マダオ戦士Goddamn 作:はんがー
side 江戸川コナン
安室さんに、バーボンに、勘づかれた。それはとても些細なこと。誰にも気付かれない完全な計画だった。だが、彼は実に頭のキレる男だった。
事件の真相を瞬時に見抜く洞察力。ベルツリー急行で灰原を殺そうとしなかったあの行動。【ゼロ】という単語に反応した態度。そしてFBI捜査官にいい放ったあの信念。その言動から導かれるのは、日本の安全と秩序を維持するために存在する公安警察の俗称【ゼロ】......
彼が公安で組織に潜入してるなら、こっちの事情を話せば最悪の事態は避けられると踏んでたけど......
***
クソッ!練りに練ったあの計画がバレた!!安室さんのことだから、赤井さん=沖矢昴と繋ぎあわせたかもしれない。そうしたら、恐れていた最悪の事態になっちまう!!
机の上に並ぶ複数のモニターをみて、記憶の引っ掛りを覚えた。何処かで聴いたような言葉の既視感。脳裏を掠めた記憶の端々。散り散りになったその欠片をひとつひとつ併せていく。
病院で腰を曲げて俺に目線をあわせつつも凄んだ表情の安室さん。
冷や汗を流しながら弁明するテム君。
FBI捜査官にいい放った威嚇するような安室さんの態度。
とっとと出ていくことをすすめる
アイリッシュ相手に怯みもしないで睨みを効かせたテム君。
―――そうだ、あの二人はとてもよく似ている。人蓄無害そうな顔をして、その内に秘めたる気質は鋭利な刃のごとく時折見え隠れする。
そして、試しにお互いを引き合わせてみたら、予想外にギクシャクしていた。オブラートに包んで言うと気まずそうな(死んだ魚の目をしていた)テム君の表情と、驚愕に満ちた安室さんの顔はとても印象に残っている。
テム君を巻き込まない......もう手遅れかもしれないけど、この窮地を乗り越えないといけない......!
念のため、テム君も保護対象だとジョディ先生に伝えた。本堂英祐の場合は、キールがCIAの潜入捜査官だった。もしも彼のようにテム君が自分の肉親を探し始めたら......それは自分から組織に近づくことになり、危険だ。だから、今回も同様にテム君を保護する方向で進めているけど......
昴さんに扮した父さんと、安室さんのやり取りをハラハラした面持ちでモニター越しに見つめる。安室さんが父さんのハイネックを掴みあげたとき、テーブルの上に置いた安室さんのスマホが着信を鳴らした。
「何!?赤井が拳銃を発砲!?動ける車があるのならヤツを追え!今、逃したら今度はどこに雲隠れするか......」
「......すみません、少々静かにしてもらえませんか?今、この家の家主が大変な賞を受賞してスピーチするところなんですから......」
画面では父さんに変装した母さんがマカデミー賞の表彰式に出て、インタビューにコメントしていた。すると、テレビ画面の上部に【速報ニュース】というテロップが流れる。客間にいる二人もその速報を告げる音に気がついたのか、自然と目はテレビの方を向いていた。
【ルパン三世が東都銀行で若護茂英心氏の所有するチェリーサファイアを盗み、逃走】
ガバリと身を乗り出して画面に釘付けになる。画面は次の瞬間、父さん(母さん)の受け答えから切り替わり、まさに事件現場の東都銀行が映された。現場は何故かルパン三世の顔の被り物を被った人々で溢れかえっていた。現場中継の記者(ルパンの顔)は「現場はご覧の通り、ルパン一味によって混乱に陥っています!わ、私はルパン三世じゃありません!記者の戸内です!」と警察官によって被り物を剥ぎ取られていた。......何が起こっているんだ!?よりにもよってこんなときに......!
誰もがテレビ画面に注目するなか、頭の中でルパン三世の情報を整理しつつ、前のめりになりながら続報に耳を傾ける。パッと画面が切り替わった。
「イケメンで、クールで、礼儀正しくて、ダンディーで、FBIに置いとくにはもったいないくら~い!」
乙女の表情をした工藤優作(母さん)がドアップで映し出されていた。
シラケた空気になったのはいうまでもない。俺はガゴンと頭をぶつけ、父さんは母さんの言動に複雑そうに頭を抱えていた。安室さんは【FBI】ときいて青筋を浮かばせ、電話相手にキレていた。ハラハラとした緊張感がこの数分でカオスになっていた。
安室さんは眉根を寄せながら赤井さんと電話越しに会話をし、父さんはルパン三世ときいて面白そうにニヤニヤしていた。
***
スケボーを走らせ、片っ端から条件にあう店を当たっていく。カランコロンと店の扉を開けると、捜していたその人物はカウンターに腰をかけていた。
「......なんだ?此処はガキの来る所じゃねェ。それともきれいな肺を汚したいのか?名探偵」
猫背気味の髭を生やした男は片手で酒を煽り、煙草を吹かしている。
「そんなこと言わないでよ、パパ。簡単なことさ。昼間から開いていてお酒が呑めるお店は限られてくるからね。―――ボク、アイスコーヒーで」
少し高さのある椅子をよじ登りながらその男の隣に座ると、すぐさま「パパって言うな!!」とピシャリと返ってくる。
俺が悪いんじゃねェ
こんな昼間っからやってる店が悪いんだ
一緒に事件現場を検証するために同行したときに聴いたわるい大人の言い分だ。ルパン三世がいるなら、相棒のこの男もいると踏んでいたけど、やっぱりビンゴ。
「――――この町で何を企んでいるの?」
いつもより低い声色で睨みつけながら言うと、「お。工藤新一で来たか。」と酒が入っているせいか軽やかな返事が返ってくる。ちょうどそのとき、バーテンダーがアイスコーヒーをコースターの上に置いた。それに「わぁ!ありがとう」と小学生らしく喜ぶと、その様子をみた男は「フッフッフッ………大変だな、オメーも」と愉快そうに笑う。オレは「バーロー」と不貞腐れた。そう言えば、この前のヴェスパニアの一件でオレが工藤新一だということがバレていたんだった......
すると、帽子を目深に被った男――次元大介――はガサゴソと内ポケットからメモの束を取り出す。パラリとメモをめくり、その口元はニヤリと笑っている。
「成る程。【口癖は『バーロー』】......あってるな。あと【困ったときは『ちょっとトイレ』】......なんだ?若いのにトイレ近いのか?医者に診てもらえ」
「なんだよそのメモ!んなわけねーだろ」
まるで近くで【江戸川コナン】をみていたようにオレの癖を指摘し、からかわれた。やがて次元大介は聞き分けのない子どもを諭すように口を開いた。
「オメーが首を突っ込まなきゃ、何にも起こらねェってことだ」
顔を斜めに上げたところに次元大介の片目が帽子から覗いていた。......ヘェ。おもしろいじゃねェか。
「そのメモに書いてない?オレは脅されると燃えるタイプだって」
***
side とあるBAR
スケボーを片手に持った少年が店を後にした数分後に、奥のカウンターからバーテンダーの身なりをした男が出てきた。店内はジャズの音色が響き、落ち着いたムードが流れている。
「......あんたがバーボンか」
バーテンダー――バーボン――は影のある笑みを浮かべ、その問いに肯定した。
「えぇ。はじめまして。本来ならアイリッシュがこの取引に来る手筈だったのですが、生憎、彼はジンの不興を買ってしまいましてね......代わりに僕が引き継ぎになりました。あの眼鏡の少年とは知り合いですか?」
「......さァな」とぶっきらぼうに返す。バーボンはそんな無愛想な態度に気にした様子もなく、話を進めた。先程、少年に軽口を叩きあった雰囲気は鳴りを潜め、それは裏社会に名を轟かす男の顔をしていた。バーボンは男の変化に観察しながら、取引の詳細を確認する。それからじっと顔を見られ、おかしな点があったかとバーボンが問うと、「ドッペルゲンガーなわけねェか。......あぁ、悪い。こっちの話だ。続けてくれ」と独り言のような答えを返される。バーボンは「......はぁ」と頭に疑問符を浮かばせた。
「―――では、羽田の裏の倉庫で」
灰皿に煙草を押し付け、次元は席を立ち、店を後にした。煙草の残り香が漂う。バーボンは誰も居なくなったBARでその仮面を外し、もうひとつの顔に付け替えた。耳につけたイヤホンを起動させる。
「―――次元大介と接触した。作戦通り、頼む」
ザザッとノイズ混じりに「了解」と短い応答がなされた。
その日、秘密裏に羽田の周辺に公安の捜査網が張り巡らされた。