マダオ戦士Goddamn   作:はんがー

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ルパン三世の強盗事件のあと、我ら少年探偵団は阿笠邸に召集された。アジトである米花町の工場跡地の平屋から出勤だ。断ろうとしたら「昴君からドーナツを貰ってのォ」という糖分同盟の博士からのお誘いを断る馬鹿なんてしない。しかも、博士お気にいりのドーナツだ。カロリーは馬鹿高いかもしれないが、美味いに決まっているはずだ。

 

 

 

「《若護茂英心さんのチェリーサファイアがルパン三世によって盗まれた》......ここまでは皆さん知ってますよね」

 

光彦君が全員の顔をみつめ、確認する。それに歩美ちゃんが「東都銀行だったよね」と相槌をうつ。何処から引っ張り出してきたのか、ガラガラと音を立てながらホワイトボードを用意する阿笠博士。元太君はペンを手に握り、大きく【わかごも えいしん】と平仮名で書く。刑事ドラマの真似事みたいだ。

 

暫くすると、スケボーを抱えた江戸川君が帰ってきた。呆れた表情をして、「何やってんだ?」と盛り上がるキッズたちを横目に江戸川君は灰原さんに調べものを頼んでいた。彼は彼で探偵として調査しているらしい。少年探偵団の暴走の一因は9割江戸川君の影響だと思う。(真顔)......

 

 

推理というのはドラマのように格好の良いものではない。

 

 

だからいくら少年探偵団といえども、そう簡単にルパン一味の居場所なんて見つかるわけない。高みの見物の立ち位置でおれは優雅にティータイムを楽しんでいた。本日のおやつは阿笠博士御用達のドーナツである。サクッとしたと思いきや、ふわっと中に広がる食感がたまらなく美味しい。ドーナツの真ん中に目を合わせ、その空洞から彼らを観察する。

 

 

「わかごも えいしん......」

「んしいえ もごかわ......」

「かわ......いし......あ!【いしかわ】って苗字ですね」

「もしかして......並び替えたら何かの暗号になるかも!」

「いしかわをのけて......えーと、残ったのは【ご】、【も】、【え】、【ん】だよな......」

「ごもんえ......ごんえも......ごえもん......」

 

キッズたちはぶつぶつと呟き、「あ!」と閃いた声で、互いに顔を見合わせ、せーのと掛声する。

 

 

 

 

「「「石川 五ェ門!!」」」

 

ブフォと思わず吹き出した。

 

オカン......バレてるぞ!あっさり見破られてるぞ!これでもない、あれでもないと偽名を考えていたオカンの姿が思い出される。あの努力は、いまこうして水の泡になってしまった.....気管支に入ったため、ゲホゲホ噎せながら、呼吸を調えた。

 

 

 

お、落ち着け......たかが名前を当てられただけだ!そっと彼らから目を反らして、チャンネルのリモコンを回すと......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銭形警部がフリップを片手に解説していた。

 

 

『こやつがルパン三世であります。武器はワルサーP38、装弾数は8発。次元大介、0.3秒のガン捌きの名手。武器.357コンバットマグナム、装弾数6発。こやつがスーパー剣士、石川五エ門。武器は斬鉄剣、鉄をも斬れる名刀でありましてクセ者ですぞ。』

 

 

 

 

何やってんだ、とっつぁんンンン!!

 

子どもたちはテレビに注目し、光彦君に至ってはメモを取っている。

 

 

『さすがルパン逮捕専属の銭形警部!では、VTRを確認しましょう。

 

チェリーサファイアが消え失せました!ルパン三世です。ルパン三世は予告通り衆人環視の中で盗んでいきました』

『クソォ、ルパン逮捕はこの儂をおいて他にないのだ、今に見とれ!!ルパァ~ン!!』

『ぜ、銭形警部!?手錠を振り回して何処に行かれるんですか!?』

 

 

 

......いや、ほんと、何やってんだ?長年ルパンを追っているから、今回の事件の解説者として呼ばれたんだろうけれども......とっつぁんのルパン探知機が反応したのか、スタジオを飛び出してしまった。その後、番組は『し、CM入りますっ』と焦った声で進行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 赤井秀一

 

 

キャメルとジョディとともに工藤邸でボウヤと合流した。あの日以来、生死が判明した俺は時々、こうして彼らと共に俺の潜伏先である工藤邸に集まることが多い。

 

「バーボンは公安の潜入捜査官だったって判明したし、一先ずは安心だね」

 

「......あぁ、ボウヤのお陰でな。だが、ルパン一味がついに行動を起こしたとなると、此方も黙って見過ごすわけにはいかないな......」

 

 

若護茂英心氏のチェリーサファイアが盗まれた事件が発生し、ついにルパン一味が動いた。ケイン・ゲジダスという怪しい男もこの事件に一枚噛んでいると、情報が入っている。

 

 

幾つかのモニターに目を向けると、チャイムが鳴り、子どもたちがやって来たようだった。静かだった隣家は途端に賑やかになる。

 

 

―――「わかごも えいしん......」

 

―――「んしいえ もごかわ......」

 

―――「かわ......いし......あ!【いしかわ】って苗字ですね」

 

―――「もしかして......並び替えたら何かの暗号になるかも!」

 

―――「いしかわをのけて......えーと、残ったのは【ご】、【も】、【え】、【ん】だよな......」

 

―――「ごもんえ......ごんえも......ごえもん......」

 

 

 

 

(くだん)

件の大泥棒について子どもたちが真剣に口にしていた。例のバーボンそっくりの少年はドーナツを堪能していた。......ふむ、やはり甘味に目がないのだな。いつかのカレーのときも、あの緩んだ顔でプリンを頬張っていた。こうしてみると子どもっぽい無邪気な様子だが、油断ならない子どもであることを忘れてはいけない。この監視カメラに気づいているらしく、時折画面越しに目が合う。

 

 

 

「そういえば、赤井さん。宅配事件で安室さんと会っていたよね。あのあとテム君と何を話してたの?」

 

 

俺の協力者であり、侮れない子どもがまた一人。阿笠邸から帰ってきたボウヤが唐突に質問を投げ掛けた。斜め下にあるボウヤに視線を向け、数日前の記憶を回想する。

 

あの日は、ジェームズに呼び出され、帰宅してからその事件を知った。バーボン、いや、降谷君が駆けつけ、解決したと聞いた。だから、俺はその現場にいなかった......さらに言えばあの少年とも話していない。嫌われてしまったのかむしろ警戒されている。

 

 

「......いや、その日は出掛けていて留守だったはずだが」

 

 

俺の答えに眼鏡のボウヤは、雷に打たれたかのように眼が見開かれていた。手がワナワナと震えていて、【何か】があったことを雄弁に物語っていた。

 

 

 

 

 

「......まさか、あの昴さんは......」

 

パッと席を立ち、走り出すボウヤ。ただ事ではないと直感する。

 

 

―――「「「石川 五ェ門!!」」」

 

 

ボウヤが居間の扉を開けると同時にモニターの子どもたちが声を揃えてその名を叫ぶ。

 

 

......なるほど。そういうことか。まんまと俺たちは奴の掌の上で転がされていたわけか......

 

 

【若護茂英心】が【石川 五ェ門】ならば、まさか、【ケイン・ゲジダス】という男は......

 

 

 

 

 

玄関扉を開け、スケボーに足を乗せたボウヤはすでに走り出していた。

 

 

キャメルがハンドルを握り、その隣にジョディが乗っていた。丁度、帰り支度の同僚の車に乗り込み、後部座席に座る。「ちょっとシュウ!?」「あ、赤井しゃん!?」驚く彼らを黙らせ、車を走らせながら、スケボーひとつで駆け出したボウヤを追う。

 

 

若護茂英心の住所である自宅に向かうと、すでにもぬけの殻だった。空き家の平屋を虱潰しに訪ねるが、それも空振りに終わった。

 

 

最後の工場跡地の平屋に行くと、表紙に『かぞくのおもいで』と書かれたノートが不自然に机に置かれていた。ボウヤと目をあわせ、ノートを開く。それは、日記で綴られており、あの少年によって書かれていた。

 

 

マダオという名の男との出会いと別れ。仕事にのめり込む母親への憂慮。そしてオトンと呼ぶ次元大介に手を差しのべられたこと。

 

 

母ひとり、子ひとりの生活の中で新たに加わった家族。それがマダオという男。微笑ましいやり取りから読み取って、随分馴染んでいた間柄であったと窺える。そんなマダオと触れあい、この少年は、なついたのだろう。【うそつき】と書かれたページには、恐らくこぼれ落ちた涙の滴の形に痕が残っていた。

 

 

 

しかし、このマダオという男。俺の昔の知りあいに外見の特徴が似ている。猫目。顎に沿って生えた髭。ギターケースを持ち歩く姿。子ども好きだったのか、真純と駅のホームでの様子から彼は子どもの扱いに馴れていた。

 

 

だが、彼はもう、この世には居ない。仮にこのマダオという男が彼だったとして、あの少年と会わせることも出来ない。

 

 

 

 

 

何故なら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の目の前で彼は自分の心臓に向かって引き金を引いてしまったのだから――――

 

 

 

 

命乞いをするわけではないが、

俺を撃つ前に話を聞いてみる気はないか

 

 

 

自殺は諦めろスコッチ......

お前はここで死ぬべきではない

 

 

 

お陰でそいつの身元はわからずじまい......

幽霊を殺したようで気味が悪いぜ......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......赤井さん?」

 

様子をおかしく思ったボウヤが俺の顔を除きこむ。ハッとなって、ボウヤを見ると、彼は複雑そうに「このマダオって人、もしかして......」と言う彼に手で制し、黙殺した。その態度で察したのだろう。ボウヤは顔を俯かせた。俺はノートを持ち出し、ボウヤの手を引き、車に乗り込む。

 

「シュウ、大変よ!羽田を張っていた仲間から連絡が取れなくなったの!」

「ボスからすぐに向かうようにと指示が......!」

 

 

 




>戦いというものはドラマのように格好のいいものではない
(シャア・アズナブル)


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