マダオ戦士Goddamn   作:はんがー

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『かぞくのおもいで』

 

 

いるま てむ

 

■月§日

今日からマダオの観察日記をつけることにした。マダオは公園のヌシだ。少し茶色がかった髪で顎の周りに髭を生やしている。少し太めの眉に猫目。基本一日中働かずに公園でじっとしている。おれはマダオを観察しているけど、マダオもじっとおれを観察しているみたいだった。

 

 

 

■月#日

マダオがなついてしゃべってくるようになった。隣のブランコに座ってゆらゆら足を揺らした。「君......バーボンを知っているか?」ときかれたので、「ちょっと待ってて」と、おれはマダオにウチから持ってきたお酒をいっぱいあげた。でも、マダオは困った顔をして酒を飲まなかった。

 

 

 

 

■月⊇日

マダオは今日も一人公園のブランコで黄昏ている。いくらお酒をあげても、動きも働きもしない。「なんで何もしないの?」ときいたら、「これでも、仕事してるんだよ......」と、疲れたような顔でそう言っていた。おれが頭に?を浮かべていると、困ったように「家に帰る時間だな......」と頭をなでられた。なんだかごまかされた気分だ。

 

 

 

■月◎日

ぽつりぽつりと言葉を交わすようになりマダオはいつの間にかお酒を呑むようになっていた。だけど、いくらお酒をあげても、眼から全部流してしまう。「どうしてせっかくあげたのに流しちゃうの?」ときいたら、「………もう流さないから」そう言って、また眼からお酒を流していた。

 

 

日が暮れるまでずっと.........

 

 

 

 

■月∝日

マダオの探し人の特徴が母さんみたいだったので、家に連れてきた。母さんには「おれ、マダオかうから!」と説明した。母さんは「もう名前までつけちゃったの?」と笑っていた。でも、母さんとマダオは顔を合わせたっきり、お互いを凝視しあっている。もしかして知りあいなのか?無造作に【Scotch】と書かれたウイスキーを投げつける。すると、マダオは慌ててそれをキャッチした。「てっきり犬や猫だろうと...........」と母さんは珍しく狼狽えていた。

 

 

 

 

■月Å日

母さんとマダオは協定を結んだらしい。おれがマダオを飼うことをゆるしてくれた。寛大である。マダオの大きな手がおれの頭をなでる。なんだかくすぐったくて、おれも背伸びしてマダオの頭をなでた。

 

 

 

■月≡日

夕飯のお手伝いをした。母さんに「お父さんにいてほしい?」と聞かれた。おれはトントンと玉ねぎを切る母さんの背中をみて「......わからない」と答えた。夜、マダオにそのことを話した。

 

 

「アイツの代わりには役不足だろうが.........君と君の母さんはおれが護る。“約束”だ」

 

指を差し出され、おれもきゅっと指をにぎった。マダオがちょっぴりかっこよくみえた。

 

 

 

■月∋日

おれと母さんとマダオでいっしょに夕飯を食べた。母さんはご飯の上に粉チーズの山をつくっているのを見て、マダオが青白い顔をして固まっていた。母さんは根っからのチーズ人間だ。マダオは母さんにチーズを薦められていたが、必死に断っていた。母さんは「こんなに美味しいのに......」とシュンとしていた。マダオは「......だからゼロの家にチーズが大量にあったのか......」とブツブツ言っていた。

 

 

 

 

 

■月∩日

マダオに「お父さんに会いたいか?」と聞かれた。おれはパチクリとまばたきした。やがてフルフルと首を横にふった。「だって、母さんもマダオもいるから!」と笑って返した。そんじょそこらの子どもじゃない。おれは空気がよめる子どもだ。きっとこう答えた方がまるくおさまる。だけど、マダオは眉を下げて、困ったような顔になる。

 

「そうか......でも、いつかテムが......お父さんに会えるといいな」

 

掠れた声でそう言ったマダオの顔はとても印象的だった。なんだか、寒気がしたのはきっと気のせい。

 

 

 

■月∂日

マダオからギターを教えてもらった。ドレミだけならまかせろ。フフンとニンマリしているとマダオが「何か弾いてみるか?」と誘うので、縦に首を振る。だが、提案されるのは「キラキラ星とかメリーさんの羊とか......」と童謡ばかりで、おれは「母さんが寝る前に歌ってくれるのがいい!」と主張した。「子守唄はドレミじゃ難しいんじゃないか」とやんわり否定するが問題ない。

 

「大丈夫!母さんのカラオケ十八番だから」と自信満々に言うと、マダオは「へ?」と口を半開きにして、母さんをみる。

 

母さんはどこから持ってきたのか、マイク片手におれにウインクする。

 

「このテストは、電子音に合わせてできるだけ長く20メートルの間隔の間を走り続けるものです 最初の電子音で片方の......」

 

 

長いイントロが始まり「1」と言うと、おれはギターでドレミを弾く。呆気に取られたマダオがハッとして、「そうそう、ドレミファソラシド~って、シャトルランじゃないか!」と吼えた。今のノリツッコミは中々やったで、マダオ。記録は2だった。

 

 

 

 

 

 

 

■月¬日

ギターを奏でると、ズッコケができるくらいのノリを身につけたマダオはギターケースを背負っている。マダオはバンドマンらしく、メンバーと打ち合わせがあるらしい。

 

 

「一つだけ忠告がある。イイ歳した奴が酒の名前を名乗るなんて......

 

 

死ぬほど痛いぞ」

 

「あのなァ......!俺だって、気にしてることを......あれだ、事務所の社長がつけてくれたんだよ」

 

軽く冗談を言いながらマダオを見送った。母さんもここのところ忙しくなって、おれもひとりでいる時間が増えた。「行ってらっしゃい」と見送り、おれは誰もいない部屋でテレビをつけた。誰からだろうと思いながらケータイのメールを開くと、マダオからだった。

 

 

 

【悪い、約束は守れそうにない。母さんを大事にするんだぞ。じゃあな、テム。】

 

 

 

――――うそつき。約束したのに。

 

 

 

 

それから、マダオは帰ってこない。マダオはおれの前から姿を消した。

 

 

 

 

 

∧月▲日

母さんも帰ってこない。マダオがいなくなってから、母さんはまるで生き急いでいるかのように働いた。空港で母さんをダンディーな男と共に見送った。それが、さいごにみた元気な母さんの姿だった。

 

 

 

 

∧月▽日

ダンディーな男は渋い声でおれに告げた。

 

「いいか。こちとらベビーシッターじゃねェんだ。お前も勝手にしろ。―――わかったか、坊主」

 

男は懐から銃を出して、片方の眼を覗かせ睨む。ドクンと心臓が波打って部屋中に緊迫感が襲う。

 

その気迫に圧されて「わかった」と頷く。男の指に引き金が触れ、いよいよここまでか......と、覚悟を決めて目を逸らさないでいると、ポンと可愛らしい音とともに銃口からは【welcome】と書かれた旗が垂れていた。「泣かれるのは面倒だが、なんでこう、胆が据わってるんだ?......遺伝か?遺伝なのか?これだからあのブッ飛んだ女のガキは......」となんとも言えない表情で項垂れていた。

 

 

 

 

 

 

∀ 月∈日

誰もいない部屋でぼんやり隅を見つめる。ピンポーンとチャイムがなるけれど、出ていく気分じゃなかった。しばらくすると、ガチャガチャと、音をたていつの間にかおれの前にあのダンディーな男がいた。男はおれを一瞥すると、何かのメモのような紙をクシャリと握った。

 

 

「ここで野垂れ死ぬか、生きるか......選べ。

 

 

 

―――――テム」

 

 

久しぶりに自分の名前を呼ばれた。体育座りで足に埋めていた顔をあげると、男はじっと片目を帽子から覗かせていた。気づいたらおれは、男の手を掴んでいた。

 

 

 

***

 

 

【―――それからおれとオトンのハチャメチャな毎日が始まった。オトンはクールでたまにお茶目なところがあるオジサンだ。でも、おれは、そんなオトンがきらいじゃない。】

 

 

 

 

年季が入った客間に男が佇んでいた。天下の大泥棒ルパン三世はとある一冊のノートに目を通していた。そこに酒瓶を片手に持った相棒の次元大介がグラスに注ぎながら、口を開く。

 

「ところでよ、ルパン。一つ、気になることがあるんだが......」

 

コポポ......と、酒を入れたグラスが音を鳴らす。ルパンは短く「なんだよ?」と返す。

 

「テムの父親の事なんだが......結局分からずじまいか?」

「んー?まあ、そういうことだな。」

 

相変わらず、視線はノートに向けたままルパンは答えた。

 

「本当のところはどうなの?」

 

女――峰不二子――の声が聞こえ、ルパンは「いらっしゃ~い、不~二子ちゃん」と手を振る。不二子はガサリと荷物を置き、ルパンをじっと見つめる。

 

 

「拙者は一人、とても似ている男を知っている。」

「俺もだ。」

 

 

五ェ門はそっとテムにブランケットをかけ、子どもの寝顔を見ながら静かに言う。その様子をみた次元も酒を口にしながら、つづける。

 

二人の様子をみた不二子は「ルパン!まさか......!」とルパンから距離をとるように非難する。ルパンは慌てて「いやいや!違うって不二子ちゃん!!違う、違うの!誘拐なんてしてねーよ!?」と誤解を解こうとする。不二子は訝しげに「ふんっ!」と、ルパンをひじでつく。

 

 

ルパンは「次元たちがみたのはこの男だろ?」と写真を一枚取り出す。不二子は「あら、イイ男」といつもの機嫌にもどる。

 

「父親云々はさておき。チカと、この男と、テム。なぁ~んか匂わねぇか?」

「そうね......それにしても、テムにそっくりじゃない?この男」

「......たしか《バーボン》と名乗っていたな」

 

 

おのおのが口を開くが、テムが寝返りをうち、パッと視線がテムに集まる。しんと静まる部屋のなかでむにゃむにゃと「わたあめがふってくる......」と愉快な寝言が響く。

 

「......この間抜けな顔もそろそろ見おさめだと感慨深くなるなァ」

 

にやにやとルパンは次元に語りかける。

 

「......しんみりするのは性にあわなくてな」

 

グラスに入ったワインを煽った。月夜に照らされたその顔は此方から何もみえなかった。




>一つだけ忠告がある。死ぬほど痛いぞ
(ガンダムW ヒイロ・ユイ)


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