マダオ戦士Goddamn 作:はんがー
火傷の男はおれの顔をまじまじと見つめ、拘束を外した。よくみると、巷で目撃情報が相次いでいる噂の火傷の男じゃないか?......さっき《バーボン》とかいうおっそろしい単語が聞こえたけど、おれの幻聴だよね......?
「貴方、まさか例の薬を呑んだの?......何処で手に入れ――――いえ、探り屋と云われる貴方には野暮な質問だったわね」
もしかして:おネエ
想像してほしい。低い男の声で女言葉をきくという事故現場(笑)に遭遇したおれの心境を。そういう偏見はないけれど、かなりの衝撃だった。
「そんな顔しないで、安心なさい。その姿になったことは誰にも言い触らさないわ。むしろ、互いの“秘密”を共有できたのだから喜ぶべきかしら......その代わり、わかってるわよね?」
カチャリと銃口を向けられる。男は悪どい笑みを浮かべながら、おれの膝元にあった帽子を拾い、おれの頭にのせた。
「―――そうね、この帽子は被った方がいいわ。もうすぐシェリーが来るはずだから、作戦通り頼んだわよ」
火傷の男は「Good luck!」とネイティブ並みに発音して出ていった。幸運を祈る、だとよ。おれへの当て付けか。小馬鹿にしたようにニヤリと笑っており、しかもその顔で言われると、なんだか腹立たしかった。
............ん?......“シェリー”って、たしか灰原さんのコードネームだったような.................
もしかして:黒の組織
ガッデム!!
ノコノコ貨物室に着いたと思ったら、とんでもないことになった。沖矢さん=赤井さんなわけだし......つまり、あの男ってベルモットの変装かよ!道理で、灰原さんのハイパーレーダーが過剰に反応していたわけだ。しかも、この貨物室、火薬の匂いがキツい。鼻を抓みながらパラリと布を捲ると、案の定、爆弾が陳列されている。
誰だよ......今回は爆弾の心配をしなくていいから気が楽だ、なんて言ったのは!!何の劇場版だよ、これ。おれが観たことない映画なのか?
こんなことなら、江戸川君の指示通り、部屋で待機していたらよかった.........
恐らく、このまま列車は爆弾で吹っ飛ぶだろうな。解除しようとしても、さっきのベルモットの様子じゃ、何がなんでもシェリーを始末するって駄々もれだった。ベルモットが直々に爆弾を設置していたようだし......
《ただいま当列車の8号車で火災が発生しました。乗客の皆様は直ちに避難を―――》
―――ほらきた。黒の組織はすでに動き出している。貨物車から外の様子をみると、煙が漏れ出している。女の執念さは不二子さんでさんざん身に染みてわかる。あの爆弾はぜっっったい爆発する。ならば、おれが今するべきことは、貨物室からの脱出だ。
***
「では、手を上げて移動しましょうか。8号車のうしろにある、貨物車に………」
カチャと拳銃を向ける。ガタンゴトン......車内で起きている不穏な空気は汽車が線路を走る音にかき消された。
「その扉をあけて中へ、ご心配なく。僕は君を生きたまま組織へ連れ戻すつもりですから。この爆弾で連結部分を破壊して、その貨物車だけを切り離し、止まり次第、僕の仲間が君を回収するという段取りです。そのあいだ、君には少々気絶をしてもらいますがね。まぁ、大丈夫。扉から離れた位置にねてもらいますので、爆発に巻き込まれる心配は……………」
そっと荷物の隙間から覗くと、連結部分では、小型爆弾がピピっと赤いランプを点滅させていた。爆弾が設置され、この貨物室が火薬庫へシフトチェンジしているようだ。
脱出しようとした途端、貨物室の扉が開け放たれ、新たな訪問者の登場だ。息を殺して物陰に隠れ、脱出の頃合いを伺う。さすがに爆風と同時なんてもうしたくないのだが............
「大丈夫じゃないみたいよ。この貨物車の中、爆弾だらけみたいだし。どうやら段取りに手違いがあったーーーー!?」
ハッと息を呑む音がする。白いハンググライダーを引っ張りだしていたら、灰原さん(大人ver.)と目があった。やべ。......見つかったなら仕方ない!このままアデューしよう。ハンググライダーを背負っていると、その物音がガチャゴチャと室内に響いた。急いでいるんだ、物音など気にしていられない。こっちは命の危険が迫っているのだから。
「子ども!?」
その場の大人二人の視線がおれに集中していた。おれはチラリと拳銃を構える男をみる。おれがじっと拳銃を見ていることに気づいたのか、サッと後ろに隠し、にこりと笑いかけてきた。それに反比例するようにおれの表情は冷えきっていく。
「君もはやくこちらへ!」
伸ばされた手は届かなかった。
――――コツン
手榴弾が投げ込まれたからである。ドオオォォンと轟音が響き、貨物車は切り離され、橋の上で黒煙が上がった。
***
天はおれを見棄ててはいなかった。命からがら脱出成功である。上空から黒煙を眺め、ホッと息を吐く。
「聞いてねェぞ!!拳銃に爆弾に何なんだ!?あの危ねェ奴らはよ!」
怪盗キッドがこのハンググライダーを貨物車に隠していたおかげでおれたちは黒焦げにならずにすんだ。手榴弾が投げ込まれた直後、ヤツの目が離れたと同時に灰原さん(大人ver.)はおれを抱きかかえ、ハンググライダーを装着。爆発直前だったためか、服や帽子に黒い煤がついた。
「なァにがチャラだ!こいつは貸しにしとくぜ、名探偵」
帽子をとり、パッパッと煤を払っていると、江戸川君と通話していた灰原さん(大人ver.)はビリッとそのマスクを剥がした。その素顔は工藤新一そっくりの、怪盗キッドだった。マスクを投げ捨て、片手でおれを支える。
「......ん?さっきの危ねェ奴じゃねーか!?」
キッドはおれの顔をみるなり、ギョッと慌てだした。こら。飛行中に暴れるな。帽子を整え、ポケットからチョコレートを取りだし、その慌てた口に入れた。