マダオ戦士Goddamn 作:はんがー
休日のため、西多摩市を訪れていた。理由なんて言わずともわかるだろう。米花町の治安の悪さから逃れたかった、ただそれだけである。あちらこちらで鳴り響くサイレンの音がこわすぎる。恐るべし、米花町。
電車を乗り継いで、昼頃に到着した。せっかく来たのだから、観光しようと、新しくできたツインタワービルへ向かった。
ツインタワービルは、建築家の風間英彦によって、設計を手がけられた。実は建築家・森谷帝二の弟子である。森谷帝二は先日に大事件を起し、連日ワイドショーで特集されていた。弟子としてインタビューを受けていたのは記憶に新しい。芸術家タイプの森谷とは違い、技術屋タイプで建築に対するこだわりもほとんどなく、今回手がけたツインタワービルも左右非対称である。
インタビューでは、「森谷のように自分の建築物を爆破したりはしない」と冗談めかしていた。是非ともそうしてほしい。おれがそう願っても、どっかの政治家のように「鋭意努力いたします」とかわされるのだろうな。
鋭意努力......トライしてみるけどたぶん無理だろうねという遠回しの否定だ。だって、ここはコナンワールド。毎年必ずどこかで爆発が起きている。あぁ、おれの目が死んだ魚の目になっていく。
インタビューの終盤で、彼は自分が手掛けた新しいビルの宣伝をしていた。ちゃっかりしている。今回のビルに関しては、「B塔からも富士山を見えるようにしたかったが地盤の関係で断念した」と少しばかり悔いが残る建造物となったようだ。ある意味世間で話題になっているので、野次馬精神ではるばるやって来たというわけだ。
「あれ?同じクラスの入間君だ!」
カチューシャを着けたクラスメイト、歩美ちゃんに声をかけられ、ギギギと振り向く。
「......グウゼンダネ」
ガッデム!!
はは、と乾いた声が出てしまったのは許してほしい。歩美ちゃんの後ろには、アニメでよくみた少年探偵団ご一行がいた。ますますおれの目が死んだ魚の目になっていく。
少年探偵団と阿笠博士はキャンプからの帰り道だったらしい。(知っている?家に無事に帰るまでがキャンプなんだよ?寄り道しちゃ駄目なんだよ......) そこで所有者である常盤美緒からの招待を受けた毛利蘭たちと鉢合わせし、彼女たちと一緒に内部を見学する事になったらしい。
へぇーそうなんだ。楽しんでいってね。おれが一歩後ろに下がろうとすると、「そうだ!入間君もいっしょに見学しましょう」と光彦君が言う。遠慮したいところだが、彼らの純粋なキラキラした瞳に堪えられず、「うん」と頷くしかなかった。
そのまま彼らについていき、10年後シミュレーターをすることになった。途中、元太君ときのこたけのこ戦争の議論をあつく交わし、「おめー、わかってるな!」と握手をした。ちなみにおれはタケノコ党だ。「そういう元太君もなかなかわかるヤツだな」とおれがいうと、照れたように笑った。彼はキノコ党である。
順番に10年後シミュレーターをやっていく。歩美ちゃんは中々の美人高校生となっていた。鈴木園子は自分が思っていたよりも老けていたらしくショックを隠せないようだ。みんな変わっていたり、変わらなかったりなかなかおもしろい。感心していたこのときのおれに声を大にして言いたい。やめておけ、と。
おれの順番になり、わくわくしながら、写真を受けとる。写真のなかのおれをみて、一気に目の輝きがなくなっていった。「どうしたの?入間君」と、歩美ちゃんが心配してくれるが、おれはまだ立ち直れない。「ははーん。アンタもショックを受けているの?」とニマニマしながら、自分のことを棚にあげ、園子嬢がおれの写真を覗きこむ。すると、おれとまじまじ見比べ、「アンタ、将来有望のイケメンじゃない!」と喜色をあげる。
そう、たしかに写真のなかのおれは充分期待できる顔立ちをしていた。サラサラとした金髪。少し日に焼けた肌。垂れ目がちな透き通った蒼い瞳。
完全に、例のあの人である。むしろ血のつながりがあると言わざるをえないほど、そっくりだった。10人に聞けばみんな、親子関係を疑うほどのそっくり具合いである。
七歳児のおれは目こそ死んだ魚の目のようになるが、美人な母さんの遺伝子のおかげで、なかなか恵まれている。母さん曰く、「あの人にそっくり」らしく、おれは父親似だ。フフン、人生勝ち組、強くてニューゲームだ!と、思ったら大間違いである。
その父親がいまのおれの悩みの種なんだ。
たしかに「何処か面影あるなー」とか、「......まさかな」とか、鏡をみるたびに思うことはあった。だが、それも気にしないことにした。ただでさえ、コナンワールドにおびえているのにこれ以上おれの心労を増やさないでほしい。
だが、この写真はおれにビシビシと現実を叩きつけてくる。......いったい、おれが何をしたと言うんだ。直接、母さんに聞いたわけでないので確定ではない。まだ救いの余地はある!マダオにこれ以上、余計な設定を加えないでくれ。
わかりやすくorzしたおれに「大丈夫?」と江戸川君が心配したようにおれに声をかけてきて、サッと写真をポケットにしまいこんだ。「......ダイジョブ。」とひきつった笑みで誤魔化した。......とくに江戸川君にみられたら、それこそややこしくなる。まだヤツとは面識がないようだが、おれの平穏ライフのためにも不穏な芽は摘んでおく。
数日後、ツインタワービルの一室で市議の大木岩松が殺害される事件が発生した。
うん、そうだよね......知ってた。君たちが来るってことは、殺人事件のイベントミッションの条件を満たしているからな。(遠い目)