ゲゲゲのふしぎ通信   作:教室の主

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邂逅

 旧校舎でのんびりした時間を過ごしていると、花子さんがなにかに気づいたようで、窓の外に目を向けた。

「花子さん?」

「――……なんでもない。たぶん、気のせい。それに、他の国の妖怪が来たところで私たちには関係ないしね」

「他の国の妖怪?」

「ううん。気のせいだよ」

 本当に関係なさそうに話すってことは、俺たちにも、花子さんたち旧校舎に住むみんなにも関係のない話なんだろう。

「でも、それでいいのかな?」

「ラビ? どうしたんだ?」

「少し前に、教室の主が言ってたんだ。世界を巻き込んでなにかをしようと企んでいる妖怪がいるようだって。それがなにを、誰を指しているのかまではわからない。けど、妖怪の間でなにかが起きようとしているのかも……」

 これまでは、人を襲う妖怪を倒してきた。

 この街で起こる怪現象に巻き込まれながら、突っ込みながら。

 それと、教室の主が話した内容はなにが違うんだろう? 人を襲う妖怪に関わって、俺たちを守るために戦ってくれるみんな。倒される、人を襲う妖怪たち。それだって、世界とは言わないけど、人を巻き込んでいるのに変わりはない。

「もしかして、妖怪の世界ってこと?」

 美子が花子さんに聞くが、彼女は首を横に振る。

「たぶん、そんなんじゃない」

「なら、どういう……」

「巻き込まれるのは、人も妖怪もってことだよ。だから世界を巻き込んでって意味」

 人も妖怪も……。

「妖怪が妖怪を襲うってことか?」

「わからない」

 花子さんも、明確な答えは出てないみたいだ。

 この旧校舎だって、過去何度か妖怪に襲撃されてる。だったら、ここが巻き込まれる可能性だって……いや、来方がわからなければ来れないか。過去のも全部、俺たちが連れてきてたようなものだし。

「もしかして、ベンちゃんたちが動いているのは……」

 ベンちゃん――ベートーベンの肖像画と、リリム――花の精の二人。

 旧校舎にいなかった俺たちの残りの仲間たち。それに、この旧校舎そのものである教室の主の話。どうしても、無関係とは思えない。

「僕たちも、僕たちにできる手段を取らないといけないからね」

「ってのが建前で、あいつらは自分たちの好奇心を満たしたいだけさ」

「へ!?」

 俺の問いに答えてくれたのは、ラビとおっちゃん。っていうか、好奇心?

「考えてもみろよ。俺たちが自分から厄介ごとに突っ込むようなことあったかよ? ねえだろ? つまるところ、起きるとも起こらないものに対して暇つぶし感覚なのさ。まあ、寿命のねえ妖怪特有のな」

 陽気な様子で語るおっちゃんに、これまでの不安が消えていく。

 きっと、ここにいるみんなは不安なんて抱いてないんだろうな。だいじょうぶ、かな? 少なくとも、ここが変わらないのなら。

「ふふっ、なんか深刻に捉えてたのが吹き飛んじゃった」

 美子も同じ気持ちだったのか、小さく笑うと人体模型のジンタへと話しかけに行ってしまった。

 教室の主の話だって、絶対に当たるわけじゃない。なにより、起きてもないことを問題視するばかりなのはダメだよな!

「そういえば、前の臨海学校のときは窓の外の景色もその場所に引っ張られてたけど、こっちはどうなってるんだろ」

 小学生の頃、臨海学校でも怪異に遭い、巻き込まれた美子を救うためにこの旧校舎に臨海学校から来たんだっけ。

 この旧校舎は俺たちの通う中学の旧校舎ではなく、本来は真幌羽の小学校の失われた四階という、ひとつの怪異として成り立っているらしく、都合のいいことに「魂の繋がっている場所は空間も繋がっている」というラビの言葉から、どうやら旧校舎もしくは元々旧校舎だった場所からならある程度の繋がりを持てるのだ。

 それは古い校舎ほど繋がりが強いらしく、この場所に来やすくなる。

「中学にも行ける場所があってよかった……」

「また巻き込まれるかもしれないよ?」

 窓際に立つと、隣の窓から外を眺める花子さんが口を開く。

「まあ、それはそうだけどさ」

 外の景色は、大方の予想通り、俺たちの通う中学校のグラウンド。運動部が走り込みをする様子が見られ、これといって、特に不思議なものは見えたりはしない。

 これは俺にとってはなんでもない景色。

 でも、花子さんにはきっと、色々な想いがあるのだろう……。

「怖い思いをするのは嫌だけどさ」

「…………」

 隣にいる花子さんを視界の端に捉えながら、俺はいま抱いている言葉を口にする。

「それ以上に、みんなと会えなくなることの方が、やっぱり辛いかなって。前に一度、俺たちの方からみんなと離れたことがあっただろ? けど、やっぱり仲間と、友達と会えないってのはきつくてさ。だから、ちょっと怖いことがあっても、もう退かないって決めてるんだ」

 俺に戦う力はないけれど。

 守ってもらってばかりだけど――守るとか守られてるとか、そんなことは関係ないと言ってくれたんだから。

「だって俺たちは、仲間だからね」

「――……そう。なら、好きにすればいい。私たちはそれを尊重するだけ」

 前なら、どうなっても知らないよって言われてただろうに。

 変わったんだなって、改めて実感する。俺も、花子さんたちも。それに、この旧校舎での関係も。

「少し嬉しい、かな」

 なんて再び窓の外を見ると、旧校舎に入ろうとしている三人組が目に映る。

 一人は……ちゃんちゃんこを着ている人に、もう一人はアネゴさんのように背の高い女の人。もう一人は――クラスメイトの犬山だっけ? 放課後に美子と話していた、妖怪の存在を信じてる人だったはず。

「なんで旧校舎に?」

「どうかしたの、大輝?」

 人の肩の上に頭を乗せてきた美子は、そこから覗き込むようにして、俺が見ている者へと視線を向けた。

「あれ、犬山さん? 今日は用事があるって帰っちゃったのに……それにあの二人、翔太くんの話でなにか聞いたのと似ているような……う〜ん?」

 美子も気になるのか、そのままの姿勢で三人を注視している。

「なんだなんだ? かわいいねーちゃんでもいたか?」

「あはは……でも、二人が窓の外を気にするなんて珍しいね」

「二人してどうしたの?」

「なになに? 僕も気になる!」

 おっちゃん、金ちゃん、ジンタ、ラビとみんなして窓際に立っては旧校舎への入り口を見る。

「おいおい、ありゃ妖怪じゃねえか」

「あれ? でも、あの子は人間だよね? 美子ちゃんと同じ制服を着ているし」

「そうみたいだね。二人の通う中学校にもその学校の七不思議とかで妖怪はいるみたいだけど、あの二人はちょっと感じが違うかな?」

「ちょ、僕見えてないんだけど! 金ちゃん、僕も見える位置まで上げて!」

 わいわい、わいわいと。

 長生きしているはずの妖怪が、俺たちと同じように騒ぎながら楽しそうにしている。

「おっかしいなぁ。俺たちからすれば妖怪と一緒にいる人間ってなったら大騒動なんだけど……」

「でも、犬山さんは妖怪のこと信じていたし、それにほら、悪い妖怪には見えないよ?」

「そこなんだよなぁ。でも、だったら旧校舎に来る理由なんてないんじゃないか? どうしてまた、学校の妖怪らしくない格好をした妖怪と旧校舎になんて?」

 わからない点はここだ。

「ん? おい大輝、美子。おまえら今日はラビと一緒にここに来たんだよな?」

「え? うん、そうだけど」

 おっちゃんの問いに美子が答えると、おっちゃんは「はっはーん」と笑い、俺たちに告げた。

「こりゃあれだな。いつだかの旧校舎の霊みたいに、つけられてたのかもな。

「なっ!?」

「うそ……」

 まさか、そんなわけ!

 そもそも、犬山が俺たちを尾行する理由がない――とも言い切れないのか? 妖怪を気にしていた素振りがあった以上、それに関わっている俺たちのことを探っても不思議じゃない。

 理由は違うけど、翔太と関わりを持ったのもあいつの俺たちの秘密を知りたいってことからだったし。

「もしかして、やっちゃった?」

「そんなことないよ」

 ずっと座っていた花子さんが立ち上がり、俺と美子を見る。

「誰かが悪いなんてことはない」

「花子さん……ありがとう」

 薄く微笑んだ花子さんは、みんなの前に出る。それに呼応して、金ちゃん、アネゴさん、おっちゃん、ジンタが並び、ラビは俺たちの前へと立った。もう旧校舎に来ること前提になってないか、これ?

「まったく、ここに来ようってかい? 呆れたもんだねぇ」

 アネゴさんが長い髪を掬いながら、普段外さないマスクを取る。

「まあまあ。まだ来るって決まったわけじゃ……来そうだね」

 妖怪の中の常識人である金ちゃんが宥めようとするも、どうやら来ちゃうらしい!?

「なんか、久々だな。この感じ」

「うん……でも、なんで犬山さんが旧校舎に、それもこの場所に来ようとしてるんだろう?」

「わかんねぇ。だから、本当に来たら話を聞くしかないよな」

 そうして少しの間待っていると、ゆっくりと、教室の扉が開かれる。

「一応、あいさつはした方がいいのかな? ああ、でもまずは。できればその子たちを返してもらえるかな?」

「風祭さん、大輝くん、だいじょうぶ!?」

「ちょっと、まな。あんまり前に出ちゃ危ないから。あんたたち、おとなしくその子たちを返した方がいいわよ――って、あれ?」

 入ってきた3人がなにか言ってくるが、最後の1人は入ってすぐ、アネゴさんを見て動きが止まった。

「いい度胸じゃない、全員私がおいしく食べて――って、はあ?」

 当然、やる気満々だったアネゴさんも、その人を見て動きを止めた。

「えっと……なにがどうなっているんだい?」

「あはは……いや、うん。なんだろうね?」

 やって来た人たちのもう1人と、うちの金ちゃんが首を傾げる。

 いや、本当に。

「どうなってるんだよ……」

 ちょっと、理解するのに苦労しそうだ。

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