マダオ戦士Goddamn   作:はんがー

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side 江戸川コナン

 

 

冷蔵車のなかで遺体を発見したオレは、この現状を打開しようと、子どもたちに自分の持っている物を出して貰った。灰原の地雷を踏んでしまったオレは頭にたんこぶができた。知恵を出して、この中に閉じ込められて犯人の業者の人に殺されないように策を練る。よし、残るはテム君の持ち物を確認するだけだ。

 

 

「テム君も持ってるものをオレの前に出して―――って、何サボってんだ、おめーら。」

 

 

「サボってんじゃねェ、むさぼってんねん。腹が減っては戦はできひんがな」

 

 

テム君は元太と一緒にケーキを食べていた。

 

 

 

ガゴン!と灰原がオレにやったように拳を握った。「まったく、遺体がすぐそばにあるっていうのに貴方たちときたら......」灰原は蟀谷に手をあてながら、呆れを通り越し、キレていた。今の灰原はすこぶる機嫌がよろしくない。だというのに、テム君は関西弁を喋りながら、大阪のオバチャンのノリで光彦や歩美ちゃんにケーキを差し出している。

 

 

これは聞くまでもない。ハハハ......と空笑いして、見なかったことにした。携帯電話は使い物にならない。高木刑事にも博士にも繋がらない。元はといえば、オメーがこんなコンテナのなかに......と恨みがましく大尉をみて、ハッと閃いた。

 

レシートに暗号を作って、大尉にポアロへ届けさせる。綿棒を手に取り、【corpse】という単語をつくる。灰原が「あのこ、ポアロに行くってことはあの暗号、あの人も......」と小声に言う。

 

「逆にあの人に見せる為にあんな暗号にしたんだよ!すぐに気づいてくれるだろーぜ。黒ずくめの奴らの仲間、バーボンならな!

 

それに、テム君がどちら側なのか、気にならねーか?」

 

そう言うと、灰原は少し押し黙って、「子どもたちを巻き込むつもり?」とケーキを食べている歩美ちゃんたちを見ながら咎めた。

 

「大丈夫だろーよ。子どもたちの前じゃ、頼りになる“ポアロのお兄さん”だしな」

 

ケーキの空箱を元通りに戻して、宛名に【工藤様方】と書き加える。よし、これで荷物は博士の元じゃなく、隣の昴さんの所に届くはずだ!

 

いつの間にか完食したらしいテム君が「工藤様方って、あの家に住んでるのは沖矢さんだよね?」とユラリと立ち上がる。様子がおかしいテム君をみて、「お、おい、テム君......?」と口元を引くつかせた。ガバッと音がして、外からの光が入り込む。スルリと大尉が駆けていき、扉を潜り抜けた。

 

「そんなまどろっこしい手段じゃ、駄目だよ。おれたちはこの寒さで助けを待つんだよな?下手したら意識障害を引き起こす危険がある......だったら此方の方が手っ取り早いし、猫より確実だよ」

 

あっさり拳銃を出したテム君はトラックの後方へ向けた。

 

「そういうわけだ。オッサン、ブタ箱にぶちこまれたくなかったら、米花町二丁目に行きな」

 

 

 

***

 

 

拳銃を突きつけられた犯人は「こ、子どもの玩具だろ......!?」と明らかに動揺していた。オロオロしながらも威嚇する犯人にテム君は「じゃあ、今すぐ試してみるか?」と構える。じりっと重い重圧がテム君から発せられる。それに充てられた犯人は「......わ、わかった。坊主、米花町二丁目だな?」と要求に応じた。なぁ、テム君......妙に場馴れしてねーか?

 

 

オレたちの方に向き直ったテム君は輝かしい笑顔を浮かべていた。幸い、子どもたちにテム君の拳銃が見えていなかったようだ。いや、わざと見えないような立ち位置だったのか......今、思えば、子どもたちをケーキで引き付けておいて、その隙を突いたような......その輝かしい笑顔で「博士の家まで連れていってくれるってよ。いやァ~、親切な人でよかった」と光彦たちに説明する。よく言うぜ......あれは親切なんかじゃなくて、脅しに近かった。

 

光彦が「でも遺体があるのに、どうして警察にしなかったんですか?」と責めるような口調で問いただすと、「素直に行ってくれるわけないと思うよ。なんせ犯行を隠そうとするくらいだからな」とあっさりした口調で返す。「それに二丁目といえば、ちょっと用ありでね......」とケーキの空箱を見つめていた。犯人を乗っとるこの小学生に少しばかり恐怖を抱いた。

 

 

トラックが止まって、扉が開かれたと同時にテム君はクラウチングスタートの構えを取っていた。

 

......まさか、テム君の狙いは昴さん!?

 

そう言えば、ベルツリー急行の爆破騒ぎで「あの手榴弾.....この借りは返してやる」と、かなり頭にキていたようだった。

 

 

「てやァァァァ」

 

 

雄叫びをあげながら、テム君は勢いよく、飛び蹴りを繰り出した。僅かな扉の隙間を掻い潜った身体は犯人へと直撃した。「フゴォ!」という犯人の呻きと、その腹にグギッという痛そうではすまされない音がする。

 

 

そこにキキーッというブレーキ音が入る。クラクションを鳴らして「すみませーん!この路地狭いから譲ってもらえませんか?傷つけたくないので......」と降りてきた。......よかった、大尉はちゃんと届けてくれたんだな!

 

 

ホッとしたのも束の間、この展開は不味かったかもしれない。

 

 

テム君とバーボンを興味本位で会わせてみたいと思ってたけど......それでたまたま安室さんに助けを呼んだ。

 

果たしてそれが良いことなのか、わるいことなのか......

 

テム君は白い車から出てきた安室さんを見るなり、表情が削げ落ち、オレに「やりやがったなコノヤロウ......!」と目で訴えてきた。

 

もしかして、オレがレシートに暗号を作っていたときからバーボンが来ることをわかっていたのか?だからさっさと事件解決しよう!と珍しく笑顔を振り撒いていたのか?それであわよくば昴さんに一矢を報いれたら......なんて考えていたのか?

 

 

 

対する安室さんは呆然とした顔でテム君をみていた。その様子をみた犯人が「チィ!見られっちまったならあんたも......ガハッ!」と安室さんに殴りかかろうとするが、逆に重い一撃を放たれる。

 

 

「言ったでしょう?傷つけたくないから譲ってくれと......」

 

 

さっきまでの勢いはどうしたのか、テム君の目はハイライトが消えかかっていた。ガムテープをそれぞれ同時に取りだし、仲良くとは言い難いが、二人とも犯人にグルグル巻き付けている。

 

 

「あ、あの、テム君......」と話しかけると、「なあに江戸川君」とその猫なで声と反対に目がいつも以上に輝きを失っていた。

 

テム君は黒ずくめの奴らを知っているのか、灰原みたいに組織に追われているのか、何故小学生が拳銃を所持しているだとか......聞きたいことは山ほどあるのに、聞けない。というか、なにも聞くなと無言の圧力を感じる。

 

「スゲーな、探偵の兄ちゃん!」と元太たちが誉めるなか、テム君は一切此方に目をあわせようとしない。

 

 

「それで、そこの君が少年探偵団のテム君、かな?」

 

と安室さんが問いかけると、テム君は「ハジメマシテ」と言い、「ボク、ニホンゴ、ワカラナインダー」とジョディ先生のような片言で話し出す。「え?」と光彦たちがその様子に首を傾げている。「テム、なに言ってるん―――」と元太の疑問に

 

 

 

「あぁ。彼は外国帰りのようで、少々日本語に不慣れなんですよ」

 

 

オレの家から出てきた昴さんが答えた。

 

 


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