マダオ戦士Goddamn   作:はんがー

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side 江戸川コナン

 

 

ベルツリー急行に乗ると、予想外の人物がいた。コナンがその人物に近寄ると、「シケた面してンなァ」と開口一番にいう気怠い少年。入間テムだ。少年探偵団は【銀河鉄道の夜】の談義を繰り広げていた。テム君は「行かない」と断っていたが、歩美ちゃんがめげずに勧誘したらしい。そういえば、灰原とテムの様子がおかしいと言ってたな......

 

 

とりあえず、テム君には博士たちと部屋で待機するように言った。博士に「チョコのことは灰原に黙っておいてやるから、テム君をみててくれ」と頼んだ。幸い、テム君はトレードマークになりつつある帽子を被っている。

 

 

 

***

 

 

 

「なんだって!?テム君がいない!?どういうことだよ、博士!」

「新一のところにいくからと出ていったきり、帰ってこなくてのォ」

 

 

 

あのヤロー!!大人しく、くれぐれも大人しくしていろっつったのに!!

 

 

テム君の行動は予測不可能なときがある。授業中はぼんやり腑抜けた顔をしていて、ナマケモノのように過ごしている。だが、たまに小学生とは思えない行動力を発揮し、目を見張るものがある。

 

 

 

 

***

 

 

ある時は、バレンタインのことだ。テム君は目立つことが苦手で、普段はわざと素っ気なくときにデリカシーに欠けた対応をする。そうやって、周りに人を寄せ付けない。本人が言うには「この顔には随分悩まされてる......何回、誘拐されたと思う?」

............テム君の背後に闇がみえた。

 

だが、バレンタインだけは別人になる。チョコを渡しにきたクラスの女の子に神対応。普段はしんだ魚のような目がキラキラと輝き、容姿の善さも相まって、絵本から飛び出た王子さまそのものだった。思わず、二度見した。チョコを受けとると、テム君の周りには少女漫画のように花びらが舞う。だが、翌日になると、またしんだ魚の目に戻る。これは《幻のバレンタイン王子》として帝丹小学校の七不思議に数えられた。それからオレはクラスの女の子が王子さまみたさに、テム君に貢ぎ物(お菓子)をあげているのを目撃している。

 

 

***

 

 

ある時は、教壇の前に立ち、高らかに演説していた。1年B組がひとつになった瞬間だった。子どもたちは右手を空に掲げ、「じーく・じおん!」と声をあげている。オレが「何してんだオメーら」と呆れると、子どもたちの視線の先にはテム君がいた。テム君は「士気をあげていた」とクラスをまとめていたらしい。

 

......へぇー。立ち去ろうとすると、黒板に大きくオレの顔写真が引き伸ばされていた。おい、ちょっとまて。

 

「我々は、一人の英雄を失った。しかし、これは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ!我が、忠勇なる兵士たちよ。決定的打撃を受けた教師たちに、いかほどの戦力が残っていようと、それは既に、形骸である。

 

あえて言おう、カスであると!」

 

 

詳しく聞くと、小林先生の異動の噂が流れ、これから直談判に職員室へ殴り込みにいこうと誰かが言い出した。大人たち相手にどうしたらいいかと悩んだときにその様子を見かねたテム君の演説が始まった......「クラスの結束が高まったし、江戸川君も復活したし、めでたしめでたし」............テム君、後でお話ししようか。

 

 

 

***

 

数え出したらきりがない。現にいまだって............

 

「おい、名探偵!貨物車に子どもがいる!」

 

7号車のB室で待機していると、バーボンと対峙しているキッドからの連絡があった。テム君の安否確認ができたが......

 

なんでそこにいるんだ!!!?くそっ!ここからじゃとても間に合わない。キッドにテム君を連れて逃げるように言い、オレたちも避難した。

 

 

 

 

 

あのベルツリー急行の事件から数日。阿笠邸にオレは訪れていた。

 

「今回の一番の収穫は、喫茶店ポアロでバイトしてた安室さんが......黒ずくめの奴らの仲間のバーボンだってわかった事だな!」

 

安室さんはあれ以来体調不良で休んでいる。何でポアロのバイトだったのか......それと、もうひとつ謎なのが............

 

「じゃが、テム君はどうしてあの現場にいたのじゃろうか......?」

 

博士は不安気にオレたちに言った。

 

 

いいんだよ、おれは。

ジョバンニみたいに探しているわけじゃないし

 

 

孤独な“ジョバンニ”には

“カムパネルラ”が居ないと淋しいんだってさ。

 

 

あのときテム君が言った、意味深な台詞............【銀河鉄道の夜】の登場人物になぞらえた言いまわし。......まてよ。たしか、カムパネルラの父がジョバンニに息子が川に落ちて生存の可能性が無いこと、ジョバンニの父が帰ってくることを伝えていた。

 

 

......まさか、テム君は灰原の身の危険を察知して、バーボンに接触しようとしたのか!?

 

 

わからない。謎だらけの少年だ。オレが知っていることといえば、超がつくほどの甘党で、意外と友達思いなところ......そしてルパン一味と何らかの関係があること。生みの母親は亡くなったときいた。だが、遺体は発見されず、形だけの葬式を開いただけで墓参りにいったことがないと言っていた。ルパン一味と過ごしているから普通に見えないのか、あるいはオレたちと同じように幼児化してしまったのか............

 

 

「でも、彼の父親はあのガンマン、次元大介だっていうじゃない。組織とは関係ないわ......」

 

「その父親って言うのはおそらくフェイクだ。ヴェスパニアから帰国したとき、テム君が次元大介に向かってオトンと呼んだ。前にテム君は自分の母親を《母さん》と読んでたんだよ。だったら、父親のことも《父さん》と呼ぶんじゃないか?......まぁ、テム君がルパン一味と一緒に行動しているのは確かだと思うけれどな......」

 

 

 

 

 

 

 

 

side 灰原哀

 

教室の窓ぎわの席に目立つ金髪の少年が座る。キャラメル色のランドセルをロッカーへしまい、ぼんやりと普段通り、外の様子を眺めていた。そこへ江戸川君が話しかけにいく。これも見慣れたいつもの光景だ。 

 

 

「おめー、体が成長して大人になるってどう思う?」

 

「.........何言ってんだ、江戸川君。テクマクマヤコン的なアッコちゃんになるの?それともパラレル的な姫子ちゃん?まったく、冗談は眼鏡だけにしてよ」

 

「はは、だよなー......」

 

 

テムは「ついに阿笠博士は変身コンパクトでも発明したのか?クリーミーマミもびっくりだな」と呟いている。

 

 

......はぐらかされたってワケね......探偵君は納得がいく答えが見つからなかったようね。

 

 

まさか、彼が薬の服用者だっていうの?

 

 

ありえないわ。………仮に安室透という男が薬の被験者だったら、組織のリストに載っているはず。それにその男がポアロでバイトしているときに、入間君は学校にいるのだから、同一人物だと言えない......たしかに二人は似ているけれど......

 

 

そう諭すと、江戸川君は「じゃあ、安室さんではなく、テム君自身が幼児化していたとしたら?」と反論する。

 

 

 

「わたし、あの子が赤ん坊の頃に会ってるわよ」

 

「え?」

 

 

本人は覚えていないでしょうけど......ちらりと入間君をみながらそう言うと、江戸川君はパチクリと目を動かした。

 

 

「………あの子の母親が急に顔を見せにきたのよ………とにかく、あの子は正真正銘の小学1年生よ。」

 

 

「くっそ~!探りにいっても、かわされるし、テム君、何者なんだ!?」

 

「......さァね。いっそのこと、二人を会わせてみればいいんじゃない?水無怜奈と本堂瑛祐みたいに血縁関係があるかもしれないわよ」

 

腕を組みながら、江戸川君に言うと、彼は神妙な面持で返す。

 

 

「......いや、まだそういうわけにはいかねェよ......バーボンの目的がわからない以上、容易に動けねェし......ひょっとしたらテム君が何も知らずに利用されているって線も残ってるからな!」

 

 

「......そう。でも、少なくともあの子たちの味方だと思うわよ」

 

 

理屈なんていらねーよ

そこに護りてーモンがあるからな

 

小嶋君たちに囲まれた入間君は、うんうん、と彼らの話を聞いているのかいないのか、適度に相づちをうっている。でも、微笑まし気に少年探偵団を見つめる入間君の瞳は、どこかやさしさを感じた。

 

 

 

 


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