マダオ戦士Goddamn   作:はんがー

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明後日の方向へ思考を飛ばし、片言な日本語で返した。周囲がざわついているがスルーさせていただく。どうしよう。どうすればいいのか。若干、混乱に陥るおれの前に現れたのは、突撃しようとした人物―――沖矢さんだった。

 

 

「あぁ。彼は外国帰りのようで、少々日本語に不慣れなんですよ」

 

いつからおれは外国帰りの日本語に慣れない少年になった......

 

「日本のお笑いに興味を持ったようで......日本語のなかでも関西弁が気に入っているみたいですよ」

 

 

スラスラと嘘八百を並べる沖矢さん。やけに身ぶり手振りが大きい沖矢さん。おれは「せやねん......」とその嘘に乗っかる。

 

 

 

「テム君って外国人さんだったんだ!」

「確かに金髪って日本人にしては珍しいですね」

 

歩美ちゃんや光彦君は素直に受けいれ騙されていく。君たちはそのまま純粋に育ってくれ......

 

「あれ?でも鳥取生まれだって言ってたような......」

 

どころがどっこい。誤魔化されてくれないのが江戸川君である。そして、この人も誤魔化されてくれない。

 

「ホォー......金髪、ですか。僕もそうなんですよね。」

 

安室さんは腰を曲げておれに語りかける。この人、ミステリートレインのこと覚えてやがる。あのときは暗い貨物室で帽子で人相がわからないようにしたが、それが仇となったのか......《帽子を取って顔見せろ》と遠回しに告げられた気がする。

 

冗談じゃない!

 

あのときは本当に危機一髪だったんだ。この様子じゃ安室さんは気づいている。さらに万が一ベルモットが余計なことを言ってたら、それこそ............殺される?殺されるのか?おまけに江戸川君と沖矢さんに挟まれて、おれの逃げ場はない。

 

「この子の文化圏では頭巾や帽子を被ることが主流なようで......」

 

 

沖矢さんが安室さんに牽制するように言った。意外な人物の救いの言葉に藁にもすがる思いで、コクコク頷く。その様子を見て沖矢さんは「―――ですが、此処は日本。郷に入っては郷に従えと言いますし、帽子を被ったまま挨拶するのはどうかと......」と言い抜かしてきた。

 

な、何ィィィ!!?まさかのカウンターだよ!裏切りだッ......!ガッデム!!リアルorzな状態で地面に伏せていると、「なんか変だぞ、テム。」と元太君に帽子を取られ、心配された。反射的に「あ゛......」と虚ろな声でピシリと固まった。

 

 

 

我に返ったときにはもう遅かった。むき出しになったおれの顔は隔てるものなどない。おれがおそるおそる顔をあげると、閑静な住宅街はさらに静まり返り、何とも言い難い沈黙が訪れた。

 

江戸川君と安室さんは息を呑み、歩美ちゃんや光彦君は「あれ?またテム君の目がしんでる」「いつものことじゃないですかね?」とコソコソ言い合いながら、灰原さんに手を引かれ、博士の家へ入っていく。元太君は慌てておれの頭の上に帽子を戻し、彼らについていく。

 

「そう言えば僕に用事があるんでしたね。」

 

マイペースな沖矢さんはおれにしれっと声をかける。調子を取り戻した江戸川君は「昴さんなら大丈夫だな」と納得し、安室さんはハッとしたように「僕も、用ができましたので......」と車の運転席に乗り込み、誰かに連絡していた。

 

 

***

 

 

嵐は去ったかに思えたがまだ残っている。沖矢さんの後をついていくと、一台の車が停まっていた。

 

先程の出来事を思い出す。安室さんはおれの顔を見るなり固まっていた。それからハッとして元通りになったが......江戸川君もあんぐりとした顔で、おれと安室さんに視線を往復させていた。

 

......あぁ、おれの平穏計画in米花町がガラガラと崩れていく............こうなったすべての元凶におれは照準を合わせた。

 

「引き金を引いたって、無駄だ。それは銃に似せたタダのカメラだからな......」

 

だが、その人物は目を細め、怯みもしない。

 

グッと唇を噛む。バレてる。その通り、これはあまりにも誘拐に遭いやすいおれをみかねたオトンが護身用に持たせてくれた物だ。「平和ボケたこの国にはそれで十分だ。それで不審者や誘拐犯の顔を撮ったら証拠になる」というのがオトンの言い分だ。オトンにとったら平和ボケた国かもしれないが、おれからみれば生きた心地がしない、天下の犯罪都市だ。こうして銃を突きつけるあたり、おれもこの町に染まっているのかもしれない......

 

さっきの犯人は素人だったためこれが通用したが、やはりわかる人にはわかってしまうのか......気落ちしたおれに沖矢さんはいつもの胡散臭い敬語を止めて、余裕綽々な態度でおれに向き合う。

 

 

「まだわかんねぇのか?それは俺がつくったんだぜ?テム。」

 

 

そう言うと、沖矢さんはペリッとマスクを剥がし、その下から見慣れた猿面が表れた。瞬きの間にハイネックから赤ジャケットに衣装変え。おれはポカーンとした間抜け面をさらした。パシャリと場違いにシャッター音が鳴った。

 

 

ルパンは悪戯が成功した顔で「いやァ~、騙されてくれちゃって!俺もまだまだ現役!」と笑う。

 

何でわざわざその人をチョイスした!?変装している人に、変装するってわかんねェだろ!!ややこしい!沖矢さん自体が変装している姿が前提なわけだ。ちょっと様子がおかしいと思っても、こっちはキャラ設定ブレてんなァと片付ける。

 

「俺たちゃ、真面目に仕事してたんだよ。銀行の下見の途中で、反対車線から白のマツダが一般道を爆走......」

 

ルパンはそのまま車のドアを開け助手席に乗り込む。続けておれも後部座席に座る。

 

「追いかけたらあら不思議。眼鏡のガキンチョと胡散臭いイケメンに目をつられたテムがいた。だからよォ~、変装して出てきたんだぜ?」

「......ルパンに親切にされるなんて蕁麻疹が走る......」

 

パチン!とウインクされるが、助けるならこっちの心情も察してほしかった。あれは親切じゃない。江戸川君にも、安室さんにも大きな爆弾をぶちこんだぞ。おれを爆心地にして......

 

ジトリとルパンを見ると、「ハ!そいつは違いねェ!」と運転席から顔を覗かせたオトンが笑った。

 

 

おれがだんまりでいると、「いきなりそっくり人間が出てきたら隙ができるじゃねェか」と軽い調子で返す。オトンは「ドッペルゲンガーってか?なに落ち込んでんだテム。ありゃ迷信だ。......死にはしねェさ」とバックミラー越しに励まされる。............そんなオカルトじゃなくて現実問題、おれのライフが削られているんだよオトン......

 

 

「連絡にでないと思えば、事件に巻き込まれてたとはな.....どれ、拙者が110番の仕方を教えてやろう」

 

やめろ、オカン。どの口がいってんだ。ちょっと自分が使えるようになったからって、チマチマ猫の写真やら虹の写真を送ってきて......孫にかまうお年寄りかよ!

 

 

煙草を吹かしながら「おいおい......何処の泥棒が警察に連絡するんだ」とオトンは車を走らせる。「......しかし次元。拙者はルパンと銭形がメル友だと聞いた」とオカンが言うと、オトンは頭を抱えた。今日も苦労してんだね......当のルパンは「ムフフ!さっきは傑作だったなァ~」と肩を震わせている。

 

「ルパンが変装した男、沖矢昴だったか?」

「ん?どうした次元」

「.....偶然その男がライフル構えてベルツリータワーにいた誰かを狙ってたのを見ちまってよ......気を付けねェと今度はお前さんが狙われるんじゃないか」

「ふぅ~ん......そいつはまた物騒だ。怨みをた~くさん買ってそうな奴だなこりゃ。」

 

 

 

妙に的を射た発言に内心ギクリとした。

 

......確かにあの人の周りはいろいろな火種がありそうだ。私怨(赤井ィィィ!!)とか私怨(お姉ちゃんをッ!!)とか仕返し(手榴弾の説明はまだ終わってない)とか......

 

 

 

 


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