マダオ戦士Goddamn   作:はんがー

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side ベルモット

 

ベルツリー急行でシェリーを始末する。それが今回の任務。ジンに連絡し、バーボンとともに列車へ乗り込む。赤井秀一に変装し、車内を歩き回った。貨物車にウォッカから受け取った爆弾を仕掛ける。悪いわね、バーボン。作戦にはないけれど、シェリーだけは、どうしても今、仕留めないと............あの子は生きていちゃいけないのよ............

 

そんなときに一人の子どもが貨物車にやって来た。運のわるい子......かくれんぼでもしていたのかしら............

 

子どもを拘束すると、子どもの被っていた帽子がハラリと足下へ落ちる。

 

 

 

「............バーボン?」

 

 

子どもは、よく知る仲間の面影を残していた。彼のポケットには見覚えのある赤と白のカプセル錠剤が剥き出しで入っている。そこから導かれるのはただひとつ。

 

 

「貴方、まさか例の薬を呑んだの?......何処で手に入れ――――いえ、探り屋と云われる貴方には野暮な質問だったわね」

 

 

すでにシェリーと接触していた?組織が所有する薬の研究施設はもうない。だったら、入手経路は開発者のシェリー本人、若しくは研究施設が消される前に持ち出したか............

 

 

「そんな顔しないで、安心なさい。その姿になったことは誰にも言い触らさないわ。むしろ、互いの“秘密”を共有できたのだから喜ぶべきかしら......その代わり、わかってるわよね?」

 

 

彼は恐ろしいものでもみるかのように私から距離をとる。子どものフリをしているのか、一言も言葉を発しない。そういえば、バーボンは赤井秀一を毛嫌いしていたわね。赤井の声色のまま話すと、彼はますます距離をとり、眉間に皺を寄せている。......やっぱり、この反応はバーボンだわ。

 

 

「―――そうね、この帽子は被った方がいいわ。もうすぐシェリーが来るはずだから、作戦通り頼んだわよ」

 

 

組織に幼児化することが露見するのはよくない。シェリーとともに、このまま始末するべき............薬もシェリーもろとも爆弾で消されるのだから、放っておいて構わない......懸念すべきはあの銀の弾丸君だけど、もう止められやしないわ。最後に「Good luck!」と挨拶して、ニンマリ妖しく嗤った。

 

 

 

 

 

 

side バーボン

 

知りあいの顔を見つけると、「あれ、あなたも乗ってたんですね、安室さん」と蘭さんは気づいた。「ええ。運良くチケットを手に入れたんで。」とそれにニコリと答える。蘭さんの連れの子が「ね、蘭。誰よこのイケメン!」と食いぎみに話しかけてきた。簡単に自己紹介を済ませたところで、園子さんが「安室さんをどっかで見かけた気がするのよね」と言った。「いえ、初対面だと思いますが......」と否定し、潜入しているときにどこかのパーティですれ違ったのだろうか?と記憶を巡らせる。

 

園子さんは、ん~?と頭を捻って、思い出そうとしている。

 

「思い出した!ほら、10年後シミュレーションのとき、帽子のガキンチョの姿が安室さんそっくりだった!」

「そう言われると似ているかも………」

 

園子さんはモヤモヤがとれたためか満足気に、蘭さんもそれに同意している。

 

「えっと、その僕に似ているというのはいったい......?」

 

見に覚えがないので、蘭さんたちに尋ねると、彼女たちはあっさり教えてくれた。

 

「コナン君の友達が安室さんに似ているんです」

「そうそう。パッと見、金髪の美少年ってかんじだけど、イマイチ覇気がないというか......」

 

 

「ホー......」と相槌をうちながら、彼女たちの話を聞く。

 

「この前なんてコナン君と一緒に犯人を捕まえただとか......」

 

つまり、その子どもは少年探偵団のメンバーらしい。「テムは幽霊団員だけど、スッゲーんだ!」話に加わった少年探偵団の子どもたちが得意げに話してくれた。名前は《テム》というらしい。幽霊団員と言われる少年に少し同情する。自分自身、同期の飲み会に行けず、おまけに連絡なしだったから殆ど“幽霊”扱いだった。まだ見ぬ子どもに人付き合いは大事だぞ......とエールを送った。

 

 

 

***

 

 

火事の騒ぎに乗じてシェリーを発見した。銃口を向けると、シェリーは大人しく両手をあげる。そのまま貨物車へ誘導する。

 

 

「その扉をあけて中へ、ご心配なく。僕は君を生きたまま組織へ連れ戻すつもりですから。この爆弾で連結部分を破壊して、その貨物車だけを切り離し、止まり次第、僕の仲間が君を回収するという段取りです。そのあいだ、君には少々気絶をしてもらいますがね。まぁ、大丈夫。扉から離れた位置にねてもらいますので、爆発に巻き込まれる心配は……………」

 

 

列車の連結部分に小型爆弾を設置する。ベルモットにはわるいが、このままシェリーは“公安”が回収する!

 

 

「大丈夫じゃないみたいよ。この貨物車の中、爆弾だらけみたいだし。どうやら段取りに手違いがあったーーーー!?」

 

 

パラリとシェリーが捲った布の下には爆弾が仕掛けられていた。......なるほど。ベルモットはなにがなんでもシェリーをここで始末したいようだ............途中で言葉を遮った彼女を不審に思い、様子を窺うと、ガサゴソと音が聞こえる。

 

音がする方向へ向けると、白いハンググライダーを背負い、帽子を目深に被った子どもがいた。

 

 

「子ども!?」

 

 

一瞬、子どもは「やべ」と口走り怯んだが、僕が握っている拳銃をみた。それに気づいてサッと後ろに隠し、怖がらせないように、にこりと微笑む。だが、拳銃に驚いたのか、子どもの表情は青ざめていく。

 

 

 

「君もはやくこちらへ!」

 

 

 

 

彼らに手を伸ばすも、その手は届かなかった。

 

 

 

 

――――コツン

 

 

 

 

手榴弾が投げ込まれたからである。誰だ!?後ろへ振り向き、手榴弾を投げ込んだ男を確認しようとするが、煙に隠れて見えない。せめて子どもだけでも......!と、貨物車へ駆け込もうとした途端、ドオオォォンと轟音が響いた。貨物車は切り離され、橋の上で黒煙が上がった。

 

 

結局、シェリーと一般人の子どもはあの爆弾に巻き込まれた。ギリッと歯を食い縛り、拳をダァン!と壁に打ち付ける。

 

 

 

***

 

 

最寄りの駅に到着し、ベルモットと合流した。

赤井の死の詳細についてのファイルを要求すると、ベルモットに頬を引っ張られた。

 

 

「......あの、急にどうしたんです?人の顔を引っ張って......」

 

 

聞けば、ベルモットは怪盗キッドの変装と疑っていたらしい。怪盗キッド、か。怪盗といえば、ルパン一味が日本に潜伏していると連絡が入っていたな......怪盗も、FBIも、僕の日本で好き勝手しやがって......!

 

 

 

***

 

 

風見からの報告で、爆発事故の現場検証をしたが、遺体は発見されなかったと聞いた。遺体がないということは、逃げ切ったのか?以前ハッキングした映像からシェリーは子どもたちを救出していたし、今回も何らかの手段であの子どもを助けたのだろうか......見た目も帽子を深く被っていたため、人相がわからない。乗客名簿を確認しても、行方不明者など捜索願いは出されていない。戸籍がない子どもなのか?依然として、子どもの行方は不明だった。組織にはシェリーが死んだと伝え、子どものことは黙っておいた。子どもを、裏社会の国際的な犯罪組織に関わらせるべきでない。

 

 

 

 

 

ポアロの玄関口で梓さんを呼びに行く。大尉が運んで来たというタクシーのレシートに記された《死体》を意味する単語と梓さんの証言から、江戸川コナン君が何かの事件に巻き込まれたのだと推測した。レシートを探し、向かった先の宅配便のトラックから飛び蹴りを繰り出す少年が、あの爆発事故に巻き込まれた子どもだと気づくにはそう時間はかからなかった。生きてて良かった、と安堵すると同時に、その少年が噂の《テム君》だと判明した。

 

 

 

 


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