マダオ戦士Goddamn   作:はんがー

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阿笠邸では「石川五ェ門だー!」と、はしゃぐ子どもたち。彼らは勢いそのままに「捕まえに行こう!」と意気込んでいた。

 

おそらくこの家はお隣さんによって盗聴されているから、当然この子たちの会話は筒抜けなわけで......はぁ、頭がいたい。

 

外ではジョディさんの車が急発進していた。よくみると江戸川君と沖矢さんも乗っていた。おまけにさっきのテレビを見るかぎり、銭形のとっつあんも動いてるみたいだし、どうするんだよ、この状況......!

 

ホワイトボードの近くでは子どもたちと阿笠博士が盛り上がっている。とりあえず、落ち着かせないと......

 

「ハイハイ......茶でも飲んで、どうぞ」

 

ひとりひとりにカップを手渡していく。ちょうどいい温度で、紅茶の香りがほわっと和ませる。

 

「おぉ、テム君は気が利くのォ」

 

何の警戒もなく、それを受け取った彼らは口に含み、数分経った頃にはスヤスヤと眠りについていた。......少し良心が痛むが、彼らはおとなしくしてもらわないと......ソファに腰かけた阿笠博士と少年探偵団に膝掛けをかけて、後片付けにキッチンの流しへ運び、証拠隠滅。

 

 

......よし、第1関門クリア。くるっと後ろを向くと、

 

 

 

 

 

 

 

「博士、江戸川君も言ってたけど、あの子たちと一緒になって、ルパンを捕まえるなんて馬鹿なこと考えてないでしょうね......!」

 

 

 

 

 

地下室から上がってきた灰原女史とバッチリ目があってしまった。ブランケットを持ったままぎこちなく、へらっと笑ってみる。

 

 

「......あら。貴方だけ?」

「うん、みんな疲れて寝ちゃったみたいだ」

 

博士と子どもたちへ視線を向けながら答えると「......そう」と灰原さんはキッチンへ向かった。疲れ目になっていたので、休憩に何か飲みに来たらしい。おおかた、江戸川君に調べものでも頼まれて、ずっとパソコンと向き合ってたんだろうな。

 

さて、彼らを寝かしつけたし、そろそろ失礼しようと、玄関の方へ足を進める。

 

......よし、第2関門クリア―――

 

 

 

「......この匂い。まさか、貴方ッ......!」

 

 

 

―――失敗ッ!!

 

 

バッとキッチンから飛び出してきた灰原さんに見つかってしまった。ジリッと重たい空気のなかで来客のベルが鳴った。おれは両手を上げて肩を竦めてみせる。来客を待たせるわけにも行かず、灰原さんは玄関の扉を開けた。

 

 

 

 

 

「ハァイ!テム、それからシェリーちゃん」

 

 

 

 

「......み、峰 不二子......!?」

 

 

扉を開けた灰原さんは驚愕の顔のままで、おれは「やぁ、不二子さん」と挨拶した。内心、冷や汗ダラダラである。

 

グッドタイミングなのか、バッドタイミングなのか......この人が来たってことは何かしらの厄介事に違いない。ある意味トラブルメーカー。

 

でも、この現場から離脱する理由ができたわけだ。このピンチなときに登場するってことは、こちら側(味方)ってことでいいよな。

 

「ちょっとついてきてもらうわよ?勿論、シェリーちゃん、貴女もね」

 

 

 

そうしてヴェルファイアに乗りこむ不二子さん。おれと灰原さんはドナドナ連れていかれた。

 

やや機嫌のよろしくない不二子さんはプンスカ怒っていらっしゃる。

 

曰く、「世界中のオトモダチ」のツテで仕返しをするらしく、おれはその手伝いで駆り出されたらしい。

 

さっきチラッとみえた銃器をみて、そっと目を反らす。不二子さんは世界大戦級の報復のためにあらゆる武器を用意していた。

 

 

ここって日本だよな?平和主義の国ですよね?後部座席から見えたベルツリータワーを確認して、現実にうちひしがれた。

 

......今までの経験則によると、このあと どっかのマフィアとか捜査官やらとドンパチ合戦するだろうなァ......はぁ、気が重い......

 

 

 

おれがこの事態に意識を飛ばしている間、不二子さんはその豊満なボディで色気を垂れ流し、灰原さんに迫っていた。

 

不二子さんの求める若さへのこだわりから若返りの効能を有したAPTX4869の開発を持ちかけていた。

 

お巡りさん、ここです!!先程の件(眠らせた)のことがあり、負い目があったおれは、ベルツリー急行で灰原さんからくすねた薬を不二子さんに渡し、助け船をだした。

 

「でも、これは不二子さんのいう若さは得られないよ。むしろ老け――ブフォォ」

 

 

「あらやだ。手が滑ったわ」

 

 

ピクピクと陸に打ち上げられた魚のように身体を震わせるおれに冷たい視線が突き刺さる。

 

「......たりないと思ったら、貴方が持っていたのね。残念だけど、それは若返りなんて効果のない、ただの睡眠薬よ。いつ、誰が狙ってくるかわからないから、ダミーを作っただけ......水にとかして飲めば、ぐっすり眠れるわ」

 

 

......なら、しばらく彼らは熟睡できるわけか。薬の成分調べたら、睡眠薬で拍子抜けしたのは記憶に新しい。アポトキシンじゃなくて騙された気分だったけど、結果オーライ!

 

 

不二子さんは興味をなくした様子で薬を手放し、灰原さんは呆れた顔で回収した。

 

「ふぅん。せっかく盗ったのに偽物だったのね......

 

いっそのことシェリーちゃんごと、もっていったらどう?テム」

 

不二子さんはからかうようにおれたちに視線を向け、艶やかに笑う。

 

 

「この子の手癖の悪さは貴女たち譲りってわけね」

 

灰原さんは皮肉たっぷりに言い返す。彼女の周りはブリザードが漂っていた。ヒェ......こえぇ。触らぬ灰原さんに祟りなし......!

 

 

 

 

***

 

 

 

そんなこんな言いながら、おれたちは羽田の古びた工場に着いた。ドンパチ合戦はすでに始まっていた。

 

おれは「不二子さん。おれはあくまで手伝いだからな。かるーい補佐だからな」と念押しする。不二子さんは「ハイハイ」と聞き流し、ガチャガチャと銃器を引っ張り出す。

 

 

おれたちに気づいたマフィアの連中がここぞとばかりに狙ってきて、こっちは集中砲火。銃弾を避けるためにヴェルファイアの裏に回り込む。

 

......ハァ......こんな銃撃戦に巻き込まれるのはいつぶりだろう。それにしても、さっきからやけに弾がおればっかり狙ってきているような......

 

おかしい。おれ、不二子さん、灰原さんの三人だから、それぞれ分散されてもいいはずなのに......

 

ヴェルファイアのドアに背を預けていると、ブロロロ......とエンジン音とともに見慣れたハーレーダビッドソンがこの場から爆走で去っていく。勿論、あのハーレーの持ち主は不二子さんなわけで......

 

 

「ちょ、ちょっと不二子さんンンン!?」

「ごめんねェ~、テム。」

 

取り繕った謝罪を述べながら、去っていくハーレー。ハンドルと不二子さんの間にはチマッと灰原さんがいる。というより、灰原さんがハンドルを握っている。そして、彼女らはこんな言葉を残して去っていった。

 

 

 

 

「裏切りは女のアクセサリーよ」

 

 

 

ガッデム(ちくしょう)!!!

 

 

こんなことだろうと思ったよッ!!オトンによる忠告という苦労話より不二子さんを信用したおれがアホだった!!!

 

 

 

 


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