもいうように両手をヒラヒラさせながら言った。弾かれたように灰原さんが振り向き、「………どうして、ここに…………」と狼狽えている。どうしてって、おれがベルツリー急行に乗った理由なんて決まっている。歩美ちゃんから告げられた、おれと灰原さんの共演NGもとい不仲説。どこの週刊誌情報だ。『金曜日』か?『日曜日』か?兎に角、おれはそれをなんとかせねばならない。
仮面ヤイバーが言っていた。友情とは友の心が青臭いって書く。そして青臭いなら青臭いで、ぶつけなければならない、とも…………
「―――おれたちはどうも喧嘩しているらしい」
だから、脈絡もなく単刀直入に告げた。事実を、周りの認識を、本人にぶつけた。だが、「は?」と訝しげに返された。沖矢さんは「おや………」と首を傾げていた。
......あれ?なんだか思っていた反応じゃない…………おい、仮面ヤイバー。話がちがうぞ。
「貴方と喧嘩した覚えなんてないわよ」
「おれもない。だけど、少年探偵団の皆は喧嘩している、と思っている」
おれが説明すると、灰原さんは苦虫を潰したように反論する。
「それは誤解よ。私はそんなつもりなんて......」
「..........お互い心当たりはあるんだよなァ」
ハハハ......と笑いながら帽子の鍔を撫でる。灰原さんはハァとため息をついた。それから「貴方は部屋に戻りなさい」とおれに戻るように告げ、灰原さんはキッと沖矢さんを睨む。たしかにおれも沖矢さんには警戒体制強いてるが............冷静になってみると、ロリコン呼ばわりされてもセコムしている沖矢さんが不憫すぎる。......もしかしたら、沖矢さん良い人かもしれないのに。これは彼女の苦手意識を手加減などせずに荒療治した方がいいかもしれない。
「孤独な“ジョバンニ”には“カムパネルラ”が居ないと淋しいんだってさ。」
トンと軽く灰原さんの背中を押して、沖矢さんに預ける。沖矢さんは前のめりになりそうな灰原さんをなんなく受け止めた。驚愕に染まった灰原さんの顔をみて、「大丈夫」と口で形をつくる。ひとまず、おれたちの不仲説は払拭できそうだ。
***
たどり着いたのは一番後ろの車両の貨物車だ。ガタンゴトンと、列車は米花町からディンドン遠ざかっていく………そぉっと扉をスライドさせた。
真っ暗な空間の中にいる黒い人影はパッと振り向き、おれを拘束した。その拍子に被っていた帽子が膝元に落ちる。
「…………バーボン?」
火傷の男の鋭い目が見開いていた。