マダオ戦士Goddamn   作:はんがー

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side 小林先生

 

私は帝丹小学校、1年B組担任の小林澄子。私が受け持つクラスの子どもたちはみんな元気いっぱいでいい子たち。赴任する前は参観日が苦手だったけれど、少年探偵団のみんなのおかげで少し気が楽になった。

 

 

さて、今日の宿題のチェックをしようかしら。

 

今日は日記が宿題。ふふ、みんな休日を楽しんできたかな。

 

職員室の机の上にあるノートの山を一冊手に取り、パラパラとページをめくる。あら、江戸川君はまた事件に巻き込まれたのね。やっぱり探偵事務所に住んでたら事件と関わることが増えるのかしら.........

 

 

そして、別のノートを一冊手に取る。表紙には【いるま てむ】と平仮名で書かれてあり、毎日、日記をつける習慣があるみたい。

 

入間君は、気だるい雰囲気を漂わせる個性的な子。初めてみたときの印象は、外国の童話に出てくる天使みたいだと思った。

 

だけど、それはいい意味で裏切られた。

 

天使は天使でも、堕天使だったみたい。(堕落という意味で。)

 

授業中は居眠りか、窓の外をみている。この前は校長先生と老後のプランを話しているのを聞いた。あなた、まだ小学生なのに......このままじゃこの子の将来が心配になってくる。下手をすると、マダオになるかもしれない。その話を聴いて以来、私は入間君を気にかけるようになった。

 

ノートを取り、日記に目をやった。子どもたちの日記は何気ない日常の一コマが書かれてあり微笑ましい。子どもの成長を身近に感じられる。そしてなにより、読んでいてとても癒される。

 

 

【〇月▲日

きょうは、金曜ロードシ〇ーで『誰やねん、自分。』をやってたので、みてねました。 】

 

【〇月@日

きょうは、一日中、空をみていました。 】

 

【〇月◆日

きょうも一日中、空をみていました。】

 

【〇月〒日

やっぱり『すいせい』はなかなかみつからない。】

 

【〇月◎日

あきらめない。『口噛み酒』はきっとあるんだ。】

 

【〇月♯日

このバスのばくはつは『すいせい』だ!シャアはちかい!】

 

 

 

って、映画引きずりすぎィ!!えェェェ!!2日目からずっと彗星探ししてるゥゥゥゥゥ!?

 

 

【〇月&日

そもそもどうしておれが『すいせい』をさがしていたのかせつめいすると、長くなるからあしたにしよう。】

 

 

 

 

コーヒーを口に含み、片手でペラリとページをめくる。次の瞬間、ブフォッ!と噎せてしまった。

 

 

 

【〇月¢日

経験と知識とカビの生えかかったメンタルをもっていまだかつてないスピードで『すいせい』のもとへダイブする話、ききたい?どうしよっかな~

 

 

→ききたい人 〇月£日へ

→ききたくない人 〇月■日へ】

 

あれ、『すいせい』のせつめいは??

な、なんで、いきなり分岐点があるの!?こんな日記、はじめてだわ.........!

 

どんな話なのかしら......私は迷わず【聞きたい人 〇月£日へ】と書かれてある通りのページをあける。

 

 

【〇月£日

〇月£日を選んだあなたは、他人のプライバシーにズケズケと土足であがる探偵タイプです。たまには空気を読んでみると、友好な人間関係がきずけるでしょう。

ラッキーアイテム ストロー】

 

なんで占い展開になってるのォォォォォォォォ!?

 

 

 

【〇月■日

他人のはなしに興味がないなら、冒険の旅にでかけんか勇者よ。カリオストロの城と紺碧のジョリーロジャー、どちらを求める?

 

→カリオストロの城 〇月々日へ

→紺碧のジョリーロジャー 〇月〓日へ】

 

ゲームブックになってるゥゥゥゥゥ!!

 

【〇月〓日

これから君の胸おどる冒険の旅がはじまる。お祝いの酒は二つある。どちらをもらう?

 

→右を選ぶ キール

→左を選ぶ ライ】

 

未成年がお酒をのんではいけませんンンンンン!!もらってもダメです!!

 

 

【〇月★日

大事な人。忘れたくない人。忘れちゃダメな人。誰だ、誰だ、誰だ?名前は!?】

 

まだ映画ひきずってたァアアアア!!そ、そんなに必死になってたら余計に混乱するわ。まずは、深呼吸して落ち着こう。名前をさがすのはそれからよ。

 

 

 

【〇月▽日

もう誰でもいいから、来世は東都の白い悪魔じゃなくて、一般市民にしてくださーい!】

 

最後まで希望を捨てないでェェェ!!諦めたらそこで試合終了よ!!ところで、入間君、またマイ練乳もってきてるの?そのうち糖尿病になるってあれほど教えたのに......先生は悲しいです.........

 

 

 

 

 

 

 

ゼー、ハー、と息を切らしながら日記を読んだ。こんなに日記に突っこみを入れるなんて......隣の先生から心配され、コーヒーのおかわりをいただいた。

 

 

 

 

こうして職員室では新たな日常が生まれた。

 

「小林先生がまたコーヒー噴き出してる.........」

「いったい、あのノートに何が書かれているんだ」

「江戸川君と言い、少年探偵団と言い、さらには入間君まで.........1年B組はどうなっているんだ?」

 

周囲の先生は遠巻きに私とその手にあるノートを見比べ、「またか」とみている。いつのまにか入間君の日記と私の攻防は職員室の先生方の間では有名な話になっていた。この豆はこだわりにこだわった南米のジャブロー産。次こそは、コーヒーを噴き出しはしない.........!

 

 


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