マダオ戦士Goddamn 作:はんがー
先日のツインタワービルで殺人事件が発生したため、被害者と面識があった江戸川君一行とおれは警視庁に呼ばれた。千葉刑事が自分の記憶より痩せていて、彼が現場の状況を報告したときに思わずガン見してしまった。
眠りの小五郎こと、毛利探偵が推理を披露し始めたのをきっかけに大人たち、江戸川君を筆頭におのおの口に出した。おちょこがこの事件の鍵を握っているらしい。
こんなの子どもがいるところでする話じゃないだろう。少年探偵団の諸君はなんで平然としているんだ?だれか、ツッコミを入れてくれ………!そしてその場はお開きになって、おれは早々と挨拶を済ませて、帰路についた。その帰りに向かい側を黒いポルシェが通り過ぎたが、おれはかぶりを振って、見なかったことにした。
***
どうしてこうなった。
「楽しみだね!パーティ」
「おれ鰻重食いてー」
「そういうのはでないと思いますけど」
おれの隣の座席には少年探偵団の3人が無邪気に話している。どういうわけか、おれは彼らと共にパーティに招待された。断ろうとしたが、「入間君、こないの?」という子どもたちの悲しげな声に「わータノシミダナー」と了承してしまった。あぁ、だからおれはマダオなんだよ………江戸川君と灰原さんは二人で不穏な会話をしている。時々「黒ずくめの組織」だとか、「殺される」だとか聞こえるが、おれはスルーの方向でさせていただきます。せっかくパーティに来たんだし、豪華な料理でも食べるとする。
突然ビルがゆれ、停電が起こった。とてつもなくイヤな予感がする。
「何が起こった!?」
「爆破だ!コンピューターと電気室がやられている、急いで避難してくださいッ!」
「別電源のエレベーターがあったはず………!」
「老人と子どもはエレベーターで、他は非常階段をッ!」
やっぱりィィイイイ!!
うそだといってよ、バーニィ!
これって劇場版なのか!?もしかしなくても、『天国へのカウントダウン』じゃないか?おれにとっちゃ、地獄へのカウントダウンだよ!!ガッデム!!
エレベーターに誘導され、乗り込む。江戸川君と毛利蘭さんは重量オーバーで乗れなかったが、大丈夫だ。ちょっとバンジーするけど、大丈夫だった、はず………エレベーターに乗ってひとまず安心していると、途中の階で赤ん坊を抱えた女の人がいた。勇敢な少年探偵団は女性にエレベーターを譲る。
ちょ、ちょっと待て。仮にも彼らは子どもだ。おれはマダオだが、こちとら精神年齢は君たちの倍はあるんだ。
おれの心労<<<<こどもの命
わずかにはじき出した一瞬の脳内会議の結果、彼らについて行くことにした。「あら………貴方も?」と意外そうな顔で灰原さんがおれを見る。そうだよな、場違いだよな………でも、おれだって、道徳とか倫理とかあるし、何よりーーーー
「理屈なんていらねーよ。そこに護りてーモンがあるからな」と、彼らーー少年探偵団に視線を向けたまま答えた。灰原さんは一瞬黙って、「………そう」と短く返した。
さて、60階に急ぐとするか。連絡橋についたかと思ったが、突然爆風が襲う。あぁ、連絡橋が落ちていく…………子どもたちも呆然としている。さすが劇場版。予算がいつもよりあるせいか、爆破が派手ですな。おれは静かに「……ここで助けを待つか」と提案した。「………えぇ」と返してくれる灰原さんが頼もしくみえる。さすが、場慣れしているだけある。対応がクールだ。
お通夜状態のおれたちに救世主が現れた。江戸川君である。スケボーでおれたちがいる60階の連絡橋を飛び越えた。彼はおれたちを屋上へ行くように指示し、すぐさまそれに従った。きっとこんな危機的状態であっても、今回の事件の犯人の推理ショーをしているんだろうなァ………(遠い目)そのメンタル、おれにもわけてほしい。救助ヘリが来たかと思ったら、また爆発だ。「みんな急げ!戻れェ!」江戸川君のいる方向へみんな一斉に走り出す。そして、悲しいかな。灰原さんが爆弾を発見した。しかも残り4分ときた。懸命に消火活動をするが、消防のホースの水は届かない。
なにか、なにか、避難できる方法があったはずだ…………!
おれの目に飛び込んできたのは真っ赤なマスタング。………そうだ、これを使えば避難できるかもしれない!ビルの間は50m。飛び移るのならば60m。隣のビルとの高低差は20m。20m落下する時間は2秒。2秒で60m進まなきゃいけないなら、1秒で30m。ってことは、時速108km。高速道路の制限距離超えてるじゃねーか!この会場の広さだと、出せるスピードはせいぜい50~60kmってところだろう。だけど、もし爆風と同時に飛び移れたらーーーよし!
「江戸川君!みんな!!車に乗って」
車の鍵を回し、エンジン音を鳴らしながらおれは叫んだ。「……そうか!」と江戸川君は眼鏡を光らせ、おれの隣、つまり助手席に乗り込む。後部座席におじいさんを乗せ、子どもたちも乗せようとするが、灰原さんは乗り込まない。まさか、犠牲になろうとしているのか………?
元太君が咄嗟の判断で灰原さんを抱きかかえ、彼女を車へ乗せる。
「母ちゃんがいってたんだよ!米粒一つでも残せばバチが当たるってなァ!!」
………元太君、君って奴は………!!さすがあの日おれときのこたけのこ議論を交わした漢だ。おれはタケノコ党だが、君のキノコ党も素晴らしく思うよ……!
歩美ちゃんのカウントダウンに耳を澄ませ、全神経を集中させる。瞳孔がかっぴらいているせいか、江戸川君が引いた。だが、いまはこのビルからの脱出が最優先事項である。細かいことは気にしない。おれは勢いよくアクセルを踏み込み、急発進させた。
「5、4、3、2、1、ゼロォォ!!」
窓ガラスへ向かって急発進した車は爆風にあおられ、ビルとビルの間を飛んだ。途中、ガラスの破片が頬をかすめる。灰原さんが風にあおられたのを見て、江戸川君がヘルメットで例のシュートを繰り出す。ちょ、お願いだから、座っててくれよ……!蹴り飛ばした江戸川君の腕を引っ張り、座席へと固定させる。そしてそのまま車はプールに着水した。顔に水がかかり、成功したとわかった。もう生きた心地がしない………
帰り際に「入間君。どこで運転の仕方を?」と江戸川君に質問され、「……ゲーセンのマ〇カー」と苦し紛れに答えておいた。前世で運転免許取りました、なんていえるわけがない。「すごいねー」とかわいらしく褒めてくれるが、その声色は探偵としての顔が見え隠れしている。
おれは知らない。このおれの行動によって彼らから少年探偵団の勧誘を受けることを。
江戸川君が探偵の勘でおれを見定めることを。
>うそだといってよ、バーニィ!
「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」第5話サブタイトル