ゲゲゲのふしぎ通信   作:教室の主

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もう何年も前になりますが、ふしぎ通信トイレの花子さんという作品が連載していた頃から好きだったのですが、今回クロスオーバーでいけるんじゃね? といった軽率な判断の中書き出しました。
好きにやっていく予定ですが、ふしぎ通信成分多めになるかと。


信じる人たち

 見えているものだけがすべてじゃない。

 ひとつの出会いから、私――犬山まなはそのことを知った。いま見えているものだけが世界じゃなくて、見えないものたちがいる。それを知ってから、私の世界は一変したんだと思う。

 みんなが見えないものを私は見てしまうから、たまに話が合わないことで揶揄われることだってある。

 でも、折り合いはつけながら、それでも鬼太郎や猫姉さんの力にもなりたいし、仲良くもしていたい。

「難しいなぁ……」

 見えているものと、見えてないものの境界が私にはまだわからないから、本当はどちら側の存在なのかがわからない中で接触するとまた迷惑をかけちゃう。

「あーもう!」

 こんな風に考えるなんてらしくないよ!

 放課後、人の少ない教室で自分の頬を叩く。

「よし、だいじょうぶ!」

「なにがだいじょうぶなの?」

「うひゃぁ!?」

 背後から急に声をかけられたせいで、驚きながら態勢を崩して椅子から転げるように振り返ったら、クラスメイトの風祭美子さんがいた。

「えっと……」

「あ、ごめんね? なんだか悩んでいるみたいだったから声かけたんだけど、驚かせちゃった?」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ! 急だったからつい妖怪のせいかと……――なんでもない!」

「妖怪?」

 瞬間、風祭さんの表情が変わったように見えた。

 ど、どうしよう? やっぱり妖怪の話はよくなかったかも!? 私は見えるから信じられるけど、周りはみんな信じてないし、バカにされて終わるもんなぁ……。

「ねえ、犬山さん」

 風祭さんが一歩、私へと距離を詰める。

 あー……これはアレかな。やっぱり笑われるのかな。

「ちょっと詳しく聞いてもいい?」

 と思っていたら、真剣な顔をして聞いてきたことで、なにかが違う。

「美子、そろそろ俺は帰るけど、おまえどうする?」

「あ、大輝! 調度よかった、ちょっと来て!」

「は? あ、ああ」

 あれよという間にこちらにやってきたのは、これまた同じクラスの宮代大輝くん。

「あれ? 翔太くんは?」

「翔太なら、今日は新しいカメラの発売日だかですぐに帰るって朝に言ってたから、掃除終わって真っ先に帰ったんじゃないか。なんでも、みんなを撮るために2つは買いたいって言ったぜ」

「ふ〜ん。ならいいや。それより、ちょっと話があってね」

「そういえばなんか言ってたっけ」

 そうして、大輝くんと風祭さんがこちらを向く。

「えっと……」

 ど、どうしよう。食いついてくるなんて思ってなかったし、特に妖怪の話ができるわけでもないし。鬼太郎たちのことを言うのはマズいし、話せることないよなぁ。

 でも二人は聞く気満々みたいだしなんでもないは通じないよね。

「言いづらいことか?」

「そのー……」

「怖くて言えなかったとか? だいじょうぶ、私たちこう見えてもその手の類の話はしっかり聞くし、力になるよ」

 風祭さんが笑顔で話しかけてくれるけどって、ちょっと待って!

 この二人、妖怪がいるって信じてるの? しかも力になるってどういうこと!?

「あの、二人は妖怪っていると思ってる?」

「思うもなにも、妖怪はいるぞ」

「うん。悪い妖怪も、いい妖怪もいるんだよ」

 やっぱり。まるで会ったことのあるような言い方も気になる。

 妖怪ポストがあるくらいだし、もしかして二人も以前鬼太郎たちに助けてもらったりしたのかな?

「それで、妖怪関係で困ってるなら、俺たちでも話くらいは聞けると思うけど? まあ、最終的な解決は無理な可能性もあるけど、そのときはそのときだ!」

「ちょっと大輝! そのときって、また怒られるよ?」

「うっ……いや、もう昔みたいなギクシャクした関係じゃないんだし、頼み込めば力は貸してくれるって」

「もう! また文句言われたりしても知らないからね!」

「あ、あはは……」

 ちょっと話してる内容が全然わからないけど、仲いいことだけはわかる。

 けど、鬼太郎たちのことは話せないから、ここは一度考える時間をつくろう!

「ごめん! 私今日用事があるんだった! もう帰るね!」

 言うだけ言って、早足に教室から出る。

 言い合いをしていた大輝くんと風祭さんは追ってくることなく。

「ウサギ?」

 帰り道、校庭の端に二足で立つウサギがいたような気がして振り返ると、そこにはなにもいなくて、見間違えだと思いながら、私はそのまま帰路につく――はずだった。

 もう一度見返したとき、二足歩行するウサギと、大輝くんと風祭さんが一緒にいるところさえ見なければ。

 

 

 

 

 

 なんだったんだろう?

「帰っちゃったな」

「うん……でも、工場見学のときも見てたけど、犬山さんは絶対に見えてる側だよね?」

「だよな。俺たち以外は妖怪なんて信じてくれないけど、中にはやっぱいるもんだな。でも、話してはくれないか」

 美子に呼ばれて話を聞こうとしてみれば、完全に逃げられちまった。

 にしても、なにに関わっているんだか。

「なあ、美子」

「ん? なあに、大輝」

「ここってちょっと古い旧校舎があったよな。なら、行ってみないか? 久しぶりに、仲間のところにさ」

「――賛成!」

 俺たちは教室を後にして、校庭へと駆けていく。

「大輝、美子!」

 すると、校庭の端に二足で立つウサギが俺たちの名前を呼ぶ。

 ああ、思い出すな。最初のときも、あの姿を見て尾けていったんだっけ。

「ラビ! 久しぶりだな。小学校卒業のときから行けてなかったから、数ヶ月ぶりになるよな!」

「そうだね、大輝。僕らもキミたちが卒業するときは寂しかったよ。でも、中学校にも旧校舎があるって聞いていたから、いつかは会えると思ってたよ。というわけで、今日は案内に来たんだ」

「そっか。うん、また会えるに決まってるよね。案内よろしくね、ラビ」

「任せてよ、美子!」

 ラビは俺たちについてくるように言うと、旧校舎へと歩いていく。

 うちの中学は旧校舎に理科室と理科準備室があって、たまに授業で使っているけど、その教室は2階にあって、それより上の階に行くことはない。

 上の階にあるのはただの空き教室で、探検気分で行った生徒たちはつまらないと口にして、それ以降行くことがなくなるだけなんだけどな。

「なあ、ラビ。最近ここらへんで不思議なことって起きてるか?」

「不思議なこと?」

「うん。クラスの友達に妖怪が見える子がいて、なにかに悩んでいるみたいなんだけど……」

 俺の質問に続いて、美子が補足してくれる。

「不思議なことはよく起こるよ。最近だと、コンサート会場や工事現場でいろいろあったみたいだってトー・テム・ポールが話してたよ」

「相変わらずな情報網だな……」

「そこはやっぱり翔太くん譲りかぁ」

 飛行能力も持ってるし、情報収集はお手の物だよな。

 やっぱり街でなにか起きてるのは間違いなさそうか。っと、いまはそれよりも。

 ラビが旧校舎の3階から4階に登る階段の前で立ち止まる。

「さあ、行こう」

 ラビが先立って階段を上っていく。

 俺と美子は一度視線を合わせてから、後ろを向いて目を閉じた。

「呪文、覚えてるでしょうね、大輝」

「あったりまえだろ!」

 ひとつ笑ったのち、後ろを向いて目を瞑ったまま階段を上がり始める。

「じゃあ、行くぞ」

「うん」

 呼吸を揃えて、同じタイミングで小学5年生のときに教えられた呪文を唱える。

「「ヒフミヨイムナヤコト」」

 雰囲気でわかった。

 目を閉じていても、何度も、何度も何度も来た俺たちの場所。

 ゆっくりと目を開くと、やはりそこにいて。

 木造の廊下に教室。黒板やロッカーなど、ここは完全に木造の小学校だ。

「うわぁ、久しぶり!」

「ああ、そうだな。よし、行こうぜ美子!」

 俺たちはある教室に向かい、その扉を開ける。

「あ!」

「あらあら」

「ほう……」

「おや?」

「おいおいおい」「へえ?」「ありゃりゃ」

 扉の先にいたのは、小学校の理科室に置いてあった人体模型。

 大きなマスクをした目つきのキツイ女性。

 おっさんの顔をした犬。

 本を片手に微笑む石像。

 三つの顔からそれぞれの反応を見せる柱状の彫刻。

 そして、窓の縁で座りながらこっちを見つめる、ヨーヨーを持った和服の少女――。

「……久しぶり」

 その赤い少女が、僅かにだか口元を緩めたように見えた。

 

 

 

 

 

 ウサギを追いかけていく大輝くんたちが旧校舎に入っていくのを確認した私は、バレないように後を尾けていた。それなのに……。

「消えた?」

 旧校舎の3階から4階に繋がる階段をなぜか後ろ向きで登って行ったかと思うと、二人の姿は何処にもなかった。旧校舎なんて使ってない古びた教室があるだけで楽しいところなんてまったくない。なのにあの二人が、まるでウサギに連れて行かれるように消えちゃうなんて。

「もしかしてあのウサギ、妖怪……こうしちゃいられない!」

 スマホを操作して、中にあるアプリを立ち上げる。

 その中から、最近話すことの増えた人に連絡する。

『ねこ姉さん、助けて! 学校で妖怪が悪さをしてるみたいなの!』

 私は私のできることをやるしかない。

 友達が来てくれるのを祈りながら、私は旧校舎の探索を始めた。

 


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